部位別にみた脳の機能障害

執筆者:Juebin Huang, MD, PhD, Department of Neurology, University of Mississippi Medical Center
レビュー/改訂 2021年 12月
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脳の個々の領域はそれぞれ特有の機能を制御しているため、損傷を受けた部位によって、どのような機能障害が起こるかが決まります。

脳の部位

脳の左半分と右半分(大脳半球)は、機能がまったく同じというわけではないため、左右のどちら側に損傷が起きたかという情報も重要です。脳の機能の中には、完全に片方の大脳半球だけで制御されているものがあります。例えば、体の運動と感覚は、左半身が右の大脳半球、右半身が左の大脳半球によって制御されています。また、大部分が片方の大脳半球で制御されている機能もあり、この場合、そちら側をその機能について優位であるといい、反対側を非優位であるといいます。例えば、言語はほとんどの人で主に左側の大脳半球によって制御されており、これは言語機能の左半球優位性と呼ばれます。このような機能は、一方の大脳半球だけの損傷で完全に失われることがあります。

しかし、ほとんどの機能(記憶など)は、左右両方の大脳半球にある複数の領域が協調することで成り立っています。そのような機能は、両方の大脳半球が損傷しない限り、完全に失われることはありません。

機能障害がどのようなパターンを示すかは、損傷を受けた脳の領域に関連していることがあります。

通常は、診察によって機能障害の種類を診断できます。医師は、脳の特定の機能を評価するための質問をします。損傷の原因を特定するには、通常はCT検査やMRI検査などの画像検査が必要です。

前頭葉の損傷

前頭葉には以下の機能があります。

  • 様々な行為を開始する

  • 習得した動作をコントロールする(字を書く、楽器を演奏する、靴ひもを結ぶなど)

  • 複雑な知的過程をコントロールする(話す、考える、集中する、問題を解く、将来の計画を立てるなど)

  • 顔の表情や手と腕の動きをコントロールする

  • 気分や感情に合わせて表情や身振り手振りを変える

一般に、前頭葉が損傷を受けると、問題を解決する能力や、計画を立てたり行動を起こしたりする能力が失われます。例えば、道路を横断したり、複雑な問いに答えること(遂行機能と呼ばれることもあります)ができなくなります。しかし、前頭葉の損傷を受けた部位に応じて、特有の障害がみられることもあります。

前頭葉の後部(随意運動を制御している部位)が損傷を受けると、筋力低下または麻痺が起こります。左右の脳は、それぞれ反対側の体の動きを制御しているため、左の大脳半球が損傷すると体の右側に、右の大脳半球が損傷すると体の左側に筋力低下が起こります。

前頭葉の中間部が損傷を受けると、無関心、注意力の低下、意欲の低下などの症状が現れ、思考が鈍くなり、質問への応答が非常に遅くなります。

前頭葉の中間部後方の部位(ブローカ野)が損傷すると、言葉でものごとを表現することが困難になる場合があり、これをブローカ失語(運動性失語)と呼びます。

前頭葉の前部が損傷を受けると、以下の症状が現れる可能性があります。

  • 得た情報を処理するために一時的に保持すること(作業記憶といいます)が難しくなる

  • 流暢に話せなくなる

  • 無関心(感情、興味、関心の欠如)

  • 注意散漫

  • 質問への反応が遅れる

  • 社会的に不適切な行動など、著しい自制の欠如

自制が働かなくなると、不適切な状況で陽気(多幸)になったり、抑うつ状態になったり、過度に口論好きあるいは過度に消極的になったり、下品になったりします。また、自分の行動がもたらす結果に関心を示さなくなります。何度も同じことを話すようになる場合もあります。年をとったり、認知症を発症したりすると、同様の症状がみられることがあります。そのような症状は、前頭葉の変性によって生じている可能性があります。

脳の特定の領域が損傷すると…

脳の各領域は、それぞれ特定の機能を制御しています。そのため、損傷を受けた脳の部位によって、失われる機能が異なります。

頭頂葉の損傷

頭頂葉には以下の機能があります。

  • 体の他の部位から送られてくる感覚情報を解釈する

  • 形、手触り、重さの印象を総合的な知覚としてまとめる

  • 数学的な技能や言語の理解に影響を与える

  • 位置の把握(今どこにいるか)と方向感覚の維持(どこに向かっているか)に必要な空間記憶を保存する

  • 体の各部分の位置や姿勢を把握するための情報を処理する

特定の機能は、片側の頭頂葉(通常は左側)によって強く制御されている傾向があり、言語を支配している場合はそちら側が優位側とみなされます。反対側の頭頂葉(非優位側)には、別の機能があり、身体とその周囲の空間との関係の認識などに関わっています。

