中枢性睡眠時無呼吸症候群

執筆者:Kingman P. Strohl, MD, Case School of Medicine, Case Western Reserve University
レビュー/改訂 2022年 10月
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中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)は,気道閉塞を伴わない換気ドライブの変化を特徴とする多様な病態の集合である。これらの病態の大半は,症状を伴わない呼吸パターンの変化を睡眠中に引き起こす。診断は臨床所見に基づき,必要に応じて睡眠ポリグラフ検査で確定する。治療は支持療法による。

中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)は,閉塞性睡眠時無呼吸症候群よりはるかに頻度が低いものの,まれではない。CSAは一般人口の約0.9%にみられる(1)。CSAは高齢者,男性,および心血管疾患のある患者により多くみられる。また,小児にみられることもある(2)。

総論の参考文献

  1. 1.Donovan LM, Kapur VK: Prevalence and characteristics of central compared to obstructive sleep apnea: analyses from the sleep heart health study cohort.Sleep 39(7):1353-9, 2016.doi: 10.5665/sleep.5962.PMID: 27166235; PMCID: PMC4909617.

  2. 2.McLaren AT, Bin-Hasan S, Narang I: Diagnosis, management and pathophysiology of central sleep apnea in children. Paediatr Respir Rev 30:49-57, 2019.doi:10.1016/j.prrv.2018.07.005

中枢性睡眠時無呼吸症候群の病態

気道閉塞により気流が制限される閉塞性睡眠時無呼吸症候群とは異なり,中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)は呼吸ドライブの変化によって引き起こされるもので,この呼吸ドライブは睡眠中は二酸化炭素濃度に大きく依存する。CSAには,以下の二つの機序が認められる:

  • 低換気関連型(hypoventilation-related)CSA:換気ドライブの低下により,呼吸が一時的に減少および/または停止する。

  • 過換気関連型(hyperventilation-related)CSA:睡眠中の換気ドライブの増加が低炭酸ガス血症を引き起こし,これが代償的に換気を低下させ,その時間が異常に長くなると,覚醒を伴う中枢性無呼吸を繰り返すようになる。

低換気関連型CSAは通常,換気を直接障害する中枢神経系疾患または神経筋疾患の患者に発生し,その結果CO2濃度の上昇(高炭酸ガス血症)をもたらす。まれに,高炭酸ガス血症に対する化学受容体の反応が障害されている患者がいる(一次性肺胞低換気)。

逆説的ではあるが,大半のCSAでは過換気の期間がある。何らかの理由による一時的な換気量の増加により,目標二酸化炭素濃度を下回り,低炭酸ガス血症が生じることがある。大半の人では,低炭酸ガス血症が生じても代償機構によって正常な換気が回復する。しかしCSA患者では,代償機構が十分迅速に反応せず,低炭酸ガス血症により一定期間の低換気および/または無呼吸が生じ,結果として高炭酸ガス血症を来す。患者は,チェーン-ストークス呼吸(短時間の無呼吸の後,次第に呼吸が速く深くなり,その後,呼吸が遅く浅くなりまた無呼吸に戻るサイクルを繰り返す)のように,過換気と低換気を周期的に繰り返すことがある。

換気障害が起こるのは主に睡眠中であるが,これは覚醒時にはほかにも呼吸に対する外部刺激があるためである。

CSAは睡眠を妨げるあまり,日中の過度の眠気を引き起こすことがある。

中枢性睡眠時無呼吸症候群の病因

高炭酸ガス血症を伴う低換気関連型CSAの原因には,甲状腺機能低下症,神経系の病変(例,脳幹梗塞,脳炎,キアリII型形成異常),特定の薬剤(最も多いのはオピオイド[メサドンを含む])などがある。

先天性中枢性低換気症候群(オンディーヌの呪い)は,新生児にみられる特発性CSAのまれな病型であり,一部の症例ではヒルシュスプルング病を合併する。症例の80~90%はPHOX2遺伝子の変異が原因である。この変異は多様な表現型をとる。臨床的に明らかなレベルの症例は顕性(優性)形式で遺伝する。親に睡眠時低換気がみられることがある。

