住血吸虫症は,血管寄生吸虫である住血吸虫属(Schistosoma属)による感染症であり,汚染された淡水中での遊泳または歩行により経皮的に感染する。住血吸虫は消化管または泌尿生殖器系の脈管に寄生する。急性症状は皮膚炎で,その数週間後に発熱,悪寒,悪心,腹痛,下痢,倦怠感,および筋肉痛が起こる。慢性症状は種により異なるが,血性下痢(例,マンソン住血吸虫[S. mansoni],メコン住血吸虫[S. mekongi],インターカラーツム住血吸虫[S. intercalatum],および日本住血吸虫[S. japonicum])または血尿(例,ビルハルツ住血吸虫[S. haematobium])などがある。診断は便,尿,または生検検体での虫卵の同定による。血清学的検査は感度かつ特異度が高い可能性があるが,感染虫体数または臨床状態に関する情報は得られない。治療はプラジカンテルによる。
吸虫は種によって様々な部位(例,血管,消化管,肺,肝臓)に寄生する扁形動物である。
世界保健機関(World Health Organization :WHO)および米国疾病予防管理センター(Center for Disease Control and Prevention:CDC)の住血吸虫症に関する健康情報も参照のこと。
住血吸虫症の病因
住血吸虫症は群を抜いて最も重要な吸虫感染症である。住血吸虫(Schistosoma)は経皮的に侵入する唯一の吸虫であり,他の吸虫は全て経口摂取により感染する。世界中で2億人以上が感染している(CDC: About Schistosomiasisを参照)。
5種の住血吸虫がヒトに感染する;いずれも淡水の巻貝が関わる類似の生活環を有する。ビルハルツ住血吸虫(S. haematobium)は尿路疾患を引き起こし,その他の住血吸虫(Schistosoma)は腸疾患を引き起こす。
ヒトに感染する住血吸虫の地理的分布は以下のように種によって異なる:
ビルハルツ住血吸虫(S. haematobium):アフリカ大陸全域に広く分布し,中東,トルコ,およびインドに小規模の発生地がある。
マンソン住血吸虫(S. mansoni):アフリカに広く蔓延し,中東で発生地があり,南米の一部およびカリブ諸島の一部にみられる西半球で唯一の種である。
日本住血吸虫(S. japonicum):アジア,主に中国,フィリピン,タイ,およびインドネシア
メコン住血吸虫(S. mekongi):東南アジア
インターカラーツム住血吸虫(S. intercalatum):中央アフリカおよび西アフリカ
ヒトが主な病原体保有生物である。日本住血吸虫(S. japonicum)の病原体保有生物はイヌ,ネコ,齧歯類,ブタ,ウマ,およびヤギであり,メコン住血吸虫(S. mekongi)の病原体保有生物はイヌである。これらの種の伝播は米国(プエルトリコを含む)およびカナダでは発生していないが,流行地域からの旅行者および移民でみられることがある。
住血吸虫症の病態生理
住血吸虫(Schistosoma)属の成虫は腸間膜の細静脈内(典型的にはメコン住血吸虫[S. mekongi],インターカラーツム住血吸虫[S. intercalatum],日本住血吸虫[S. japonicum],およびマンソン住血吸虫[S. mansoni]で典型的)または膀胱の細静脈内(典型的にはビルハルツ住血吸虫[S. haematobium])に生息して交接する。一部の虫卵は,腸管または膀胱の粘膜を通過して便中または尿中に排出される;また一部の虫卵は,宿主の臓器内にとどまるか,門脈系を介して肝臓やときに他の部位(例,肺,中枢神経系,脊髄)に運ばれる。排出された虫卵は淡水中で孵化してミラシジウム(第1期幼虫)を放出し,これが巻貝に侵入する。増殖後に何千もの自由遊泳性の二股の尾をもつセルカリアが放出される。
セルカリアは曝露後数分以内にヒトの皮膚に侵入する。ヒトの皮膚に侵入したセルカリアは二股の尾を失って幼住血吸虫に変態し,血流を介して肝臓に到達し,そこで成虫に成熟する。その後,成虫は最終的な生息部位である腸管の静脈または泌尿生殖器の静脈叢に移行する。
虫卵はセルカリアが皮膚から侵入した1~3カ月後に便中または尿中に現れる。
成虫の寿命は3~7年と推定される。雌虫の体長は7~20mmであり,雄虫はそれよりも若干小さい。
Image from the Centers for Disease Control and Prevention, Global Health, Division of Parasitic Diseases and Malaria.
