低脂血症は、血液中の脂質濃度が異常に低下した状態(総コレステロール120mg/dL[3.1mmol/L]未満、または低比重リポタンパク質[LDL]コレステロール50mg/dL[1.3mmol/L]未満)です。
まれな遺伝子異常や他の病気の結果、脂質値が低くなることがあります。
こうした遺伝子異常をもつ人では、脂肪便、発育不良、知的能力障害などがみられることがあります。
一部の遺伝子異常では、脂肪やビタミンE、もしくは他の脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、K)のサプリメントによる治療が行われます。
(コレステロールと脂質の病気の概要も参照のこと。)
血液中の脂質が少ない原因としては以下のものがあります。
原発性(遺伝性疾患)
続発性(その人が有している別の病気)
脂質濃度が低い場合、それが原因で問題が生じることはめったにありませんが、別の病気が存在するかもしれません。例えば、コレステロール低値は以下のような状態を示している可能性があります。
そのため、血液検査の結果でコレステロール値が非常に低い場合には、医師はさらなる評価を勧めます。原因が特定されれば、それに対する治療を行います。
無ベータリポタンパク血症や低アルファリポタンパク血症などのまれな遺伝性疾患では、深刻な結果を招くほど脂質濃度が低下します。PCSK9(前駆タンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)遺伝子に変異がある場合、脂質の値が低くなることがありますが、深刻な問題には発展せず、治療も必要ありません。
無ベータリポタンパク血症
無ベータリポタンパク血症(バッセン-コーンツヴァイク症候群)では、LDLコレステロールが存在せず、体はカイロミクロンや超低比重リポタンパク質(VLDL)をつくることができません。その結果、脂肪と脂溶性ビタミンの吸収が大きく損なわれます。
症状はまず乳児期に現れます。発育が不良になります。便に過剰な脂肪が含まれ(脂肪便と呼ばれる状態)、便が脂っぽくなり、水に浮く可能性が高くなります。眼の網膜は変性して網膜色素変性に似た状態が生じ、失明に至ります。中枢神経系が損傷し、協調運動障害(運動失調症)と知的能力障害が起きます。
診断は、血液検査の結果によって下されます。腸の生検も行われます。遺伝子検査も行われます。
無ベータリポタンパク血症は治癒しませんが、多量のビタミンEをとることにより、中枢神経系に対する損傷の発生と進行を遅らせることができます。治療としては、食事性脂肪とビタミンA、D、Kのサプリメントが使用されます。
カイロミクロン停滞病(アンダーソン病)
カイロミクロン停滞病は遺伝性疾患であり、体内でカイロミクロンをつくることができなくなる病気です。この病気の乳児では、脂肪の吸収不良、脂肪便、発育不良がみられる傾向にあり、無ベータリポタンパク血症の症状とよく似た、中枢神経系の損傷による症状が生じることがあります。
血液中の脂質の濃度を測定します。脂質の値が非常に低い乳児の場合、特に食事や授乳の後で正常な上昇がみられる場合には、腸の生検が行われます。治療では、食事性脂肪とビタミン(A、D、E、K)のサプリメントが使用されます。
低ベータリポタンパク血症
低ベータリポタンパク血症では、LDLコレステロール値が非常に低くなります。症状はみられないのが普通で、特に治療は必要ありません。非常に重度の低ベータリポタンパク血症では、LDLコレステロールがほとんどなく、無ベータリポタンパク血症と同様の症状が現れます。
診断は血液中の脂質の濃度を測定することで下されます。家族にこの病気の人がいる場合、診断の可能性は高くなります。最も重度のケースでは、無ベータリポタンパク血症と同様の治療を行い、治療ではビタミンA、E、D、Kのほか、脂肪の食事による補給が行われます。