疼痛の治療

執筆者:James C. Watson, MD, Mayo Clinic College of Medicine and Science
レビュー/改訂 2022年 3月
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非オピオイドおよびオピオイド鎮痛薬が疼痛治療に主に用いられる薬剤である。抗うつ薬,抗てんかん薬,その他の中枢神経系作用薬も慢性疼痛や神経障害性疼痛に使用されており,一部の病態に対しては第1選択の治療となっている。薬剤の脊髄幹輸注(neuraxial infusion),神経刺激,および神経ブロックは選択された患者に役立つ可能性がある。

認知行動療法は,疼痛および疼痛に関連する障害を軽減し,患者の対処行動に役立つ可能性がある。認知行動療法には,患者の思考を疼痛の影響やそれによる制限から引き離し,個人的な対処戦略の開発へ集中させるためのカウンセリングが含まれ,患者と家族が協力して疼痛を管理できるよう支援するカウンセリングが行われることもある。

一部の統合(補完・代替)医療の手法(例,鍼治療バイオフィードバック,運動,催眠法リラクゼーション法)が用いられることもあり,特に慢性疼痛の治療に用いられることが多い。

疼痛の概要も参照のこと。)

非オピオイド鎮痛薬

アセトアミノフェンと非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は,しばしば軽度から中等度の疼痛に効果的である(非オピオイド鎮痛薬の表を参照)。これらの薬剤は経口投与されるが,イブプロフェン,ケトロラク,ジクロフェナク,およびアセトアミノフェンは非経口剤での投与も可能である。非オピオイド鎮痛薬では身体依存や耐性は生じない。

表&コラム
表&コラム

アセトアミノフェンは,抗炎症作用や抗血小板作用を示さず,胃の不快感も引き起こさない。

アスピリンは最も安価なNSAIDであるが,不可逆的な抗血小板作用を有し,消化管出血のリスクを高める。

NSAIDは鎮痛作用,抗炎症作用,および抗血小板作用を有する。そして,シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害することにより,プロスタグランジン産生を減少させる。NSAIDにはいくつかのクラスがあり,それぞれ異なる機序および有害作用を有する:

  • 非選択的COX阻害薬(例,イブプロフェン,ナプロキセン)

  • 選択的COX-2阻害薬(コキシブ系薬剤:例,セレコキシブ)

いずれのCOX阻害薬も効果的な鎮痛薬である。コキシブ系薬剤は潰瘍形成および消化管障害のリスクが最も低い。しかしながら,コキシブ系薬剤を低用量アスピリンと併用した場合には,他のNSAIDと比較した消化管に対する有益性はなくなる可能性がある。

研究により,COX-2の阻害(非選択的COX阻害薬とコキシブ系薬剤のどちらにでも起こる)は血栓形成の亢進につながり,それにより心筋梗塞,脳卒中,および跛行のリスクを高める可能性のあることが示唆されている。この作用は,薬剤の種類や用量,投与期間によって変わるようである。一部の非選択的COX阻害薬(例,イブプロフェン,ナプロキセン,コキシブ系薬剤[セレコキシブ])ではそのリスクが非常に低いことを示唆するエビデンスもある。とはいえ,医師は全てのNSAIDに血栓促進リスクがあると考えるべきであり,そのため臨床的に有意な動脈硬化や複数の心血管系危険因子がある患者では,いずれのNSAIDも慎重に使用すべきである。

NSAIDの使用が短期間で終わる可能性が高い場合は,使用する薬剤にかかわらず,有意な有害作用が生じる可能性は低い。治療が長期(例,数カ月)にわたる可能性が高い場合については,消化管に対する有害作用のリスクが低いことから,常に最初からコキシブ系薬剤を使用する医師もいる。一方で,消化管に有害作用が生じやすい患者(例,高齢患者,コルチコステロイド使用者,他のNSAIDによる消化性潰瘍または消化管障害の既往を有する患者)や非選択的NSAIDで経過が不良であるか不耐容の既往がある患者のみにコキシブ系薬剤の使用を制限する医師もいる。

いずれのNSAIDも腎機能不全患者では慎重に使用すべきであり,コキシブ系薬剤に腎保護作用はない。

初回推奨用量で十分な鎮痛が得られない場合は,従来からの安全な最高用量を超えない範囲で,より高用量を投与する。それでも鎮痛効果が不十分な場合は,その薬剤は中止すべきである。薬剤により反応が異なることから,疼痛が重度でなければ,他のNSAIDを試みてもよい。NSAIDを長期使用する間は,便潜血と血算,電解質,肝機能検査,および腎機能検査での変化をモニタリングするのが賢明である。

外用NSAIDは,変形性関節症や軽微な捻挫,筋挫傷,打撲などの障害による疼痛がある領域に直接塗布して使用する。ジクロフェナク外用液1.5%は,変形性膝関節症による疼痛および関節機能制限の治療に効果的であることが示されており,侵された各膝関節に対して40滴(1.2mL)を1日4回塗布する。そのほかに局所の疼痛緩和に有用となりうる外用ジクロフェナク製剤として,パッチ剤(患部に1日2回塗布)と1%ゲル剤(上肢には2g,1日4回,下肢には4g,1日4回)がある。

オピオイド鎮痛薬

「オピオイド」とは,中枢神経系の特定のオピオイド受容体に結合して作動薬として作用する,天然または合成化合物の総称である。オピオイドは麻薬(当初は催眠効果を示すあらゆる精神活性物質を指して用いられた用語である)とも呼ばれる。オピオイドは鎮痛作用と催眠作用の両方を有するが,これら2つの作用は互いに独立している。

鎮痛に使用されるオピオイドの一部は,作動薬と拮抗薬の両方の性質を有する。既知の乱用歴または嗜癖歴がある患者における乱用の可能性は,純粋な作動薬(例,モルヒネ,オキシコドン,ヒドロモルフォン)よりも作動薬-拮抗薬(例,ブプレノルフィン,ブトルファノール)の方が低いが,作動薬-拮抗薬の鎮痛作用には天井効果があり,すでにオピオイドに身体依存を起こしている患者では離脱症候群を誘発する。

