一過性全健忘とは、健忘の原因が発生した以降の出来事や、ときにそれ以前の出来事の記憶が、一時的に突然失われる障害です。
一過性全健忘の原因は不明ですが、同様の一時的な記憶障害が、過度の飲酒や特定の薬の服用が原因で起こることがあります。
一過性全健忘の患者では、新しい記憶を維持する能力と、発作中に起こった出来事を思い出す能力が突然かつ一時的に失われます。
一過性全健忘の診断は、主に症状と特定のMRI所見に基づいて下されます。
一過性全健忘は永続的な影響を残すことはなく、治療は不要です。
一過性全健忘は通常、50~70歳の人に起こります。40歳未満の人に発生することはまれです。
一過性全健忘の原因
一過性全健忘の原因は不明です。けいれん発作、片頭痛、静脈の血流の問題、側頭葉へ血液を供給する動脈の一時的な閉塞(例えば血栓によるもの)、心理的要因などが原因になりうると考えている専門家もいます。しかし、これらの病態のいずれについても、一過性全健忘の原因となることを示す確固たる科学的証拠はありません。
一過性全健忘は以下のような出来事がきっかけで起こります。
突然冷水または熱湯に浸かる
身体活動
感情的または精神的ストレス
痛み
医学的な処置
性交
バルサルバ法(排便時のいきみのように、息が漏れないようにした状態で思い切り息を吐き出そうとする動作)
しかし、引き金になった要因は特定されないのが通常です。
以下のものは一過性全健忘に似た症状を引き起こすことがあります。
大量のアルコールを摂取する
特定の鎮静薬(バルビツール酸系薬剤など)をやや多目に服用する
いくつかの違法薬物を使用する
ときに、比較的少量のベンゾジアゼピン系薬剤(鎮静薬)、特にミダゾラムやトリアゾラムを服用する
一過性全健忘の症状
一過性全健忘の患者では、新しい記憶を維持する能力と、発症後に起こった出来事を思い出す能力が突然かつ一時的に失われます。患者は不安で用心深くなり、新しいことを覚えられないため、しばしば同じ質問や言い回しを繰り返します。時間や場所について混乱がみられることもありますが、周りの人が誰であるかについて混乱することは通常ありません。記憶に依存しない質問に対してであれば、筋道の通った回答ができます。発症前に起こった出来事を一部忘れることもあります。
記憶障害の持続時間は通常は1~8時間ですが、30分の場合もあれば、まれですが最長で24時間続くこともあります。
けいれん発作や片頭痛が原因でない限り、一過性全健忘は大半の患者で生涯に1度しか発生しません。再発する人の割合は約5~25%です。
健忘が終息すれば、混乱はすぐに収まり、完全に回復するのが原則ですが、発症中に起こったことは覚えていない場合があります。
飲酒や薬剤に起因する一時的な健忘は、一過性全健忘と同じように、集中力、明瞭な思考、新しい記憶を形成して保存する能力を損ないます。しかし、以下の点で一過性全健忘と異なります。
飲酒や薬剤摂取の直前や、その影響を受けていた最中に起きた出来事のみを忘れる。
混乱がみられるのは、患者がアルコールや薬物の影響下にある間だけである。
通常、健忘症が再発するのは、同量のアルコールまたは同量の薬剤を摂取した場合のみである。
一過性全健忘の診断
医師による評価
CT検査やMRI検査などの画像検査
通常、一過性全健忘の診断は主に症状に基づいて下されます。突然の健忘のその他の原因を調べるために、以下のような検査も行われます。
飲酒と凝固障害を調べる血液検査
違法薬物を確認する尿検査
CT検査やMRI検査などの脳画像検査
側頭葉のけいれん発作は一時的に記憶を損なうため、医師は脳波検査により発作を示唆する脳の異常な電気的活動がないか調べます。
一過性全健忘が最初に起こったときには、MRI検査で特定の異常はみられません。しかし、数日後、記憶の形成と想起に重要な脳の領域(海馬)に、MRI検査で小さな点が現れることがあります。このような点は、血流が減少している小領域を表している可能性があり、健忘の原因である可能性があります。
一過性全健忘の治療
原因が特定されれば、その治療
一過性全健忘に対する特別な治療法はありません。影響が持続することはなく、再発することはまれです。
一過性全健忘の原因が特定されればその治療を行います。例えば、けいれん発作が原因の場合は、抗てんかん薬が使用されます。