凍傷は,組織の凍結による損傷である。最初は外見上良性にみえることがある。皮膚は白くまたは水疱状にみえることがあり,無感覚である;復温により強い疼痛が引き起こされる。壊疽が発生することがある。重度に損傷した組織は自然に脱落する場合がある。治療は,温水中(37~40℃)での復温および局所のケアである。外科的切断術がときに必要であるが,決定(しばしば画像検査の結果が参考にされる)は通常,壊死組織の最終的な分画後まで遅らせるべきである。
(寒冷障害の概要も参照のこと。)
凍傷は通常,極度の低温下,特に高地で起こり,低体温症により悪化する。四肢遠位部と露出部の皮膚に最も多く生じる。
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氷の結晶が組織の細胞内または細胞間に形成され,これにより実質的に組織が凍結し,細胞死をもたらす。局所の血管収縮と血栓症により内皮損傷および虚血性障害が生じる可能性があるため,隣接する非凍結部位が危険に曝される。復温中の再灌流により,炎症性サイトカイン(例,トロンボキサン,プロスタグランジン)が放出され,組織障害が増悪する。組織の喪失の深さは,凍結の持続時間と深さに依存する。
総論の参考文献
1.Dow J, Giesbrecht GG, Danzl DF, et al: Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Out-of-Hospital Evaluation and Treatment of Accidental Hypothermia: 2019 Update.Wilderness Environ Med 30(4S):S47-S69, 2019.doi: 10.1016/j.wem.2019.10.002
凍傷の症状と徴候
病変部位は冷たくて硬く,白く無感覚である。復温すると,しみのように赤くなり,腫れて痛む。水疱が4~6時間以内に生じるが,損傷の程度は数日間明らかにならないことがある。
透明な血清で満たされた水疱は表層的な損傷を示す;表層的な損傷の場合,残存組織が喪失することなく治癒する。
血液で満たされた近位の水疱は,深い損傷を示し,組織が喪失する可能性が高い。
深部組織の凍結は,健全な組織の上に硬く黒い甲羅状の乾性壊疽を生じさせる。湿性壊疽は軟らかい灰色の浮腫性病変で,比較的まれである。湿性壊疽は感染を特徴とするが,乾性壊疽では感染は起こりにくい。
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重度に損傷した組織は自然に脱落する場合がある。コンパートメント症候群が発生することがある。その損傷程度によらず,凍傷は爪の成長異常と長期的な神経障害症状を引き起こすことがあり,具体的には寒冷への感受性の増大,大量発汗,およびしびれ(複合性局所疼痛症候群の症状と類似する症状)がみられる。
凍傷の診断
臨床的評価
診断は臨床所見に基づく。ただし,凍傷の初期の特徴の多く(例,冷感,しびれ,白または赤くなった患部,水疱)はnonfreezing cold injury(NFCI)の特徴でもあるため,凍傷の鑑別は,より特異的な特徴(例,黒い甲羅状部分)が発生するまで観察を繰り返す必要がありうる。
凍傷の治療
温水中(37~39℃)での復温
支持療法
局所創傷のケア
ときに,遅らせて行う手術
プレホスピタルケア
野外では,凍傷となった四肢は,触れても耐えられる熱さの温水(37~39℃)に病変部位全体を浸すことにより,急速に復温すべきである。その部位が無感覚であるため,制御不能な乾式の熱源(例,火,温熱パッド)による復温は熱傷の危険がある。マッサージはさらに組織を損傷することがあり,避けるべきである。
部位の凍結時間が長いほど,最終的な損傷が重度となりうる。しかしながら,患者が治療を受けるために少しでも歩く必要がある場合には,解凍された組織は特に歩行により外傷を来しやすく,また,再凍結した場合には凍ったままにしておいた場合よりも重度の損傷を受けるため,足の解凍は推奨されない。解凍を遅らせる必要がある場合は,凍結部位を愛護的に洗浄し,乾燥させ,無菌の圧迫ガーゼで保護する。入手可能であれば患者に鎮痛薬を投与し,全身を保温する。