表&コラム
表&コラム

オピオイド鎮痛薬は,急性疼痛,がん性疼痛,終末期の疼痛に対する治療のほか,緩和ケアの一部としての効力が証明されている。患者を適切に評価し,他の治療選択肢やオピオイド誤用のリスクを考慮することは,乱用のリスクと疼痛の過小治療とのバランスをとるための,意思決定プロセスの一環である。

オピオイドは,重度の急性疼痛がある患者やがんなどの終末期疾患と疼痛を有している患者に対して十分に使用されておらず,結果として患者に不必要な疼痛と苦痛を与える事態となっている。過小治療の理由としては以下のものが挙げられる:

  • 有効用量を過小に推定すること

  • 有害作用のリスクを過大に推定すること

一般に,重度の急性疼痛を治療する際には,オピオイドの使用を控えるべきではない。ただし,通常は疼痛を引き起こす病態が同時に治療されることにより,重度の疼痛の持続期間は短くなるため,それに伴いオピオイドを必要とする期間も短くなる。

一般に急性疼痛の治療は,短時間作用型(即放性)の純粋な作動薬を最小有効量で短期間投与するのが最善であり,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)のガイドラインでは3~7日の投与が推奨されている(1)。臨床医はオピオイドを再処方する前に,患者の再評価を行うべきである。オピオイドを比較的高用量または長期間で投与すると,長期オピオイド治療の必要性,有害作用,およびオピオイド誤用のリスクが高まる。疼痛が一過性の急性疾患(例,骨折,熱傷,外科的手技)によるものである場合は,可及的速やかに非オピオイド鎮痛薬に切り替えるべきである。

一般に,がん性疼痛の治療ではオピオイドの使用を控えるべきではなく,そのようなケースでは,有害作用は予防または管理可能であり,嗜癖の懸念は比較的少ない。

終末期でない疾患による慢性疼痛の長期管理にオピオイドを使用することについてのエビデンスは不十分である。また,長期オピオイド治療では重篤な有害作用(例,オピオイド使用症,過量投与,呼吸抑制,死亡)が発生する可能性もある。したがって,終末期でない疾患による慢性疼痛を有する患者では,オピオイドの前に,よりリスクの低いオピオイドによらない治療を試すべきであり,具体的には以下の治療法がある:

  • 非オピオイド薬

  • 統合(補完・代替)医療の手法(例,鍼治療マッサージ経皮的電気神経刺激[TENS])

  • 認知行動療法

  • インターベンショナル治療(硬膜外注射,関節注射,神経ブロック,神経アブレーション,脊髄または末梢神経刺激)

終末期でない疾患による慢性疼痛を有する患者では,オピオイド治療を考慮してもよいが,通常はオピオイドによらない治療が不成功に終わった場合に限定される。そういった症例では,疼痛の軽減および機能改善のベネフィットがオピオイドの有害作用および誤用のリスクを上回る場合に限り,(しばしばオピオイドによらない治療と組み合わせて)オピオイドが使用される。インフォームド・コンセントを取得することが,治療の目標,期待,リスクを明確化し,誤用に関する教育およびカウンセリングを促進するのに役立つ。

オピオイドによる治療が適切な場合は,慢性疼痛に長時間作用型の製剤を使用してもよい(オピオイド鎮痛薬およびオピオイド鎮痛薬の等鎮痛用量の表を参照)。長時間作用型製剤は,オピオイド使用歴のない患者では重篤な有害作用(例,呼吸抑制による死亡)を引き起こすリスクが高いため,このような患者には使用すべきでない。

長期的に(3カ月以上)オピオイド治療を受ける患者には,疼痛コントロール,機能改善,有害作用,および誤用の徴候について定期的に評価を行うべきである。以下の事態が起こった場合には,オピオイド治療は不成功に終わったとみなすべきであり,用量を漸減して中止すべきである:

  • オピオイドを増量しても重度の疼痛が持続する。

  • 患者が治療の条件を遵守していない。

  • 身体および精神機能が改善しない。

数日間以上にわたりオピオイド投与を受けた患者では,全例に身体依存(薬剤中止時の離脱症状の出現)が存在するものとみなすべきである。同様に,オピオイドによる治療を受けた全ての患者に耐性(同じ用量を繰り返し使用するとその用量での反応が低下する)が生じる。そのため,オピオイドの使用期間はできる限り短くすべきである。依存が形成された患者でオピオイドがもはや不要となった場合は,用量を漸減して離脱症状をコントロールすべきである。依存(dependence)はオピオイド使用症とは異なる概念であり,後者は強迫的な使用に加えて,その薬物を渇望する,使用を抑えられない,有害と分かっていても使用するなどの圧倒的な没頭がある場合とされている。Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)では,オピオイド使用症の診断に特有の基準が提示されている。

オピオイドの効力は,各薬剤のオピオイド受容体に対する結合能および経口投与時と血管内に直接注射した場合の吸収効率に応じて異なる。あるオピオイドから別のオピオイドに,あるいは経口製剤から静注製剤に移行する必要がある場合は,それらの効力の相互関係を理解することが不可欠である。例えば,モルヒネ30mgの経口投与は以下と同等である:

  • モルヒネ10mgの静注(経口:静注比は3:1)

  • オキシコドン20mgの経口投与

  • ヒドロモルフォン7.5mgの経口投与

オピオイドの使用とリスクを比較するため,医師は様々な剤形の総用量を単一の変数とみなすべきである。Centers for Disease Control and Prevention(CDC:米国疾病予防管理センター)は,1日の経口モルヒネ換算量(OME[mg])に基づくオピオイドの使用とリスクに関するガイドラインを作成している。例えば,ある患者が10mgの経口オキシコドンを1日4回,すなわち1日40mgの経口オキシコドンを服用しているとする。以下の表の等鎮痛用量換算に基づくと,経口オキシコドン20mgは経口モルヒネ30mgに等しいため,1日40mgの経口オキシコドンは1日60mgの経口モルヒネ(60mg OME)に相当する。また,4mgの経口ヒドロモルフォンを1日4回(1日16mg)摂取している患者は,下表によると経口ヒドロモルフォン7.5mgは経口モルヒネ30mgに等しい(すなわち,経口ヒドロモルフォン1mgは経口モルヒネ4mgに等しい)ことから,64mgのOMEを内服していることになる。

