感染性心内膜炎

執筆者:Guy P. Armstrong, MD, Waitemata District Health Board and Waitemata Cardiology, Auckland
レビュー/改訂 2022年 7月
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感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療は長期の抗菌薬療法と,ときに手術である。

心内膜炎という用語は通常,心内膜の感染症(すなわち,感染性心内膜炎)を指して用いられる。しかしながら,この用語には非感染性心内膜炎も含まれ,この病態では,心臓弁とそれに隣接する心内膜に無菌の血小板およびフィブリン血栓が形成される。非感染性心内膜炎は,ときに感染性心内膜炎の発生につながる。どちらの場合も塞栓症や心機能低下を来す可能性がある。

感染性心内膜炎の診断は通常,単一の決定的な検査結果ではなく,一連の臨床所見に基づいて下される。

感染性心内膜炎はあらゆる年齢で起こりうる。男性の方が女性の約2倍多く発症する。感染の発生率と死亡率は年齢とともに上昇する。違法静注薬物を使用している患者,易感染性患者,および人工心臓弁やその他の心臓内デバイスを使用している患者は最もリスクが高い。血管内にカテーテルを留置している患者もリスクが高い。

感染性心内膜炎の病因

正常な心臓は感染に対して比較的高い抵抗力を有する。細菌や真菌は心内膜表面に容易に付着できず,また,絶えず続く血流が微生物の心内膜組織への定着を阻止する上で役立っている。このため,心内膜炎の発生には典型的に次の2つの因子が必要になる:

  • 素因となる心内膜の異常

  • 血流中への微生物の存在(菌血症)

まれに,重度の菌血症や特に毒性の強い微生物(例,黄色ブドウ球菌[Staphylococcus aureus])により,正常弁に心内膜炎が生じることもある。

心内膜側の因子

心内膜炎は通常,心臓弁に生じる。主な素因は,先天性心疾患リウマチ性弁膜症大動脈二尖弁,大動脈弁石灰化,僧帽弁逸脱肥大型心筋症,および心内膜炎の既往である。人工弁およびその他の心臓内デバイスは特にリスクが高い。ときに,壁在血栓,心室中隔欠損,または動脈管開存がある部位で感染が起きることもある。感染巣となるのは通常,損傷した内皮細胞から組織因子が放出される際に形成されるフィブリンと血小板から成る無菌の疣贅である。

感染性心内膜炎の大半は左心系(例,僧帽弁または大動脈弁)に生じる。右心系(三尖弁または肺動脈弁)での発生は全症例の約10~20%である。違法静注薬物を使用している患者では,右心系心内膜炎の発生率が非常に高い(約30~70%)。

微生物

心内膜に感染する微生物は,遠隔の感染部位(例,皮膚膿瘍,炎症または感染を起こした歯肉,尿路感染症)に由来する場合もあるが,中心静脈カテーテルや薬剤の注射部位など侵入門戸が明らかな場合もある。体内に留置される人工材料(例,脳室または腹腔シャント,人工器具)は,ほぼ全てが細菌定着のリスクを有するため,菌血症ひいては心内膜炎の感染源となる。心内膜炎は,典型的には歯科,内科,外科で施行される侵襲的な処置の際に発生する無症候性の菌血症によっても生じる可能性がある。また歯肉炎患者においては,歯磨きや咀嚼によって菌血症(通常は緑色レンサ球菌による)が生じることもある。

起因菌は感染部位,菌血症の感染源,および宿主の危険因子(例,違法静注薬物の使用)により異なるが,全体としては80~90%の症例がレンサ球菌または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)によるものである。それ以外の起因菌は,腸球菌,グラム陰性桿菌,HACEK群Haemophilus属,Actinobacillus actinomycetemcomitansCardiobacterium hominisEikenella corrodensKingella kingae),および真菌が大半を占めている。しかしながら,ブドウ球菌および腸球菌による心内膜炎の発生率は上昇しており,レンサ球菌による心内膜炎は減少している。

本疾患は以下の3段階で進行する:

  • 菌血症:微生物が血中に存在する

  • 付着:異常な内皮や損傷した内皮に表面付着を介して微生物が付着する

  • 定着:微生物が増殖して炎症を起こし,成熟した疣贅が形成される。

原因微生物の多くは,宿主の免疫防御から免れ,抗菌薬の浸透を防ぐ多糖体のバイオフィルムを産生する。

感染性心内膜炎の病態生理

心内膜炎による影響は局所と全身に生じる。

局所的な影響

感染性心内膜炎の局所的な影響には以下のものがある:

  • 組織破壊を伴う心筋膿瘍の形成や,ときに刺激伝導系の異常(通常は中隔下部の膿瘍を伴う)

  • 突然発生する高度の弁逆流と,それに起因する心不全や死亡(通常は僧帽弁または大動脈弁病変による)

  • 隣接部位への感染伝播による大動脈炎

人工弁感染は,弁輪膿瘍,閉塞性疣贅,心筋膿瘍,感染性動脈瘤を引き起こす可能性が特に高く,これらは弁の閉塞,離開,および伝導障害により顕在化する。

全身的な影響

心内膜炎の全身的な影響は主に以下の機序による:

  • 心臓弁に由来する感染物質が塞栓となる

  • 免疫を介した現象(主に慢性感染症)

右心系の病変は,典型的には敗血症性肺塞栓を引き起こし,それにより肺梗塞,肺炎,または膿胸を来すことがある。左心系の病変は,あらゆる組織で塞栓を引き起こすが,特に腎臓,脾臓,中枢神経系が多い。感染性動脈瘤はいずれの主要動脈にも形成されうる。皮膚および網膜の塞栓がよくみられる。免疫複合体の沈着によって,びまん性糸球体腎炎が発生することもある。

感染性心内膜炎の分類

感染性心内膜炎は,緩徐進行性かつ亜急性の経過をたどることもあれば,より急性に劇症の経過をたどることもあり,その場合は急速に代償不全を来す可能性が高い。

亜急性細菌性心内膜炎(SBE)は,侵襲性であるが,通常は潜行性に発生し,緩徐に(数週間から数カ月かけて)進行する。しばしば,感染源や侵入門戸が明らかでない。SBEは,最も一般的にはレンサ球菌(特に緑色レンサ球菌,微好気性レンサ球菌,嫌気性レンサ球菌,非腸球菌D群レンサ球菌,および腸球菌)によって引き起こされる一方,やや頻度は低くなるが,黄色ブドウ球菌(S. aureus),表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis),Gemella morbillorumAbiotrophia defectiva(かつてのStreptococcus defectivus),Granulicatella属細菌,偏好性Haemophilus属細菌が起因菌となる場合もある。SBEは,歯周,消化管,または泌尿生殖器感染により無症候性の菌血症が生じた際に,当初から異常のあった弁でしばしば発生する。

急性細菌性心内膜炎(ABE)は通常,突然発生して急速に(数日間で)進行する。感染源や侵入門戸は明らかであることが多い。細菌の毒性が強いか,細菌への曝露が大きい場合には,正常弁にABEが生じることがある。ABEは通常,黄色ブドウ球菌(S. aureus),A群溶血性レンサ球菌,肺炎球菌,または淋菌によって引き起こされる。

人工弁心内膜炎(PVE)は,弁置換術の施行後1年以内に2~3%の患者で発生し,その後は年0.5%の率で生じる。僧帽弁置換術後よりも大動脈弁置換術後で頻度が高く,機械弁と生体弁では発生率は同等である。早期に発症する感染症(術後2カ月未満)は主に,抗菌薬耐性の細菌(例,表皮ブドウ球菌[S. epidermidis],類ジフテリア菌,大腸菌群)または真菌(例,Candida属,Aspergillus属)による術中汚染によって引き起こされる。遅れて発症する感染症は主に,病原性の低い微生物による術中汚染か,一過性かつ無症候性の菌血症によって引き起こされ,よくみられる起因菌はレンサ球菌,表皮ブドウ球菌(S. epidermidis),類ジフテリア菌,偏好性グラム陰性桿菌,Haemophilus属,Actinobacillus actinomycetemcomitans,およびCardiobacterium hominisである。

感染性心内膜炎の症状と徴候

症状および徴候は分類によって異なるが,非特異的である。

亜急性細菌性心内膜炎

亜急性細菌性心内膜炎の初期症状は漠然としており,微熱(39℃未満),盗汗,易疲労性,倦怠感,および体重減少がみられる。悪寒および関節痛がみられることもある。弁閉鎖不全の症状および徴候が最初の手がかりとなることもある。当初から発熱または心雑音を呈する患者は15%以下であるが,どちらも最終的にはほぼ全例でみられるようになる。身体診察では正常となるか,蒼白,発熱,既存の心雑音の変化または新たな逆流性雑音の出現,および頻脈を認めることがある。

