炭水化物および糖の概要

炭水化物には,炭素,水素,および酸素による小さな環状分子が単一または2つ一組で存在する単純糖質と,この環状構造がつながって長い鎖を作ることで形成されるより複合的な炭水化物の2種類があります。私たちは炭水化物からカロリー,すなわちエネルギーを得ることができ,特に単純糖質と言われるものは私たちの食事において多くの役割を果たしています。例えば,レモネードを甘くしたり,酸っぱい味噌汁のバランスをとったり,パン生地や酒類の発酵において酵母にとっての燃料となったり,ジャムやゼリーの保存に役立ったりしています。

糖は果物,野菜,穀物などの植物のほか,牛乳やチーズのような動物性食品に天然に含まれています。シリアル,ケチャップ,エナジーバー,さらにはサラダのドレッシングなどの食品に添加されている糖は,添加糖類と呼ばれます。ちなみに,添加されている糖がたとえサトウキビや蜂蜜などの天然のものであっても,それは添加糖類とみなされます。実際,食品表示に記載されている様々な原材料が添加糖類の供給源となっている可能性があり,その中にはよく知っているものもあるでしょう。

糖とは実際には糖質(saccharide)と呼ばれる分子群のことを指しており,単糖類(monosaccharide;「mono」は1を意味することから,1個の糖分子),二糖類(disaccharide;「di」は2を意味することから,糖分子が2個結合したもの),少糖類(oligosaccharide;「oligo」は少数を意味し,糖分子が3~9個結合したもの),および多糖類(polysaccharide;「poly」は多数を意味し,糖分子が10個以上結合したもの)と呼ばれるものがあります。

ブドウ糖(グルコース)は単糖類で,糖の中で最も重要なものです。身体にとって主要なカロリー源の1つであり,血液脳関門を通過して脳に栄養を与えることができます。もう1つの単糖類として果糖(フルクトース)があり,蜂蜜,果物,および野菜に広く含まれています。最後にもう1つ,milk sugarとして知られている,ガラクトースという単糖類があります。何故milk sugarといわれるかというと,ブドウ糖と結合して乳糖(これはラクトースといわれる二糖類で,牛乳やヒトの母乳など哺乳類の乳に含まれます)を形成している以外には天然には存在しないためです。

ショ糖(スクロース)も二糖類の1つであり,果糖とブドウ糖が結合したものです。ショ糖は様々な果物や野菜に含まれており,なかでもサトウキビとビートに最も多く含まれています。麦芽糖(マルトース)も二糖類の1つで,2つのブドウ糖分子が結合したものです。糖蜜(ビールを発酵させるための基質として利用できる)に含まれています。

糖は,例えば果糖のように,ほぼ必ず他の糖と組み合わさって存在しています。見た目の似た食品であっても,その組み合わせが大きく異なることがあります。例えば蜂蜜の場合は,糖のうち50%が果糖,44%がブドウ糖,4%がガラクトース,2%が麦芽糖です。一方でメープルシロップの場合は,糖のうち1%未満が果糖,3%がブドウ糖,96%がショ糖です。要するに単純糖質は,天然のものであっても添加されたものであっても,単糖類または二糖類が混ざってできています。

次に,複合炭水化物をみてみましょう。少糖類としてガラクトオリゴ糖などがありますが,これはガラクトース分子の短い鎖で,大豆などに含まれています。次に多糖類があります。これは分岐をもつさらに大きな鎖であり,食物中に最も豊富に含まれている炭水化物です。デンプンは糖分子間で分子が結合している多糖類で,ヒトの腸内酵素によって分解されます。デンプンは重要なカロリー源であり,米,ジャガイモ,小麦,トウモロコシなどの食品に含まれています。デンプンは単純糖質と同じようには味蕾を活性化させないために,単純糖質のような甘い味ではありません。炭水化物にはさらに食物繊維があります。食物繊維は腸内酵素によって分解されません。そのため,消化することができません。

食物繊維は多種多様で,その構造や健康への影響については一様に同じというわけではありません。食物繊維はヒトの腸内酵素に対して抵抗性を示す分子結合を有しているために,消化されることなく小腸を通過し,大腸内の細菌によってわずかに分解されて,最終的に便の容量を増す物質となります。また,食物繊維は,小腸におけるブドウ糖などの単純糖質の吸収速度を低下させることができるため,健康的な血糖値の維持に役立つ可能性があり,極めて重要な存在です。便の重量を増やすことで便秘の予防にも役立ちます。β-グルカンなどのような食物繊維は,心臓の健康にも良い効果をもたらします。

単糖類は,グリコシド結合と呼ばれる結合で他の単糖類とつながっています。これはある単糖類の炭素のOH基が別の単糖類の炭素の水素と結合していることを意味します。この結合の際にH2O,すなわち水分子ができて放出されます。麦芽糖の場合は,1つのブドウ糖の1番炭素と,もう1つのブドウ糖の4番炭素とが結合しており,これをα-1,4グリコシド結合といいます。「α」とは分子が互いの横に位置することを意味しています。一方で,乳糖の場合はガラクトースの1番炭素とブドウ糖の4番炭素とが結合しており,この結合では一方の分子が他方の分子より1段上に重なっています。これをβ-1,4グリコシド結合といいます。最後に,ショ糖はα-1,2-グリコシド結合でつながっていますが,これはブドウ糖の1番炭素と果糖の2番炭素が結合していることを意味しています。