表&コラム
表&コラム

投与経路

患者が耐えられる場合は,急性疼痛の治療にオピオイドの経口薬を使用してもよい。

長期使用には経口または経皮投与が好まれ,どちらも効果的で,安定した血中濃度が得られる。経口および経皮の放出調節製剤は,投薬回数が少なくて済むため,特に夜間の疼痛緩和に重要である。

フェンタニルの経粘膜吸収(舌下)製剤が使用可能である。トローチ剤は,小児の鎮静や,オピオイド使用歴のあるがん患者における突出痛の治療に使用される。

静脈内投与は,最も迅速に効果が得られ,そのためタイトレーションも最も迅速に行えるが,鎮痛持続時間が短い。血中濃度の急激かつ大きな変動(ボーラス効果)は,投与間早期のピーク濃度時の毒性や,後期のトラフ濃度時の突出痛の発生につながる。持続静注(ときおり患者による自己調節で補充分を追加することもある)ではこの効果は排除されるが,高価なポンプが必要になる;このアプローチは術後疼痛に最もよく用いられている。

筋肉内投与は静脈内投与より鎮痛時間が長くなるが,投与に痛みを伴い,吸収が不安定となる可能性があるため,単回投与で済むことが予想され患者に静脈路が確保されていない場合を除き,推奨されない。

オピオイドの脊髄投与(例,急性疼痛に対してモルヒネ5~10mgを硬膜外投与または0.5~1mgを髄腔内投与)では,疼痛緩和が得られ,モルヒネなどの親水性薬剤を使用することでその効果が延長する;典型的には周術期に用いられる。埋込み型注入機器を用いると,長期の脊髄幹輸注(neuraxial infusion)が可能であり,通常はがん関連痛に用いられる。それらの機器は他の薬剤(例,局所麻酔薬,クロニジン,ジコノチド[ziconotide])と併用することも可能である。

長期の継続皮下注入も可能である(特にがん性疼痛)。

用量とタイトレーション

オピオイドの使用歴がない患者に初めて投与する際は,通常は入手可能な範囲で最も低い用量の即放性製剤で開始し,十分な鎮痛効果が得られるか,有害作用により治療が制限されるまで,実際的に可能な最小の幅で段階的に増量していく。長時間作用型オピオイドは,オピオイド使用歴のない患者の第1選択として使用すべきではなく,また間欠的使用に処方してはならない。

非オピオイド鎮痛薬(例,アセトアミノフェン,NSAID)がしばしば併用される。両方の薬剤が配合された製剤が便利であるが,非オピオイド鎮痛薬によってオピオイドのタイトレーションが難しくなる可能性がある。

高齢患者はオピオイドに対する感受性が高く,有害作用が発生しすいため,オピオイド使用歴のない高齢患者では,典型的には若年患者より低用量とする必要がある。新生児(特に早産児)もオピオイドに対する感受性が高いが,これはオピオイドを除去するのに十分な代謝経路が備わっていないためである。

オピオイドの使用歴が少ない患者にオピオイドを注射剤で投与する場合は,鎮静および呼吸数のモニタリングを行う。長時間作用型オピオイドの多くは比較的高用量で使用され,その有害作用(呼吸抑制などの重篤なものを含む)が長く持続するため,オピオイド治療(特にオピオイド使用歴のない患者の場合)は短時間作用型の薬剤で開始すべきである。

中等度の一過性の疼痛には,必要に応じてオピオイドを投与してもよい。重度または進行性の疼痛に対しては,重度の疼痛が再発するのを待つことなく,定期的に投与を行うべきであり,がん性疼痛の治療時には,必要に応じて追加投与も行う。がん性以外の慢性疼痛がある患者に対する用量は,典型的には症例毎に決定される。

自己調節鎮痛法(PCA)は,疼痛が重度の場合や経口鎮痛薬では不十分な場合に,病院内で安全かつ柔軟にオピオイドを投与できる方法である。医師は,ボーラス投与の量および投与間隔,ならびに設定された間隔(通常4時間)以内に投与できる最大用量を管理する;この最大用量はロックアウト用量(lockout dosage)と呼ばれる。患者がボタンを押すと,ボーラス投与(例,モルヒネ1mgまたはヒドロモルフォン0.2mgの投与を6分毎)が行われる。安全対策として,前回の投与から設定された時間が経過していない場合,または設定された時間内に累積ロックアウト用量に達した場合には,ボタンを押してもボーラス投与は行われない。患者のみが投与ボタンを押すことが許される。患者が薬剤または病気のために鎮静状態にある場合,投与ボタンを押すほど意識清明ではないため,さらに安全である。

ときに,基礎持続投与(例,モルヒネ0.5~1mg/時)を考慮してもよいが,自己調節下でのオピオイドのボーラス投与と併用すると,有害作用のリスクが高くなる。したがって,このような場合の基礎持続投与は慎重に行うべきであり,自己調節鎮痛法を管理できる意識レベルにあり,必要なときにだけ鎮痛を使用する患者に限定すべきである。オピオイド投与歴がある患者と慢性疼痛の患者では,ボーラス投与量と基礎持続投与量をともに高く設定する必要があり,反応に応じて投与可能な用量をさらに調節する。

認知症患者では自己調節鎮痛法は不可能であり,幼児もまた同様であるが,青年ではしばしば可能である。

オピオイドによる慢性疼痛の治療は,他の選択肢を試みても効果がない場合に限るべきである。長期の治療中には,オピオイドの有効用量を長期間にわたり一定に保つことができる。患者によっては断続的な増量が必要になるが,典型的には,疼痛の増強を示唆する身体的変化(例,進行性の腫瘍)がみられる状況で必要とされる。そのような場合,耐性を恐れて,早期から適切なオピオイドを積極的に使用することをためらってはならない。

