電子医療記録(EHR)と臨床意思決定支援

執筆者:Brian F. Mandell, MD, PhD, Cleveland Clinic Lerner College of Medicine at Case Western Reserve University
レビュー/改訂 2021年 5月
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電子医療記録(electronic health record:EHR)は,臨床意思決定支援(electronic health record:CDS)に用いることのできる膨大な量の患者データや他の情報を利用可能にすることにより,臨床医に変化をもたらしてきた。

米国の法律は,EHRを導入することに対して,さらに重要なこととして,EHRから有意義な用途を引き出すことに対して経済的インセンティブを生み出してきた。米国においてEHRの導入は活発であるものの,患者ケアに対する最終的な影響は不明であり,新たな活用方法や問題が発見されるにつれて今後何年も進化し続けるであろう。

大量の書類の代わりに,多くの場合はデジタルで検索可能な単一の電子的ロケーションに収められている莫大な量の患者情報は,たとえEHRが単に検索・レビュー・比較の可能な情報と画像のリポジトリとしての役割しか果たさないとしても,臨床的意思決定の助けとなる。

EHRの潜在的な便益には以下のものがある:

  • EHRは手書きの記録を判読する際の問題を解消する(ただし,音声認識ソフトウェアによるエラーを招く可能性もある)。

  • EHRでは,複数の医療提供者が1つの記録を同時に閲覧することができる。

  • 自動化された薬物相互作用とアレルギーの警告および投薬エラーの検出により,薬剤エラーを減らせる可能性がある。

  • EHRに組み込まれている,疾患,適切なスクリーニング,予防接種,および治療に関する情報への臨床的に重要なリンクにより,臨床医にリアルタイムで患者の問題に関する最新の情報にアクセスするよう促すことができる。

  • EHRとリンクされているかEHRに組み込まれている臨床スコアリングツールおよび検査前確率計算プログラムは,臨床医の診断上および治療上の意思決定を支援するために特定の患者の医療記録から情報を選び出すことができ,疾患経過のより早い段階での介入を可能にする。医師が入力したデータを人工知能アルゴリズムにより自然言語としてスクリーニングする技術では,診断上の考慮事項を提案することができる。

  • EHRに組み込まれた臨床パラメータ(例,バイタルサイン,検査結果)を用いて,臨床医に知らせるアラートを生成したり,あらかじめ定めたオーダーやオーダーセット,診断および治療バンドル,またはクリニカルパスのトリガーを生成したりすることができる。一例として,最近のある研究では,10~17歳の小児患者が通常のケアと,EHRとリンクした臨床意思決定支援(CDS)で強化されたケアとにランダムに割り付けられ,毎回の来院で血圧が測定された。CDSツールでは,血圧とパーセンタイルが表示され,高血圧の発症が同定され,患者に合わせたオーダーセットが提供された。2年間で,31,579人の患者のうち1.7%で高血圧が同定された。CDSが利用可能であった場合,高血圧患者の17.1%に減量および運動のカウンセリングへの紹介が行われ,9.4%に高血圧の追加検査が行われた。一方,通常のケアが提供された場合は,高血圧患者の3.9%のみにカウンセリングへの紹介が行われ,4.2%に追加検査が行われた。EHRとリンクした臨床意思決定支援は,小児高血圧の発見に有意で有益な影響を与えたと著者らは結論づけている(1)。

  • 診断検査のオーダー時にEHRとリンクしたCDSが提供されれば,診断率の低い,または不適切な診断検査の使用を減らすことができる可能性がある。最近のある研究において,米国放射線学会(American College of Radiology:ACR)提唱の画像検査の妥当性基準をオーダーエントリー時に提示された臨床医では,低い有用性とされたMRI,CT,核医学検査,PETおよび超音波検査のオーダー数がより少なかった。臨床医は,望ましい検査のために体系化された適応を選択するよう促された。選択された適応は,商用利用可能なCDSツール(ACR Select)によりACR基準に対応付けられ,選択された検査は,低い有用性または通常不適切,限界的または中程度の有用性,良好な適応または通常適切として特徴付けられた。このCDSによるサポートにより,有用性の低い検査の頻度は11%から5.4%に減少し,有用性の高い検査の頻度は64.5%から84%に増加した。主治医,研修医および高度実践医療従事者(ナースプラクティショナーおよび医師助手)で改善がみられ,研修医において最も顕著であった(2)。

一般に,このような手段の目的は,専門家委員会,職能団体,保険業者,または医療機関が定めたベストプラクティスとみなされるものに臨床医を導くことによって,臨床診療のばらつきを減らすことである。EHRにはトリガーやプロンプトが臨床医に対して出力された際に記録が残るため,プロトコルやガイドラインに対する遵守状況が測定できる。これらの例は,CDSにおけるEHRのまだ実現されていない可能性を示している。EHRシステムが成熟し,EHR-CDSが精緻化されれば,今後,従来の医療上の意思決定が増強されるであろう。

一方で,以下のようなEHRの潜在的な悪影響も指摘されている:

  • 医療従事者が文書作成に費やす時間が著しく増加する(患者との対面中も含めて,やり取りの性質が大きく変化する)

  • カルテ内の記録の量が増加し,重要な情報の同定がより困難になる(例,過去の記録から内容をコピーして日付のない状態で最新の外来診察記録に貼り付ける行為は,利便性のため,あるいは請求レベルを正当化するためかもしれないが,記録の他の部分の正確性について混乱や疑念を招くことになる)

  • オーダー入力用のプルダウンメニューにより選択ミスの可能性が増大する

参考文献

  1. 1.Kharbanda EO, Asche SE, Sinaiko AR, et al: Clinical decision support for recognition and management of hypertension: a randomized trial.Pediatrics 141(2), 2018.doi: 10.1542/peds.2017-2954

  2. 2.Huber TC, Krishnaraj A, Patrie J, et al: Impact of a commercially available clinical decision support program on provider ordering habits.J Am Coll Radiol 15(7): 951-957, 2018.doi: 10.1016/j.jacr.2018.03.045

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. The Health Information Technology for Economic and Clinical Health (HITECH) Act: Promotes the adoption and meaningful use of health information technology

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