精巣腫瘍

執筆者:Thenappan Chandrasekar, MD, University of California, Davis
レビュー/改訂 2022年 1月
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精巣腫瘍は陰嚢腫瘤として発生し,通常は無痛性である。診断は超音波検査による。治療は組織型および病期によって異なり,精巣摘除術およびときにリンパ節郭清,放射線療法,化学療法,またはこれらの組合せによる。

米国では,毎年約9470例の精巣腫瘍が新たに発生し,約440例が死亡している(2021年の推定値)(1)。精巣腫瘍は15~35歳の男性で最も頻度の高い固形がんである。発生率は停留精巣を呈する患者で2.5~20倍高い。この過剰リスクは,10歳未満で精巣固定術が施行された場合に低下または消失する。がんは正常に下降した対側精巣にも発生しうる。精巣腫瘍の原因は不明である。

大部分の精巣腫瘍は原始胚細胞から始まる。胚細胞腫瘍はセミノーマ(40%)または非セミノーマ(何らかの非セミノーマ性の成分を含む腫瘍;60%)に分類される。非セミノーマには,奇形腫,胚性癌腫,内胚葉洞腫瘍(卵黄嚢腫瘍),絨毛癌などがある。組織型の混在がよくみられる(例,奇形癌腫は奇形腫と胚性癌腫を含む)。精巣の機能的間質細胞癌はまれである(5%未満)。

腫瘍が限局しているように見える患者でも,潜在性にリンパ節または内臓転移を来している場合がある。例えば,精巣摘除後に治療が行わない場合,非セミノーマ患者のほぼ30%がリンパ節または内臓転移により再発する。転移のリスクは,絨毛癌で最も高く,奇形腫で最も低い。

精巣上体,精巣垂,精索で発生する腫瘍は,通常は良性線維腫,線維腺腫,腺腫様腫瘍,脂肪腫である。ときに肉腫が発生し,最も頻度が高いのは横紋筋肉腫で,主に小児で認められる。

総論の参考文献

  1. 1.American Cancer Society: Key statistics for testicular cancer.

精巣腫瘍の症状と徴候

大半の患者は陰嚢腫瘤を呈し,無痛性,またはときに鈍くうずく疼痛を伴う。少数の患者では,腫瘍内への出血が急性の局所痛および圧痛をもたらすことがある。多くの患者は軽度の陰嚢外傷後に腫瘤を自分で発見する。まれに,広範な転移を来した患者では転移巣に関連する症状(例,腹痛,腰痛,錯乱または頭痛,息切れ,胸痛)がみられる。

精巣腫瘍の診断

  • 陰嚢腫瘤に対する超音波検査

  • 精巣腫瘤が存在する場合は試験切開

  • 腹部,骨盤,胸部CTならびに組織検査による病期診断

  • AFP(α-フェトプロテイン)やβ-HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)などの血清腫瘍マーカー

多くの患者は自己検診中に腫瘤を発見する。若年男性には月1回の自己検診を奨励すべきである。

大部分の精巣腫瘤は悪性であるのに対し,大半の精巣外腫瘤は悪性ではないため,陰嚢腫瘤の原発部位と性質を正確に決定しなくてはならないが,これら2種の身体診察中の鑑別は困難なことがある。陰嚢超音波検査により精巣由来を確認できる。精巣腫瘤が確定した場合は,血清腫瘍マーカー(AFP,β-HCG,および乳酸脱水素酵素[LDH])を測定し,胸部X線を施行すべきである。血清マーカーは良性の腫瘤を悪性の腫瘤と鑑別するのに役立つことがあるが,結果は決定的なものではない。その後は鼠径部からアプローチする根治的精巣摘除術が適応となり,異常な精巣を操作する前には精索を露出しクランプする。

がんと確定された場合は,標準のTNM(tumor, node, metastasis)分類による臨床病期診断を行うため,腹部,骨盤,および胸部CTが必要となる(精巣腫瘍のAJCC/TNM病期分類ならびに精巣腫瘍のTNM分類および血清マーカーの定義の各表を参照)。治療中(通常は根治的高位精巣摘除術)に得られた組織は,重要な病理組織学的情報,特に各組織型の割合および腫瘍内への血管またはリンパ管の進入の有無について情報が得られる。これらの情報により潜在性リンパ節転移および内臓転移のリスクを予測することができる。非セミノーマ患者は,限局性疾患と考えられる場合にも,約30%の再発リスクを有する。セミノーマはこれらの患者の約15%で再発する。