全てのオピオイド処方薬のうち,メサドンはオピオイドによる死亡の頻度(処方1回当たり)が最も高い。そのため,その使用に熟練した医師のみが処方すべきである。メサドンの薬物動態は一定ではないため,メサドンは低用量から開始すべきであり,注意深くモニタリングしながら使用し,ゆっくりと(週1回以内の頻度で)増量すべきであり,モニタリングされていない外来患者では特にこの点に注意すべきである。メサドンは心電図のQT間隔を延長する可能性があるため,メサドンを開始する前と用量を大きく変更する前および後に心電図検査によりQTc間隔を評価すべきである。QT間隔に影響を与える可能性のある他の薬剤を使用している患者で仮にメサドンを使用することがあれば,最大限の注意を払って使用すべきである。

以前は十分であった用量が不十分になった場合は,疼痛をコントロールするのに増量を必要とするのが通常である。

有害作用

オピオイド使用歴のない患者で治療開始時によくみられる有害作用としては以下のものがある:

  • 鎮静および精神混濁

  • 悪心および嘔吐

  • 便秘

  • そう痒

  • 呼吸抑制

  • ミオクローヌス

半減期の長い薬剤(特にレボルファノール[levorphanol]とメサドン)は,半減期の4~5倍の時間が経過するまで血漿中濃度が定常状態に到達しないため,血漿中濃度の上昇につれて遅発性の毒性が発生するリスクがある。放出調節製剤のオピオイドは,定常状態の濃度に達するまでに典型的には数日間かかる。

高齢患者では,オピオイドはより多くの有害作用を示す傾向がある(一般的には便秘と鎮静または精神混濁)。転倒は高齢患者に特有のリスクである。前立腺肥大症の男性では,オピオイドによって尿閉が引き起こされることがある。

以下に示す特定の病態がある患者には,オピオイドは慎重に使用すべきである:

鎮静がよくみられる。オピオイドの開始後および増量後の一定期間は,各種の活動を行う能力にその薬剤が与える影響を患者が判断できるようになるまで,患者は自動車などの運転をしてはならず,転倒やその他の事故に対する予防策を講じるべきである。患者および家族には,過剰または持続的な鎮静が起きた場合は担当医師に連絡するよう説明しておくべきである。鎮静によって生活の質が損なわれている場合は,特定の精神刺激薬を間欠的(例,親族の集まりや注意を必要とするその他の行事の前)または定期的(一部の患者のみ)に投与してもよい。効果的となりうる薬剤は以下の通りである:

  • メチルフェニデート(5~10mg,経口,1日1回または2回,3日毎に5mgずつ漸増,最大用量は40mg/日)

  • デキストロアンフェタミン(最初は2.5mg,経口,1日1回または2回)

  • モダフィニル(最初は100mg,経口,3~7日間,その後200mg,経口,1日1回)

これらの薬剤は典型的には午前に投与し,必要に応じてその後も投与される。メチルフェニデートの最大用量が60mg/日を超えることはほとんどない。患者によっては,カフェイン含有飲料で十分な刺激になる。精神刺激薬は鎮痛効果を強化する可能性もある。

過量投与または呼吸抑制がある患者の大半は,薬剤を誤用している(処方通りに使用していない)か,高用量(> 100mg OME)で服用している。ただし,大半のオピオイドの過量投与は意図的なものではなく,低用量のオピオイド(20mg OME未満)でも呼吸抑制は起こりうる。

過量投与または呼吸抑制のリスクは以下の場合に高まる:

  • ベンゾジアゼピン系,筋弛緩薬,ガバペンチン,アルコールなど,他の鎮静薬を使用している(リスクはベンゾジアゼピン系薬剤が最大で,それらは可能であればオピオイドと併用すべきでない)

  • 肝臓または腎臓での代謝に影響を及ぼす並存症がある

呼吸抑制の危険因子としては以下のものがある:

  • 脳卒中,腎疾患,心不全,または慢性肺疾患の病歴

  • 未治療または治療が十分でない閉塞性睡眠時無呼吸症候群または慢性閉塞性肺疾患(COPD)

  • 物質使用症

  • 精神疾患

  • 一部の一般的な向精神薬の併用

  • 長時間作用型オピオイド,高用量のオピオイド(> 100mg OME),またはメサドンの使用

過量投与または呼吸抑制の修正可能な危険因子は管理すべきであり,以下の戦略がある:

  • 睡眠時無呼吸症候群を治療する

  • オピオイドの服用時は飲酒をしないよう患者に助言する

  • 可能ならベンゾジアゼピン系薬剤をオピオイドと併用処方しない

  • 可能なら長時間作用型オピオイドを処方しない

  • メサドンは,その特有の有害作用プロファイルに精通している場合のみ処方すること

  • Risk Index for Overdose or Serious Opioid-Induced Respiratory Depression(RIOSORD)を用いて,過剰摂取または重篤なオピオイド誘発性呼吸抑制のリスクを評価する

過量投与または呼吸抑制のリスクが高い場合,医師は患者や家族とともにリスクについて話し,ナロキソンを処方すべきである。患者が長期のオピオイド治療を受けている場合,医師はインフォームド・コンセントの手順を踏んで長期オピオイド治療の潜在的な害およびベネフィットを説明すべきである。

悪心は,以下のいずれかで治療できる:

  • ヒドロキシジン25~50mg,経口,6時間毎

  • メトクロプラミド10~20mg,経口,6時間毎

  • 制吐作用のあるフェノチアジン系薬剤(例,プロクロルペラジン10mg,経口または25mg,直腸内,6時間毎)

  • オンダンセトロン4mg,経口または静注,8時間毎

そう痒は,ヒスタミンの放出によって引き起こされ,抗ヒスタミン薬(例,ジフェンヒドラミン,25~50mg,経口または静注)で緩和できる可能性がある。オピオイドの硬膜外投与または注射剤の投与に起因する難治性のそう痒がある入院患者には,一般にジフェンヒドラミンまたはヒドロキシジンよりもナルブフィン(nalbuphine)2.5~5mg,静注,4時間毎の方が効果的である。

