性染色体異常の概要

執筆者:Nina N. Powell-Hamilton, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2021年 12月
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性染色体異常には性染色体の異数性,部分欠失,または重複が関与し,モザイクの場合もある。

    染色体異常症の概要も参照のこと。)

    性染色体異常はよくみられ,様々な先天性形成異常や発育異常を合併する症候群の原因となっている。その大多数は出生前から疑われることはないが,母体年齢が高いなどの他の理由で実施された核型分析の際に偶然発見されることがある。出生時に異常を認識することも困難である場合が多く,思春期まで診断されないこともある。

    X染色体異常の影響は,同様の常染色体異常による影響ほど大きくはない。X染色体を3つ有する女性は,身体的および精神的に正常に見える場合が多く,妊娠も可能である。対照的に,既知の常染色体トリソミーはいずれも壊滅的な影響を及ぼす。同様に,常染色体1つの欠損は例外なく致死的であるのに対し,X染色体1つの欠損(Xモノソミー)は特定の症候群(ターナー症候群)を引き起こす。

    リオンの仮説(X染色体の不活化)

    女性はX染色体を2つもっているため,X連鎖遺伝子を2つの遺伝子座で保有するのに対し,男性はそれらを1つの遺伝子座でしか保有していない。この不均衡によって遺伝子の「量」の問題が生じるようにも考えられる。しかしながら,リオンの仮説によれば,女性では胎生初期(16日目付近)に各体細胞の2つのX染色体の一方が遺伝学的に不活化される。実際には,存在するX染色体の数とは無関係に,1つを除く全てが不活化される。しかしながら,不活化されたX染色体(複数ある場合も同様)上でも一部の遺伝子は機能を維持しており,それら数個の遺伝子が女性の正常な発育に不可欠であることが,分子遺伝学的研究によって示されている。XISTはX染色体上の遺伝子の不活化を担う遺伝子で,不活化の引き金となるRNAを産生する。

    父親由来と母親由来のどちらのX染色体が不活化されるかは,不活化時の各細胞において通常はランダムに決定されるが,それ以降は全ての子孫細胞において同じ側のX染色体が不活化した状態を維持する。したがって,全ての女性はモザイクであり,母親由来のX染色体が活性をもつ細胞と父親由来のX染色体が活性をもつ細胞が混在した状態である。

    パール&ピットフォール

    • X染色体の不活化は不規則であるため,全ての女性はモザイクであり,母親由来のX染色体が活性をもつ細胞と父親由来のX染色体が活性をもつ細胞が混在した状態である。

    不活化時点で存在している比較的少数の細胞における不活化発生の統計学的分布はランダムであるが,その結果として,ときに特定の派生組織では母親由来または父親由来のX染色体の活性の一方が優勢になるという事態が起こりうる(不活化の偏り)。この不活化の偏りによって,血友病や筋ジストロフィーなどのX連鎖疾患を有するヘテロ接合体の女性でときに症状が軽微となる現象を説明することができる(活性X染色体の分布が50:50であれば,全て無症状になると推測される)。また,不活化の偏りは不活化後の淘汰によっても起こりうる。

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