パーキンソン病

(Parkinson病)

執筆者:Hector A. Gonzalez-Usigli, MD, HE UMAE Centro Médico Nacional de Occidente
レビュー/改訂 2022年 2月
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パーキンソン病は,安静時振戦,筋強剛(固縮),緩徐で減少した動作(動作緩慢)を特徴とし,やがては歩行または姿勢不安定に至る,緩徐に進行する神経変性疾患である。診断は臨床的に行う。治療は脳内のドパミン系の機能を回復することを目的とし,レボドパに加えてカルビドパおよび/または他の薬剤(例,ドパミン作動薬,B型モノアミン酸化酵素[MAO-B]阻害薬,アマンタジン)を投与する。認知症のない患者における生活に支障を来す難治性の症状には,脳深部刺激療法または凝固術ならびにレボドパおよびアポモルヒネポンプが役立つことがある。

運動障害疾患および小脳疾患の概要も参照のこと。)

パーキンソン病の有病率はおよそ以下の通りである:

  • 40歳以上で0.4%

  • 65歳以上で1%

  • 80歳以上で10%

平均発症年齢は約57歳である。

パーキンソン病は通常,特発性である。

若年性パーキンソニズムはまれであり,小児期または青年期の20歳までに発症する。21歳から40歳までに発症したものは,ときに若年発症パーキンソン病と呼ばれる。若年発症パーキンソン病では遺伝性の原因がより高い頻度でみられ,これらの病態は高齢で発症するパーキンソン病とは以下の点で異なる場合がある:

  • より進行が遅い。

  • ドパミン作動薬に非常によく反応する。

  • 大半の障害が抑うつ,不安,疼痛などの非運動症状に起因する。

二次性パーキンソニズムは,基底核のドパミン系の阻害を特徴とする脳機能障害であり,パーキンソン病に類似するが,パーキンソン病とは異なる原因(例,薬剤,脳血管障害,外傷,脳炎後変化)によって引き起こされる。

非定型パーキンソニズムとは,一部パーキンソン病と似た特徴をもつが,一部の臨床的特徴は異なり,予後がより不良で,レボドパに全くまたはあまり反応せず,異なる病態をもつ一群の神経変性疾患を指す(例,多系統萎縮症進行性核上性麻痺レビー小体型認知症,および大脳皮質基底核変性症といった神経変性疾患)。

パーキンソン病の病態生理

シヌクレインはニューロンおよび神経膠細胞のタンパク質であり,これが非可溶性の線維へと凝集し,レビー小体を形成する。

孤発性または特発性パーキンソン病の病理学的特徴は以下の通りである:

  • 黒質線条体におけるシヌクレインに満たされたレビー小体

しかしながら,シヌクレインは迷走神経背側運動核,マイネルト基底核,視床下部,新皮質,嗅球,交感神経節,消化管の筋層間神経叢など,神経系の他の多くの部位にも蓄積しうる。レビー小体は時系列的に出現し,パーキンソン病は全身性シヌクレイノパチーの比較的後期になって生じると多くの専門家は考えている。その他のシヌクレイノパチー(シヌクレイン蓄積症)としては,レビー小体型認知症多系統萎縮症などがある。パーキンソン病は,自律神経機能障害や認知症といった他のシヌクレイノパチーと共通の特徴をもつことがある。

まれに,レビー小体なしにパーキンソン病が生じることがある(例,PARK 2遺伝子の変異による病型)。

パーキンソン病では,黒質,青斑,および他の脳幹ドパミン作動性細胞群の色素性ニューロンが変性する。黒質ニューロンの脱落は,被殻(基底核の一部)の背側のドパミンの枯渇をもたらし,パーキンソン病の運動症状の多くを引き起こす(基底核の図を参照)。

基底核

パーキンソン病の病因

パーキンソン病の少なくとも一部の症例には,遺伝的素因が存在する可能性が高い。約10%の患者にパーキンソン病の家族歴がある。いくつかの遺伝子異常が同定されている。遺伝形式は,一部の遺伝子では常染色体顕性(優性),それら以外では常染色体潜性(劣性)である。LRRK2(leucine-rich repeat kinase 2)(PARK8とも呼ばれる)は,dardarinタンパク質をコードする遺伝子である。世界的に見て,50歳以上のパーキンソン病の孤発例で最も頻度の高い変異(約2%)であり,本疾患の遺伝性の病型で最も頻度の高い常染色体顕性(優性)変異である。

