肺動脈弁逆流症(PR)は,肺動脈弁の閉鎖不全により,拡張期に肺動脈から右室に向かって逆流が生じる病態である。最も一般的な原因は肺高血圧症である。PRは通常,無症状である。徴候としては漸減性の拡張期雑音などがある。診断は心エコー検査による。通常,肺高血圧症の管理以外に特異的な治療は必要ない。
(心臓弁膜症の概要も参照のこと。)
肺動脈弁逆流症の最も一般的な原因で圧倒的に多いのは以下のものである:
二次性肺高血圧症
比較的まれな原因は以下のものである:
まれな原因は以下のものである:
重症肺動脈弁逆流はまれであり,肺動脈および肺動脈弁輪の拡大を伴う孤立性の先天異常の結果として起こることが最も多い。
PRは右室拡大の発生から,最終的には右室機能障害による心不全へと寄与する可能性があるが,ほとんどの場合,この合併症には肺高血圧症の方がはるかに大きく寄与している。まれに,心内膜炎から急性PRが引き起こされる際,急性右室機能障害により心不全を来すことがある。
肺動脈弁逆流症の症状と徴候
肺動脈弁逆流は通常,無症状である。少数の患者では,右室機能障害による心不全の症候がみられる。
触診で認められる徴候は,肺高血圧症と右室肥大によるものである可能性が高い。具体的には,胸骨左縁上部でのII音肺動脈弁成分(P2)の触知や,胸骨左縁中部および下部で触知される強い持続性の傍胸骨拍動などがある。
聴診
拡張早期の高調な漸減性雑音
聴診では,I音は正常である。II音は分裂している場合もあれば,単一の場合もある。分裂している場合は,P2が肺高血圧症のためにII音大動脈弁成分(A2)の直後で大きく聴取されるか,または右室一回拍出量の増大のためにP2が遅れることがある。II音が単一の場合,その理由はA2-P2の融合を伴う肺動脈弁の迅速な閉鎖や,まれに先天性の肺動脈弁欠損である。右室機能障害による心不全または右室肥大では,右室由来のIII音,IV音,またはその両方が聴取されることがあり,これらの音は,第4肋間胸骨左縁で聴取されることと,吸気時に増強することから,左室心音と鑑別できる。
肺高血圧症に起因するPRの雑音は,P2とともに始まってI音の前で終わり,胸骨右縁中部へ放散する高調の漸減性の拡張早期雑音(Graham Steell雑音)であり,座位で呼気終末時に息を止めさせたとき,膜型の聴診器により胸骨左縁上部で最もよく聴取される。
肺高血圧症を伴わないPRの雑音は,比較的短く,低調で(質がより粗い),P2の後から始まる。どちらの雑音も大動脈弁逆流の雑音に似るが,吸気(PR雑音を増強する)やバルサルバ手技の解除により鑑別できる。バルサルバ手技の解除後には,PR雑音は(右心系への即座の静脈還流により)直ちに増強するが,大動脈弁逆流雑音では増強するまでに4~5拍を要する。また,弱いPR雑音が吸気時に一層弱くなることがあるが,これはこの雑音が通常は左第2肋間で最もよく聴かれる一方,吸気により聴診器が心臓から遠くに押しやられるためである。いくつかの先天性心疾患では,高度PRの雑音がかなり短くなるが,これは肺動脈圧と右室圧が拡張期に速やかに等しくなるためである。
肺動脈弁逆流症の診断
肺動脈弁逆流症の治療
原因の治療
まれに弁置換術
治療は肺動脈弁逆流を引き起こしている病態の管理である。右室の拡大または機能障害が起きた場合,特に症状を伴っている場合は,肺動脈弁置換術が選択肢の1つとなる。
要点
肺動脈弁逆流症(PR)は通常,肺高血圧症によって引き起こされる。
認められる血行動態の変化は,通常はPR自体ではなく,その原因によって引き起こされたものである。
肺高血圧症を原因とするPRの聴診所見は,P2とともに始まってI音の前に終わる漸減性の高調な拡張早期雑音であり,胸骨右縁中部へ放散するが,座位で呼気終了時に息を止めた状態で胸骨左縁上部で最もよく聴取される。肺高血圧症を伴わないPRの雑音はより短く,低調であり,P2の後に始まる。
治療は原因に対して行い,弁置換術は通常必要ない。