住血吸虫症の症状と徴候
急性住血吸虫皮膚炎
大半の感染は無症状である。セルカリアが侵入した部位の皮膚にそう痒を伴う丘疹(セルカリア皮膚炎)が発生する可能性がある。
急性片山熱
片山熱は,産卵の開始とともに(典型的には大量曝露後2~4週間後に)発症することがある全身性の過敏反応である。症状としては,発熱,悪寒,咳嗽,悪心,腹痛,倦怠感,筋肉痛,蕁麻疹,著明な好酸球増多などがあり,血清病に類似する。流行地域の在住者よりも外来者で症状がみられる頻度が高く,通常より重度で,典型的には数週間続く。
慢性住血吸虫症
慢性感染は流行地域での繰り返す曝露が原因であることが最も多いが,旅行者などでみられるような短時間の曝露でも起こりうる。慢性住血吸虫症は,主として組織内に残留した虫卵に対する肉芽腫性の宿主応答に起因する。
腸管住血吸虫症(intestinal schistosomiasis):初期には,マンソン住血吸虫(S. mansoni),日本住血吸虫(S. japonicum),メコン住血吸虫(S. mekongi),またはインターカラーツム住血吸虫(S. intercalatum)により引き起こされた腸管粘膜の潰瘍が出血して血性下痢に至ることがある。病変が進行するにつれて,腸管の限局性線維化,狭窄,瘻孔,および乳頭腫状増殖を来しうる。
肝脾住血吸虫症(hepatosplenic schistosomiasis):肝内のマンソン住血吸虫(S. mansoni),日本住血吸虫(S. japonicum),メコン住血吸虫(S. mekongi),およびインターカラーツム住血吸虫(S. intercalatum)の虫卵に対する肉芽腫性反応は,通常は肝機能を損なわないが,線維症および肝硬変を引き起こすことがあり,それにより門脈圧亢進症を来し,結果として脾腫や食道静脈瘤が生じる可能性がある。食道静脈瘤が出血して,吐血がみられることがある。
肺内の虫卵は肉芽腫および限局性の閉塞性動脈炎を引き起こすことがあり,これが最終的に肺高血圧症および肺性心に至ることがある。
ビルハルツ住血吸虫(S. haematobium)の膀胱内感染では,膀胱壁に潰瘍が生じて排尿困難,血尿,および頻尿がみられることがある。時間の経過とともに,慢性膀胱炎を来す。狭窄から水尿管症および水腎症に至ることがある。膀胱に乳頭腫様の腫瘤がよくみられ,膀胱に扁平上皮癌が発生しうる。
女児および女性における性器住血吸虫症では,卵管だけでなく外陰,腟,および子宮頸部も侵されることがある。性器住血吸虫症は,性器および婦人科診察時の性器出血,性交中の痛み,不妊症,異所性妊娠,流産,およびHIV感染リスクの増大につながる可能性がある(1)。男性における精巣上体,精巣,精索,または前立腺への感染は,骨盤痛,性交痛,射精痛,血精液症,生器の異常な腫脹,および不妊症につながる可能性がある。
消化管および泌尿生殖器からの失血により,しばしば鉄欠乏性貧血を来す。
泌尿生殖器へのSalmonella属細菌の二次感染がよくみられ,持続性または反復性の感染に至ることもある。住血吸虫(Schistosoma)の少数寄生でも,神経学的合併症が生じることがある。脊髄に残留した虫卵または成虫は横断性脊髄炎の原因となることがあり,脳内の虫卵は限局性病変および痙攣発作を引き起こしうる。
症状と徴候に関する参考文献
1.Orish VN, Morhe EKS, Azanu W, et al: The parasitology of female genital schistosomiasis. Curr Res Parasitol Vector Borne Dis 2:100093, 2022.Published 2022 May 27.doi:10.1016/j.crpvbd.2022.100093