ではここでオニオンブレッドを食べたとしましょう。二糖類,オリゴ糖類,および多糖類を吸収できるようにするために,酵素が単糖類へと分解し始めます。様々な酵素が様々な結合の分解を助けます。例えば,アミラーゼはデンプンのような大きな多糖類をより小さな単位に分解します。そしてラクターゼ,スクラーゼ,およびマルターゼは乳糖,ショ糖,および麦芽糖を分解して単糖類にします。大きな炭水化物分子が消化されて個々の単糖類(ブドウ糖,果糖,ガラクトース)になり,腸管の内壁を通過して血流中に入ると身体がそれを利用します。食後に血液中のブドウ糖濃度が上昇すると,膵臓はインスリンというホルモンを分泌します。これによって,ブドウ糖が全ての細胞内に行き渡りエネルギーが供給されます。インスリンは肝臓を刺激して肝臓がブドウ糖をグリコーゲンとして貯蔵するのを助けます。これはグリコーゲン生成と呼ばれる過程で,この過程ではいくつかのブドウ糖分子がα-1,4およびα-1,6グリコシド結合で互いに結合して,グリコーゲンと呼ばれる多糖が作られます。インスリンは脂肪およびタンパク質の合成も促進します。

次にガラクトースの代謝ですが,最初の段階で,肝臓の酵素によってガラクトースがブドウ糖に変換されます。これは基本的に,4番炭素のOH基の配向性を反転させることによります。そして,ガラクトースも肝臓でブドウ糖分子になることができます。しかし果糖は肝臓で少し異なる扱いを受けます。果糖は合計6個の炭素をもち,大半は炭素数3の分子2つに分解されて解糖系へと送られ,エネルギーの産生を助けます。エネルギーが必要になると,3種類全ての単糖類は解糖され,クエン酸回路および酸化的リン酸化を介して代謝されます。最終的に,消化可能な全ての炭水化物は,単純糖質や蜂蜜に由来するのか,デンプンやベイクドポテトに由来するのかに関係なく,それを構成する単糖類に分解され,身体が何を必要としているかに応じて,即座にエネルギーとして利用されるか,必要な時のために貯蔵されます。

全米アカデミーズ(National Academies of Sciences,Engineering and Medicine)は,健康的な食事に含まれるカロリーの45~65%を炭水化物由来とすることを推奨しています。体重を維持するために必要なカロリーの量は,年齢,性別,身長,体重,活動レベルなどによって異なります。例として,若干活動的な40歳女性,身長5フィート9インチ(約175cm),体重160ポンド(72.6kg),BMIは23.6で2000キロカロリーの食事が必要だという場合を考えてみましょう。彼女がカロリーの55%を炭水化物由来にすることを目標にしたとします。2000キロカロリーの55%は1100キロカロリーです。炭水化物には複数の種類があります。まずは食物繊維です。2000キロカロリーの食事では,28gの食物繊維を摂取することが一般に推奨されています。食物繊維のカロリーは1g当たり約0~2キロカロリーですから,28gは約56キロカロリーとなり,これは彼女が摂取する総カロリーの約3%に相当します。次に糖質ですが,食品に添加されたものと未加工の食品に自然に含まれるものの2種類があります。糖質の総摂取量または天然に含まれる糖質の摂取量に関する正式な推奨はほとんど存在していません。ただし,カナダの最新の栄養表示では,1日当たりの糖質の総摂取量は100gすなわち400キロカロリーとされており,これは2000キロカロリーの食事の20%を占めます。添加糖類に関しては,世界保健機関(World Health Organization:WHO)と米国人のための食生活指針(US Dietary Guidelines)はともに,総カロリーに占める添加糖類の割合を10%未満にするよう推奨しています。炭水化物の総摂取量の目標と同様に,添加糖類の推奨の約半分を目指すとします。この場合,計算すると100キロカロリー,すなわち総カロリーの5%となります。この考え方に基づくと,彼女が糖由来で摂取する総カロリーのうち,残る300キロカロリーすなわち75gが,果物,野菜,乳製品,および穀物に含まれる糖に由来することになります。これは彼女の総カロリーの15%に相当します。そして残りの640キロカロリー(総カロリーの32%),すなわち160グラムをデンプンから摂取して炭水化物の目標摂取量を達成します。

健康的な食事を摂るということは,可能な限り栄養素が豊富な食品を選ぶことを意味します。食物繊維,デンプン,および天然の糖を含む食品,例えば果物や野菜などは,糖質が添加された食品よりも栄養素が豊富である傾向があります。とはいっても,大半の人の食事には加工食品が含まれています。そこで,栄養表示を注意深く読むことが,食品を比較し,より栄養素の豊富な食品を選ぶのに役立ちます。一般には,食物繊維などの栄養素が多く含まれ,添加糖類の少ない食品や飲料を選ぶのが一番よいでしょう。

簡単にまとめてみましょう。まず,炭水化物には様々な種類があります。単純糖質といわれるものには,身体がすぐに吸収できる単糖類と二糖類があります。デンプンは多糖類で,吸収により長い時間がかかります。食物繊維も多糖類で,身体が腸内細菌の助けを借りて部分的に吸収できます。結局のところ,健康的な食事は,果物,野菜,乳製品,穀物など様々な食べ物に由来する全ての種類の炭水化物を含むものです。添加糖類も含めることができますが,世界保健機関および米国人のための食生活指針では,総カロリーに占める添加糖類の割合を10%未満にすることが推奨されています。

Video credit: Osmosis (https://osmosis.org/)

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