網膜動脈の塞栓により,中心に小さな白い領域のある円形または卵円形の出血病変(Roth斑)が網膜に生じることがある。皮膚の症候としては,点状出血(体幹上部,結膜,粘膜,および四肢末端),指尖部またはその周囲にみられる疼痛と紅斑を伴う皮下結節(オスラー結節),手掌または足底の圧痛を伴わない出血斑または丘疹(Janeway病変),爪下線状出血などがある。約35%の患者では中枢神経系への影響がみられ,具体的には,一過性脳虚血発作脳卒中,中毒性脳症(感染性の微小塞栓による)のほか,中枢神経系の感染性動脈瘤が破裂した場合には脳膿瘍やくも膜下出血などが生じる。腎塞栓が生じると,側腹部痛やまれに肉眼的血尿がみられる。脾塞栓では左上腹部痛が生じることがある。感染が遷延すれば,脾腫や手足のばち指がみられることがある。

感染性心内膜炎の皮膚症状
感染性心内膜炎(オスラー結節)
感染性心内膜炎(オスラー結節)

この感染性心内膜炎患者には複数のオスラー結節(圧痛および紅斑を伴う足趾の結節)が認められる。

© Springer Science+Business Media

感染性心内膜炎(Janeway病変)
感染性心内膜炎(Janeway病変)

この感染性心内膜炎の患者には手掌に複数のJaneway病変(圧痛のない紅色丘疹)が認められる。オスラー結節(圧痛および紅斑を伴う手指の結節)もいくつか認められる。

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感染性心内膜炎(オスラー結節とJaneway病変)
感染性心内膜炎(オスラー結節とJaneway病変)

左側の画像には,母指に生じたオスラー結節(圧痛および紅斑を伴う結節)が写っている。右側の画像には,Janeway病変(圧痛を伴わない手掌の紅色丘疹)が写っている。

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爪下線状出血
爪下線状出血

爪下線状出血とは,手指の爪甲下に生じる微細な線状の出血である。

Image courtesy of CDC/Dr. Thomas F.Sellers via the Centers for Disease Control and Prevention Public Health Image Library.

感染性心内膜炎における結膜出血
感染性心内膜炎(結膜の点状出血)
感染性心内膜炎(結膜の点状出血)

この写真には,感染性心内膜炎患者にみられた結膜の点状出血が写っている。

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感染性心内膜炎(結膜出血)
感染性心内膜炎(結膜出血)

この写真には,感染性心内膜炎患者にみられた結膜出血が写っている。

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感染性心内膜炎(Roth斑)
感染性心内膜炎(Roth斑)

左側の画像には,複数のRoth斑ないし網膜出血が写っている。右側の画像は,中心部が退色したRoth斑の拡大像である。

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急性細菌性心内膜炎と人工弁心内膜炎

急性細菌性心内膜炎および人工弁心内膜炎の症状および徴候は,亜急性細菌性心内膜炎に類似するが,経過はより急速である。病初期の発熱がほぼ必発であり,患者は重症感を呈し,ときに敗血症性ショックを来す。心雑音は初期には約50~80%の患者で,最終的には90%を超える患者で聴取される。まれに,化膿性髄膜炎が発生する。

右心系心内膜炎

敗血症性肺塞栓によって咳嗽および胸膜性胸痛が生じることがあり,ときに喀血もみられる。三尖弁逆流雑音が典型的である。

感染性心内膜炎の診断

  • 血液培養

  • 心エコー検査およびときに他の画像検査

  • 臨床基準

症状および徴候が非特異的で,変化に富み,潜行性に生じることがあるため,強く疑わなければ診断できない。発熱があり感染源が不明な患者では,心内膜炎を疑うべきである(特に心雑音がある場合)。心臓弁膜症の既往がある患者,特定の侵襲的処置を最近受けた患者,および違法静注薬物を使用している患者では,血液培養が陽性となった場合,心内膜炎を極めて強く疑うべきである。菌血症が確認された患者では,徹底的な診察を繰り返して,新たな弁の雑音や塞栓の徴候がないか確認すべきである。

血液培養の陽性以外には,特異的な臨床検査所見はない。感染が成立すると,正球性正色素性貧血,白血球数増加,赤血球沈降速度の上昇,免疫グロブリン高値,末梢血中の免疫複合体およびリウマトイド因子の出現などがしばしばみられるが,いずれの所見も診断上役に立たない。尿検査では,しばしば顕微鏡的血尿を認め,ときに赤血球円柱,膿尿,または細菌尿がみられる。