住血吸虫症の診断
便または尿(ビルハルツ住血吸虫[S. haematobium])検体の鏡検による虫卵の検出
抗原検査
血清学的検査
住血吸虫症の症状と疫学的に重要な曝露がみられる患者で,診断検査が適応となる。流行地域で淡水に曝露した人に対して,無症状者のスクリーニングが必要になる場合がある。
便または尿(ビルハルツ住血吸虫[S. haematobium])検体の鏡検で虫卵を検出することにより,住血吸虫症を診断し,寄生虫量を推定する。集卵法を用いた再検査を要することもある。地理情報は種を決定する主要因子であるため,曝露が起きた場所を検査室に通知すべきである。臨床像から住血吸虫症が示唆されるが,尿または便の反復検査をしても虫卵が発見されない場合には,埋入した虫卵の周囲にできる特徴的な肉芽腫を検出するために腸または膀胱粘膜を生検することもある。
血液,尿,または便中の住血吸虫抗原またはDNAを検出する検査は,住血吸虫の根絶プログラムおよび感染が疑われる旅行からの帰還者に特に有用である。大半の抗原検出検査は定量的であり,抗原の値は寄生虫量と相関する。マンソン住血吸虫(S. mansoni)に対する市販の尿試験紙など,一部の抗原検査は定性的である。
血清学的検査は,感染に対する感度および特異度が高いものの,感染虫体数,臨床状態,および予後に関する情報は得られず,感染症が活動性か治癒しているかの区別もできない。したがって,抗体検査は旅行帰還者の感染を検出するのに最も有用であり,流行地域の住民には役に立たない。旅行からの帰還者では,住血吸虫が成虫に成熟し,抗体が産生されるのを待つため,淡水への最後の曝露から6~12週間以上経過後に血清学的検査を行うべきである。
肝脾住血吸虫症(hepatosplenic schistosomiasis)は,便,腸組織,または生検で採取された肝組織から虫卵を検出することで診断可能であるが,そのような患者では虫卵の排出が間欠的になる可能性があるため,感度が一定でない。典型的には,肝臓の血液検査は正常である。超音波検査で門脈周囲の線維化と脾腫を認めることがある。
神経住血吸虫症(neuroschistosomiasis)は,神経への感染を示唆する臨床およびX線所見とともに神経以外の部位に感染が認められる場合に診断される。生検した中枢神経系病変内での住血吸虫の検出および/または髄液検体の抗体検査もしくはPCR検査での陽性判定も診断の決め手になる。
住血吸虫症の治療
プラジカンテル
プラジカンテルによる1日間経口治療が推奨されている(ビルハルツ住血吸虫[S. haematobium],マンソン住血吸虫[S. mansoni],およびインターカラーツム住血吸虫[S. intercalatum]に対しては20mg/kg,1日2回;日本住血吸虫[S. japonicum]およびメコン住血吸虫[S. mekongi]に対しては20mg/kg,1日3回)。プラジカンテルは住血吸虫の成虫には効果的であるが,感染早期にみられる発育中の幼住血吸虫には効果的でない。したがって,汚染されている可能性のある淡水に曝露したことがある無症状の旅行者に対しては,最後の曝露から6~8週間治療を遅らせる。プラジカンテルの有害作用は一般に軽度であり,腹痛,下痢,頭痛,めまいなどがある。治療失敗例が報告されているが,その原因が再感染によるのか,未熟な住血吸虫の耐性が比較的強いことによるのか,またはプラジカンテル耐性の住血吸虫の成虫によるのかを判断するのは難しい。
