遺伝性または先天性代謝疾患では,非抱合型と抱合型のどちらの高ビリルビン血症も生じうる(ビリルビン代謝の概要を参照)。
非抱合型高ビリルビン血症:クリグラー-ナジャー症候群,ジルベール症候群,および原発性シャント高ビリルビン血症
抱合型高ビリルビン血症:デュビン-ジョンソン症候群およびローター症候群
(肝臓の構造および機能と肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。)
クリグラー-ナジャー症候群(Crigler-Najjar syndrome)
このまれな遺伝性肝疾患は,ビリルビンの(主にビリルビンジグルクロニドへの)抱合を触媒してビリルビンを水溶性にする酵素であるグルクロン酸転移酵素(UGT1A1)の欠乏によって引き起こされる。この酵素をコードする遺伝子の様々な異常により,酵素の完全(I型)または部分的(II型)な不活化が起きる。
常染色体潜性(劣性)のI型(完全型)では,重度の非抱合型高ビリルビン血症が典型的には出生直後から生じる。通常は1歳までに核黄疸により死亡するが,成人まで生存する場合もある。治療法としては,光線療法や肝移植などがある。
常染色体潜性(劣性)(浸透率は一定でない)のII型(部分型)では,しばしば比較的軽度の非抱合型高ビリルビン血症(20mg/dL[342μmol/L]未満)がみられ,通常は神経損傷を生じることなく成人期まで生存する。フェノバルビタール(1.5~2mg/kg,経口,1日3回)は,部分的に欠乏したグルクロン酸転移酵素を誘導する作用があり,効果的となる場合がある。
デュビン-ジョンソン症候群およびローター症候群
デュビン-ジョンソン症候群およびローター症候群では,胆汁うっ滞を伴わずに抱合型高ビリルビン血症がみられ,黄疸以外には症状も続発症もみられない。非抱合型高ビリルビン血症がみられ,尿中にビリルビンを認めないジルベール症候群(この疾患でも他の症状はみられない)とは対照的に,ビリルビンが尿中に出現することがある。アミノトランスフェラーゼ値とアルカリホスファターゼ値は通常,正常である。治療は不要である。
デュビン-ジョンソン症候群
このまれな常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)疾患では,ビリルビングルクロニドの排泄障害が生じる。通常は肝生検により診断され,肝臓では細胞内へのメラニン様物質の蓄積による濃い色素沈着がみられるが,それ以外の点では組織学的に正常である。
ローター症候群
このまれな疾患は,臨床的にはデュビン-ジョンソン症候群と類似するが,肝臓に色素沈着が生じないほか,そのほかにも代謝に微妙な相違点がみられる。
ジルベール症候群
ジルベール症候群は,症状を伴わない軽度の非抱合型高ビリルビン血症以外に有意な異常は生じないが,その影響はおそらく生涯に及ぶ疾患である。慢性肝炎やその他の肝疾患と誤診される可能性がある。
ジルベール症候群の罹患率は5%にも及ぶ可能性がある。家族に罹患者がいることもあるが,明確な遺伝パターンを確認するのは困難である。
発生機序は,肝臓へのビリルビンの取込みにおける複雑な欠陥が関与すると考えられる。グルクロン酸転移酵素活性が低いが,クリグラー-ナジャー症候群II型ほどではない。多くの患者で赤血球の崩壊が軽度に促進されるが,これによって貧血や高ビリルビン血症が引き起こされることはない。肝臓の組織像は正常である。
ジルベール症候群は,ビリルビン値の上昇により,大抵は若年成人で偶然検出され,ビリルビン値は通常2~5mg/dL(34~86μmol/L)の範囲で変動し,絶食やその他のストレスによって上昇する傾向がある。
ジルベール症候群は,ビリルビン分画で非抱合型ビリルビンが優位となり,その他の肝機能検査値は正常で,かつ尿中にビリルビンがみられないことから,肝炎と鑑別される。貧血および網状赤血球増多がみられないことで溶血と鑑別される。
治療は不要である。肝疾患があるわけではないと伝えて,患者を安心させるべきである。
原発性シャント高ビリルビン血症
このまれな家族性の良性疾患は,早期標識ビリルビン(early-labeled bilirubin)の過剰産生(正常な赤血球代謝ではなく無効造血やヘモグロビン以外のヘムに由来するビリルビン)を特徴とする。