微生物の同定

  • 治療方針を決定する上では,起因菌とその抗菌薬感受性の同定が極めて重要となる。

心内膜炎が疑われる場合は,理想的には6時間以上の間隔を空けて培養用の血液検体を3つ(それぞれ20mL)採取すべきである(臨床像から急性細菌性心内膜炎が示唆される場合は,最初の1~2時間以内に2回の血液培養を行う)。それらの血液培養では毎回,異なる部位で静脈穿刺を行って採血すべきである(すなわち,既存の血管カテーテルからの採取は不可)。大半の患者が持続的な菌血症を呈するため,血液培養のタイミングを悪寒または発熱の発生中に限定する必要はない。心内膜炎がみられ,それまで抗菌薬療法を受けていなかった患者では,菌血症が持続的であるため,通常は3回の血液培養の全てが陽性となる;99%の患者が少なくとも1回の血液培養で陽性となる。後天性か先天性かを問わず弁膜病変または短絡を来す病変が存在する患者では,心内膜炎で培養陰性となる事態を回避するため,時期尚早な抗菌薬の経験的投与は控えるべきである。それまでに抗菌薬療法を受けていた患者でも,やはり血液培養は行うべきであるが,結果が陰性となる可能性がある。

特定の細菌では血液培養に3~4週間を要することが多いが,特許技術を用いた一部の自動培養モニタリングシステムでは,1週間以内に培養陽性を判定することが可能である。培養で陽性とならないことがある微生物(例,Aspergillus)もある。血清診断が必要な微生物(例,Coxiella burnetiiBartonella属,Chlamydia psittaciBrucella属)や,特殊な培地が必要な微生物(例,Legionella pneumophila),PCR法が必要な微生物(例,Tropheryma whippelii)もある。血液培養での陰性は,それまでの抗菌薬療法による増殖の抑制,標準的な培地では増殖しない微生物の感染,他の病態(例,非感染性心内膜炎,塞栓現象を伴う心房粘液腫,血管炎)のいずれかを示唆している可能性がある。

画像検査

まず経胸壁心エコー検査(TTE)を施行すべきである。その感度は50~90%で,特異度は90%を超える。経食道心エコー検査(TEE)は,TTEでは描出されないほど小さな疣贅を検出することができる。その感度は90~100%である。

以下の場合は経食道心エコー検査を施行すべきである:

  • 人工弁がある(TTEでは感度に限界がある)

  • 経胸壁心エコー検査で診断がつかない

  • 感染性心内膜炎の診断が臨床的に確立されている(穿孔,膿瘍,および瘻孔の検出ために行う)

一連のTEEにより,疣贅の増大や膿瘍の形成など,治療中に進行する合併症を診断することが可能になる。

CTは,弁周囲の膿瘍の詳細な評価や感染性動脈瘤の検出を目的として必要に応じて施行される。PETを用いれば,特異度を損なうことなく,改訂Duke基準の感度を向上させることができる。金属による陰影や術後変化のために画像診断を困難にする植込み型デバイスに関連した感染に対して特に有用である(1)。PETは敗血症性塞栓など心臓外の感染も検出でき,人工弁や心臓内デバイスに起因する心内膜炎を診断する手段として注目を集めている。現在では,CTおよびPETでの異常所見が欧州のガイドラインに大基準として採用されている(2)。

最大60%の患者で無症候性の病変がみられることから,脳画像検査をルーチンに施行する方針が提唱されている。予後予測や管理における有用性はまだ確立されていない。

診断基準

感染性心内膜炎の診断は,心臓手術,塞栓除去術,または剖検の際に採取された心内膜組織の疣贅中で微生物が組織学的に確認された場合(あるいは疣贅の培養中に認められた場合)に確定となる。通常は検査に疣贅を用いることができないため,確定診断のための様々な臨床診断基準がある。例えば,改訂Duke基準(3)(感度および特異度 > 90%―感染性心内膜炎の診断要件および感染性心内膜炎の臨床診断のための改訂Duke診断基準の表を参照)やEuropean Society of Cardiology(ESC)の2015年版改訂基準などがある(2)。

ESCの基準は,改訂Duke基準に似ているが,大基準として以下のような幅広い画像所見が含まれる:

  • 心エコー検査で同定される疣贅,膿瘍,仮性動脈瘤,心内瘻孔,弁穿孔もしくは動脈瘤,または人工弁の新たな部分的離開

  • PET/CTまたは放射性標識白血球を用いたSPECT(単一光子放出型コンピュータ断層撮影)/CTにより検出される人工弁(留置から3カ月以上経過しているもの)周囲の異常な活動

  • 心臓CTで特定される弁周囲病変

ESCは,画像検査のみで無症候性の血管系現象を検出すれば十分であると規定している点でも修正Duke診断基準の小基準と異なる。

表&コラム
表&コラム
表&コラム
表&コラム

診断に関する参考文献

  1. 1.Dilsizian V, Budde RPJ, Chen W, et al: Best practices for imaging cardiac device-related infections and endocarditis: A JACC: Cardiovascular Imaging Expert Panel Statement.JACC Cardiovasc Imaging 15(5):891–911, 2022. doi: 10.1016/j.jcmg.2021.09.029

  2. 2.Habib G, Lancellotti P, Antunes MJ, et al: 2015 ESC Guidelines for the management of infective endocarditis: The Task Force for the Management of Infective Endocarditis of the European Society of Cardiology (ESC).Endorsed by: European Association for Cardio-Thoracic Surgery (EACTS), the European Association of Nuclear Medicine (EANM).Eur Heart J 36:3075–3123, 2015.

  3. 3.Otto CM, Nishimura RA, Bonow RO, et al: 2020 ACC/AHA Guideline for the management of patients with valvular heart disease: A report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines.J Am Coll Cardiol 77(4):e25–e197, 2021. doi: 10.1016/j.jacc.2020.11.018

感染性心内膜炎の予後

全体として,心内膜炎の院内死亡率は15~20%であり,1年死亡率は40%近くに上る(1)。無治療の場合,感染性心内膜炎は常に死に至る。たとえ治療を行っても,高齢患者および以下のある患者は,死亡する可能性が高く,一般に予後不良である:

  • 耐性菌への感染

  • 基礎疾患

  • 治療の大幅な遅れ

  • 大動脈弁または複数の弁の病変

  • 大きな疣贅

  • 複数の微生物による菌血症

  • 人工弁への感染

  • 感染性動脈瘤

  • 弁輪の膿瘍

  • 大きな塞栓イベント

糖尿病,急性腎障害,黄色ブドウ球菌(S. aureus)感染症,15mmを超える疣贅,または持続感染の徴候がみられる患者では,敗血症性ショックの可能性が高くなる。緑色レンサ球菌を起因菌とする心内膜炎における重大な合併症がない場合の死亡率は10%未満であるが,人工弁手術後に発生したAspergillus属真菌による心内膜炎の死亡率はほぼ100%である。

右心系心内膜炎は左心系心内膜炎より予後良好であるが,その理由は,三尖弁の機能障害は良好に耐容されること,全身性の塞栓が生じないこと,および黄色ブドウ球菌(S. aureus)を起因菌とする右心系心内膜炎は抗菌薬療法に対する反応が良好であることにある。

予後に関する参考文献

  1. 1.Otto CM, Nishimura RA, Bonow RO, et al: 2020 ACC/AHA Guideline for the management of patients with valvular heart disease: A report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines.J Am Coll Cardiol 77(4):e25–e197, 2021. doi: 10.1016/j.jacc.2020.11.018

感染性心内膜炎の治療

  • 抗菌薬の静注(起因菌とその感受性に基づく)

  • ときに弁の感染組織の切除,弁修復術,または弁置換術

  • 歯科的評価および治療(菌血症の口腔内感染源を最小限に抑えるため)

  • 菌血症の潜在的な原因(例,体内のカテーテル,デバイス)の除去

  • 脳塞栓症の患者では抗凝固療法は控える

治療は長期間の抗菌薬療法である(1)。機械的合併症または耐性菌には,手術が必要になることがある。抗菌薬は一般的に静注で投与される。抗菌薬は2~8週間投与する必要があるため,しばしば在宅静注療法が行われる。