CSAを引き起こしうる極めてまれな病態として,ROHHAD症候群(視床下部機能障害・低換気・自律神経失調症を伴う急性発症肥満[1年未満で著しい体重増加がみられる])があり,この疾患の原因は多因子性である。患者は20~30歳代で発症し,感染や手術などのストレスを受けた後に発症することが多い。

過換気関連型CSAは,低圧低酸素状態に起因するもので,高地で健康な人に発生する。心不全患者にも起こることがあり,ときに閉塞性無呼吸の治療中にも発生する。

中枢性睡眠時無呼吸症候群の症状と徴候

中枢性睡眠時無呼吸症候群は無症状のこともあり,長く静かな呼吸停止と浅い呼吸が続いたあとの過呼吸,または落ち着きのない睡眠に介護者またはベッドパートナーが気づくことで発見される。

症状がある場合,患者は日中の過度の眠気(ときに覚醒中の眠気と呼ばれる),嗜眠,および朝の頭痛などを経験する。

中枢性睡眠時無呼吸症候群の診断

  • 臨床的評価

  • しばしば睡眠ポリグラフ検査

CSAの診断は臨床所見に基づき,必要であれば,ポータブル機器を用いた自宅での睡眠検査または睡眠検査室での睡眠ポリグラフ検査により確定する。ただし,原因が明白かつ可逆的である場合(例,高地への旅行,心不全)や無症状の患者では,検査が不要なこともある。

高炭酸ガス血症を伴う無呼吸を引き起こす中枢神経系の原因を診断するため,脳または脳幹の画像検査が適応となることがある。覚醒中の動脈血ガスおよび重炭酸濃度は,高炭酸ガス血症に基づく病態と低炭酸ガス血症に基づく病態の鑑別に役立つ。

中枢性睡眠時無呼吸症候群の治療

  • 原因の治療

  • 支持療法

中枢性睡眠時無呼吸症候群の一次治療は,基礎疾患の至適管理とオピオイド,アルコール,およびその他の鎮静薬の回避または減量である(1)。症状のある患者の二次治療として,試験的な酸素投与または,他の治療を行っても症状がある高炭酸ガス血症型CSA患者では,非侵襲的陽圧換気が適応となることがある。

CSAおよびチェーン-ストークス呼吸がみられる患者では,酸素投与により無呼吸および低呼吸エピソードが減少することがある;陽圧換気も用いられているが,効果は明らかでない。

アセタゾラミドは代謝性アシドーシスを引き起こし,呼吸を刺激するため,高地滞在が原因のCSAに効果的であり,一部の心不全患者にも有用である。

横隔膜の電気的ペーシング(通常は経静脈的横隔神経刺激による)は,先天性中枢性低換気症候群の2歳以上の小児または症候性のCSAエピソードを繰り返す成人などに対する1つの選択肢である。プログラム可能な横隔神経または横隔膜刺激システムにより,1回換気量,流量,および酸素化を安定させる律動的な呼吸パターンを作り出すことができ,それにより睡眠中の呼吸を同調させ,病状の進行を変えられる可能性がある(2)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Dempsey JA: Central sleep apnea: misunderstood and mistreated!F1000Res.8:F1000 Faculty Rev-981, 2019.doi: 10.12688/f1000research.18358.1

  2. 2.Schwartz AR, Sgambati FP, James KJ, et al: Novel phrenic nerve stimulator treats Cheyne-Stokes respiration: polysomnographic insights.J Clin Sleep Med 16(5):817–820, 2020.doi: 10.5664/jcsm.8328

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Thoracic Society: What is Central Sleep Apnea in Adults?: Two page central sleep apnea summary for patients

  2. American Academy of Sleep Medicine: Detailed patient information explaining the importance of healthy sleep and treatment options for sleep disorders

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