鉄中毒

執筆者:Gerald F. O’Malley, DO, Grand Strand Regional Medical Center;
Rika O’Malley, MD, Grand Strand Medical Center
レビュー/改訂 2022年 6月
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鉄中毒は,小児における中毒死の主要な原因である。症状は,急性胃腸炎に始まり,続いて無症状期,その後ショックおよび肝不全を来す。診断は,血清鉄の測定,消化管内の放射線不透過性の鉄錠剤の検出,または鉄中毒を示唆する他の所見のある患者における説明のつかない代謝性アシドーシスの検出により行う。大量摂取の治療は,通常は全腸管洗浄およびデフェロキサミン静注によるキレート療法である。

中毒の一般原則も参照のこと。)

一般的に使用されるOTC医薬品の多くが鉄を含有している。OTC薬および処方製剤に使用される多くの鉄化合物のうち,以下のものが最も一般的である:

  • 硫酸第一鉄(20%元素鉄)

  • グルコン酸鉄(12%元素鉄)

  • フマル酸第一鉄(33%元素鉄)

鉄剤の錠剤は小児にはキャンディーに見えることがある。小児における致死的な鉄摂取の大半では,妊婦用の総合ビタミン剤が原因となっている。鉄を含有するチュアブル錠の小児用総合ビタミン剤は通常,含有量が非常に少ないため,毒性の発生はまれである。

鉄中毒の病態生理

鉄は消化器系,心血管系,および中枢神経系に対して毒性を示す。具体的な機序は明らかでないが,過剰の遊離鉄は酵素的プロセスに取り込まれ,酸化的リン酸化を阻害して代謝性アシドーシスを引き起こす。鉄はフリーラジカル形成も触媒し,酸化剤として作用し,血漿タンパク質結合が飽和している場合には,水と結合して水酸化鉄と遊離H+イオンを形成し代謝性アシドーシスを悪化させる。凝固障害は,凝固カスケードが阻害されるため早期に現れる場合と,肝障害が原因となり遅れて現れる場合とがある。

毒性は摂取した元素鉄の量に依存する。元素鉄は20mg/kgまでは毒性はなく,20~60mg/kgでは軽度から中等度の毒性を示し,60mg/kgを超えると重度の症状および病的状態を来す可能性がある。

鉄中毒の症状と徴候

鉄中毒の症状は5段階で生じるが(鉄中毒の病期の表を参照),症状およびその進行にはかなりのばらつきがある。1期の症状の重症度は通常,中毒の全般的な重症度を反映し,後期症状は,1期の症状が中程度または重度の場合にのみ発生する。摂取後6時間以内に症状が現れなければ,重篤な毒性のリスクは非常に低い。摂取後6時間以内にショックおよび昏睡が発生した場合,死亡率は約10%である。

表&コラム
表&コラム

鉄中毒の診断

  • 腹部X線

  • 摂取から3~4時間後の血清鉄,電解質,およびpHの測定

混合摂取(鉄はあらゆるものに含まれるため)の場合,および鉄を摂取可能で,説明のつかない代謝性アシドーシスまたは重症もしくは出血性の胃腸炎がみられる年少の小児の場合は,鉄中毒を考慮すべきである。小児はものを分け合うことが多いため,鉄を摂取した年少の小児の同胞および遊び友達を評価すべきである。

通常,摂取を確認するために腹部X線が推奨される;これによって錠剤のままの鉄剤または鉄結石は検出されるが,噛み砕かれ溶解した錠剤,液状鉄剤,総合ビタミン剤中の鉄は検出されない。摂取後3~4時間の時点で血清鉄,電解質,およびpHを測定する。摂取が疑われ,かつ以下のいずれかを伴う場合は毒性とみなす:

  • 嘔吐および腹痛

  • 血清鉄濃度 > 350μg/dL(63μmol/L)

  • X線上で視認できる鉄

  • 原因不明の代謝性アシドーシス

こうした鉄濃度は毒性を示唆している可能性があるが,鉄濃度だけでは毒性は正確に予測されない。総鉄結合能はしばしば不正確であり,重篤な中毒の診断には役に立たず,推奨されない。最も正確なアプローチは,鉄および重炭酸塩の血清中濃度とpH(アニオンギャップの計算とともに)を繰り返し測定することであり,それらの値を総合して評価すると,その結果は患者の臨床状態と相関する。例えば,鉄濃度の上昇,アニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシス,症状の悪化,またはより典型的にはこれらの所見が複数認められると,毒性が示唆される。

デフェロキサミン負荷試験は感度が低いため,鉄過剰摂取の疑い例の評価にはもはや推奨されていない。この検査では,鉄キレート薬であるデフェロキサミンを筋肉内投与してから一連の尿検体を評価して,排泄されるフェリオキサミンに起因した特徴的なオレンジ色または赤褐色(ロゼワイン色)の着色を検出するものであった。

医学計算ツール(学習用)

鉄中毒の治療

  • 全腸管洗浄

  • 重度の毒性に対して,デフェロキサミンの静注

放射線不透過性の錠剤が腹部X線でみられる場合は,繰り返しの腹部X線で鉄がみられなくなるまで,ポリエチレングリコール(成人で1~2L/時,小児で25~40mL/kg/時)により全腸管洗浄を行う。そのような大量の投与には経鼻胃管による投与が必要になることがあり,気道を保持するように注意する必要がある;挿管が必要になる場合がある(気管挿管を参照)。胃洗浄は,嘔吐の方が効率よく胃を空にするため,通常役に立たない。活性炭は鉄を吸着しないので,他の毒性物質も摂取した場合にのみ使うべきである。

軽度を超える胃腸炎がある患者は全て入院させる。重度の毒性(代謝性アシドーシス,ショック,重度の胃腸炎,または血清鉄濃度が500μg/dL[89.5μmol/L]を超える)がみられる患者は,血清中の遊離鉄をキレートするデフェロキサミン静注で治療する。デフェロキサミンは最高15mg/kg/時で静注し,低血圧が生じるまで用量を調節する。デフェロキサミンおよび鉄中毒のいずれも血圧を低下させるため,デフェロキサミンの投与を受ける患者には輸液による水分補給が必要である。

要点

  • 他の肝毒性物質の一部と同様,鉄毒性は胃腸炎を引き起こすことがあり,続く無症状期の後にショックおよび肝不全を来す。

  • 混合摂取(鉄はあらゆるものに含まれるため)の場合,および鉄を摂取可能で,説明のつかない代謝性アシドーシスまたは重症もしくは出血性の胃腸炎がみられる年少の小児の場合は,鉄中毒を疑う。

  • 鉄濃度の上昇,代謝性アシドーシス,症状の悪化,またはこれらの組合せがあれば,重度の毒性を疑う。

  • 腹部X線検査で放射線不透過性の鉄製品がみられなくなるまで全腸管洗浄を行う。

  • 重度の中毒(例,代謝性アシドーシス,ショック,重度の胃腸炎,血清鉄濃度が500μg/dL[89.5μmol/L]を超える)の治療には,デフェロキサミンを静注する。

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