ナルコレプシー

執筆者:Richard J. Schwab, MD, University of Pennsylvania, Division of Sleep Medicine
レビュー/改訂 2022年 5月
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ナルコレプシーは,慢性的な日中の過度の眠気が特徴で,しばしば突然の筋緊張の消失(情動脱力発作)を伴う。その他の症状として,睡眠麻痺や入眠時および出眠時幻覚などがある。診断は睡眠ポリグラフ検査および睡眠潜時反復検査による。治療としては,日中の過度の眠気および情動脱力発作に対してモダフィニル,アルモダフィニル(armodafinil),ソルリアムフェトル(solriamfetol),ピトリサント(pitolisant),γ-ヒドロキシ酪酸ナトリウム(sodium oxybate),またはカルシウム,マグネシウム,カリウム,およびγ-ヒドロキシ酪酸ナトリウムを含有する合剤を使用する。

睡眠障害または覚醒障害を有する患者へのアプローチも参照のこと。)

ナルコレプシーの原因は不明である。欧州,日本,および米国では,発生率は1000人に0.2~1.6人である。ナルコレプシーの有病率に男女差はない。

ナルコレプシーは,特定のヒト白血球抗原(HLA)ハプロタイプと密接な関連があるが,原因は遺伝学的なものではないと考えられている。双生児での一致率が低い(25%)ことから,環境因子の顕著な役割が示唆されており,しばしばそれらがナルコレプシーの誘因となる。ナルコレプシーの動物と大半のナルコレプシー患者では,神経ペプチドであるヒポクレチン-1が髄液中にみられないことから,視床下部外側野におけるヒポクレチン含有ニューロンがHLA関連自己免疫機序により破壊されることでナルコレプシーが生じることが示唆される。

ナルコレプシーの特徴は,レム(急速眼球運動)睡眠のタイミングおよび制御の調節不全である。そのため,覚醒状態にレム睡眠が割り込んだり,覚醒から睡眠への移行期にレム睡眠が割り込んでしまう。ナルコレプシーの症状の多くは,レム睡眠の特徴である姿勢筋麻痺と鮮明な夢に起因する。

2つの病型がある:

  • 1型:ヒポクレチン欠損によるナルコレプシーであり,情動脱力発作(突然の感情反応によって誘発される瞬間的な筋力低下または筋麻痺)を伴う。

  • 2型:ヒポクレチンの値が正常で情動脱力発作を伴わないナルコレプシー

Kleine-Levin症候群は,青年期の男子にみられる非常にまれな疾患で,ナルコレプシーに似ている。Kleine-Levin症候群は,過眠症(日中の過度の眠気)および過食症エピソードを引き起こす。病因は不明であるが,感染に対する自己免疫反応の一種である可能性がある。

ナルコレプシーの症状と徴候

ナルコレプシーの主症状は以下のものである:

  • 日中の過度の眠気(excessive daytime sleepiness:EDS)

  • 情動脱力発作

  • 入眠時および出眠時幻覚

  • 睡眠麻痺

  • 夜間の睡眠障害(覚醒の増加による)

これら5つの症状が全てみられる患者は全体の約10%である。

何らかの疾患,ストレス因子,または一定期間続いた睡眠不足により発症が促されることもあるが,通常は誘因となる疾患がなく青年期または若年成人期に発症する。ナルコレプシーは一度発症すると生涯続く;寿命に影響はない。

日中の過度の眠気

EDSが主症状であり,いつでも起こりうる。1日に起こる睡眠エピソードの回数には幅があり,それぞれ数分から数時間持続する。患者は睡眠欲求に瞬間的にしか抵抗できないが,目覚めは正常な睡眠の場合と同様に容易である。睡眠発作は単調な状況下(例,読書,テレビ視聴,会議中)で起こりやすいが,複雑な作業中(例,運転,会話,執筆,食事中)でも起こりうる。