遺伝性の病型では,発症年齢がより低い傾向があるが,典型的な経過は,晩期発症の非遺伝性とみられるパーキンソン病より良性である。

パーキンソン病の症状と徴候

多くの患者では,パーキンソン病の症状は潜行性に始まる。

一側の手の安静時振戦がしばしば初発症状となる。振戦は以下のような特徴がある:

  • 緩徐で粗大

  • 静止時に最大となり,運動中に軽減し,睡眠時には消失する

  • 振幅は感情的緊張や疲労により増加する

  • しばしば手関節および指が侵され,ときに,手で丸薬を丸めるまたは小さい物体を扱うときのように,母指を示指にすり合わせるように動く(丸薬丸め運動)

通常,手や足が最初に侵され,非対称的であることが多い。顎および舌も侵されることがあるが,その場合,声への影響はみられない。しかしながら,小声症になり,単調でときに吃音調の特徴的な構音障害がみられることもある。筋強剛が進行するにつれ,振戦は目立たなくなることもある。強剛無動優位型のパーキンソン病では,安静時振戦は軽微であるか,認められない。

多くの患者において,筋強剛が振戦とは独立して生じる。医師が固縮した関節を動かすと,筋強剛の程度が変化するために,半律動的なぴくぴくした動きが生じ,つめ車のような印象を与える(歯車様筋強剛)。

パーキンソン病では緩徐な運動(動作緩慢)が典型的である。反復的な動作があるため,運動の振幅が進行性または持続性に減少し(運動減少),運動の開始が困難になる(無動)。

筋強剛および運動減少は筋肉痛や疲労感の一因となることがある。開口して瞬目が減少した仮面様顔貌(表情の減少)を呈する。過剰な唾液分泌(流涎)が日常生活に支障を来すことがある。

運動減少と遠位筋の制御障害により小字症(非常に小さな文字を書くこと)が起こり,日常生活動作が次第に困難になる。

姿勢不安定がパーキンソン病の後期に発生することがある;発症時にみられる場合は,別の診断を疑うべきである。歩き始める,曲がる,停止する動作が困難になる。足を引きずるように歩き,歩幅は小さく,腕は腰のところで曲げたままで,一歩毎にほとんどまたは全く腕を振らない。歩調が意図せず速くなってしまう一方,歩幅が徐々に短くなることがある;この歩行異常を加速歩行と呼び,すくみ足(前触れなく,歩行およびその他の随意運動が突然止まること)の前駆症状であることが多い。重心を移すと前や後ろに倒れそうになる(前方突進,後方突進)が,これは姿勢反射の消失によるものである。姿勢は前傾になる。

認知症は約3分の1の患者でみられ,通常はパーキンソン病の後期に発生する。認知症発症の早期予測因子は,視空間認知障害(例,運転中に道に迷う)および発話流暢性の低下である。

睡眠障害がよくみられる。夜間頻尿や寝返りができないために不眠症が生じる場合がある。睡眠不足は抑うつや認知障害を増悪させることがあり,日中の過度の眠気の原因となりうる。レム睡眠行動障害を発症することもあり,この疾患では正常なレム睡眠中にみられる脱力が生じないために,レム睡眠中に発声がみられたり,暴力的にもなる制御不能の四肢運動が生じたりする。レム睡眠行動障害は,主にαシヌクレイノパチーの患者でみられる早期の神経変性徴候をしばしば伴うが,この疾患はパーキンソン病,多系統萎縮症,またはレビー小体型認知症に先行したり,これら疾患の発生リスクを高めたりする可能性がある。

パーキンソニズムと関係のない神経症状がよくみられるが,これはシヌクレイノパチーが中枢神経系,末梢神経系,および自律神経系の他の部位に起こるからである。例として次のものが挙げられる:

  • ほぼ普遍的な心臓交感神経節切除:起立性低血圧の原因となる

  • 食道運動障害:嚥下困難や誤嚥のリスクが上昇する原因となる

  • 腸管の運動障害:便秘の原因となる

  • 排尿遅延および/または尿意切迫:失禁につながりうる(よくみられる)

  • 嗅覚脱失(よくみられる)

一部の患者では,これらの症状の一部がパーキンソン病の運動症状が出現する前からみられ,しばしば徐々に悪化する。

脂漏性皮膚炎もよくみられる。

パーキンソン病の診断

  • 主に運動症状に基づく臨床的評価

パーキンソン病の診断は臨床的に行う。特徴的な片側の安静時振戦,運動の減少,または筋強剛を示す患者では,パーキンソン病が疑われる。協調運動を見る指鼻試験の最中は,検査中の腕の振戦が消失(または減弱)する。