急性期ケア
患者が病院に到着したら深部体温を安定させ,約37~39℃に保たれた水が循環する大きな容器の中で四肢を急速に復温する;15~30分で通常は十分である。復温中に疼痛が重度となることがあるために,しばしば解凍が誤って早すぎる時点で終了される。オピオイドなどの鎮痛薬を非経口(parenteral)投与してもよい。
解凍中は,愛護的に患部を動かすよう患者に指示する。大きく透明な水疱はそのまま保つか,または無菌操作により吸引する。血性の水疱はそのまま保ち,二次的な真皮層の乾燥を回避する。破れた水疱にはデブリドマンを行う。解凍後,灌流がない場合には,パパベリン(血管拡張薬の1つ),ニカルジピン,またはニトログリセリンの投与を考慮してもよい。灌流がない状態が続く場合は,動脈内または経静脈的血栓溶解療法を考慮してもよい(1)。この治療に続いてエノキサパリン1mg/kgを1日2回,14日間皮下注射すべきである。
抗炎症処置(例,アロエベラ6時間毎の塗布,およびイブプロフェン400~600mg,経口,8時間毎)がおそらく役に立つ。病変部位は暖かい空気に開放したままとし,四肢は挙上して浮腫を減少させる。抗凝固薬,低分子デキストラン静注,および血管拡張薬(例,レセルピン,トラゾリン)動注は,臨床的な便益が示されていない。フェノキシベンザミン(phenoxybenzamine)は長時間作用型α遮断薬であり,用量10~60mg,1日1回の経口投与により,理論的には血管攣縮を抑制し,血流を改善する。48時間以内にみられる重度の損傷には,イロプロストなどのプロスタサイクリン誘導体の注入を考慮すべきである。
感染予防が重要である;レンサ球菌感染予防(例,ペニシリン)を考慮すべきである(特に著しい汚染または挫滅損傷がある場合)。湿性壊疽があれば,広域抗菌薬を使用する。ワクチン接種が最新の状態でなければ,破傷風トキソイドを投与する。組織損傷が重度の場合には,組織圧をモニタリングする(コンパートメント症候群:診断,前腕のコンパートメント内圧測定,および下腿のコンパートメント内圧測定を参照)。
継続的ケア
代謝性の熱産生を維持するため十分な栄養が重要である。解凍前に,ドプラ超音波検査を用いて動脈拍動と組織の性状を評価することを考慮する。
その他の画像検査としては,核医学検査,MRI,マイクロ波サーモグラフィー,レーザードプラフローメトリーなどがあり,循環の評価と組織の生存性の判定,ひいては治療方針の決定に役立つ。MRI,特にMRアンギオグラフィーにより,臨床的分画に先立って分画線を確定でき,これにより早期の外科的デブリドマンや切断術が可能となる。しかしながら,早期の手術が長期転帰を改善するか否かは不明である。通常,手術は可能な限り遅らせるが,それは,黒い甲羅状部分がしばしば,生存能力のある組織を残して脱落するからである。重度の凍傷を伴う患者には,分画および組織損失の程度が明らかになるまで,何週間もの観察が必要になることがある,と予告する。
37℃での1日3回の渦流浴の後,やさしく乾かし,安静にし,時間をおくことが,最良の長期的処置である。凍傷の長期的症状(例,しびれ,寒冷への過敏性)に対して全般的に効果的な治療は知られていないが,化学的または外科的な交感神経切除術が後期の神経障害症状に有用なことがある。
治療に関する参考文献
1.Hickey S, Whitson A, Jones L, et al: Guidelines for Thrombolytic Therapy for Frostbite. Journal of Burn Care & Research, 41:1, 2020.
要点
損傷の深さは初期には把握が困難であるが,血液で満たされた水疱は,より深い損傷を示す。
凍傷となった組織はできるだけ早く,触れても耐えられる熱さの温水(37~39℃)で解凍する;通常,鎮痛薬が必要となる。
解凍後の再凍結は避ける。
病変部位は覆いをせず,清潔,乾燥を保ち,挙上する。
黒くなった組織は,後に脱落する黒い甲羅状部分を示しているかもしれないし,または切断術を必要とする壊疽を示しているかもしれない;手術は分画が明確になるまで遅らせることがある。
神経障害症状(例,寒冷への感受性の増大,しびれ)が恒久的に続くこともある。