菌血症の感染源が明らかであれば対応が必要であり,壊死組織は切除し,膿瘍は排膿し,異物や感染した器具は抜去する。感染性心内膜炎の患者は歯科医師の評価を受け,菌血症とそれに続発する心内膜炎の原因となりうる口腔疾患があれば,その治療を受けるべきある。既存の静脈カテーテル(特に中心静脈カテーテル)は,交換すべきである。新たに中心静脈カテーテルを留置した患者で心内膜炎が持続する場合は,そのカテーテルも抜去すべきである。カテーテルやその他の器具に付着してバイオフィルムに覆われた微生物は,抗菌薬療法に反応せずに治療の失敗や再発につながることがある。間欠的な急速静注ではなく持続静注を採用する場合は,点滴を長時間中断してはならない。

抗菌薬レジメン

使用する薬剤とその用量は,起因菌とその抗菌薬感受性に依存する。(典型的なレジメンについては,心内膜炎に対する抗菌薬レジメンの表を参照のこと。)

大半の患者は安定しているため培養の結果を待つことができるが,重篤な患者では病原体の同定前に経験的抗菌薬療法が必要になることがある。十分な血液培養(一般には最低でも1時間のうちに異なる部位から2つまたは3つの検体を採取する)が得られるまで,抗菌薬の投与は控えるべきである。抗菌薬は,可能性のある全ての病原体(一般的に感受性および耐性ブドウ球菌,レンサ球菌,腸球菌を含む)をカバーする広域スペクトルのものを使用すべきである。経験的抗菌薬療法のレジメンは,感染症および抗菌薬耐性の地域パターンを反映させるべきであるが,広域抗菌薬の典型的な使用例は以下の通りである:

  • 自己弁:バンコマイシン15~20mg/kg,静注,8~12時間毎(1回の投与で2gを超えないようにする)

  • 人工弁:バンコマイシン15~20mg/kg,静注,8~12時間毎(1回2gまで)+ ゲンタマイシン1mg/kg,静注,8時間毎 + セフェピム2g,静注,8時間毎またはイミペネム1g,静注,6~8時間毎(1日の最大用量は4g)

経験的薬物療法は培養の結果に基づいてできるだけ早く調整すべきである。

表&コラム
表&コラム

違法静注薬物を使用している患者は,しばしば治療方針を遵守せず,静脈ラインを不適切に使用し,予定より早く退院してしまう傾向がある。そのような患者に対しては,短期の静注療法か(次善策として)経口療法を選択してもよい。メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(S. aureus)を起因菌とする右心系心内膜炎には,ナフシリン(nafcillin)(2g,静注,4時間毎)とゲンタマイシン(1mg/kg,静注,8時間毎)の2週間にわたる併用が効果的であり,同様にシプロフロキサシン(750mg,経口,1日2回)とリファンピシン(300mg,経口,1日2回)の併用による4週間の経口レジメンも効果的である。左心系心内膜炎は2週間コースの治療には反応しない。

左心系心内膜炎に対し,現在のガイドラインでは6週間にわたる静注での抗菌薬療法が推奨されている。ただし,合併症のない左心系心内膜炎を対象とした最近の多施設共同ランダム化非盲検試験により,経口抗菌薬への(少なくとも10日間静脈内投与した後の)切替えは静脈内投与の継続に劣らないことが示されている。さらに,経口投与に切り替えた患者では入院期間が短縮した。このアプローチは,長期入院による静脈内投与に伴う精神的ストレスや一部のリスクを軽減する可能性がある(2)。

心臓弁手術

感染性心内膜炎の治療には,手術(デブリドマン,弁修復,または弁置換)が必要になることがある(3)。手術は一般に以下の患者で適応となる:

  • 心不全の患者(特に人工弁,大動脈弁,または自己僧帽弁に心内膜炎がある患者および肺水腫または心原性ショックがある患者)

  • コントロール不良の感染症患者(感染症の持続,真菌または耐性菌による感染症,繰り返す人工弁心内膜炎,または心ブロック,膿瘍,動脈瘤,瘻孔,もしくは拡大する疣贅を伴う心内膜炎のある患者)

  • 塞栓のリスクがある患者(特に人工弁や自己弁でも大動脈弁または僧帽弁に心内膜炎がある患者,および大きな[米国では10mmを超える場合と定義される]疣贅または繰り返す塞栓症のある患者)これらの患者では早期の手術により塞栓イベントのリスクが低下する。

手術のタイミングには,経験に基づく臨床的判断が要求される。是正可能な病変に起因する心不全が悪化している場合(特に起因菌が黄色ブドウ球菌[S. aureus],グラム陰性桿菌,または真菌の場合)には,抗菌薬療法のわずか24~72時間後に手術が必要になることがある。