オピオイドを数日以上服用している患者では,便秘がよくみられる。オピオイドを開始する際は,全ての患者,特に素因のある患者(例,高齢患者,不動状態の患者)で予防的治療を考慮すべきである。食物繊維および水分の摂取量を増やすべきであり(ただし,これだけで十分であることはまれ),最初は刺激性下剤(例,センナ)および/または浸透圧性下剤(例,ポリエチレングリコール)を毎日投与すべきである。必要であればオピオイド誘発性便秘症に特異的な薬剤も使用できる(2)。効果的な薬剤としては以下のものがある:

  • 末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(PAMORA)であるナロキセゴル(naloxegol)25mg,経口,1日1回(朝)およびメチルナルトレキソン(皮下投与)12mg/0.6mLまたは450mg,経口,1日1回

  • 塩化物イオンチャネル作動薬(活性化薬);ルビプロストン(経口)24μg,経口,1日2回など

PAMORAおよび塩化物イオンチャネル作動薬は,どちらも非がん性疼痛に対するオピオイド治療の期間中いつでも使用できる。目標は連日投与で少なくとも隔日の排便とすべきであり,排便がみられなければ,2日目に追加の手段(例,ビサコジル,マグネシアミルク,クエン酸マグネシウム,ラクツロース,浣腸)を講じるべきである。持続する便秘は,クエン酸マグネシウム240mL,経口,1日1回,ラクツロース15mL,経口,1日2回,またはポリエチレングリコール粉末(必要に応じて用量調整)で管理できる。定期的に浣腸が必要になる患者もいる。

オピオイドによる鎮静,精神混濁,および悪心には,通常は数日以内に耐性が生じるが,オピオイドによる便秘および尿閉への耐性は通常,はるかに緩徐に獲得される。患者によっては,いずれの有害作用も長期間持続することがあり,特に便秘は遷延する可能性が高い。

尿閉には,二段排尿または排尿時のCredé法が有用となりうるほか,患者によっては,タムスロシン0.4mg,経口,1日1回(開始量)などのαアドレナリン遮断薬の追加が有益となる。

神経内分泌作用,典型的には可逆的な性腺機能低下症が発生することがある。症状としては,疲労,性欲減退,性ホルモン値低下による不妊症,女性の無月経などがある。アンドロゲン値が低いと骨粗鬆症に至ることもある。オピオイド治療を長期間受けている患者には間欠的な骨密度検査が必要である。

オピオイドの誤用,転用,および乱用

Centers for Disease Control and Prevention: 2019 Annual surveillance report of drug-related risks and outcomes—United States. Surveillance special report. Centers for Disease Control and Prevention, U.S. Department of Health and Human Servicesも参照のこと。)

米国では,オピオイドは偶発的死亡および薬剤の致死的過量投与の主因となっている。致死的な過量投与のリスクは,オピオイド鎮痛薬がベンゾジアゼピン系薬剤と併用された場合に有意に高くなる。また,誤用,転用,および乱用(異常服薬行動)の頻度が増加している。

オピオイドの誤用(misuse)は,意図的に行われる場合と意図的ではない場合がある。誤用とは,医学的助言に反した使用や処方内容から逸脱した使用を広く指す。

転用(diversion)では,患者が他者に処方薬を売却または譲渡する。

乱用(abuse)とは,娯楽的あるいは治療以外の目的での使用(例,多幸感や他の向精神作用を得るため)を指す。

慢性疼痛に対してオピオイドを長期使用している患者の最大3分の1が,処方されたオピオイドを誤用(指示どおりに摂取しない)または乱用する可能性がある。

嗜癖(addiction)は,典型的には自制心の喪失と渇望が顕著に認められるが,実質的な害や悪い結果にもかかわらず衝動的に使用してしまう状態を指す。嗜癖の定義としては,耐性(同じ水準の鎮痛作用と効力を維持するのにより高い用量が必要になる)と離脱症状(薬剤の中止または有意な減量により離脱症状が発生する)を含めているものもある。しかしながら,これらの特徴はどちらもオピオイド治療で予想される生理的な影響であるため,オピオイド嗜癖を定義する上で有用でない。

用語として嗜癖よりもオピオイド使用症の方が望ましい。オピオイド使用症(opioid use disorder)は,医療以外の目的で長期にわたりオピオイドを強迫的に自己投与し,それにより有意な機能障害または苦痛が生じている場合と定義される。Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)では,オピオイド使用症の診断に特有の基準が提示されている。オピオイド使用症の診断は,オピオイドの使用パターンが臨床的に有意な障害または苦痛を引き起こしており,かつ12カ月間に以下の2つ以上が認められる場合に下される:

  • 意図していた量より多量に,または意図していた期間より長くオピオイドを使用している

  • オピオイドの使用量を減らすまたは制御することを持続的に望んでいるか,試みるがうまくいかない状態にある

  • オピオイドを入手または使用するために多大な時間を費やしている,またはオピオイドからの回復に多大な時間がかかっている

  • オピオイドを使用することを渇望しているか,オピオイドを使用することへの強い欲求または衝動がみられる

  • オピオイドを繰り返し使用しているために,仕事,家庭,または学校での義務を果たさなくなっている

  • オピオイドのせいで持続するまたは繰り返す社会的または対人関係上の問題が発生したり悪化したりしているにもかかわらず,オピオイドの使用を続けている

  • オピオイドが原因で,重要な社会的活動,仕事上の活動,または娯楽活動をやめたり減らしたりしている

  • 身体的に危険な状況でもオピオイドの使用を継続する

  • オピオイドのせいで持続するまたは繰り返す,身体または精神疾患が発生したり悪化したりしているにもかかわらず,オピオイドの使用を続けている

  • オピオイドへの耐性が生じている

  • オピオイド離脱症候群がみられる

耐性および離脱(身体依存の発現に続発する)は,医師の適切な管理下でオピオイドを使用している患者でも発生することが予想される。したがって,オピオイド療法により医学的に管理されている患者にこれらの所見がみられる場合,オピオイド使用症の基準に該当するとはみなされない。

オピオイド使用症のリスクは以下の通り,使用頻度および用量に依存する(3):

  • 0.004%:オピオイドの定期的使用なし

  • 0.7%:低用量のオピオイド使用(< 36mg OME/日)

