リンパ浮腫

執筆者:James D. Douketis, MD, McMaster University
レビュー/改訂 2022年 6月
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リンパ浮腫は,リンパ管形成不全(原発性)またはリンパ管の閉塞もしくは破綻(続発性)により生じる四肢の浮腫である。症状と徴候は,単一または複数の四肢に生じる肥厚した線維性の非圧痕性浮腫である。診断は身体診察による。治療は運動,圧迫ドレッシング,マッサージ,およびときに手術から構成される。治癒はまれであるが,治療により症状の軽減,進行の遅延,合併症の予防が得られる可能性がある。本症の患者では蜂窩織炎,リンパ管炎,まれにリンパ管肉腫のリスクが高い。

リンパ系の概要も参照のこと。)

リンパ浮腫の病因

リンパ浮腫は以下の場合がある:

  • 原発性:リンパ管形成不全に起因する場合

  • 続発性:リンパ管の閉塞または破綻に起因する場合

原発性リンパ浮腫

原発性リンパ浮腫は遺伝性であり,リンパ浮腫症例全体に占める割合は5%未満である。表現型および発症時年齢は様々であるが,大半が下肢に発生する。

先天性リンパ浮腫は,2歳までに発症し,リンパ系の無形成または低形成により生じる。Milroy病は,常染色体顕性(優性)の様式で遺伝する家族性の先天性リンパ浮腫であり,VEGFR-3(血管内皮増殖因子受容体3)遺伝子の変異に起因し,ときに胆汁うっ滞性黄疸や,腸リンパ管拡張症によるタンパク漏出性胃腸症に起因する浮腫または下痢を伴う。

早発性リンパ浮腫(lymphedema praecox)は,2~35歳で発症し,典型的には初経時または妊娠中の女性に現れる。

Meige病は,常染色体顕性(優性)の様式で遺伝する家族性の早発性リンパ浮腫であり,転写因子FOXC2の変異を原因とし,過剰な睫毛(睫毛重生),口蓋裂,ならびに上下肢,ときに顔面の浮腫を引き起こす。

晩発性リンパ浮腫は,35歳以降で発症する。家族性のものと散発性ものとがあり,ともに遺伝学的基盤は不明である。臨床所見は早発性リンパ浮腫のものと類似するが,それほど重度ではない。

そのほかにリンパ浮腫が著明となる遺伝性症候群としては以下のものがある:

  • ターナー症候群

  • 黄色爪症候群(胸水および黄色爪を特徴とする)

  • Hennekam症候群(腸管およびその他の部位のリンパ管拡張症,顔面形成異常,ならびに知的障害がみられる,まれな先天性症候群)

続発性リンパ浮腫

続発性リンパ浮腫は全症例の約95%以上を占める。

最も一般的な原因は以下のものである:

  • 手術(特にリンパ節郭清術[乳癌の治療でよく行われる])

  • 放射線療法(特に腋窩または鼠径部)

  • 外傷

  • 腫瘍によるリンパ管閉塞

  • リンパ系フィラリア症(一部の熱帯および亜熱帯諸国でみられる)

慢性静脈不全症の患者でも,リンパ液の間質組織への漏出によって軽度のリンパ浮腫が起こることがある。

リンパ浮腫の症状と徴候

リンパ浮腫の症状としては,疼くような不快感や重感,緊満感などがある。

主要な徴候は軟部組織の浮腫であり,これは次のように3段階に分類される:

  • 1期では,浮腫は圧痕性で,患部はしばしば朝までに正常に戻る。

  • 2期では,浮腫は非圧痕性で,慢性の軟部組織炎症が初期の線維化を起こす。

  • 3期では,主として軟部組織の線維化のため,浮腫が肥厚して不可逆性となる。

ほとんどの場合,腫脹は一側性で,暖かい天候のときや月経前,長時間にわたり患肢を下垂した後などに増悪することがある。四肢のいずれかの部分(近位または遠位の孤発性)または全体が侵される可能性があり,腫脹が関節周囲に起きた場合は可動域を制限することもある。身体障害と精神的苦痛が重大となることがあり,特に内科的または外科的治療によってリンパ浮腫が発生した場合にその可能性が高い。

皮膚の変化がよくみられ,過角化,色素沈着,疣贅,乳頭腫,真菌感染症などがある。

まれに,患肢が極度に腫大し,過角化が重度となり,象の皮膚に似た様相を呈する(象皮病)。このような臨床像は,他のどの原因よりフィラリア症によるリンパ浮腫でよくみられる。