植込み型の心臓電子デバイスが関連する心内膜炎では,ペースメーカーまたは除細動器を全てのリードおよびジェネレーターを含めて完全に抜去する必要がある。

右心系心内膜炎は通常,内科的に管理される。手術が必要な場合(心不全または治療に反応しないため),静注薬を継続することによる人工弁への将来的な感染を避けるため,置換よりも弁修復が望ましい。

頭蓋内出血または重度の虚血性脳卒中があれば,手術は通常,その1カ月後に延期される。

抗凝固療法

抗凝固薬を服用している患者は,出血性脳卒中のリスクおよび緊急の侵襲的処置による出血のリスクが高い。抗凝固薬は出血性梗塞への変化のリスクを増大させるため,脳塞栓のある患者では抗凝固薬の投与を控えるべきである。それ以外の患者では,出血性脳卒中と血栓塞栓症の相対的リスクに基づいて抗凝固療法を行わない決定を下すべきである(4)。

治療に対する反応

ペニシリン感性レンサ球菌による心内膜炎患者では,治療を開始すると改善がみられ,通常は3~7日以内に発熱が軽快する。持続感染以外の理由(例,薬物アレルギー,静脈炎,塞栓による梗塞)で発熱が持続することがある。ブドウ球菌による心内膜炎の患者は,反応が緩徐になる傾向がある。一連の心エコー検査により疣贅の縮小を追跡することができる。治療終了時には心エコー検査を行い,弁の外観(無菌の疣贅など)および機能不全に対して新しいベースラインを確立すべきである。

再発は通常4週間以内に起こる。抗菌薬での再治療が効果的な場合もあるが,手術が必要になる場合もある。人工弁のない患者で6週間以降に心内膜炎が再発した場合は,通常は再発ではなく,新たな感染によるものである。抗菌薬療法が成功した場合にも,1年後までは無菌性塞栓や弁破裂が発生する可能性がある。再発リスクが高いため,生涯にわたり歯科および皮膚の衛生管理が推奨される。何らかの理由で抗菌薬療法を必要とする患者には,抗菌薬を開始する前に3セット以上の血液培養を行うべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Baddour LM, Wilson WR, Bayer AS, et al: Infective endocarditis in adults: Diagnosis, antimicrobial therapy, and management of complications: A scientific statement for healthcare professionals from the American Heart Association.Circulation 132:1435–1486, 2015.

  2. 2.Iversen K, Ihlemann N, Gill SU, et al: Partial oral versus intravenous antibiotic treatment of endocarditis.N Engl J Med 380:415–424, 2019.DOI: 10.1056/NEJMoa1808312

  3. 3.Cahill TJ, Baddour LM, Habib G, et al: Challenges in infective endocarditis.J Am Coll Cardiol 69(3):325–344, 2017.

  4. 4.Otto CM, Nishimura RA, Bonow RO, et al: 2020 ACC/AHA Guideline for the management of patients with valvular heart disease: A report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines.J Am Coll Cardiol 77(4):e25–e197, 2021. doi: 10.1016/j.jacc.2020.11.018

感染性心内膜炎の予防

心臓弁膜症または先天性心疾患に対する修復手術を施行する前に,予防的な歯科診察および歯科治療が推奨される。

医原性菌血症とそれに続発する心内膜炎の発生率上昇を抑えることを目的とした医療関連の菌血症を減らすための対策も推奨される。

デバイス植込み時の心内膜炎予防は,腸球菌による心内膜炎の増加に対処するべく変化している。予防にはセファロスポリン系薬剤の代わりにアモキシシリン/クラブラン酸がしばしば使用される。

歯科および皮膚の衛生は一般集団に推奨されるが,中程度のリスク(先天性弁膜症の患者)および高リスクの患者には特に推奨される。

高リスク患者

American Heart Association(AHA)は,感染性心内膜炎の結果として望ましくない転帰をたどるリスクが高い患者に対して,抗菌薬の予防投与を推奨している(ACC/AHA Guidelinesを参照)。そのような患者としては,以下を有する患者などが挙げられる:

  • 人工心臓弁(カテーテルを介した弁移植を含む)

  • 心臓弁の修復に使用される人工物(例,弁輪形成用リング,人工腱索)