神経学的診察の際,患者は急速な交互運動または急速な連続運動をうまく行うことができない。通常,感覚および筋力は正常である。反射は正常であるが,著明な振戦または筋強剛のために生じにくくなることがある。

パーキンソン病による運動の緩慢および減少は,皮質脊髄路の病変による運動減少および痙縮と鑑別する必要がある。パーキンソン病と異なり,皮質脊髄路の病変は以下の症状を引き起こす:

  • 遠位の抗重力筋に好発する不全麻痺(筋力低下または麻痺)

  • 反射亢進

  • 伸展性足底反応(バビンスキー徴候)

  • 痙縮で,筋緊張を筋に加えられる伸張の割合および程度に比例して増加させるが,突如抵抗がなくなる(折りたたみナイフ現象)

瞬きの頻度低下,無表情,歩行異常など,他の徴候の存在からパーキンソン病の診断が支持される。姿勢不安定もみられるが,疾患の早期にみられる場合は,他の診断の可能性を考慮すべきである。

高齢患者では,パーキンソン病の診断を下す前に,自発運動の減少や小刻み歩行を引き起こしうる他の原因(例えば,重度の抑うつ,甲状腺機能低下症,または抗精神病薬もしくは特定の制吐薬の使用)を除外する必要がある。

パーキンソン病と二次性または非定型パーキンソニズムとの鑑別に役立てるため,しばしばレボドパに対する反応を検査する。持続性の大きな反応がみられれば,パーキンソン病の可能性が強く支持される。少なくとも用量1200mg/日のレボドパに対する反応が小さいか全くない場合は,他の種類のパーキンソニズムが示唆される。二次性または非定型パーキンソニズムの原因は以下によって同定できる:

  • 職業歴,薬歴,家族歴を含む,徹底的な病歴聴取

  • パーキンソン病以外の疾患に特徴的な神経脱落症状の評価

  • 神経画像検査:非定型の症状(例,早期からの転倒,早期からの認知障害,観念運動失行[手のジェスチャーを真似できない],反射亢進)がみられるとき

パーキンソン病の治療

  • カルビドパ/レボドパ(治療の主流)

  • アマンタジン,MAO-B阻害薬,または(少数の患者では)抗コリン薬

  • ドパミン作動薬

  • カテコールO-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬:常にレボドパと併用される(特にレボドパに対する反応が減弱してきたとき)

  • 手術:薬剤では症状が十分にコントロールされないか,耐えがたい有害作用が発現したとき

  • 運動および適応を助ける処置

パーキンソン病の症状を緩和するために多くの経口薬が一般的に使用されている(一般的に使用される主な経口抗パーキンソン病薬の表を参照)。

レボドパは最も効果的な治療法である。しかしながら,パーキンソン病が重症化した場合(ときに診断直後より),レボドパに対する反応が減弱してくることがあり,運動症状の変動やジスキネジアが起こる(以下を参照)。レボドパ服用回数を減らし,このような作用を最小限に抑えるため,障害が軽く比較的若年の患者にはまず以下の薬剤を検討する:

  • MAO-B阻害薬(セレギリン,ラサギリン)

  • ドパミン作動薬(例,プラミペキソール,ロピニロール,ロチゴチン)

  • アマンタジン(ピークドーズジスキネジアの軽減を試みている場合にも最良の選択である)

しかしながら,これらの薬剤で症状を十分にコントロールできない場合は,速やかにレボドパを開始すべきであり,これは,通常はレボドパによって生活の質を大幅に改善できるからである。現在では,レボドパの有効性が低下するのは疾患の進行のためであって,以前考えられていたようにレボドパへの累積曝露のためではないことがエビデンスから示唆されているため,レボドパを早期から使用しても,おそらく薬剤の無効化を早めることにはならない。

用量は高齢患者ではしばしば減量される。症状を引き起こしたり悪化させたりする薬剤,特に抗精神病薬は避ける。

レボドパ

レボドパはドパミンの代謝前駆体で,血液脳関門を通過して基底核に入り,そこで脱炭酸化されてドパミンを形成する。末梢性脱炭酸酵素阻害薬のカルビドパを同時に投与することで,脳の外(末梢)でレボドパドパミンに脱炭酸化されることを防ぐことができ,これにより脳内で治療濃度をもたらすのに必要なレボドパの用量を下げ,ドパミンによる末梢循環内の有害作用を最小限にすることができる。

