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遺伝子治療

執筆者:Quasar S. Padiath, MBBS, PhD, University of Pittsburgh
レビュー/改訂 修正済み 2023年 6月
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遺伝子治療は、遺伝子の機能を変化させる治療と定義されていますが、多くの場合、特定の遺伝性疾患があるために遺伝子の正常なコピーをもたない人の細胞に正常な遺伝子を挿入する治療と考えられています。この手法は遺伝子導入療法と呼ばれています。

遺伝子導入療法では、他者から提供された正常なDNA(デオキシリボ核酸)からPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いて正常な遺伝子のコピーを作製することができます。現在のところ、このような遺伝子導入療法は、嚢胞性線維症のような単一遺伝子疾患の予防や治療に最も効果的と考えられています。(遺伝子と染色体も参照のこと。)

正常なDNAを人間の細胞に挿入する方法はいくつかあります。

ウイルスを用いた遺伝子導入

1つはウイルスを用いる方法で、一部のウイルスが遺伝物質を人間のDNAに挿入する能力をもっていることを利用します。正常なDNAを化学反応でウイルス内に挿入した後、人間の細胞に感染させると、DNAをその細胞の核に入れることができます(遺伝子導入/トランスフェクション)。

ウイルスを用いた挿入に関する懸念の1つは、感染症と同様に、ウイルスに対する反応が起こる可能性です。もう1つの懸念は、一定期間の後に、新しい正常なDNAが「失われ」たり新しい細胞に挿入できなくなったりして、遺伝性疾患が再発することです。また、ウイルスに対する抗体が生産され、臓器移植後の拒絶反応に似た反応を起こす可能性があります。

リポソーム

遺伝子を挿入する別の方法では、リポソームを使用しますが、これは脂質(脂肪)の層できた微小な袋です。リポソームは中にDNAが入るように形づくることができ、人間の細胞に取り込まれせることで、そのDNAを細胞の核まで運ぶことができます。この方法はときに、リポソームが細胞に取り込まれない、新しい遺伝子が意図した通りに働かない、新しい遺伝子が次第に失われるなどの理由で、うまく機能しないことがあります。

アンチセンス技術

また別の遺伝子治療法では、アンチセンス技術を使用します。アンチセンス技術では、正常な遺伝子を挿入するのではなく、単に異常な遺伝子を働かないようにします。アンチセンス技術を用いると、DNAの特定の部位に改変したRNA分子を結合させることができ、それにより変異した遺伝子が機能するのを妨げます。アンチセンス技術は現在、脊髄性筋萎縮症デュシェンヌ型筋ジストロフィーの使用に用いられています。がん治療や一部の神経疾患の治療としても試験されていますが、まだまだ実験的な段階です。遺伝子導入療法より効果的で安全な治療法になる可能性があります。

化学修飾

遺伝子治療の別のアプローチとしては、遺伝子の発現をコントロールしている細胞内の化学反応を化学物質で変化させることで、特定の遺伝子の活性を上昇または低下させます。例えば、メチル化という化学反応を変化させると、遺伝子の機能が変化し、特定のタンパク質の生成量が増減したり、異なる種類のタンパク質が生成されたりするようになります。これらの方法は一部のがんの治療で試験的に利用されています。

移植治療

遺伝子治療は、移植手術においても実験的な研究が行われています。移植臓器の遺伝子に変更を加えてレシピエント(移植を受ける人のこと)の遺伝子と適合しやすくすることで、移植臓器に対する拒絶反応が起こる可能性を下げることができます。これにより、重篤な副作用の可能性がある免疫抑制薬をレシピエントに使用せずに済む可能性があります。ただし、これまでのところ、この種の治療は基本的に不成功に終わっています。

CRISPR-CAS9

CRISPR–Cas9とは、clustered regularly interspaced short palindromic repeats–CRISPR-associated protein 9の略です。CRISPR-CAS9は、DNAの鎖を正確に切断する遺伝子編集ツールで、切断後に通常のDNA修復過程が起こることで、新たに挿入したい遺伝子がDNAに取り込まれます。この手法はまだ実験段階にありますが、遺伝子異常を修復するための試みとして、いくつかのヒト胚に対して治療が実施されています。

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