前兆なしに睡眠発作が生じることもある。覚醒時は休息感を感じるものの,その数分後にまた眠り込むことがある。

夜間の睡眠は不十分で,頻繁な覚醒を伴い,鮮明で恐ろしい夢によって中断されることがある。

その結果,生産性の低下,対人関係への支障,集中力低下,意欲の低下,抑うつ,生活の質の劇的な低下,および身体損傷の危険(特に自動車衝突事故による)などを招く。

情動脱力発作

短時間の筋力低下または麻痺のエピソードが意識消失は伴わずに生じ,通常は2分以内に終息する;それらは突然の情動反応(笑い,怒り,恐怖,喜び,しばしば驚きなど)によって惹起される。

筋力低下は四肢に限局することがある(例,釣り餌に魚が食いつき当たりがあったときに釣り竿を落とす)ほか,思い切り笑ったり(「笑いすぎて力が抜ける」ように)突然怒ったりしたときに,筋力低下が原因で崩れるように転倒することがある。情動脱力発作はその他の筋にも起こりうる:顎の下垂,顔面筋のぴくぴくした痙攣,閉眼,うなずくような頭の動き,および言語不明瞭が起こりうる。霧視が生じることがある。こうした発作は,レム睡眠中に生じる筋緊張消失に類似する。

臨床的に有意な情動脱力発作はナルコレプシー患者の約20%にみられる。

睡眠麻痺

患者は寝入りばなまたは覚醒直後,一時的に運動不能になる。これらのエピソードは強い恐怖を伴うことがある。睡眠麻痺の症状はレム睡眠に伴う運動抑制に類似する。

睡眠麻痺はナルコレプシー患者の約25%に認められるが,健康小児,またはより頻度は低いが健康成人にもみられる。

入眠時または出眠時幻覚

寝入りばな(入眠時)または頻度は低いが目覚めた直後(出眠時)に,とりわけ鮮明な聴覚的または視覚的な錯覚または幻覚が生じる。こうした現象は強い白昼夢との区別がつきにくく,正常なレム睡眠時に見る鮮明な夢とも若干似ている。

入眠時幻覚はナルコレプシー患者の約30%に認められるが,健康な幼児においても一般的にみられ,また健康な成人にも時折みられる。

夜間睡眠障害

ナルコレプシー患者では,覚醒の増加によって睡眠が妨げられることも多く,それによりEDSが悪化する可能性がある。

ナルコレプシーの診断

  • 睡眠ポリグラフ検査

  • 睡眠潜時反復検査

ナルコレプシーの診断には,症状の出現から10年の期間を要することが一般的である。

EDSを有する患者では,情動脱力発作の病歴はナルコレプシーを強く示唆する。

EDSを有する患者では,夜間睡眠ポリグラフ検査の後に睡眠潜時反復検査(MSLT)を行うことにより,以下のような所見がみられればナルコレプシーの診断を確定できる:

  • 5回の昼寝のうち少なくとも2回で入眠時レム睡眠のエピソードを認める,または昼寝のうち1回および先に行った夜間睡眠ポリグラフ検査中に1回の入眠時レム睡眠のエピソードを認める

  • 平均睡眠潜時(入眠するまでの時間) 8分

  • 夜間睡眠ポリグラフ検査で診断に至る他の異常が認められない

情動脱力発作もみられる場合は1型ナルコレプシーと診断され,情動脱力発作がない場合は2型ナルコレプシーと診断される。EDSは1型と2型両方のナルコレプシー患者に生じる。

覚醒維持検査は診断には役立たないが,治療効果のモニタリングには役立つ。

慢性的なEDSを生じうるその他の疾患は,通常,病歴聴取および身体診察により示唆される;脳画像検査ならびに血液および尿検査により診断を確定できる。このような疾患には,視床下部または上部脳幹を障害する占拠性病変,頭蓋内圧亢進,特定の病型の脳炎などがある。甲状腺機能低下症,高血糖,低血糖,貧血,尿毒症,高炭酸ガス血症高カルシウム血症肝不全,および痙攣性疾患もEDSを引き起こすことがあり,過眠を伴う場合と伴わない場合がある。急性の比較的短いEDSおよび過眠は,一般にはインフルエンザなどの急性全身性疾患に伴って生じる。過眠症は,ツェツェバエによって伝播されるアフリカトリパノソーマ症(睡眠病)による髄膜脳炎の患者にもみられる。