レボドパは,動作緩慢および筋強剛の軽減に最も効果があり,振戦もしばしば大きく軽減させる。

レボドパよくみられる短期的有害作用として,以下のものがある:

  • 悪心

  • 嘔吐

  • ふらつき

よくみられる長期的有害作用としては,以下のものがある:

  • 精神および精神医学的異常(例,錯乱を伴うせん妄,パラノイア,幻視,パンディング[複合的な反復常同運動])

  • 運動障害(例,ジスキネジア,運動症状の変動)

幻覚やパラノイアは,高齢患者と認知障害または認知症のある患者で最もよくみられる。

疾患が進行するにつれ,次第に低用量でもジスキネジアが生じるようになる。時間の経過とともに,治療効果のために必要な用量とジスキネジアを引き起こす用量が近づいていく。

カルビドパ/レボドパの用量は,最大限の効果に達するか有害作用が出現するまで,患者が耐えられる限り4~7日毎に増量する。カルビドパ/レボドパ25/100mg配合錠を半錠,1日3回または1日4回(12.5/50mg,1日3回または4回)などの低用量から開始して,25/100mg錠1錠を1日4回までゆっくり増量することで,有害作用のリスクを最小限に抑えることができる。患者の耐容性および反応に基づき,最大2~3錠,1日4回まで1週間毎に増量できる。比較的まれな状況では,レボドパの用量を3錠,1日5回まで増量することがある。大半のパーキンソン病患者は,レボドパ400~1200mg/日を分割して2~5時間毎に服用する必要があるが,極めてまれに,吸収不良のある一部の患者では最大3000mg/日の服用が必要になる。

タンパク質がレボドパの吸収を低下させる可能性があるため,レボドパは食後に服用させないのが望ましい。レボドパの血漿濃度の変動が様々な基底核に及ぼす影響(運動症状の変動およびジスキネジアを引き起こす可能性がある)を軽減するため,1日4~5回のレボドパ投与が推奨される。

レボドパによる末梢の有害作用(例,悪心,嘔吐,体位性のふらつき)が優勢となった場合は,カルビドパの増量が有用となりうる。カルビドパを最大150mgまで増量することは安全であり,レボドパの効力を低下させない。

レボドパ(およびその他の抗パーキンソン病薬)の有害作用の治療のためにドンペリドンが使用できる。これは末梢のドパミン受容体を遮断し,血液脳関門を通過しないため脳に影響を及ぼさない。ドンペリドンは,レボドパドパミンへの脱炭酸化を抑制することにより,レボドパによる末梢での有害作用を軽減し,その結果,悪心,嘔吐,および起立性低血圧が軽減する。推奨用量は以下の通りである:

  • 即放性:10mg,経口,1日3回,必要に応じて最大で20mg,1日3回まで増量

  • 徐放性:30~60mg,朝1回(レボドパによる末梢の有害作用のコントロールにはこの用量で十分な場合がある)

ドンペリドンは米国ではルーチンに入手できない。

可溶性即放経口型のカルビドパ/レボドパは水なしで服用できる;この剤形は嚥下が困難な患者に有用である。用量は非可溶性即放型カルビドパ/レボドパと同じである。

徐放性製剤のカルビドパ/レボドパも利用できるが,これは食後に服用すると吸収が不規則になる可能性があり,また即放型より長く胃に留まることから,通常は夜間症状の治療にのみ使用される。

レボドパの新しい剤形が利用可能または開発中であるが,レボドパ/カルビドパ25/100mgの即放性の配合錠より優れていることが示されたものはまだない。

ときには,レボドパによる幻覚またはせん妄があっても,運動機能維持のためにレボドパを投与せざるを得ないことがある。そのような場合,幻覚およびせん妄は薬剤で治療できる。

精神病症状は経口クエチアピン,またはクロザピンで治療されている;これらの薬剤は,他の抗精神病薬(例,リスペリドン,オランザピン,全ての定型抗精神病薬)とは異なり,パーキンソン症状を悪化させない。クエチアピンは25mg夜から始めて,最大400mg夜または200mg,1日2回まで,1~3日毎に25mgずつ増量することができる。クロザピンの効果が最も高いが,無顆粒球症のリスク(患者の1%で起こると推定されている)があるためにその使用は限られている。クロザピンを使用する際の用量は,12.5~50mg,1日1回から12.5~25mg,1日2回までとする。血算は6カ月間毎週行い,その次の6カ月は2週間に1回行い,以降は4週間毎に行う。しかしながら,頻度は白血球数によって異なる可能性がある。最近のエビデンスでは,ピマバンセリン(pimavanserin)は精神症症状に対して効力があり,パーキンソン症状を悪化させないことが示唆されている;また,薬剤のモニタリングは必要ないようである。効力および安全性のさらなる確認が待たれるが,ピマバンセリン(pimavanserin)はパーキンソン病における精神症症状に対して第1選択の薬剤となりうる。

