膵癌は主として膵管腺癌であり,米国での年間の症例数は64,050例,死亡例数は50,550例と推定されている(1)。症状としては体重減少,腹痛,黄疸などがある。診断はCTまたはMRI/MRCPとその後の超音波内視鏡検査と生検による。治療は外科的切除と化学療法の併用である。一部の例では,放射線療法も用いられる。膵癌は診断時点で進行している場合が多いため,予後は不良である。
大半の膵癌は,膵管細胞および腺房細胞から発生する外分泌腫瘍である。膵内分泌腫瘍については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。
膵外分泌腺の腺癌は,腺房細胞由来と比較して膵管細胞由来が9倍多く,80%は膵頭部に発生する。腺癌の平均発生年齢は55歳で,男女比は男性で1.5~2倍多い。膵腺房細胞癌は膵癌のまれな組織型である。従来の膵管腺癌より予後良好である。
膵癌の著明な危険因子として,喫煙,慢性膵炎の既往,肥満,化学物質への曝露(例,β-ナフチルアミン,ベンジジン,アスベスト,ベンゼン,塩化炭化水素)などがある。アルコールおよびカフェインの摂取は危険因子ではないようである。
遺伝が一定の役割を果たしており,膵癌の10%には基礎にある遺伝的要素が関連している。現在では,膵癌と診断された全ての患者に遺伝子検査がルーチンに勧められている。
総論の参考文献
1.Siegel RL, Miller KD, Wagle NS, Jemal A: Cancer statistics, 2023.CA Cancer J Clin 73(1):17–48, 2023. doi: 10.3322/caac.21763
膵癌の症状と徴候
疼痛や体重減少などの膵癌の症状は非特異的であるため,診断が遅れ,それまでには病巣が広がっている。診断時点で90%の患者が局所進行例であり,後腹膜組織への浸潤,所属リンパ節転移,または肝もしくは肺転移を認める。
大半の患者は,重度の上腹部痛を有し,通常,背部に放散する。体重減少がよくみられる。膵頭部の腺癌は,80~90%の患者で閉塞性黄疸を引き起こす(そう痒をもたらしうる)。膵体部および膵尾部癌は,脾静脈閉塞を引き起こすことがあり,それにより脾腫,胃および食道静脈瘤,ならびに消化管出血が生じる。
最大半数の患者では膵癌により糖尿病が引き起こされ,耐糖能障害の症状(例,多尿および多飲)が生じる。膵癌は,一部の患者では膵臓からの消化酵素の分泌を阻害し(膵外分泌機能不全),食物の消化と栄養の吸収を妨げることもある(吸収不良)。この吸収不良は,腹部膨満やガスの発生につながるほか,水様,脂分性,悪臭などの特徴を伴う下痢を引き起こし,また体重減少およびビタミン欠乏症の原因となる。
膵癌の診断
CTまたはMRI/MRCP(磁気共鳴胆道膵管造影)とそれに続く超音波内視鏡検査と穿刺吸引細胞診(EUS/FNA)
CA19-9抗原による経過観察(スクリーニング検査ではなく)
望ましい検査は,膵臓撮像法(3相のプロトコル,スライス厚5mm以下)を用いた腹部ヘリカルCTまたはMRI/MRCPであり,それに続いて,組織診断と外科的な切除可能性の評価を目的として超音波内視鏡検査と穿刺吸引細胞診(EUS/FNA)を施行する。CTかMRI/MRCPかは,一般的には各施設での実施可能性と実施経験に基づいて選択する。これらの画像検査で切除不能または転移性とみられる病変が認められた場合でも,組織診断用の検体を得るため,EUS/FNAまたは到達可能な病変に対する経皮的な穿刺吸引細胞診を施行する。CTで潜在的に切除可能な腫瘍が検出された場合,または全く腫瘍が見つからなかった場合には,病期の診断またはCTで描出されない小さな腫瘍の検出を目的として,MRI/MRCPまたは超音波内視鏡検査を施行してもよい。
閉塞性黄疸の患者では,最初の診断法として内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)を用いることがある。ERCPでは,胆道閉塞を軽減し,術前治療を可能にするために,しばしばステントを留置する。
ルーチンの臨床検査を行うべきである。アルカリホスファターゼおよびビリルビンの上昇は,胆管閉塞または肝転移を示唆する。膵癌と診断された患者のモニタリングおよび高リスク患者(例,遺伝性膵炎患者;膵癌,ポイツ-ジェガース症候群,またはBRCA2もしくはHNPCC変異を有する第1度近親者が2人以上いる患者)のスクリーニングを目的に膵関連抗原CA19-9を用いることがある。しかしながら,この検査は集団スクリーニングに使用するには感度も特異度も高くなく,膵癌であることが証明された患者でも必ずもCA19-9値が高値となるわけではない(nonproducer)。上昇していた値は治療が成功すれば低下するはずであり,治療後の上昇は進行を示唆する。アミラーゼおよびリパーゼ値は通常,正常である。
