鉄中毒

執筆者:Gerald F. O’Malley, DO, Grand Strand Regional Medical Center;
Rika O’Malley, MD, Grand Strand Medical Center
レビュー/改訂 2022年 5月
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やさしくわかる病気事典

鉄は生命に不可欠なミネラルですが、鉄を過剰に摂取すると、重度の症状や肝傷害を引き起こし、さらには死に至ることもあります。

  • 症状は段階的に発生し、嘔吐、下痢、腹痛から始まります。

  • 数日後に肝不全が発生することがあります。

  • 鉄中毒は、患者の病歴、症状、鉄の血中濃度に基づいて診断されます。

  • 鉄中毒の患者は入院する必要があります。

中毒の概要も参照のこと。)

鉄を含む錠剤は、ある種の貧血の治療に広く用いられています。鉄は多くの総合ビタミン剤にも含まれています。こうした錠剤を過剰に摂取すると(特に幼児の場合)、鉄中毒が起こることがあります。多くの家庭には鉄を含む成人用の総合ビタミン剤があるため、鉄の過剰摂取はよく起こります。しかし、鉄を含む小児用のチュアブル錠(噛み砕いて服用する錠剤)にはそれほど大量の鉄は入っていないため、容器に入っている全量でも、重篤な中毒を引き起こす量には至りません。ただし、純粋な鉄のサプリメントを過剰摂取すると、重篤な鉄中毒が起こることがあります。妊婦用ビタミン剤は鉄を多く含んでおり、小さな小児にとっては有毒です。

鉄中毒は、5歳未満の小児に発生する致死性中毒の原因となりえます。最初は胃や消化管が刺激され、ときには出血することもあります。数時間以内に、鉄が細胞に害を与え、細胞内の化学反応が阻害されます。数日以内には肝臓が損傷を受けます。回復してから数週間後に、以前受けた刺激によって胃などの消化管や肝臓に瘢痕(はんこん)が生じます。

鉄中毒の症状

重篤な鉄中毒では、通常、過剰摂取後6時間以内に症状が現れます。 鉄中毒の症状は典型的には5段階で発生します:

  • 第1期(過剰摂取後6時間以内):嘔吐、吐血、下痢、腹痛、易刺激性、眠気などの症状が現れます。中毒が非常に重篤な場合は、呼吸や心拍が速くなり、昏睡、意識消失、けいれん発作、低血圧が起こることがあります。

  • 第2期(過剰摂取後6~48時間):患者の状態が改善したようにみえます。

  • 第3期(過剰摂取後12~48時間):重度の低血圧(ショック)、発熱、出血、黄疸、肝不全代謝性アシドーシス、けいれん発作が生じます。

  • 第4期(過剰摂取後2~5日):肝不全が発生し、ショック、出血、血液凝固異常で死亡する場合があります。血糖値が下がることもあります。錯乱や反応の鈍化(嗜眠)または昏睡がみられることもあります。

  • 第5期(過剰摂取後2~5週間):胃や腸が瘢痕によって閉塞することがあります。胃や腸の瘢痕は、けいれん性の腹痛や嘔吐の原因となります。 後に、肝臓に重度の瘢痕化(肝硬変)が起こることもあります。

鉄中毒の診断

  • 鉄濃度などの血液検査

  • ときにX線検査

鉄中毒は、患者の病歴、症状、代謝性アシドーシス(毒された細胞から血流に放出された酸)の存在、および鉄の血中濃度に基づいて診断されます。大量の錠剤を飲んだ場合は、胃や腸のX線写真に錠剤が写ることがあります。

鉄中毒の治療

  • 全腸管洗浄

  • キレート療法(重度の場合)

重い症状がある場合や、鉄の血中濃度が高い場合は入院が必要です。嘔吐した後でも大量の鉄が胃に残ることがあります。特殊なポリエチレングリコール溶液を、口から、または胃に挿入した管を通じて投与し、胃や腸の内容物を洗い流すこともありますが(全腸管洗浄)、有効性は明らかではありません。デフェロキサミンという薬は、血液中で鉄と結合し(キレート療法と呼ばれます)、それによって鉄が尿中に排泄されます。この薬は中毒が重度の場合に静脈から投与されます。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国中毒情報センター協会(American Association of Poison Control Centers):米国に拠点を置く中毒センターで、24時間年中無休、無料で秘密厳守の中毒ヘルプライン(Poison Help Line、1-800-222-1222、米国のみ)を運営している【訳注:日本では、大阪中毒110番072-727-2499、または、つくば中毒110番029-852-9999】

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