  • 6.1%:高用量のオピオイド使用(> 120mg OME/日)

  • 2~15%:その他の研究(用量による層別化なし)

オピオイド治療の処方を考慮する場合,特に長期の治療になる場合は,乱用および転用の危険因子について患者を評価し,意図的および不注意の誤用を予防するためのカウンセリングを行うべきである。オピオイド治療を開始する前に,医師はインフォームド・コンセントを取得し,患者がオピオイド使用症を発症するリスクを評価すべきである。

オピオイド使用症発生の危険因子としては以下のものがある:

  • 患者のアルコールまたは薬物乱用歴

  • 家族のアルコールまたは薬物乱用歴

  • 主要な精神疾患(現在または過去)

  • 向精神薬の使用

  • 若年(45歳未満)

オピオイド使用症のリスクが高い患者を同定するのにスクリーニングツールが役立つ可能性があり,オピオイドリスクツール[opioid risk tool](ORT)が最も優れていると考えられる。しかしながら,オピオイドによる患者の治療が安全であるかどうか,リスクが低いかどうかを判定するのに十分なリスク評価ツールはない。したがって,オピオイド治療を受けている患者では,オピオイド治療が安全に用いられていることを確認するため,治療中は全例で綿密なモニタリングを行うべきである。

処方した薬剤された薬物が尿中に存在し,違法薬物が存在しないことを確認するために,ルーチンのモニタリングに定期的な抜き打ちの尿中薬物スクリーニングを含めるべきである。

抜き打ちのスクリーニングを導入すれば,異常な使用や誤用を同定できる可能性は高くなるが,これを診療機関のワークフローに組み込むのは容易ではない。現在では,以下のように尿中薬物スクリーニングを実施することが推奨されている:

  • 最初の処方時

  • 少なくとも年1回

  • リスクが高いか懸念が生じた場合はより頻回に

各州のPrescription Drug Monitoring Program(PDMP)の情報を活用して患者の規制薬物の使用歴を確認すべきである。現在,PDMPを用いたルーチンのスクリーニングを以下の通り行うことが推奨されている:

  • オピオイドを初めて処方するとき

  • 補充のために再処方するとき,または少なくとも3カ月に1回

PDMPへの照会をルーチンに活用することで,1人の患者が1人の処方医と1つの薬局だけを利用していることを臨床医が確認するのに役立つ。

たとえオピオイド使用症発生の危険因子があるとしても,依然としてオピオイドによる治療が適切な場合もあるが,臨床医は乱用や嗜癖を予防するために,より厳重な対策を講じるべきである(4)。対策としては以下のものがある:

  • 少量だけ処方する(補充のために頻回の受診が必要)

  • 尿中薬物スクリーニングによりアドヒアランスをモニタリングする(すなわち,患者がその薬剤を服用しており,転用していないことを確認する)

  • 処方箋の「紛失」を理由とする補充は受け付けない

  • 経口剤を噛んだり,潰して注射したりすることによる乱用を防止する目的で開発された改変防止製剤(tamper-resistant formulation:TRF)のオピオイドを使用する

  • 鎮痛に有用となる可能性があり,かつ鎮静および呼吸抑制のリスクに天井効果を示す(あらゆるオピオイド使用症の効果的な治療薬となる特性)ブプレノルフィン製剤を考慮する

問題のある患者は,疼痛管理の専門医や疼痛管理の経験が豊富な物質使用症の専門医への紹介が必要になることがある。

オピオイドを初めて処方する際には,患者に関連情報を提供すべきである。また,継続的に処方する薬剤の安全な使用を確保するために講じられる措置と,異常な使用,誤用,乱用,または転用(オピオイドの減量につながる)を示唆する履歴または評価結果(例,尿中薬物スクリーニング,処方薬物モニタリング)が判明した場合に講じられる措置を具体的に記した同意書への署名を医師が患者に求める。医師は患者とともに同意書を読み,何を求められているか患者が理解していることを確認すべきである。患者がオピオイドを使用するには,事前に同意書に署名して同意する必要がある。オピオイド以外による疼痛管理戦略が継続されること,ならびに物質使用症の専門家に紹介する可能性があることも,患者に伝えておくべきである。

患者がオピオイド使用症を発症した場合,処方医にはエビデンスに基づく治療(通常はブプレノルフィンまたはメサドンを用いる補助薬物療法と認知行動療法)を勧めて手配する責任がある。

他者による薬剤の誤用を防止するため,患者にはオピオイドを安全な場所に保管させ,未使用分は全て薬局に返却させるべきである。

全ての患者に対し,オピオイドとアルコールまたは抗不安薬との併用,ならびに用量を自己調節することのリスクについて,カウンセリングを行うべきである。

オピオイド拮抗薬

オピオイド拮抗薬は,オピオイド受容体に結合するものの,作動薬としての作用をほとんどまたは全く示さないオピオイド様物質である。この種の薬剤は,主にオピオイドの過量投与による症状(特に呼吸抑制)の治療に用いられる。

ナロキソンは,静注では1分未満で作用し,筋注ではこれよりやや遅く作用する。舌下または気管内投与も可能である。効果の持続時間は約60~120分である。しかしながら,オピオイド誘発性呼吸抑制は通常は拮抗作用の持続時間より長く持続するため,ナロキソンの反復投与と綿密なモニタリングが必要になる

オピオイドの急性過量投与に対する用量は,0.4mg,静注,必要に応じて2~3分毎である(覚醒ではなく十分な呼吸が得られるように調整する)。反復投与が必要な場合は,用量を増量することができる(1回当たり最大2mgまで,静注)。10mgの投与にも反応がない場合は,オピオイド毒性の診断を見直すべきである。

長期のオピオイド治療を受けている患者に対しては,ナロキソンは呼吸抑制の治療のみに使用すべきであり,離脱症状や疼痛の再発を招かないように,より一層注意して投与する必要がある。

ナロキソンの鼻腔スプレーおよび自己注射器(筋注)も利用できる。鼻腔スプレーの場合,1つのスプレー(0.1mLに2~4mg)を片方の鼻孔にスプレーする。自己注射器の場合,2mgを大腿前外側部の筋肉内または皮下に(必要であれば衣服の上から)注射させる。