片側の頭頂葉前部が損傷を受けると、体の反対側にしびれと感覚障害が起こります。感覚の場所と種類(痛み、熱さ、冷たさ、振動)を識別するのが困難になります。物を手で触って(すなわち肌触りや形状によって)認識するのが困難になることもあります。

頭頂葉の中間部が損傷を受けると、左右の区別がつかなくなったり(左右失認)、計算や文字を書くことができなくなったりします。体の各部位がどこにあるのかを感じること(固有感覚と呼びます)ができなくなることもあります。

非優位側(通常は右側)の頭頂葉が損傷を受けると、くしで髪をとく、服を着るなどの簡単な動作ができなくなることがあり、これを失行といいます。空間内の物の位置関係を把握できなくなることもあります。その結果、何かを描くことや作ることが難しくなったり、自宅の近所で道に迷ってしまうこともあります。このような人は自身の病気の深刻さを気に留めなかったり、病気があることを否定したりすることもあります。脳の損傷とは反対側(通常は左側)にある部分を無視することもあります。

側頭葉の損傷

側頭葉には以下の機能があります。

  • 記憶と感情を生み出す

  • 起きたばかりの出来事を最近の記憶や長期の記憶に加工する

  • 長期記憶の保存や呼び出しを行う

  • 音と映像を理解し、人物や物の認識や、聞くことと話すことの統合を可能にする

ほとんどの人では、言語の理解は左側頭葉の一部によって制御されています。その部位に損傷を受けると、言葉の記憶や言語の理解能力が著しく障害されることがあり、これをウェルニッケ失語(感覚性失語)(表「失語症患者の検査」を参照)と呼びます。

右側頭葉の特定の領域が損傷を受けると、音や音楽の記憶が障害されることがあります。その結果、歌うことが難しくなることがあります。

後頭葉の損傷

後頭葉には、視覚情報を処理する中枢があります。

後頭葉には以下の機能があります。

  • 視覚情報を処理して解釈する

  • 視覚的記憶の形成を可能にする

  • 視覚情報を隣接する頭頂葉から送られてくる空間的な情報と統合する

両側の後頭葉が損傷を受けると、眼は正常に機能しているにもかかわらず、視覚によって物を認識することができなくなります。これは皮質盲と呼ばれます。皮質盲の人の中には、自分がものを見えていないことに気づいていない人もいます。そのかわり、しばしば見ているものについての説明を創作します(作話と呼ばれます)。この病気はアントン症候群と呼ばれています。

後頭葉が関与するけいれん発作は、視覚的な幻覚を引き起こします。例えば、特定の方向を見たときに色の付いた線が見えることがあります。

大脳辺縁系

大脳辺縁系には、大脳の奥深くに位置する複数の構造と、それらに隣接する脳葉(側頭葉など)の一部が含まれます。それらの構造には以下の機能があります。

  • 脳の多くの領域から情報を受け取って統合し、感情の体験や表現を可能にする

  • 記憶の形成と想起を助ける

  • 記憶の形成にあたり、経験された感情と記憶を結びつけるプロセスを補助する

大脳辺縁葉が損傷すると、通常は様々な問題が生じます。

大脳辺縁系の側頭葉領域の損傷に起因する発作は、通常数分間しか持続しません。最初は、患者は感情を制御したり、明晰に思考したりできなくなる可能性があります。あるいは、実際にはない悪臭を感じることもあります(一種の幻覚)。ぼーっとして周囲の状況に気がつかず、飲み込む仕草や唇でピシャピシャ音を立てる動作を繰り返すなど、不随意な動きをすることがあります。発作中には、ユーモアがなくなる、極端に信心深くなる、強迫観念を抱くなどの、人格の変化が生じることもあります。また、何かを書かなければならないという抗いがたい衝動が起きることもあります。

その他の部位

脳の機能の多くは、脳の1つの領域ではなく、共同で機能する複数の領域(ネットワーク)によって実行されています。このネットワークが破壊されると以下の症状が起こります。

  • 失認(1つまたは複数の感覚で物体を識別する能力が失われる障害)

  • 健忘(体験または出来事をまったく覚えていなかったり、部分的に思い出せなかったりする障害)

  • 失語(会話や文字でものごとを表現したり、理解したりする能力が部分的または完全に失われる障害)

  • 失行(パターンや順序を覚える必要がある作業を行う能力が失われる障害)

構音障害(言葉を明瞭に表現する能力を失うこと)は、発話に関与する筋肉を制御している脳の領域または脳神経の損傷、もしくは、それらの領域をつなぐ神経線維の損傷によって引き起こされることがあります。

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