風疹は,リンパ節腫脹と発疹のほか,ときに全身症状(通常は軽度かつ短期間)を引き起こすウイルス感染症である。妊娠早期に感染すると,自然流産,死産,または先天性感染症につながる可能性がある。診断は通常臨床的に行う。症例は公衆衛生当局に報告する。通常,治療は不要である。ワクチン接種が予防に効果的である。
(先天性風疹も参照のこと。)
風疹はRNAウイルスによって引き起こされ,濃厚接触または空気を介して運ばれる飛沫によって伝播する。患者は発疹出現の7日前から発疹出現後15日目まで風疹を伝播させる可能性があり,リスクが最大となる期間は発疹出現の数日前から発疹出現後7日目までである。一部の患者は無症状であるが,それらの患者からもウイルスが伝播する可能性がある。先天性感染を来した乳児は,生後何カ月にもわたり風疹を伝播する可能性がある。
風疹は麻疹と比べると感染力が弱い。自然感染後の免疫は生涯にわたり持続するようである。しかしながら,ワクチン未接種の集団では,10~15%の若年成人が小児期に感染を経験しておらず,感受性が高い。
現在,米国での発生率はルーチンの小児予防接種により極めて低い水準となっており,2004年以降に発生した症例は全て輸入例である。
風疹の症状と徴候
多くの症例が軽症である。14~21日の潜伏期の後,成人では1~5日間の前駆期(通常は微熱,倦怠感,結膜炎,およびリンパ節腫脹がみられる)が続くが,小児では前駆期はごく軽微であるか認められない。
圧痛を伴う後頭部,耳介後部,および後頸部リンパ節の腫脹が特徴的である。
発症時には咽頭充血がみられる。
DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY
その後に現れる発疹は麻疹のそれに類似するが,範囲が狭く,消失しやすい傾向があり,小児では最初の徴候となる場合が多い。発疹は顔面および頸部から始まり,体幹と四肢へ急速に拡大する。発症時には,圧迫により消退する斑状紅斑が特に顔面に出現することがある。第2病日には,しばしば発疹が紅潮を伴って,より猩紅熱様(点状)となる。軟口蓋の点状出血斑(Forchheimer斑)は,後に癒合して強い発赤面となる。発疹は3~5日間持続する。
小児では,全身症状は認められないか軽度であり,具体的には倦怠感やときに関節痛がみられる。
成人では,全身症状はあってもわずかであるが,ときに発熱,倦怠感,頭痛,関節硬直,一過性の関節炎,および軽度の鼻炎がみられる。典型的には発疹出現後2日目までに解熱する。
軍隊での大規模なアウトブレイクにおいて脳炎が発生している。脳炎は典型的には完治するが,ときに致死的となる。
血小板減少性紫斑病および中耳炎がまれに発生する。
風疹の診断
病歴聴取および身体診察
血清学的検査
特徴的なリンパ節腫脹と発疹がみられる患者では,風疹が疑われる。
妊婦,脳炎患者,および新生児では臨床検査による診断が必要である。また,公衆衛生上の目的から,風疹が疑われる患者全例に対する臨床検査の実施が強く推奨される。急性期および回復期(4~8週間)血清での4倍以上の抗体価上昇で診断確定となるが,血清風疹IgM抗体検査でも診断可能である。
咽頭,鼻腔,または尿検体での逆転写PCR検査によるウイルスRNAの検出も診断確定のために行われることがあり,遺伝子型解析は疫学調査に有用である。
鑑別診断としては,麻疹,猩紅熱,第2期梅毒,薬疹,伝染性紅斑,伝染性単核球症のほか,エコーウイルスおよびコクサッキーウイルス感染症(主な呼吸器系ウイルスの表を参照)などがある。エンテロウイルスおよびパルボウイルスB19(伝染性紅斑)による感染症とは,臨床的に鑑別できないことがある。
これらの疾患の一部は風疹と以下のように鑑別できる:
麻疹:風疹は発疹がより軽症で消失しやすく,全身症状がより軽度で短期間であり,またコプリック斑,羞明,および咳嗽が認められないことから,麻疹と鑑別される。
猩紅熱:猩紅熱では通常,発症した当日に風疹より重度の全身症状および咽頭炎が生じる。
第2期梅毒:第2期梅毒では,リンパ節腫脹に圧痛がみられず,発疹は通常,手掌および足底で顕著となる。また,梅毒では臨床検査による診断が通常容易に利用できる。
伝染性単核球症:伝染性単核球症は,より重度の咽頭炎,長引く倦怠感,および異型リンパ球増多により,またエプスタイン-バーウイルス抗体検査により鑑別できる。
風疹の治療
支持療法
風疹の治療は対症療法である。
脳炎に対する特異的な治療法はない。
風疹の予防
麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹(MMR)弱毒生ワクチンによる予防接種(小児期の予防接種スケジュールも参照)は,医療制度が確立された国々の大半で小児を対象にルーチンに実施されている。
以下の2回接種が推奨されている:
1回目は生後12~15カ月
2回目は4~6歳
1歳未満で予防接種を受けた乳児には,1歳の誕生日以降にさらに2回接種する必要がある。
MMRワクチンで総じて持続的な免疫が得られる(1)。観察研究の結果によると,小児の風疹予防におけるMMRワクチンの有効性は,1回接種で後93~97%,2回接種後で100%であった(2)。
先天性風疹を予防するため,妊娠する可能性のあるワクチン接種を受けていない患者は,MMRワクチンの接種を1回受け,それから4週間以上が経過してから妊娠を試みるべきである。小児期にワクチン接種を受けた患者では,初回接種では免疫が成立しない場合もあるため,多くの医師が妊娠前に風疹IgGを調べる血清学的検査を行って免疫を確認している。風疹の免疫が一度確認されれば,その後の妊娠で再度検査を受ける必要はなくなる。
ワクチンを接種すると,感染力のない軽症または不顕性感染が生じる。ワクチン接種者の5~15%未満では,38℃を超える発熱が接種の5~12日後にみられ,続いて発疹が出現することもある。中枢神経系の反応は極めてまれである。MMRワクチンが自閉症を引き起こすことはない。
MMRは生ワクチンであり,妊娠中は禁忌である。
適応,禁忌および注意事項,用法・用量,有害作用などのより詳細な情報については,MMRワクチンを参照のこと。
予防に関する参考文献
1.McLean HQ, Fiebelkorn AP, Temte JL, Wallace GS; Centers for Disease Control and Prevention: Prevention of measles, rubella, congenital rubella syndrome, and mumps, 2013: Summary recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP).MMWR Recomm Rep 62(RR-04):1–34, 2013.
2.Di Pietrantonj C, Rivetti A, Marchione P, et al: Vaccines for measles, mumps, rubella, and varicella in children. Cochrane Database Syst Rev 4(4):CD004407, 2020.doi: 10.1002/14651858.CD004407.pub4
要点
風疹は猩紅熱様の発疹のほか,しばしば微熱,倦怠感,結膜炎,およびリンパ節腫脹(特徴的には後頭部,耳介後部,および後頸部リンパ節)を引き起こす。
大半の症例は軽症であり,まれに生じる脳炎と自然流産,死産,または先天異常につながりうる妊娠初期のリスクを除けば,合併症はほとんどない。
公衆衛生上の目的から,風疹が疑われる患者全例に対する臨床検査の実施が強く推奨されており,血清学的検査または逆転写PCR検査が可能である。
妊娠可能年齢の女性を風疹抗体でスクリーニングして,感受性の高い個人に予防接種を行うが,予防接種後は28日以上避妊させる。
妊娠中のワクチン接種は禁忌である。