動脈瘤は主要な大動脈分枝のいずれにも発生するが,腹部または胸部大動脈瘤と比較すると,その頻度ははるかに低い。症状は部位および罹患冠動脈により様々であるが,動脈瘤が隣接組織を圧迫している領域の疼痛などがみられる。診断は超音波検査またはCT血管造影により行う。治療は血管内ステントグラフト内挿術または外科手術である。
(大動脈瘤の概要,腹部大動脈瘤,および胸部大動脈瘤も参照のこと。)
大動脈分枝の動脈瘤の危険因子としては以下のものがある:
喫煙
高齢
局所感染は感染性動脈瘤の原因となる。
鎖骨下動脈瘤は,ときに頸肋症候群または胸郭出口症候群の患者に発生する。
内臓循環の動脈での動脈瘤の発生はまれである。約60%は脾動脈,20%は肝動脈,5.5%は上腸間膜動脈で発生する(1)。
脾動脈瘤の発生率は男性より女性で高い(1:4)。原因としては,中膜の線維筋性異形成,門脈圧亢進,多胎妊娠,穿通性または鈍的腹部外傷,膵炎,感染症などがある。
肝動脈瘤の発生率は女性より男性で高い(1:2)。肝動脈瘤は過去の腹部外傷,違法静注薬物の使用,動脈壁の中膜変性,動脈周囲の炎症などが原因で生じる。
腎動脈瘤は解離または破裂を起こして,急性閉塞を引き起こすことがある。
上腸間膜動脈瘤は男性と女性で等しく発生する。原因としては,線維筋性異形成,嚢胞性中膜壊死,外傷などがある。
総論の参考文献
1.Pasha SF, Gloviczki P, Stanson AW, Kamath PS.Splanchnic artery aneurysms. Mayo Clin Proc 2007;82(4):472-479.doi:10.4065/82.4.472
大動脈分枝の動脈瘤の症状と徴候
大動脈分枝の動脈瘤の多くは無症状である。症状(発生した場合)は病変が生じた部位や動脈によって異なる。
鎖骨下動脈瘤では,局所的な疼痛,拍動感,静脈血栓症,静脈性浮腫(隣接する静脈の圧迫による),遠位部の虚血症状,一過性脳虚血発作,脳卒中,嗄声(反回神経の圧迫による)または運動および感覚機能障害(腕神経叢の圧迫による)などが生じる。
脾動脈瘤では,左上腹部痛が生じることがある。肝動脈瘤では,右上腹部痛や黄疸が生じることがある。上腸間膜動脈瘤では,腹部全体に及ぶ腹痛や虚血性大腸炎が生じることがある。
発生部位に関係なく,感染性または炎症性動脈瘤は局所の疼痛と全身性感染の後遺症(例,発熱,倦怠感,体重減少)を引き起こす可能性がある。
大動脈分枝の動脈瘤の診断
超音波検査,CT,またはMRI
水平断の断層画像検査がルーチンに施行できるようになったことで,多くの動脈瘤が破裂前に診断されている。石灰化した無症状ないし潜在性の動脈瘤が,別の理由で施行されたX線またはその他の画像検査で発見されることがある。大動脈分枝の動脈瘤の検出または確定診断には,一般的に超音波検査,CT,またはMRIが用いられる。従来の血管造影は,典型的には治療もしくは末梢臓器の灌流評価にのみ用いられる。
大動脈分枝の動脈瘤の治療
開胸/開腹下の修復またはときに血管内ステントグラフト内挿術
治療は外科的切除とグラフトによる置換である。一部の患者では血管内修復術も選択肢の1つとなる。無症状の動脈瘤を修復するかどうかの決定は,破裂のリスク,動脈瘤の範囲および部位,ならびに周術期のリスクに基づいて判断する。
鎖骨下動脈瘤の手術では,修復および置換に先立って頸肋(存在する場合)を除去することがある。
内臓動脈瘤では,破裂および死亡のリスクが10%にものぼり,特に妊娠可能年齢の女性と肝動脈瘤の患者ではさらに高くなる(35%を超える)(1)。したがって,以下の場合は待機手術による内臓動脈瘤の修復の適応となる:
直径が2cmよりも大きい動脈瘤
妊婦または妊娠可能年齢の女性に生じた動脈瘤
年齢に関係なく症状を伴う動脈瘤
肝動脈瘤
脾動脈瘤の修復は,動脈再建を伴わない結紮か,動脈瘤の切除と血管再建で構成される。動脈瘤の位置によっては,脾臓摘出が必要になることがある。
感染性動脈瘤の治療は,特定の病原体に対する積極的な抗菌薬療法である。一般に,この種の動脈瘤には外科的な修復も必要になる。
治療に関する参考文献
1.Garey ML, Greenberger S, Werman HA.Ruptured splenic artery aneurysm in pregnancy: a case series. Air Med J 2014;33(5):214-217.doi:10.1016/j.amj.2014.05.006
要点
大動脈分枝の動脈瘤は,腹部または胸部大動脈瘤よりもまれである。
偶然発見されるものが多く,しばしば無症状である。
症状が発生した場合,症状は病変が生じた部位や動脈によって異なる。
最初はX線で偶然認められた所見から疑われる場合が多いが,確定診断には超音波検査およびCTを用いる。
治療は待機手術による修復のほか,感染性動脈瘤の症例では抗菌薬による。
待機手術の適応は一般に,破裂のリスク,動脈瘤の範囲および部位,ならびに周術期のリスクに基づいて決まる。内臓動脈瘤を有する妊婦または妊娠可能年齢の女性と冠動脈瘤の患者は,破裂のリスクが高いため,待機的に手術を行うべきである。