2~5年間の治療後には,多くの患者でレボドパに対する反応に変動が生じ,レボドパのwearing off現象が生じ始めるのに応じて,症状のコントロールが効果的と無効との間で予測不能に変動(オンオフの変動)することがある。症状は,次の予定された服用の前に生じることがある(オフ効果と呼ばれる)。ジスキネジアとオフ効果は,レボドパの薬物動態特性(特に経口薬としては半減期が短いこと)と疾患の進行が組み合わさって生じる。

パーキンソン病の早期では,黒質のドパミン受容体の過剰飽和を緩衝するのに十分な量のニューロンが残存している。そのため,ジスキネジアが起こる可能性は比較的低く,過剰なレボドパは再取り込みされ再利用されることで,レボドパの治療効果が比較的長く持続する。ドパミン作動性ニューロンの枯渇が進むにつれて,レボドパを投与する度に飽和するドパミン受容体の数が増え,その結果,黒質へのレボドパの送達がレボドパの血漿中半減期(1.5~2時間)に依存するようになるため,ジスキネジアおよび運動症状の変動が生じる。

しかしながら,ジスキネジアは,以前考えられていたようにレボドパへの累積曝露と直接関連するものではなく,主には疾患の進行によって引き起こされる。疾患の進行は,経口レボドパのパルス投与と関連するが,これによりグルタミン酸受容体,特にNMDA(N-メチル-d-アスパラギン酸)受容体の感受性が高まり,変化する。最終的には,毎回投与後の改善期間が短くなり,薬剤性のジスキネジアにより,無動からジスキネジアへと病状が変動するようになる。こうした変動には従来,レボドパの用量をできる限り少なくするとともに,実用的ではないが,投与間隔を1~2時間毎と短くすることで対処してきた。オフ(無動)時間を減少させるための代わりの方法としては,COMTおよび/またはMAO阻害薬のほか,ドパミン作動薬の補助的使用などがあり,アマンタジンはジスキネジアのコントロールに役立つことがある。

レボドパ/カルビドパ腸管ゲル製剤(欧州で使用可能)は,口側小腸に挿入された投与チューブにつないだポンプを用いて投与される。この製剤は,薬剤で軽減できない顕著な運動症状の変動または重度のジスキネジアがあり,脳深部刺激療法の適応がない患者の治療法として研究されている。この製剤はオフ時間を大幅に減少させ,生活の質を上昇させるようである。

アマンタジン

アマンタジンは主に以下の目的で投与される:

  • レボドパに続発するジスキネジアの改善

  • 振戦の軽減

アマンタジンは,早期の軽度パーキンソニズムに対する単剤療法として有用であり,その後はレボドパの効果を増強するために使用できる。アマンタジンは,ドパミン系の活動,抗コリン作用,またはその両方を増強する。アマンタジンはNMDA受容体拮抗薬でもあるため,パーキンソン病およびジスキネジアの進行を遅らせるのに役立つ可能性がある。単剤療法として使用された場合,アマンタジンの有効性は数カ月で失われることが多い。

ドパミン作動薬

これらの薬剤は,基底核のドパミン受容体を直接活性化する。具体的には以下のものがある:

  • プラミペキソール(0.75~4.5mg,経口[1日総用量])

  • ロピニロール(3~6mg,経口,最大24mg[1日総用量])

  • ロチゴチン(2~8mg,経皮[1日総用量])

  • アポモルヒネ(2~30mg,注射[1日総用量])

アポモルヒネは急性かつ間欠性の動作緩慢に対する治療に使用され,用量は必要に応じて2~30mg,皮下であり,2mg,1日1回から開始して,最大で6mg,1日5回まで漸増する。

一部の国ではブロモクリプチンがいまだに使用されているが,心臓弁線維化および胸膜線維化のリスクを高めるため,北米ではその使用は主に下垂体腺腫の治療に限定されている。