ナルコレプシーの治療

  • モダフィニルまたはアルモダフィニル(armodafinil)

  • γ-ヒドロキシ酪酸製剤(oxybates)

  • ソルリアムフェトル(solriamfetol)

  • ピトリサント(pitolisant)

睡眠麻痺または入眠時および出眠時幻覚のエピソードがときにみられる程度の患者,情動脱力発作がみられるが頻度は低く部分的である患者,ならびに軽度EDSの患者では,ナルコレプシーの治療の必要はないことがある。それ以外の患者には,覚醒促進薬および情動脱力発作に対する薬剤を使用する。患者はまた,夜間に十分な睡眠をとり,毎日同じ時刻(通常は午後)に短時間(30分以内)の昼寝をとるようにすべきである。情動脱力発作がみられる患者は誘発因子(例,笑い,怒り,恐怖)を回避すべきである。

1型ナルコレプシーでは,情動脱力発作に対してγ-ヒドロキシ酪酸ナトリウム製剤(γ-ヒドロキシ酪酸ナトリウム[sodium oxybate]またはカルシウム,マグネシウム,カリウム,およびγ-ヒドロキシ酪酸ナトリウムを含有する合剤)またはピトリサント(pitolisant)を使用すべきであり,EDSが遷延している場合にはモダフィニルを追加すべきである。

2型ナルコレプシーでは,EDSに対してモダフィニルを第1選択,ソルリアムフェトル(solriamfetol)を第2選択の治療とすべきである。ピトリサント(pitolisant)もEDSの治療に使用できる。

モダフィニルは,長時間作用型の覚醒促進薬であり,EDSがある患者に役立つ可能性がある。作用機序は不明である。典型的には,モダフィニル100~200mgを朝に経口投与する。用量は必要に応じて400mgまで増量する。効果が夜まで持続しなければ,低用量(例,100mg)での2回目の投与を正午または午後1時に行ってもよいが,この投与により夜間の睡眠が阻害される場合がある。

モダフィニルの有害作用には悪心や頭痛などがあるが,初回用量を少なめにしてゆっくりと漸増することで有害作用は軽減する。モダフィニルは経口避妊薬の有効性を減弱させることがあり,また乱用の可能性が(低いものの)ある。まれではあるが,モダフィニルを服用した患者で重篤な発疹およびスティーブンス-ジョンソン症候群が発生している。重篤な反応が起これば,薬剤の投与を永久的に中止すべきである。モダフィニルは,心形成異常を含む重度の胎児先天異常を引き起こす可能性があるため,妊娠中に使用すべきではない。

アルモダフィニル(armodafinil)は,モダフィニルのR-光学異性体であり,同様の効果および有害作用を有するが,作用持続時間がより長く,用量は150mgまたは250mg,経口,朝1回である。

ソルリアムフェトル(solriamfetol)はノルアドレナリン-ドパミン再取り込み阻害薬である。ナルコレプシーまたは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の患者におけるEDSの治療に適応がある(情動脱力発作には適応がない)。開始量は75mg,経口,1日1回であり,3日毎に倍増することができ,最大用量は150mg,1日1回である。腎障害のある患者では用量調節が必要であり,末期腎不全患者にはソルリアムフェトル(solriamfetol)を使用すべきでない。臨床試験では,ナルコレプシーの成人ならびにOSAおよびEDSを有する成人において,ソルリアムフェトル(solriamfetol)の忍容性は良好であり,過度の眠気の症状(エプワース眠気スケール[Epworth Sleepiness Scale]および覚醒維持検査により評価)を有意に軽減した。最も頻度の高い有害作用は,不眠,頭痛,悪心,食欲減退,および下痢である。経口避妊薬との相互作用はない。

