ノロウイルス胃腸炎

執筆者:Jonathan Gotfried, MD, Lewis Katz School of Medicine at Temple University
レビュー/改訂 2023年 6月
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ノロウイルスは下痢の一般的な原因の1つである。症状は嘔吐,腹部痙攣,および下痢であり,下痢は通常1~3日で軽快する。診断は臨床的な疑いに基づくが,急性胃腸炎の様々な原因に対するマルチプレックスパネルの一部としてPCR検査を行うことができる。治療は経口補液による支持療法であるが,重症例では輸液が必要になることもある。

ロタウイルスワクチンの導入以来,米国では全ての年齢層において,ノロウイルスが散発性および流行性の急性ウイルス性胃腸炎の最も一般的な原因となっており,そのピーク年齢は生後6~18カ月である。

米国では感染は1年を通して発生しているが,大半が11月から4月までに起きている(1)。飲料水や食品を介した大規模なアウトブレイクが発生する。

ノロウイルスは非常に感染性が高いため,ヒトからヒトへの伝播も起こる。クルーズ船および介護施設での胃腸炎の流行は,大半がノロウイルスによるものである。

潜伏期間は24~48時間である。

胃腸炎の概要も参照のこと。)

参考文献

  1. 1.Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Norovirus Burden and Trends.Accessed May 12, 2023.

ノロウイルス胃腸炎の症状と徴候

ノロウイルスは典型的には急性発生の嘔吐,腹部痙攣,および下痢を引き起こし,症状は通常1~3日間持続する。小児では,下痢より嘔吐が著明となるが,成人では通常,下痢が著明となる。

水分の喪失量は様々で,軽度から重度の脱水がみられる。

また発熱,頭痛,および筋肉痛も起こりうる。

パール&ピットフォール

  • 血性下痢など典型的でない症状がみられる患者や別の病原体の検査で陽性と判定されている患者においてノロウイルスの検査が陽性となった場合は,ノロウイルスは胃腸炎の原因でないことが示唆される。

ノロウイルス胃腸炎の診断

  • ときに逆転写PCR(RT-PCR)検査

ノロウイルスの診断は通常,典型的な症状がみられる患者において臨床的な疑いに基づき下される(特にアウトブレイクの発生中)。

臨床検査では,便検体を用いたRT-PCR法でノロウイルス感染症の診断を確定できる。この検査は通常,胃腸炎の複数の原因を対象とするマルチプレックスPCRパネルとして行われる。非常に感度の高いPCR検査では無症候性排出が検出される可能性があるため,ノロウイルスに対する陽性判定の解釈には注意を払う必要がある。血性下痢など典型的でない症状がみられる患者や別の病原体の検査で陽性と判定されている患者においてノロウイルスの検査が陽性となった場合は,ノロウイルスは胃腸炎の原因でないことが示唆される。

ノロウイルス胃腸炎の治療

  • 経口補液または輸液

  • ときに止瀉薬および/または制吐薬

水と電解質製剤による補液を含めた支持療法が治療の中心となり,大半の成人患者に必要な治療はこれだけである。経口ブドウ糖電解質液,ブロス,またはブイヨンにより,脱水の予防または軽度脱水の治療が可能である。小児はより迅速に脱水症状に陥る可能性があり,適切な経口補水液(数種類が市販されている)を与えるべきである(経口補水を参照)。嘔吐のために経口補水が難しい場合は,制吐薬(例,オンダンセトロン)を投与してもよい。

重度の脱水または循環血液量減少性ショックがみられる場合,ならびにイレウスがあるか経口補水療法が無効に終わった患者で精神状態の変化がみられる場合には,乳酸リンゲル液や生理食塩水などによる等張輸液を行うべきである(Infectious Diseases Society of America[IDSA]の感染性下痢症の診断および管理に関する2017年版診療ガイドラインも参照)。重度の脱水では,脈拍,灌流,および精神状態が正常化するまで輸液による水分補給を継続すべきである。

急性下痢を呈する18歳未満の小児に止瀉薬を投与してはならない(IDSAのガイドラインを参照)。水様性下痢(ヘム陰性便によって示される)を呈する成人患者では止瀉薬を考慮することができ,特にアウトブレイクの発生中は,水様性下痢は原因がウイルスである可能性が高いことを示唆する。ただし止瀉薬は,Clostridioides difficileまたは大腸菌(E. coli)O157:H7の感染患者に使用すると病状の悪化を招く可能性があるため,下痢の原因が同定されておらず,これらの疾患が(例えば,最近の抗菌薬使用,血性下痢,便潜血陽性,または発熱を伴った下痢から)疑われる患者には投与してはならない。

要点

  • ノロウイルスは,米国では全ての年齢層において急性ウイルス性胃腸炎の最も一般的な原因となっている。

  • 臨床経過は短いが,重度の嘔吐および下痢を伴うことがある。

  • 通常は経口補水で十分であるが,制吐薬やときに輸液が必要になることもある。

  • 止瀉薬は水様性下痢がみられる成人には安全であるが,18歳未満の小児と最近の抗菌薬使用,血性下痢,便潜血陽性,または発熱を伴った下痢がみられる患者では使用を避けるべきである。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Infectious Diseases Society of America: Clinical practice guidelines for the diagnosis and management of infectious diarrhea (2017)

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