ペルゴリドは古い麦角系ドパミン作動薬であるが,心臓弁線維化のリスクを上昇させることから,市場から回収された。

経口ドパミン作動薬は単剤療法としての使用も可能であるが,その場合は数年以上にわたり効果が持続することはまれである。これらの薬剤を治療早期にレボドパ低用量と併用することは,ジスキネジアおよびオンオフ効果のリスクが高い患者(例,60歳未満の患者)で有用となる場合がある。しかしながら,ドパミン作動薬は,後期における補助療法としてなど,全ての病期において有用である可能性がある。有害作用は経口ドパミン作動薬の使用を制限する場合がある。患者の1~2%では,これらの薬剤は強迫性賭博,過度の買い物,性欲過多,過食を引き起こすことがあり,原因となる薬剤の減量または中止が必要となり,その薬物クラスを避けることが必要になる可能性もある。

プラミペキソールおよびロピニロールは経口薬であり,パーキンソン病の初期にレボドパの代わりに投与されるか,レボドパと併用されるほか,禁忌がなく必要であれば,進行例の治療にも追加できる。これらの薬剤の半減期は6~12時間で,1日3回服用する即放性製剤として利用できる。これらの薬剤は1日1回服用する徐放性製剤としても利用でき,血中濃度のピーク値およびトラフ値をできる限り低く抑えるのに役立つ。日中の眠気は一般的な有害作用である。

ロチゴチンは1日1回経皮投与されるが,他の経路で投与される薬剤より連続的にドパミンを刺激する。用量は2mg,1日1回から開始して,通常は6mg,1日1回まで増量する。米国以外では,より高用量(8mg)が推奨される場合もある。

アポモルヒネは,オフ効果の発現が頻回かつ重度である場合にレスキュー療法として注射できるドパミン作動薬である。作用発現は速いが(5~10分),持続時間は短い(60~90分)。アポモルヒネ2~6mgの皮下投与は,必要に応じて1日5回まで可能である。まず,起立性低血圧を確認するための試験投与として2mgを投与する。血圧は仰臥位および立位で投与前と投与後20分,40分,および60分に確認する。その他の有害作用は他のドパミン拮抗薬と同様である。悪心は,アポモルヒネ開始の3日前から トリメトベンズアミド(trimethobenzamide)を300mg,経口,1日3回で開始し,治療の最初の2カ月間継続することによって予防できる。

一部の国では,アポモルヒネを皮下ポンプで使用することが可能であり,機能改善手術の対象とならない進行したパーキンソン病患者に対して,レボドパ投与ポンプの代わりに使用できる。

選択的MAO-B阻害薬

選択的MAO-B阻害薬としては,セレギリンやラサギリンなどがある。

セレギリンは,脳内のドパミンを分解する2大酵素の1つを阻害し,それによりレボドパ1回量の作用を延長させる。軽度のオフ効果が認められる一部の患者では,セレギリンレボドパの有効性を延長させるのに役立つ。最初にセレギリンを単独で用いると,軽度の症状がコントロールされ,結果としてレボドパの使用を約1年遅らせることができる。この薬剤からはアンフェタミン様の代謝物が生成されるため,非選択的MAO阻害薬を服用している患者が食品[例,ある種のチーズ]に含まれるチアミンを摂取すると,ときに高血圧クリーゼが誘発されるが,5mg,経口,1日2回の投与でこの作用が現れることはない。事実上,セレギリンには有害作用はないが,レボドパによるジスキネジア,精神的な有害作用,および悪心を悪化させる可能性があるため,レボドパの減量が必要である。セレギリンはまた,頬粘膜吸収用に作られた製剤(セレギリンザイディス)としても利用可能である。

ラサギリンは,セレギリンと同じ酵素を阻害する。疾患の早期および後期に効果的であり,忍容性も良好である;ラサギリン1mg,経口,1日1回の使用は,セレギリンのそれと同様である。セレギリンと異なり,アンフェタミン様の代謝物が生成されることはないため,理論的には,患者がチアミンを摂取したときに高血圧クリーゼが起こるリスクがラサギリンではより低い。

抗コリン薬

抗コリン薬はパーキンソン病の初期に単剤療法として,その後はレボドパの補助薬として用いることができる。振戦に最も効果的である。用量は非常に緩徐に増量する。有害作用には,認知障害や口腔乾燥などがあり,これらは高齢患者においては特に煩わしく,薬剤の使用に当たり主要な問題となりうる。したがって,抗コリン薬は通常,振戦優位なパーキンソン病の若年患者とジストニアの要素が一部みられる若年患者にのみ使用される。まれに,認知障害または精神疾患のない高齢患者で補助的治療として使用される。