膵癌の治療
Whipple手術(膵頭十二指腸切除術)
ネオアジュバント療法としての化学療法または化学放射線療法(化学療法と放射線療法の併用)
症状管理
診断時に,約80~90%のがんは転移または主要血管浸潤のため,外科的切除不能とされる。
切除術を受ける患者では,膵臓内の腫瘍の位置によって手技の種類が決まる。膵頭部の腫瘍はWhipple手術で切除する。膵頸部,膵体部,または膵尾部の腫瘍は一般に膵尾部切除術で切除し,膵頭部はその場に残す。
ネオアジュバント(術前)療法としての化学療法または化学放射線療法の選択は,本疾患の進行の速さゆえに,また膵臓手術後の化学療法は患者が耐えられる可能性が低いことから,ますます一般的になってきている。最近の研究データでは,ネオアジュバント化学療法が切除可能境界例で延命効果を示したことが示唆されている(1)。別の研究では,FOLFIRINOXレジメン(フルオロウラシル,オキサリプラチン,ロイコボリン,およびイリノテカン)で外科的切除後の全生存期間の中央値が54カ月となり,このレジメンが高度に選択された膵癌患者に対する化学療法の新たな標準となった(2)。2番目に頻用されているレジメンは,ゲムシタビンとアルブミン懸濁型パクリタキセル(ナノ粒子アルブミンを結合させたパクリタキセル)の併用であり,別の研究において周術期に使用した場合にFOLFIRINOXレジメンと同程度の効果があることが示された(全生存期間の中央値はFOLFIRINOX群で23.2カ月,ゲムシタビン + アルブミン懸濁型パクリタキセル併用群で23.6カ月であった)(3)。
手術時に切除不能な腫瘍が見つかり,胃十二指腸もしくは胆管が閉塞または閉塞しつつある場合には,閉塞を解除するために,通常,胃および胆道の二重バイパス術を行う。手術不能病変および黄疸のある患者は,内視鏡的胆管ステント留置術で黄疸が軽減する。十二指腸ステント留置術が高い頻度で施行される。しかしながら,ステントは関連の合併症があるため,切除不能病変を有し期待余命が6~7カ月を超える患者には,外科的バイパス術を考慮すべきである。
対症療法
鎮痛薬,通常はオピオイド
ときに胆道の開存性を維持する手技
ときに膵酵素剤の補充
最終的に,大半の患者は痛みを経験して死亡する。したがって,対症療法が病勢制御と同程度に重要となる。適切な終末期ケアについて話し合うべきである(臨死患者も参照)。
中等度から重度の疼痛患者には,疼痛を緩和するのに十分な用量の経口オピオイドを投与すべきである。依存に対する懸念から効果的な疼痛コントロールが妨げられてはならない。慢性疼痛には,長時間作用型製剤(例,経皮フェンタニル,オキシコドン,オキシモルフォン[oxymorphone])が通常は最善である。経皮的または外科的な内臓神経(腹腔)ブロックは,一部の患者で効果的に痛みを抑制する。耐えられない疼痛がある症例では,オピオイドの皮下,静脈内,硬膜外,または髄腔内投与でさらなる疼痛緩和が得られる。
閉塞性黄疸に続発するそう痒が緩和手術または内視鏡的胆管ステント留置術では軽減しない場合,そう痒はコレスチラミン(4g,経口,1日1回~1日4回)によって管理できる。
膵外分泌機能不全は,ブタ膵酵素(パンクレリパーゼ)のカプセル剤で治療する。利用可能な市販製品がいくつかあるが,1カプセル当たりの酵素量は一様ではない。必要な用量は患者の症状,脂肪便の程度,および食事中の脂肪含有量に応じて異なる。酵素の管腔内至適pHは8であることから,プロトンポンプ阻害薬またはH2受容体拮抗薬を1日2回投与する場合もある。
糖尿病を綿密にモニタリングし,コントロールすべきである。
治療に関する参考文献
1.Versteijne E, van Dam JL, Suker M, et al: Neoadjuvant Chemoradiotherapy Versus Upfront Surgery for Resectable and Borderline Resectable Pancreatic Cancer: Long-Term Results of the Dutch Randomized PREOPANC Trial. J Clin Oncol 40(11):1220-1230, 2022.doi: 10.1200/JCO.21.02233
2.Conroy T, Hammel P, Hebbar M, et al: FOLFIRINOX or Gemcitabine as Adjuvant Therapy for Pancreatic Cancer. N Engl J Med 379(25):2395-2406, 2018.doi: 10.1056/NEJMoa1809775
