ラミン心筋症は,拡張型心筋症,様々な不整脈,および伝導障害を引き起こし,突然死のリスクを高める遺伝性疾患である。診断は心電図検査,心臓画像検査,遺伝子検査などによる。治療は通常,植込み型除細動器(ICD),抗不整脈薬,および心不全に対する標準治療である。
ラミンAとラミンCは,細胞核内にあり,その構造を支えるフィラメントタンパク質であり,LMNA遺伝子によってコードされている。この遺伝子の変異は,ラミノパチーと呼ばれる一群の疾患を引き起こす。多くのラミノパチーは,重度の通常は拡張型の心筋症を引き起こし,これは急速な進行,心房性頻拍性不整脈,房室ブロック,心室性頻拍性不整脈,および突然死を特徴とする。ラミン心筋症は特発性拡張型心筋症の約5~10%を占める。
大半のラミン心筋症は浸透度の高い常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患であるため,患者の家族も罹患している場合が多い。
一部のLMNA変異には,特定の筋ジストロフィー(例,エメリー-ドレイフス型筋ジストロフィー),神経障害,早期老化,代謝異常(インスリン抵抗性,高トリグリセリド血症,リポジストロフィーなど)など,他の疾患との関連もみられる。
初発症候は通常,心ブロックおよび/または不整脈の症状(動悸,失神,心停止など)である。発症年齢は典型的には40歳未満である。心不全の症候(例,労作時呼吸困難,疲労,末梢浮腫)が現れるのは典型的には後になってからであるが,その時期は様々である。筋力低下などの骨格筋症状もかなりの数の患者にみられ,こうした症状は心臓症状に先行することさえある。
ラミン心筋症の診断
心電図検査
心臓画像検査(例,心エコー検査,心臓MRI)
遺伝子検査
第1度近親者のスクリーニング
動悸,失神,または原因不明の心停止からの蘇生経験がある若年患者で,特に骨格筋の筋力低下または不整脈もしくは心不全の家族歴がある場合,本症が疑われる。
心電図検査,自由行動下心電図モニタリング,および心臓の画像検査(典型的には心エコー検査および/または心臓MRI)を行うべきである。
伝導障害,頻拍性不整脈,または心筋症が検出された場合は,遺伝子検査を行う。遺伝子検査の検出率は,特発性拡張型心筋症患者の一般集団では5~10%であるが,房室伝導障害に加えて心筋症の家族歴のある患者では約1/3に上昇する。
第1度患者家族には有意な疾患リスクがある。まず臨床的評価(不整脈,筋力低下,および/または心不全を示唆する症状を検出する),心電図検査,自由行動下心電図モニタリング,および心エコー検査を行い,その後はこれを1~3年毎に行うべきである。発端者で変異が同定されている場合は遺伝子検査を行う。その変異をもたない家系員には継続的な検査は不要である。
ラミン心筋症の治療
過度の身体活動を控える
通常,植込み型除細動器(ICD)
ときに抗不整脈薬による治療
必要に応じて心不全の治療(移植を含む)
治療は突然死の予防および症候性の心室性頻拍性不整脈の予防に重点を置く。
スポーツは心筋症の進行を早め,生命を脅かす不整脈を助長する可能性があるため,患者はこのような活動を避けるべきである。
ラミン心筋症の患者は,突然死のリスクが高いため,拡張型心筋症の他の患者よりも疾患経過の早期にICDを植え込むのが典型的である(植込み型除細動器の適応の表を参照)。ICDの使用は通常,左室駆出率が35%未満の拡張型心筋症患者と持続性VT/VFまたは心停止からの蘇生経験がある患者に推奨されるが,これに加えて,ラミン心筋症の患者で,原因不明の失神または恒久型ペースメーカーの適応があるか,これら以外の突然死の危険因子(左室駆出率35~44%,男性,非持続性心室頻拍,ミスセンス変異以外の変異)を複数有する場合にも,ICDの植込みが有用となることがある(クラスIIaの推奨)。
β遮断薬は大半の患者で使用すべきであるが,房室ブロックの発生を増大させる可能性がある。
III群抗不整脈薬,特にソタロールまたはアミオダロンによる治療は,症候性の心室性頻拍性不整脈を減少させる可能性があるが,ICDの代用にはならない。しかしながら,β遮断薬による十分な治療にもかかわらず,頻回の適切なICD放電がみられる患者では,これらの薬剤が有益となる可能性がある。
必要に応じて,拡張型心筋症の標準治療が用いられる。
要点
ラミン心筋症は,頻拍性不整脈,心ブロック,および心不全を引き起こす遺伝性疾患である。
一部の変異は骨格筋にも影響を及ぼす。
診断は臨床所見,心電図所見,画像検査,および遺伝子検査に基づく。
第1度近親者には有意な疾患リスクがあり,スクリーニングが必要である。
治療には通常,植込み型除細動器およびβ遮断薬を必要とする。