マウスモデルを使用した一部の研究によると,抗コリン薬はタウ関連病態と神経変性を促進する可能性があるため,使用を制限すべきであるとされている;病態が促進される程度は,中枢性の抗コリン作用と相関する(1, 2)。

一般的に用いられる抗コリン薬には以下のものがある:

  • ベンツトロピン:夜間0.5mg,最大1mg,1日2回~2mg,1日3回

  • トリヘキシフェニジル:1mg,1日3回,最大で2~5mg,1日3回まで

振戦の治療には,抗コリン作用をもつ抗ヒスタミン薬(例,ジフェンヒドラミン25~50mg,経口,1日2回~1日4回またはフェナドリン[phenadrine]50mg,経口,1日1回~1日4回)がときに有用である。

抗コリン作用を有する三環系抗うつ薬(例,アミトリプチリン10~150mg,経口,就寝時)は,レボドパの補助薬として,抑うつの治療に有用となりうる。

カテコールO-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬

この種の薬剤(例,エンタカポン,トルカポン)は,レボドパおよびドパミンの分解を阻害することから,レボドパの補助薬として有用とみられている。レボドパを長期服用している患者において,レボドパに対する反応が服用間隔の終わりまでに進行性に減弱していく場合(wearing off効果として知られる)によく使用される。

エンタカポンは,レボドパおよびカルビドパとの併用で使用できる。レボドパの服用毎にエンタカポン200mgを投与し,最大200mg,1日8回まで投与する。

トルカポンは血液脳関門を通過できるため,より強力なCOMT阻害薬である;しかしながら,まれに肝毒性が報告されているため,あまり使用されない。エンタカポンでオフ効果を十分にコントロールできない場合は,適切な選択肢である。トルカポンの用量は100mgから最大200mg,1日3回まで徐々に増量する。肝酵素値を定期的にモニタリングしなければならない。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)もしくはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)値が正常範囲の上限の2倍以上に上昇した場合,または肝傷害を示唆する症状と徴候が生じた場合は,トルカポンを中止すべきである。

オピカポンは,新しい第3世代のCOMT阻害薬(最近米国で承認された)であり,パーキンソン病患者に効果的かつ安全であると考えられている。トルカポンと異なり,またエンタカポンと同じく,オピカポンは定期的な臨床検査によるモニタリングまたは複数回の経口投与を必要としない。推奨用量は50mg,就寝時である。

表&コラム
表&コラム

手術

薬剤が無効であるか耐えがたい有害作用が生じた場合は,脳深部刺激療法や凝固術を含めた外科的治療を考慮してもよい。

レボドパに誘発されたジスキネジアまたは顕著な運動症状の変動がみられる患者には,視床下核または淡蒼球内節への脳深部刺激療法がしばしば推奨される;この処置により,基底核の過活動を調節し,その結果パーキンソン病のパーキンソン症状を減らすことができる。振戦のみの患者では,視床中間腹側核の刺激がときに推奨される;しかしながら,多くの患者は他の症状も有するため,振戦も他の症状も軽減する,視床下核の刺激が通常は望ましい。ジスキネジアのコントロール不十分が主な問題である場合,または患者の認知機能が低下するリスクが高い場合は,淡蒼球内節がよい標的となる。

凝固術は視床に向けた淡蒼球内節からの過活動を止めるのが目的であり,振戦優位なパーキンソン病の患者では振戦をコントロールするために視床切除がときに行われる。しかしながら,凝固術は可逆的ではなく,経過に合わせて調節することもできない;嚥下困難や構音障害といった重度の有害作用の可能性があるため,両側の凝固術は推奨されない。視床下核を含めた凝固術は,重度のバリズムを引き起こすため,禁忌である。

患者の選択は,パーキンソン病における機能的手術を成功させる上で最も重要な因子である。手術は通常,生活に支障を来すジスキネジアや変動する運動症状に対する薬物治療が無効に終わるか,極めて制限されている場合に考慮される。薬剤にレボドパのさらなる増量(それにより症状を軽減できる可能性がある)を妨げる有害作用があるために,その薬剤による治療が不十分になる場合がある。

その他の選択基準としては以下のものがある:

  • パーキンソン病を5~15年患っている

  • 70歳未満の患者

  • 有意な認知機能低下がない,情動障害がない,また期待余命にもよるが末期疾患(例,がん,慢性腎不全,肝不全,有意な心疾患,コントロール不良の糖尿病または高血圧)がない