3.Sohal DPS, Duong M, Ahmad SA, et al: Efficacy of Perioperative Chemotherapy for Resectable Pancreatic Adenocarcinoma: A Phase 2 Randomized Clinical Trial.JAMA Oncol 7(3):421-427, 2021.doi: 10.1001/jamaoncol.2020.7328.Clarification and additional information.JAMA Oncol 23:e215278, 2021.doi: 10.1001/jamaoncol.2021.5278
膵癌の予後
膵癌の予後は病期によって異なるが,多くの患者が診断時に進行例であるため,全体的に不良である(5年生存率:2%未満)。
要点
膵癌は進行して初めて診断されるのが典型的であるため,死亡率が非常に高い。
著明な危険因子として,喫煙や慢性膵炎の既往などがある。
診断ではCTまたはMRI/MRCP(磁気共鳴胆道膵管造影)および超音波内視鏡検査と生検を施行するが,アミラーゼリパーゼは通常は正常値となり,CA19-9抗原は集団スクリーニングに使用できるほどの感度および特異度がない。
診断時に,約80~90%のがんは転移または主要血管浸潤のため,外科的切除不能とされる。
切除術の適応がある患者では,手術と化学療法の併用が最良の腫瘍学的成績をもたらす。
症状は十分な鎮痛によりコントロールし,閉塞症状を緩和するために胃および/または胆道のバイパスを施行し,ときに膵酵素剤を補充する。
嚢胞腺癌
嚢胞腺癌は,粘液性嚢胞腺腫が悪性化して生じるまれな腺腫由来の膵癌で,上腹部痛および触知可能な腹部腫瘤として現れる。
嚢胞腺癌の診断は腹部CTまたはMRIにより,典型的には壊死組織片を含む嚢胞性腫瘤が認められ,この腫瘤は,壊死性腺癌または膵仮性嚢胞と誤解されることがある。
膵管腺癌とは異なり,嚢胞腺癌は予後が比較的良好である。手術時に転移が認められる患者は20%に過ぎず,膵尾部切除術,膵全摘術またはWhipple手術による腫瘍の完全切除での5年生存率は65%である。
膵管内乳頭粘液性腫瘍
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は,粘液の過剰分泌と管腔閉塞を引き起こす嚢胞性腫瘍である。組織学的に良性,境界型,悪性のいずれもありうる。大半の腫瘍が女性(80%)および膵尾部(66%)に発生する。
IPMNは主膵管型,分枝型,および混合型の3つの病型に大別される。
主膵管型IPMNは,主膵管に腫瘍が及んでいる場合に診断される。通常は主膵管の拡張(しばしば10mmを超える)が起こり,Oddi括約筋を介してムチンが排出される。主膵管型IPMNは基礎にがんが存在するリスクが高く,診断された患者にはルーチンに外科的切除を勧める。
分枝型IPMNは,主膵管の分枝に腫瘍が生じた場合である。それらの腫瘍は主膵管の拡張を引き起こさない。主膵管型IPMNとは異なり,分枝型IPMNではがんのリスクが一様ではなく,腫瘍の手術または精査を行うかどうかは,一連の画像検査および内視鏡検査(しばしば生検と嚢胞液の分析を伴う)の結果に基づいて判断する。サーベイランスを行う場合は通常,画像検査と超音波内視鏡検査を併用する。
混合型IPMNには,主膵管型IPMNと分枝型IPMNの両方の特徴がみられ,主膵管とそれに合流する分枝の両方が拡張する。混合型IPMNは,悪性腫瘍のリスクプロファイルが主膵管型IPMNと同一であるため,同様に外科的切除で治療される。
IPMNの症状は疼痛と繰り返す膵炎発作である。しばしば,他の理由で行われた断層撮影の画像検査で偶然発見される。
IPMNの診断は断層撮影の画像検査(CTまたはMRI)により行う。診断を明確にするために,しばしば超音波内視鏡検査と穿刺吸引細胞診が補助的に用いられる。主膵管型IPMNを示唆する内視鏡検査の古典的所見は,Oddi括約筋を介したムチンの排出に起因するfish-mouth appearanceである。
高度異形成を認めるIPMNの患者において,浸潤がんへの進行がみられたか,がんの発生リスクが高いことを示唆する特徴がみられる場合は,外科的切除が選択すべき治療となる。基礎にがんがある患者に対する術後の全身療法は,膵腺癌に対するものと同様である。
手術を施行した場合の5年生存率は,良性または境界型の症例では95%を超えるが,悪性腫瘍では50~75%である。



