コレラ

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University
レビュー/改訂 2022年 4月 | 修正済み 2022年 9月
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コレラは、コレラ菌( Vibrio cholerae)というグラム陰性細菌によって引き起こされる重篤な腸の感染症で、重度の下痢がみられ、治療を行わないと死に至る可能性があります。

  • 汚染された食べもの(貝類が多い)や水によって感染が起こります。

  • 衛生状態が不十分な地域以外でコレラが起こることはまれです。

  • 水様性下痢と嘔吐が生じますが、発熱は起こらないのが通常です。

  • 便のサンプル中でこの細菌が特定されれば、診断が確定します。

  • 失われた水分の補給と抗菌薬の投与が治療に効果的です。

細菌の概要も参照のこと。)

ビブリオ属(Vibrio)のいくつかの種の細菌は下痢を引き起こします(表「胃腸炎を引き起こす微生物」を参照)。最も重篤な病気であるコレラは、コレラ菌(Vibrio cholerae)によって引き起こされます。コレラは大流行することがあります。

コレラ菌(Vibrio cholerae)の感染は、感染した人の便によって汚染された水、貝類、またはその他の食品を摂取することによって起こります。いったん感染すると、便中に細菌が排泄されるようになります。そのため、感染が急速に拡大する可能性があり、人の排泄物の処理が行われていない地域では特に問題となります。

コレラはかつては世界中でよくみられていましたが、現在ではアジア、中東、アフリカ、中南米の一部で最もよくみられるようになっています。小規模な流行は欧州、日本、オーストラリアでも起こったことがあります。米国では、メキシコ湾沿岸地域でコレラが発生することがあります。

貧困があり、清潔な飲用水がなく、人の排泄物が衛生的に処理されていない状況では、コレラの大規模な集団発生が起こり続けます。2010年に地震が起きたハイチでは、その後に深刻なコレラの流行が発生して、2017年まで続きました。この集団発生では、820,000人がコレラにかかり、10,000人近くが死亡しました。イエメンでの集団発生は2016年に始まり、まだ終息していません。この集団発生はさらなる壊滅的な影響をもたらしています。イエメンでは250万人以上の人々が発症し、4000人近くが死亡しています。これは現代史上最も規模が大きく、最も急速に拡大しているコレラの集団発生と考えられています。

流行地域(発症者が比較的一貫して発生している地域)では、通常は戦争や暴動により公的な衛生サービスが機能しなくなった際に集団発生が起こります。感染は温暖な時期に小児で最もよくみられます。一方で新たな流行地域では、季節を問わず集団発生が起こり、どの年齢でも等しく感染します。

多量の細菌が体内に取り込まれなければ、感染症は発生しません。胃酸で死滅しないほど大量に細菌を取り込むと、そのうちの一部が小腸に達して増殖を開始し、毒素を作ります。毒素の作用により、小腸から大量の塩分と水が分泌されます。その液体は水様性の下痢として体から失われます。こうして水分と塩分が失われる結果として死に至ります。この細菌は小腸にとどまり、組織に侵入することはありません。

胃酸には殺菌効果があるため、胃酸の分泌が少ない人はコレラにかかる可能性が高くなります。次の人が該当します。

  • 幼児

  • 高齢者

  • プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾールなど)やヒスタミンH2受容体拮抗薬(ファモチジンなど)の作用で胃酸が減少している人

コレラの流行地域に住む人には、徐々に免疫ができてきます。

知っていますか?

  • 治療を受けないと、重度のコレラにかかった人の半数以上が死亡します。

コレラの症状

ほとんどの感染者では、症状がまったく出ません。

コレラの症状が現れる際には、接触後1~3日後に症状が始まり、通常は痛みを伴わない水様性の下痢と嘔吐が突然起こります。通常、発熱はみられません。

軽度から重度の下痢と嘔吐がみられます。成人で、感染症が重症の場合は、下痢によって1時間に1リットル以上の水分と塩分が失われます。水のような便が大量に排出され、米のとぎ汁様の便と表現されます。数時間で重度の脱水になり、強いのどの渇き、強い痛みを伴う筋肉のけいれん、筋力低下の症状が現れます。尿量は非常に少なくなります。眼がくぼみ、指の皮膚がシワシワになることがあります。脱水を治療せず放置すると、水分と塩分の喪失によって、腎不全ショック状態昏睡が生じ、死に至ることもあります。

生き延びた場合には、コレラの症状は通常は3~6日で治まります。ほとんどの場合、原因菌は2週間で体内から完全に排除されます。まれにコレラ菌が症状を引き起こさずに体内にずっと残ることがあります。このような状態の人はキャリア(保菌者)と呼ばれます。

コレラの診断

  • 便サンプルの培養検査

医師は便のサンプルを採取するか、直腸から綿棒でサンプルを採取します。サンプルは検査室に送られ、サンプル中のコレラ菌を増殖させる検査(培養検査)が行われます。サンプル中でコレラ菌(Vibrio cholerae)が特定されれば、診断が確定します。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いて細菌の遺伝物質(DNA)の量を増やすことで、迅速に細菌を検出することのできる検査を行うこともあります。

脱水状態と腎機能を調べるために血液と尿の検査が行われます。

コレラの予防

コレラ予防には以下の対策が欠かせません。

  • 飲料水の浄化

  • 排泄物の適切な処理

コレラの発生地で行えるその他の予防策としては、以下のものがあります。

  • 沸騰させた水や塩素処理された水を使用する

  • 生野菜や加熱調理が不十分な貝類を摂取しない

貝や甲殻類の体には、ビブリオ属(Vibrio)の別の細菌が生息していることもあります。

ワクチン

米国では、コレラの発生地域に旅行する18~64歳の人はコレラワクチンの接種を受けられます。接種は1回の服用で済みます。ただし、このワクチンの効果が3~6カ月以上続くかどうかは分かっていません。

米国では使用できませんが、ほかにも3種類のコレラワクチンがあります。これらのワクチンは、60~85%の予防効果が最大5年間続きます。いずれも経口で2回投与されます。コレラにかかるリスクが引き続きある人には、2年後に追加接種を受けることが推奨されます。

コレラの治療

  • 塩分を含む輸液

  • 抗菌薬

失われた水分と塩分の補給

失われた水分と塩分を速やかに補うことが命を救うことにつながります。たいていの患者は、経口での水分補給で効果的に治療できます。この輸液は失われた体液を補給する目的に合わせて調製されています。

重度の脱水状態で口から水分をとれない人には、食塩水を静脈から投与します。

流行中に静脈内投与ができない場合は、口から、あるいは必要なら鼻から胃に入れたチューブを介して、食塩水を投与します。十分に体液が補充されて症状が緩和した後も、下痢や嘔吐で失われた体液を回復するために、食塩水を十分に摂取する必要があります。

患者は飲みたいと思う限り多くの水を飲むよう促されます。嘔吐が止まり、食欲が戻ったら、固形物を食べてもかまいません。

抗菌薬

抗菌薬が通常は投与され、下痢を緩和し、早期に止めます。また抗菌薬によって、コレラの流行中にその感染拡大をわずかながら抑えることもできます。

抗菌薬のドキシサイクリンは、小児と妊婦を含むすべての人に投与されます。ほかに使用されることがある抗菌薬は、アジスロマイシンとシプロフロキサシンです。いずれも経口の抗菌薬です。医師は、地域内でコレラを引き起こしている細菌に対して効果的であることが分かっている抗菌薬を選択します。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国疾病予防管理センター(CDC):コレラ(Cholera):集団発生や危険因子を含めたコレラに関する情報を提供している

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