診断時点で虫卵が認められる場合は,治療の1~2カ月後に治癒を確認するためのフォローアップ診察が推奨される。その時点でも虫卵が認められる場合は,再び治療を行う。
急性住血吸虫症(片山熱)の治療は限られたデータに基づいている。コルチコステロイドにより重度の症状を改善できる;成人ではプレドニゾン20~40mg/日を5日間投与する治療が通常効果的である。症状が消失したら,プラジカンテルによる治療を上述の通り行い,寄生虫が成虫になってから4~6週間後に再度行う。
急性または慢性住血吸虫症と診断された時点で便中または尿中に虫卵が認められた患者では,治療後1~2カ月に生きた虫卵の有無を検査すべきである。熟練した鏡検者であれば,生きたミラシジウムの存在に基づいて,生きた虫卵を空の卵殻と鑑別することができる。生きた虫卵が認められる場合は,再治療の適応となる。
住血吸虫症の予防
汚染された淡水との接触を徹底して避けることで住血吸虫症を予防する。
住血吸虫症は汚染された水の嚥下によっては伝播しないが,口および口唇が汚染された水に接触することで感染に至る可能性がある。
入浴に使用する淡水は1分以上煮沸し,その後冷やしてから入浴すべきである。ただし,貯水タンクに1~2日間保管した水は煮沸なしでも安全なはずである。
汚染された水に誤って曝露した場合(例,川に落ちる)は,寄生虫が皮膚から侵入する前に除去すべく,タオルで徹底的に拭いて乾かすべきである。
尿および便の衛生的処理により感染の可能性が低減する。
流行地域在住の成人は再感染に対して小児より抵抗性であり,獲得免疫の可能性が示唆される。
流行地域では住血吸虫症を制御するために,プラジカンテルによる集団治療および学校での治療,教育プログラム,ならびに軟体動物駆除剤による巻貝の個体数削減が行われている。
現在ワクチン開発が進められている。
要点
住血吸虫(Schistosoma)は,経皮的に侵入する唯一の吸虫であり,世界で2億3000万人以上が感染している。
セルカリアは皮膚に侵入すると,二股の尾を失って住血吸虫となり,血流を介して肝臓に到達し,そこで成熟する;成虫は,腸管の静脈または泌尿生殖路の静脈叢に移動し,最終的にそこに住み着く。
肝臓内の虫卵は肉芽腫反応を惹起し,これが線維化および門脈圧亢進をもたらし,脾腫,食道静脈瘤,吐血の原因となる。
腸管内の虫体は血性下痢を引き起こし,膀胱内の虫体は血尿および慢性膀胱炎を引き起こす。
プラジカンテルで治療する。
感染を予防するには,流行地域での淡水との接触を避ける。
鳥類および動物の住血吸虫による皮膚炎
鳥類およびヒト以外の哺乳類に寄生する住血吸虫(Schistosoma)のセルカリアはヒトの皮膚を貫通することができる。このセルカリアはヒトの体内では発育しないが,感作が生じて,侵入部位にそう痒を伴う斑状丘疹状,または小水疱状の皮膚病変が出現することがある。皮膚病変は,全身性の発熱反応を伴うことがあり,これは5~7日間持続して自然に解熱する。
セルカリア皮膚炎は世界中で発生している。北米では,海水性の住血吸虫による皮膚炎(clam diggers’ itch)が大西洋,メキシコ湾,太平洋,およびハワイ沿岸の全域でみられる。ケープコッド沖の干潟ではよくみられる。淡水性の住血吸虫による皮膚炎(swimmer’s itch)は五大湖地域でよくみられる。
セルカリア皮膚炎の診断は臨床所見に基づく。大半の症例は医学的処置を必要としない。
セルカリア皮膚炎の治療は,冷罨法,重曹,または止痒ローションによる対症療法である。コルチコステロイドの外用剤も使用できる。