ナルメフェンは,ナロキソンに類似しているが,効果の作用持続時間が約4~8時間である。ナルメフェンは,オピオイド作用からの長期的な回復を確実にするために,ときに使用される。

ナルトレキソンは,経口投与可能なオピオイド拮抗薬であり,オピオイドおよびアルコール嗜癖の補助的治療として投与される。長時間作用型の薬剤であり,一般に忍容性は良好である。

オピオイド鎮痛薬に関する参考文献

  1. 1.Dowell D, Haegerich TM, Chou R: CDC guideline for prescribing opioids for chronic pain—United Stat 2016.JAMA 315 (15):1624–1645, 2016.doi: 10.1001/jama.2016.1464

  2. 2.Argoff CE, Brennan MJ, Camilleri M, et al: Consensus recommendations on initiating prescription therapies for opioid-induced constipation.Pain Med 16 (12):2324-2337, 2015.doi: 10.1111/pme.12937

  3. 3.Dowell D, Haegerich TM, Chou R: CDC guideline for prescribing opioids for chronic pain--United States, 2016.JAMA 315 (15):1624–1645, 2016.doi: 10.1001/jama.2016.1464

  4. 4.Babu KM, Brent J, Juurlink DN: Prevention of opioid overdose.N Eng J Med 380:2246–2255, 2019.doi: 10.1056/NEJMra1807054

鎮痛補助薬

多くの薬剤が鎮痛補助薬として使用されており,抗てんかん薬(例,ガバペンチン,プレガバリン)や抗うつ薬(例,三環系,デュロキセチン,ベンラファキシン,ブプロピオン)のほか,ほかにも多数ある(神経障害性疼痛に対する薬剤の表を参照)。これらの薬剤は頻用されているが,最も注目すべきは神経障害の要素がある疼痛に対する緩和効果である。

ガバペンチン神経障害性疼痛および頭痛症候群に広く使用されている。

プレガバリンはガバペンチンに類似するが,薬物動態がより安定しており,1日2回の投与でガバペンチンの1日3回投与時と同等の効力を示すため,コンプライアンスがより良好である。プレガバリンは,神経障害性疼痛(脊髄損傷による中枢性疼痛を含む)および線維筋痛症に効果的である;プレガバリンが抗不安薬として効果的であることを示唆するエビデンスもある。

三環系抗うつ薬(アミトリプチリン,ノルトリプチリン,デシプラミン)の主な作用機序は,セロトニンおよびノルアドレナリンの再取り込み阻害である。三環系抗うつ薬は,神経障害性疼痛筋筋膜性疼痛症候群,一部の中枢性神経障害性疼痛,内臓痛症候群,および頭痛症候群に効果的である。

デュロキセチンは,複数の機序(セロトニンおよびノルアドレナリン)を併せもつ再取り込み阻害薬であり,糖尿病性神経障害性疼痛,線維筋痛症,慢性筋骨格痛(腰痛を含む),および化学療法による神経障害に効果的とみられている。抑うつおよび不安に有効な用量と疼痛管理に有効な用量は同程度である。

ベンラファキシンの効果および作用機序はデュロキセチンと同様である。

表&コラム
表&コラム

外用剤も広く使用されている。カプサイシンクリーム,外用NSAID,その他の調合クリーム剤(例,局所麻酔薬),およびリドカイン5%パッチは,有害作用のリスクがほとんどなく,多くの種類の疼痛に対して考慮すべきである。

神経ブロック

末梢または中枢痛覚路の神経伝達を薬剤または物理的手法により遮断することで,短期的な鎮痛やときに長期の鎮痛が得られる。まれに神経破壊術(経路の破壊)が用いられるが,典型的には期待余命の短い進行疾患の患者のみが対象とされる。

局所麻酔薬(例,リドカイン)を静脈内,髄腔内,胸膜内,経皮,皮下,または硬膜外投与することも可能である。局所麻酔薬またはオピオイドを用いた硬膜外麻酔は,特定の種類の術後疼痛に特に有用である。期待余命の短い限局性の疼痛がある患者には,ときに長期の硬膜外投与が行われる。一般に,長期の脊髄幹輸注(neuraxial infusion)には,埋込み型ポンプによる髄腔内投与が望ましい。

神経破壊術では,外科的手技により,または高周波もしくはマイクロ波エネルギー,冷凍アブレーション,または腐食性物質(例,フェノールまたは高濃度アルコール)を用いて組織を破壊することにより,侵害受容経路を途絶させる。神経破壊術は内臓痛よりも体性痛に効果的である。

機械的な軸性疼痛の治療には,最も一般的な神経破壊術が用いられる:この手技では,脊髄神経後枝の内側枝(椎間関節[関節突起間関節]を支配する)または外側枝(仙腸関節を支配する)のラジオ波焼灼術を行う。この技術は膝関節(膝神経),股関節(閉鎖神経および大腿神経の[関節感覚]枝),および肩関節(肩甲上,腋窩,および外側胸筋神経の[関節感覚]枝)の難治性疼痛の治療にも用いられることが増えている。

脊髄に対する神経破壊術はほとんど行われておらず,その有効性を予測するのは困難である。身体のある領域(例,四肢)の疼痛を遮断するには,上行性脊髄視床路の神経破壊術(脊髄切断術)が選択でき,これにより数年間にわたり疼痛緩和が得られる可能性があるが,しびれや異常感覚が発生する。特定の皮膚分節を同定できる場合は,後根の神経破壊術(神経根切断術)が用いられる。

ニューロモジュレーション

神経組織を刺激することで,おそらくは内因性痛覚修飾経路の活性化により,疼痛を軽減できる可能性がある。特定の病型の神経障害性疼痛(例,脊椎手術後の慢性下肢痛を伴う脊椎手術後疼痛症候群,複合性局所疼痛症候群[CRPS])では,硬膜外腔に電極を留置して脊髄を刺激する治療法(脊髄刺激療法)を支持するエビデンスが得られている。