脳神経外科手術は認知障害や精神疾患を増悪させる可能性があり,精神機能がさらに障害されるリスクが,運動機能のいかなる改善効果をも上回るため,認知障害,認知症,または精神疾患のある患者は手術の候補とはならない。

高密度焦点式超音波療法(HIFU)

MRガイド下高密度焦点式超音波療法は,パーキンソン病患者の薬剤抵抗性かつ重度の振戦をコントロールする目的で施行できる。この治療では,より侵襲的な脳神経外科処置を行った場合に起こりうる出血や感染のリスクを最小限に抑えつつ,視床腹中間核を破壊することができる。

振戦,筋強剛,無動,およびパーキンソン病のその他の主徴候の治療を目的とし,視床下核および淡蒼球内節を標的とするMRガイド下高密度焦点式超音波療法の安全性および有効性を判定するための研究が現在進行中である(3)。

理学療法

活動性を最大限に引き出すことが目標である。患者は可能な範囲で最大限,日常活動を増やすべきである。不可能であれば,定期的な運動プログラムを伴う理学療法または作業療法が,体調を整えるのに役に立つ可能性がある。治療者は適応方法を患者に教え,家庭に適切に適応できるよう助けることがある(例,転倒のリスクを減少させるために手すりを設置する)。

便秘(疾患,抗パーキンソン病薬,および/または非活動性による)を予防または緩和するために,高繊維食を摂取し,可能であれば運動し,十分な量の水分を飲むべきである。栄養補助食品(例,オオバコ)および刺激性下剤(例,ビサコジル10~20mg,経口,1日1回)が役立つ可能性がある。

介護者と終末期の問題

パーキンソン病は進行性なので,患者はいずれ日常生活に介助を必要とするようになる。パーキンソン病の身体的および心理的影響,ならびに患者の機能をできるだけ補助する手段について学ぶ方法を介護者に紹介すべきである。終末期のケアは介護者に疲労とストレスをもたらすため,支援団体と連絡を取って社会的および心理的支援を求めるよう介護者に促すべきである。

最終的には,大半の患者が重度の身体障害を来し,移動できなくなる。介助の下でさえ,食べられなくなる場合もある。嚥下が益々困難になるため,誤嚥性肺炎による死亡のリスクがある。介護施設でケアを受けるのが最適な場合もある。

パーキンソン病患者は,自己決定能力を失う前に事前指示書を作成して,終末期にどのような医療を受けたいかを明記しておくべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Yoshiyama Y, Kojima A, Itoh K, Uchiyama T, Arai K: Anticholinergics boost the pathological process of neurodegeneration with increased inflammation in a tauopathy mouse model.Neurobiol Dis 2012 45 (1):329–36, 2012.doi: 10.1016/j.nbd.2011.08.017

  2. 2.Yoshiyama Y, Kojima A, Itoh K, et al: Does anticholinergic activity affect neuropathology?Implication of neuroinflammation in Alzheimer's disease.Neurodegener Dis 15 (3):140-148, 2015.doi: 10.1159/000381484 

  3. 3.Moosa S, Martínez-Fernández R, Elias WJ, et al: The role of high-intensity focused ultrasound as a symptomatic treatment for Parkinson's disease.Mov Disord 34 (9):1243–1251, 2019.doi: 10.1002/mds.27779 Epub 2019 Jul 10.

要点

  • パーキンソン病はシヌクレイノパチーの一種であり,そのため他のシヌクレイノパチー(例,レビー小体型認知症,多系統萎縮症)と重複する可能性がある。

  • 特徴的な性質に基づきパーキンソン病を疑う:安静時振戦,筋強剛,緩徐および減少した動作,および姿勢と歩行の不安定性。

  • パーキンソン病と似た症状を引き起こす疾患とパーキンソン病の鑑別は,主に病歴と身体診察の結果に基づくが,レボドパに対する反応試験も参考し,ときに神経画像検査が有用となる場合もある。

  • 典型的にはレボドパ/カルビドパ(治療の主流)を使用するが,他の薬剤(アマンタジン,ドパミン作動薬,MAO-B阻害薬,COMT阻害薬)も,レボドパ/カルビドパの前および/または同時に使用する場合がある。

  • 最適な薬物療法に対する抵抗性の症状があり,認知障害や精神疾患がない患者には,脳深部刺激療法などの外科的手技を考慮する。

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