肛門鏡検査では,肛門鏡を肛門に挿入して肛門管を診察する。
(肛門鏡検査とS状結腸鏡検査も参照のこと。)
肛門鏡検査の適応
肛門痛,分泌物,突出物,そう痒などの肛門直腸症状の評価
鮮紅色の出血の評価と痔核に対する特定の種類の治療
肛門管の疾患が疑われる場合の評価
肛門鏡検査の禁忌
絶対的禁忌
ショック
急性心筋梗塞
腹膜炎
急性の腸穿孔
劇症大腸炎(fulminant colitis)
手術または先天性疾患による肛門の欠損
相対的禁忌
不整脈または最近の心筋虚血(検査を延期できない場合,心電図モニタリングが必要である)
最近の肛門手術
肛門狭窄
非協力的な患者
重度の肛門痛(麻酔下に検査を行わなければならない場合がある)
直腸周囲膿瘍の疑い(症状に基づく)
肛門鏡検査の合併症
合併症はまれであるが,以下が起こる可能性がある:
肛門周囲の擦過傷または軽度の裂傷
少量の出血
肛門鏡検査で使用する器具
手袋
7cmの成人用(典型的には直径19mm)肛門鏡(スリット付きまたはスリットなし),小児および疼痛または肛門狭窄のある患者には,よりサイズが小さいもの(8~14mm)を使用
光源(ディスポーザブルの肛門鏡には内蔵されていることがある)
潤滑ゼリー(および重度の肛門痛がある場合は表面麻酔ゼリー)
綿棒
便潜血検査(必要であれば)
培養チューブおよび綿棒(必要であれば)
生検鉗子(必要であれば)
スリットなしの肛門鏡は360°の観察に使用し,スリット付きの肛門鏡は一度に1つの部位のみを観察するために使用する。スリット付きの肛門鏡を回転させて使うべきではない;痔核の観察および治療にはこのタイプの方が適している。
肛門鏡検査に関するその他の留意事項
肛門鏡検査に腸管前処置は不要である。
American Heart Associationは,ルーチンの消化管内視鏡検査を受けている患者について,現在では心内膜炎の予防を推奨していない。
肛門鏡検査での体位
患者を左側臥位にし,膝を胸の方に屈曲させる。
必要に応じて,砕石位など他の体位も許容される。
肛門鏡検査における重要な解剖
肛門管は,遠位直腸と体外を連結する部分であり,その長さは約3~5cmである。
肛門管の下部(歯状線より下方)は,重層扁平上皮に覆われている。この上皮は体性神経線維による密な支配を受けており,かなり敏感である。
肛門鏡検査のステップ-バイ-ステップの手順
殿部を左右に開き,外部を視診する。
潤滑剤を塗布した手袋をはめた指を挿入して,ルーチンの直腸指診を行う(重度の肛門痛があり,かつアレルギーがない場合は,表面麻酔ゼリーを使用する)。
表面麻酔ゼリーを使用する場合は,麻酔の効果が現れるまで1~2分待機する。
肉眼的血便がない場合は,採取できた便の便潜血検査(適応があれば)を行い,その手の手袋を交換する。
肛門鏡と中央のガイドプラグに潤滑剤を塗布する。
中央のガイドプラグを取り付けた状態で肛門鏡をゆっくり挿入する。
肛門鏡を完全に挿入したら,中央のガイドプラグを抜去する(再び必要になる可能性があるため,プラグは手元に置いておく)。
スリットのない肛門鏡を使用している場合は,肛門鏡をゆっくり回転させながら手前に引き,粘膜全体を観察して,腫瘤,病変,痔核,裂溝がないか確認する。便または血液があるなら,良好な視野を得るため綿棒で除去することができる。
異常な分泌物があれば培養に提出する。
適応があれば,歯状線より上にあるものに限り,疑わしい腫瘤を生検する。
適応があれば,痔核治療を外来で行うことができる。
肛門鏡検査のアフターケア
特別なアフターケアは必要ないが,処置後に有意な出血または疼痛がみられた場合は直ちに医師に連絡するよう患者に伝えておく。
肛門鏡検査の注意点とよくあるエラー
痔核や血管組織の生検を行ってはならない。
組織を挟み込む可能性があるため,スリット付きの肛門鏡を回転させてはならない。
組織を挟み込んだり傷つけたりする可能性があるため,肛門鏡が体内にある状態でガイドプラグを再度挿入してはならない。肛門鏡を完全に抜去し,ガイドプラグを再度挿入してから,再び肛門鏡を挿入する。
肛門鏡検査のアドバイスとこつ
裂肛,血栓性外痔核,一部の膿瘍など,重度の肛門痛を引き起こす病態を診断するには肛門周囲の外からの視診で十分な場合があり,そのような症例では,指診および肛門鏡検査は適応とならない場合がある。
脱出が疑われる場合は,バルサルバ法により痔核または粘膜の脱出が明らかになることがある。
指診のために指を挿入する際や,肛門鏡を挿入する際は,患者に腹圧をかけるよう指示すると挿入が容易になることがある。
挿入時にガイドプラグが抜けないように,ガイドプラグを抜去する準備ができるまではガイドプラグを1本の指(通常は母指)で押さえておく。