合併症

リンパ管炎が発生することがあり,真菌感染の結果できた足趾の間の皮膚のひび割れや手の切創から細菌が侵入した場合に最もよくみられる。リンパ管炎は,ほぼ全例がレンサ球菌によるものであり,丹毒を引き起こすが,ときにブドウ球菌が起因菌のこともある。患肢は発赤し,熱感を帯びるほか,侵入口から赤い線条が近位に伸びたり,リンパ節腫脹が生じたりすることもある。頻度は低いが,皮膚が破綻して,局所の感染や蜂窩織炎につながることがある。

まれに,長期間持続したリンパ浮腫がリンパ管肉腫に変化することがあり(Stewart-Treves症候群),通常は乳房切除術後の患者やフィラリア症患者でみられる。

リンパ浮腫の診断

  • 臨床診断

  • 原因が明らかでない場合はCTまたはMRI

原発性リンパ浮腫は通常,全身にわたる特徴的な軟部組織浮腫と病歴聴取および身体診察で得られるその他の情報から明白である。

続発性リンパ浮腫の診断は通常,身体診察で明らかである。続発性リンパ浮腫が疑われる場合は,診断および原因が明らかでない限り,追加検査の適応となる。CTおよびMRIではリンパ管閉塞部位を同定でき,放射性核種によるリンパ管シンチグラフィーではリンパ管形成不全やリンパ流の遅滞を同定できる。

進行をモニタリングする方法として,患肢の外周径の測定,患肢を水に沈めた際のあふれ出た水量の計測,および皮膚または軟部組織の圧力測定(圧迫に対する抵抗を測定する)があるが,これらの検査法はいずれも妥当性が確認されていない。

リンパ系フィラリア症の検査は,感染するミクロフィラリアが存在する熱帯および亜熱帯地域で行うべきである。

リンパ浮腫が予想(例,リンパ節郭清の程度に基づく)よりはるかに大きい場合や,乳癌治療を受けた女性で一定期間が経過してから発生した場合には,がんの再発を考慮すべきである。

リンパ浮腫の予後

リンパ浮腫が発生すると,治癒はまれである。綿密な治療を行い,予防となりうる措置を講じることにより,症状を軽減し,疾患の進行を遅延または停止させ,合併症を予防することが可能である。

リンパ浮腫の治療

  • 原発性リンパ浮腫には,ときに軟部組織の外科的減量および再建

  • リンパ液の移動(例,挙上および圧迫,マッサージ,弾性包帯,間欠的空気圧迫法による)

原発性リンパ浮腫の治療としては,軟部組織の外科的減量(皮下脂肪および線維組織の除去)や,生活の質が著しく低下している場合は再建を行うこともある。

続発性リンパ浮腫の治療では,原因の管理を行う。リンパ浮腫そのものに対しては,浮腫液を移動させるいくつかの介入(複合的理学療法)が利用できる。具体的には以下のものがある:

  • 用手的リンパドレナージ(患肢を挙上して心臓に向かって「搾る」ように圧迫する)

  • 弾性包帯または弾性スリーブの段階的使用

  • 四肢の運動

  • 四肢のマッサージ(間欠的空気圧迫法を含む)

軟部組織の外科的減量,リンパ管の再吻合,および排液路の形成がときに試みられるが,厳格な研究は行われていない。

予防法としては,暑さの回避,積極的な運動,患肢の周囲を締めつける衣類(血圧カフを含む)の着用などがある。皮膚および爪のケアに細心の注意が必要であり,患肢におけるワクチン接種,静脈切開,静脈カテーテル留置は避けるべきである。

パール&ピットフォール

  • リンパ浮腫のある四肢へのワクチン接種,静脈切開,および静脈カテーテルの留置は避ける。

蜂窩織炎とリンパ管炎は,グラム陽性菌に対して効果的なβ-ラクタマーゼ抵抗性抗菌薬(例,ジクロキサシリン)により治療する。

要点

  • 続発性リンパ浮腫(リンパ管の閉塞または破綻に起因する)は,原発性リンパ浮腫(リンパ管形成不全に起因する)よりはるかに高い頻度でみられる。

  • 象皮病(リンパ浮腫が起きた四肢の皮膚が極度に過角化する病態)は,リンパ浮腫の重度の臨床像であり,通常はリンパ系フィラリア症を原因とする。

  • 治癒はまれであるが,治療により症状を軽減し,疾患の進行を遅延または停止させ,合併症を予防することが可能である。

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