人工関節に細菌が感染することがあります。
細菌が手術中や手術後に人工関節に感染して、結果として感染症を引き起こすことがあります。
症状としては痛み、腫れ、可動域制限などがみられます。
診断は症状と診察および複数の検査の結果に基づいて下されます。
特定の手術を行う前に抗菌薬を投与することで、人工関節の感染を予防できることがあります。
感染した人工関節は交換する必要があり、長期間にわたり抗菌薬の投与が必要です。
人工関節の感染性関節炎の原因
人工関節の感染性関節炎の症状
人工関節の感染症でみられる症状は痛みや腫れ、可動域の制限などで、体温の上昇はみられないことがあります。
感染症の症状が始まる数週間前に転倒していたというケースもあります。
約20%の患者では、人工関節について何らかの修正を行う手術を受けた後に症状が始まります。
一部の患者では、安静時やその関節で体重を支えているときに持続的な関節痛が起きることがあり、手術後の回復が何カ月も順調に進んでいた後にこうした痛みが出ることもあります。
人工関節の感染性関節炎の診断
関節液の分析と培養
X線検査と場合により骨シンチグラフィーまたは白血球シンチグラフィー
人工関節の感染症は、症状と診察および複数の検査の結果に基づいて診断されます。
医師は人工関節の診察をして、瘻孔ができていないか確認します。瘻孔とは、関節から皮膚までつながった異常な孔のことで、感染が起きている場合にできることがあります。
針で関節液のサンプルを採取し(関節穿刺)、白血球の増加が起きていないかを検査室で調べ、細菌などの微生物について調べる検査を行います。検査室では、感染している細菌を増殖させて種類を特定します(培養といいます)。
通常はX線検査を行い、人工関節がゆるくなっていないか、新しい骨ができ始めていないかを確認します。骨シンチグラフィー(放射性テクネチウムを注入した後に作成される画像)または白血球シンチグラフィー(放射性ヨードで標識した白血球を静脈に注射した後に作成される画像)も行われことがあります。
他の検査で感染を否定できなかった場合は、手術を行って人工関節周囲の組織を採取し、それを培養と分析のために検査室に送ります。
人工関節の感染性関節炎の予防
特定の処置を受ける前の抗菌薬の服用
人工関節を入れている人は、医学的な処置を受ける前に抗菌薬による予防(予防投与といいます)が必要かどうかについて、かかりつけの歯科医や医師と話し合うべきです。抗菌薬の予防投与を行うことがある処置としては、歯や消化器、尿路の処置などがあります。
関節の置換手術を行う前に、体内に黄色ブドウ球菌( Staphylococcus aureus)がいないか確認することもあります。鼻の内側から綿棒でサンプルを採取し、細菌について検査をします。この細菌が検出された場合は、抗菌薬の軟膏を鼻の内側に塗ると、感染予防の役に立ちます。
人工関節の感染性関節炎の治療
人工関節の交換
長期間の抗菌薬療法
人工関節の感染症を完全に治療するには、長い時間がかかります。
通常は、感染した人工関節の全体または一部を取り出し(人工関節再置換術)、その周辺の骨セメント、蓄積した膿(膿瘍)、および感染した組織も取り除きます。その後すぐに新しい人工関節を埋め込むか、もしくは、抗菌薬で満たされたスペーサーを挿入しておき、2~4カ月後に新しい人工関節と抗菌薬入りの骨セメントを埋め込みます。どちらの場合も、長期間の抗菌薬療法が必要です。すぐに交換した場合か数カ月遅らせた場合かを問わず、新しい人工関節の多く(半数以下ではあります)にも感染が起こります。
患者が手術に耐えられない場合は、長期間の抗菌薬療法だけを試すことがあります。
感染が制御できなかったり、骨の喪失が多すぎたりするために、人工関節やその一部を取り除くことがあります。この手術の後には、その関節を形成する骨同士を固定する場合もあります。
まれに、他のどの方法でも感染を制御できない場合には、その関節がある部分で腕や脚を切断しなければならないことがあります。