  • 感染性心内膜炎の既往

  • 特定の先天性心疾患(CHD):未修復のチアノーゼ性CHD(緩和目的のシャントおよび導管を含む),人工材料または器具が使用された場合は完全に修復された術後6カ月までのCHD,修復部位またはその近傍に欠損部が残存する修復されたCHD

  • 弁膜症を有する心臓移植患者

European Society of Cardiologyの予防レジメンは参考文献1に記載されている。

抗菌薬の予防投与を必要とする処置

高リスク患者で予防が必要となる処置の大半は,歯肉または歯根尖周囲を操作するか,口腔粘膜を穿孔する口腔外科・歯科の処置である。その他の処置として,粘膜の切開を伴う気道の処置,一部の高リスク患者(人工弁または弁修復に使用される人工物を有する患者,姑息的治療を受けている未修復のチアノーゼ性先天性心疾患の患者)における経腟分娩,および感染が確立された領域に及ぶ消化管,泌尿生殖器,または筋骨格系処置などがある(抗菌薬による心内膜炎予防を必要とする処置を参照)。心内膜炎の予防に関するガイドラインは地域によって異なる。

表&コラム
表&コラム

予防的抗菌薬レジメン

大半の患者および処置では,処置直前の単回投与が効果的である。口腔外科・歯科処置と呼吸器に対する処置には,緑色レンサ球菌群に対して効果的な薬剤を使用する(口腔外科・歯科処置または気道に対する処置の施行時に推奨される心内膜炎予防の表を参照)。経腟分娩の場合は,アンピシリン2gの静注または筋注 + ゲンタマイシン1.5mg/kg(最大120mg)の静注を分娩前30分以内に投与し,その6時間後にアンピシリン1gを静注または筋注(またはアモキシシリン1g[三水和物]を経口投与)。

表&コラム

感染組織を含む領域に対する消化管,泌尿生殖器,または筋骨格系の処置では,既知の微生物とその感受性に基づいて抗菌薬を選択すべきである。感染はあるが起因菌はまだ同定されていない場合,消化管および泌尿生殖器の処置に対する予防には,腸球菌に対して効果的な抗菌薬を選択すべきである(例,アモキシシリンまたはアンピシリン,ペニシリンアレルギーのある患者にはバンコマイシン)。皮膚および筋骨格系の処置に対する予防には,ブドウ球菌およびβ溶血性レンサ球菌に有効な抗菌薬を選択すべきである(例,セファロスポリン系薬剤,バンコマイシン,起因菌がメチシリン耐性ブドウ球菌である可能性がある場合はクリンダマイシン)。

予防に関する参考文献

  1. 1.Habib G, Lancellotti P, Antunes MJ, et al: 2015 ESC Guidelines for the management of infective endocarditis: The Task Force for the Management of Infective Endocarditis of the European Society of Cardiology (ESC) Endorsed by: European Association for Cardio-Thoracic Surgery (EACTS), the European Association of Nuclear Medicine (EANM).Eur Heart J 36(44):3075–3128, 2015.doi: 10.1093/eurheartj/ehv319

要点

  • 正常な心臓は感染に対して比較的高い抵抗力を有するため,心内膜炎は基本的に,心内膜に素因となる異常が存在する状況で発生する。

  • 素因となる心臓の異常としては,先天性心疾患,リウマチ性弁膜症,大動脈弁二尖弁,大動脈弁石灰化,僧帽弁逸脱症,肥大型心筋症,心内膜炎の既往,心臓内デバイスなどがある。

  • 局所的な心臓の影響としては,心筋膿瘍,刺激伝導系の異常,突然かつ高度の弁逆流などがある。

  • 全身的な影響としては,免疫系の現象(例,糸球体腎炎)と敗血症性塞栓があり,これらはあらゆる臓器に影響を及ぼしうるが,特に肺(右心系心内膜炎の場合),腎臓,脾臓,中枢神経系,皮膚,および網膜(左心系心内膜炎の場合)が影響を受けやすい。

  • 血液培養を行い,改訂Duke基準またはEuropean Society of Cardiologyの臨床基準を用いて診断する。

  • 治療は長期の抗菌薬投与により,機械的合併症または耐性菌には手術が必要となることもある。

  • 感染性心内膜炎による望ましくない結果のリスクが高い患者には抗菌薬の予防投与を行うが,そのような患者としては,人工心臓弁または弁修復,感染性心内膜炎の既往,または特定の先天性心疾患を有する患者や,弁膜症のある心臓移植患者などが挙げられる。

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