重鎖病は形質細胞のがんで、形質細胞のクローンがH鎖という異常な抗体の断片を大量に生産する病気です。
(形質細胞の病気の概要も参照のこと。)
形質細胞は、白血球の一種であるB細胞(Bリンパ球)から成長した細胞で、正常であれば抗体(免疫グロブリン)を生産します。抗体は身体が感染と戦うのを助けるタンパク質です。1つの形質細胞が過剰に増殖すると、その結果生じた遺伝子的に同一の細胞集団(クローンと呼ばれます)が単一の種類の抗体を大量に生産します。この抗体は単一のクローンによって作られるため、モノクローナル抗体と呼ばれ、Mタンパク質としても知られています。Mタンパク質の量が多い人は、他の抗体が少なくなっていることがよくあります。正常な抗体では軽鎖(L鎖)と重鎖(H鎖)という2種類の鎖が1本ずつ組み合わさった対が2つありますが、ときに抗体が不完全で、L鎖かH鎖のいずれか一方しかないことがあります。
抗体にはIgM、IgG、IgA、IgE、IgDという5つの種類(クラス)があります。どの種類の抗体にも固有の型の重鎖があります。
重鎖病は、生産されるH鎖のタイプにより、以下の3種類に分けられます。
アルファ(IgA由来)
ガンマ(IgG由来)
Mu(IgM由来)
アルファ重鎖病
アルファ重鎖病(IgA型重鎖病)は、主に中東や地中海地域の出身者を祖先とする若い成人にみられます。がん化した形質細胞が腸管壁に浸潤し、食物から栄養素を十分吸収できない状態(吸収不良)になり、重度の下痢と体重減少が生じます。気道に障害を与えるまれな型もあります。
アルファ重鎖病が疑われる場合、血液検査を行います。そのような検査としては、血清タンパク質電気泳動法(SPEP)、免疫グロブリン定量、免疫電気泳動法などが行われます。血清タンパク質電気泳動法では、血漿中の特定のタンパク質を測定して一部の病気の特定に役立てます。免疫電気泳動法は、この検査を特殊な方法で行うもので、タンパク質を分離してから、検出可能な免疫反応に基づいて、そのタンパク質を特定します。尿検査が必要になることもあり、また、腸から組織を採取して検査するときもあります(生検)。
アルファ重鎖病は進行が速く、1~2年以内に死亡することもあります。それ以外では、シクロホスファミド、プレドニゾン[日本ではプレドニゾロン](コルチコステロイドの1つ)、抗菌薬を併用した治療により、病気の進行を遅らせたり、一時的な寛解を得たりできる場合があります。
ガンマ重鎖病
ガンマ重鎖病(IgG型重鎖病)は、主に高齢男性にみられます。ガンマ重鎖病では、症状がみられない人もいます。一部の患者には、さらに関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスのような免疫系疾患がみられることがあります。がん化した形質細胞が骨髄に浸潤すると、白血球数の減少に伴って発熱や悪寒が繰り返し現れるなどの反復性感染症の症状や、重度の貧血に伴って疲労感や脱力感などの症状が現れる人もいます。がん化した形質細胞によって、肝臓や脾臓が腫大することもあります。
診断を下すには血液検査と尿検査が必要です。
症状がある人は、化学療法薬、コルチコステロイド、放射線療法で効果が得られる可能性があります。しかし、ガンマ重鎖病は通常進行が速く、発症した人の半数は1年以内に死亡します。
ミュー重鎖病
ミュー重鎖病(IgM型重鎖病)は、3つの重鎖病で最も少なく、ほとんどの場合、50歳以上の人にみられます。腹部のリンパ節腫大のほかに、肝腫大や脾腫を引き起こす場合があります。骨折が起こる場合もあります。
一般的には血液と尿の検査が行われます。通常、診断には骨髄検査が必要です。
通常の治療には、化学療法とコルチコステロイドが含まれます。発症後の生存期間や治療に対する反応は、人によって大きく異なっています。