経皮的電気神経刺激(TENS)では,低周波の低電流を用いて疼痛の管理に役立てる。

電気刺激のパラダイムが進歩したことにより,ニューロモジュレーションの効力および応用可能性が向上している。疼痛管理におけるニューロモジュレーションの利用は有意に増加している。終末期以外の疼痛に対するオピオイド使用の減少に伴い,ニューロモジュレーションは神経障害性疼痛の治療選択肢として早期に考慮されるようになっている。

ニューロモジュレーションの手技および技術の進歩としては以下のものがある:

  • 高周波刺激

  • 後根神経節刺激

  • バースト波形を用いた脊髄刺激(burst spinal cord stimulation waveforms)

  • 小型で柔軟性のある末梢神経刺激装置

  • MRIとの相性が改善したことにより,ニューロモジュレーションを利用できる臨床状況が大幅に拡大した

高周波刺激は神経障害性の四肢痛に有効である。その効力は従来のニューロモジュレーションと同等であるが,従来の手法では効果的に治療できない軸性疼痛にも有効である可能性がエビデンスから示唆されている。

後根神経節刺激(dorsal root ganglion stimulation)は,より局所的なニューロモジュレーション治療であり,限られた皮膚分節内の神経障害性疼痛を標的とする。

単一の末梢神経が侵されている場合の難治性の神経障害性疼痛(例,postherniorrhaphy pain syndrome,後頭神経痛などの一部の頭痛症候群,感覚異常性大腿痛[meralgia paresthetica][外側大腿皮神経の圧迫による大腿外側部の疼痛])には,末梢神経刺激が用いられることが増えている。これはまた,脳卒中後の麻痺側肩関節痛(hemiplegic shoulder pain)の治療として腋窩神経の分枝を刺激する目的で用いられることもある。概念実証研究では,人工膝関節全置換術,前十字靱帯手術,および足部手術施行後の最初の数週間における術後疼痛の治療に末梢神経刺激が有用となりうることが報告されている。末梢神経刺激では,細く柔軟な電極(リード)を問題の神経の隣に経皮的に挿入する必要があり,この処置はしばしば超音波ガイド下に実施される。リードは刺激装置に接続され,刺激装置は除去可能な接着剤でリードに隣接する皮膚に固定される。刺激装置の装着により移動や座位に支障を来すため,特定の領域の疼痛は末梢神経刺激では治療できない。

難治性の神経障害性疼痛症候群には脳構造に対する刺激療法(脳深部刺激療法,運動野刺激療法)が行われているが,エビデンスは限られている。

老年医学的重要事項

高齢患者における疼痛の最も一般的な原因は筋骨格系疾患である。しかしながら,疼痛は慢性かつ多因子性のことが多く,原因が明確でない場合もある。

非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)

NSAIDによる潰瘍および消化管出血のリスクは,65歳以上では中年期よりも3~4倍高くなる。リスクは用量と治療の継続期間に依存する。消化管の有害作用が生じるリスクの高い高齢患者には,細胞保護効果のある薬剤(通常はプロトンポンプ阻害薬,ときにプロスタグランジン製剤のミソプロストール)の併用または選択的COX-2阻害薬による代用(コキシブ系薬剤:例,セレコキシブ)が有益となりうる。選択的COX-2阻害薬(コキシブ系薬剤)を使用している患者では,非選択的NSAID(例,イブプロフェン)を使用している患者と比べて,消化管の有害作用が生じるリスクが有意に低い。

非選択的NSAIDおよびコキシブ系薬剤の使用時には心血管毒性のリスクが高く,高齢者は心血管系危険因子(例,心筋梗塞,脳血管疾患,または末梢血管疾患の既往)を有する可能性が高いため,高齢者ではこの点に特に留意すべきである。

非選択的NSAIDおよびコキシブ系薬剤はいずれも腎機能を障害して,ナトリウム・水貯留を引き起こす可能性があるため,高齢患者(特に腎疾患,肝疾患,心不全,または循環血液量減少がある場合)には慎重に使用するべきである。

まれに,NSAIDは高齢患者に認知障害や人格変化を引き起こす。インドメタシンは他のNSAIDよりも高齢患者に錯乱を引き起こしやすく,使用を避けるべきである。

高齢患者では重篤な毒性が生じるリスクが総じて高いことを考慮すると,NSAIDによる長期治療は,仮に行うとしても,慎重を期して行い,対象を反応する可能性が高い疼痛に限定すべきである。NSAIDの鎮痛効果は炎症による疼痛に最も発揮されやすい。

NSAIDは可能であれば低用量で使用すべきであり,有効性を確認するための短期治療または断続的治療を考慮すべきである。一般的に処方される他のNSAIDより心血管系の有害作用を起こすリスクが低いとみられることから,ナプロキセンの使用が望まれる場合がある。

オピオイド

高齢患者では,オピオイドは半減期が延長し,若年患者の場合より強い鎮痛効果を示す可能性がある。慢性疼痛のある高齢患者では,短期間のオピオイド使用により疼痛の軽減と身体機能の改善が得られる一方,認知機能が障害されるとみられている。オピオイドの過量投与のリスクに対する認識が高まっており,医師は高齢患者の認知障害によって患者のオピオイド使用が困難にならないかどうかや,介護者が責任をもって患者の薬物療法を共同管理できるかどうかを考慮すべきである。

また高齢患者では,オピオイドに関連した便秘および尿閉が問題になりやすい傾向がある。

高齢患者で治療開始後2週間に転倒および骨折が起きるリスクは,NSAID使用時よりオピオイド使用時の方が高く,これはおそらくオピオイドの鎮静作用と認知機能および平衡機能への有害作用によるものと考えられる。長期のオピオイド治療は,オピオイドが視床下部-下垂体-性腺系を阻害してアンドロゲン(テストステロン)およびエストロゲンの欠乏を生じさせることが一因となって,骨粗鬆症の発症につながる可能性もある。骨粗鬆症による長期的な骨折リスクは,長期のオピオイド治療を受けている高齢患者における懸念の1つとなっている。

他のオピオイドと比較して,オピオイド作動薬/拮抗薬であるブプレノルフィンは,腎機能不全を有する高齢患者におけるリスク・ベネフィットプロファイルがより良好である。

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