ピトリサント(pitolisant)は,ヒスタミンH3受容体逆作動薬であり,ナルコレプシー患者のEDSおよび情動脱力発作の治療を適応とする。朝の用量は8.9~35.6mgの範囲で様々である。ピトリサント(pitolisant)は8.9mg,経口,1日1回(起床時に服用)から開始し,2週目に17.8mg,1日1回に増量する。必要であれば,最大35.6mg,1日1回まで増量してもよい。腎障害または肝障害のある患者では用量調節が必要であり,末期腎不全患者にはピトリサント(pitolisant)を使用すべきでない。有害作用には,頭痛,易刺激性,不安,悪心などがある。経口避妊薬と相互作用を起こし,経口避妊薬の効果を低下させる。

γ-ヒドロキシ酪酸ナトリウム(sodium oxybate)とカルシウム,マグネシウム,カリウム,およびγ-ヒドロキシ酪酸ナトリウムを含有する合剤も,EDSおよび情動脱力発作の治療に使用できる。どちらも2.25gを就寝時に寝床内で服用させ,同量を2.5~4時間後に再度服用させる。最大用量は一晩9gである。有害作用には,頭痛,悪心,めまい,上咽頭炎,傾眠,嘔吐,尿失禁のほか,ときに睡眠時遊行症などがある。γ-ヒドロキシ酪酸(oxybates)製剤は,米国の指定薬物制度で細目IIIに分類されている薬物であり,乱用および依存の可能性がある。コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素欠損症の患者では禁忌である。γ-ヒドロキシ酪酸ナトリウム(sodium oxybate)は,無治療の呼吸器疾患,高血圧,または心不全を有する患者では慎重に使用すべきである(γ-ヒドロキシ酪酸ナトリウム[sodium oxybate]は,数種の異なるγ-ヒドロキシ酪酸塩を含有する合剤よりナトリウムの含有量が多いため)。

三環系抗うつ薬(特にクロミプラミン,イミプラミン,およびプロトリプチリン)とSSRI(例,ベンラファキシン,フルオキセチン)は,従来から情動脱力発作,睡眠麻痺,ならびに入眠時および出眠時幻覚の治療に使用されてきたが,これらの薬剤の有効性に関するデータは限られている。これらの薬剤は,ピトリサント(pitolisant)およびγ-ヒドロキシ酪酸ナトリウム(sodium oxybate)が無効に終わった場合にのみ使用すべきである。

メチルフェニデートまたはアンフェタミン誘導体は,覚醒促進薬に反応しない患者と覚醒促進薬に耐えられない患者に使用できる。しかしながら,刺激薬はいずれも,モダフィニル,アルモダフィニル(armodafinil),ソルリアムフェトル(solriamfetol),およびピトリサント(pitolisant)を試した後の第3または第4選択薬とみなすべきである。40歳以上の患者に刺激薬を処方する場合は,基礎疾患として心血管疾患があるかどうかを判定するために運動負荷試験を行うべきである。

用法・用量は以下の通りである:

  • メチルフェニデート:5~15mg,経口,1日2回または1日3回

  • メタンフェタミン:5~20mg,経口,1日2回

  • デキストロアンフェタミン:5mg,経口,1日2回から20mg,経口,1日3回まで

メチルフェニデートおよびアンフェタミン誘導体は,作用時間の長い製剤があるため,1日1回の投与で済むことが多い。ただし,これらの刺激薬には興奮,高血圧,頻拍,心筋梗塞(血管収縮に続発する),食欲の変化,気分の変化(例,躁になる)などの重大な有害作用がある。乱用の可能性が高い。

要点

  • ナルコレプシーは,視床下部外側野のヒポクレチン含有ニューロンが自己免疫機序により破壊されることで生じると考えられる。

  • ナルコレプシーの主な症状は,日中の過度の眠気(excessive daytime sleepiness:EDS),情動脱力発作,入眠時および出眠時幻覚,睡眠麻痺,ならびに夜間睡眠障害である。

  • 睡眠ポリグラフ検査および睡眠潜時反復検査により診断を確定する。

  • EDSは通常モダフィニルまたは他の覚醒促進薬に反応し,情動脱力発作はピトリサント(pitolisant)またはγ-ヒドロキシ酪酸製剤(oxybates)に反応する。

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