表&コラム
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精巣腫瘍の予後

予後は腫瘍の組織型と進展範囲に依存する。5年生存率は,精巣に限局したセミノーマまたは非セミノーマ患者と後腹膜腔に少量の転移巣がある非セミノーマでは95%を超える。広範な腹膜後腔転移を有する患者と肺転移またはその他の内臓転移を有する患者の5年生存率は48%(一部の非セミノーマ)から80%超であり,転移巣の部位,大きさ,および組織型にも依存するが,受診時から進行していた患者にも治癒の可能性がある。

精巣腫瘍の治療

  • 根治的高位精巣摘除術

  • セミノーマには放射線療法または化学療法

  • 非セミノーマには化学療法または後腹膜リンパ節郭清術

  • 積極的サーベイランス

根治的高位精巣摘除術が治療の基本であり,診断に重要な情報を得る上で有用であると同時に,その後の治療計画を立てる上でも役立つ。精巣摘除術の際に,美容整形として精巣プロステーシスを埋め込むこともある。シリコン製プロステーシスは,シリコン乳房インプラントに関する問題のために普及していない。一方,生理食塩水インプラントが開発されている。放射線療法または化学療法が予測される場合,生殖能力の保持を希望する男性には精子バンクを利用できる可能性がある。

放射線療法

セミノーマに対する一側精巣摘除術後の選択肢の1つは放射線療法であり,通常は20~40Gy(結節性の腫瘤がある患者ではより高い線量を選択する)を横隔膜までの傍大動脈領域に照射する。同側腸骨鼠径領域に対する治療は,もはやルーチンには行われていない。臨床病期に応じて,ときに縦隔および左鎖骨上領域も照射する。しかしながら,放射線療法には長期の心血管毒性に対する懸念があり,二次がん発生率と死亡率が高いことから,I期症例ではカルボプラチンの単回投与が放射線療法に大きく取って代わっている。非セミノーマでは放射線療法の役割はない。

リンパ節郭清術

非セミノーマに対しては,多くの専門家が後腹膜リンパ節郭清術を標準治療とみなしている。再発を予測する予後因子がない患者の臨床病期1期の腫瘍では,代替治療法は積極的なサーベイランスである(頻回の血清マーカーの測定,胸部X線,CT)。中等大の後腹膜リンパ節腫瘤を有する患者には,後腹膜リンパ節郭清および化学療法(例,ブレオマイシン,エトポシド,シスプラチン)が必要になる場合があるが,至適な順序は確立されていない。

一部の医療施設では腹腔鏡下でリンパ節郭清術が施行されている。全体としてリンパ節郭清術の最も頻度の高い有害作用は,射精障害である。しかしながら,神経温存郭清が可能であることも多く(特に早期の腫瘍),通常は射精機能を温存できる。

化学療法

5cmを超えるリンパ節腫瘤,横隔膜より上のリンパ節転移,または内臓転移に対しては,最初にプラチナ製剤をベースとする多剤併用化学療法を行った後,地固め療法として残存腫瘤に対する手術を施行する必要がある。一般的に,このような治療により長期にわたる腫瘍制御が得られる。しばしば妊孕性が障害されるため,治療前に精子バンクの利用を考慮すべきである。ただし,妊娠がみられた場合の胎児に対するリスクは証明されていない。

サーベイランス

I期のセミノーマまたは非セミノーマ胚細胞腫瘍を有する患者にはサーベイランスが非常に望ましいが,これを安全に行うには厳格なフォローアッププロトコルと非常に高いアドヒアランスが必要であることから,多くの医師はこの選択肢を推奨しない。再発リスクの低い患者に選択されることが多い。高リスク患者には通常,後腹膜リンパ節郭清術または1~2コースの化学療法によるアジュバント療法が施行される。

再発

非セミノーマの再発は通常,化学療法で治療されるが,リンパ節再発を起こしたが,腫瘍マーカーが正常で内臓転移の所見を認めない一部の患者では,後腹膜リンパ節郭清を後から施行することが適切となる場合がある。

要点

  • 15~35歳の男性では最も頻度の高い固形がんである精巣腫瘍は,しばしば治癒が可能であり,特にセミノーマでは治癒が可能である。

  • 陰嚢腫瘤を超音波検査で評価し,それが精巣の腫瘤であった場合は,胸部X線とAFP(α-フェトプロテイン),β-HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)およびLDH(乳酸脱水素酵素)の測定を行う。

  • 主要な治療は根治的高位精巣摘除術であり,その後にサーベイランス,化学療法,放射線療法,または後腹膜リンパ節郭清術を行う。

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