医学的検査および検査結果の理解

執筆者:Brian F. Mandell, MD, PhD, Cleveland Clinic Lerner College of Medicine at Case Western Reserve University
レビュー/改訂 2021年 5月
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検査結果は,症状のある患者を診断したり(診断検査),無症状の患者が有する可能性のある疾患を同定したり(スクリーニング)するのに役立つ。検査が臨床症状に基づいて適切にオーダーされた場合は,あらゆる結果が可能性のある診断を確定または除外するのに役立つはずである。検査によって疑わしい疾患のある患者と疾患のない患者とを十分に識別できない場合または検査結果が臨床に適切に反映されない場合には,検査結果が臨床判断プロセスを妨げる可能性がある。

臨床検査は完璧なものではなく,健常者の一部を有疾患者と誤って同定(偽陽性)することもあれば,罹患者の一部を疾患なしと誤って同定(偽陰性)することもある。ある検査によって患者の疾患を適切に同定できるかどうかは,ある人がその疾患を有する可能性の程度(事前確率)およびその検査に内在する作動特性に依存する。

診断検査はしばしば,正確な臨床的意思決定に大きく寄与するが,検査には望まない,あるいは意図しない結果が伴うこともある。検査には熟慮と目的をもってあたるべきであり,また検査結果が患者の問題をとりまく曖昧さを減らし,患者の健康に寄与するという見込みをもって施行すべきである。誤った情報が得られる(したがって治療の開始を遅らせたり不要な治療の原因となる)リスクに加えて,臨床検査は限られた資源を消費し,検査自体に伴う有害作用(例,肺生検による気胸)を招いたり,さらに不要な検査を行うきっかけとなったりする。

陽性判定の定義

最も一般的な検査の中には,定量的な連続値の尺度に沿って結果を出す検査がある(例,血糖値,白血球数)。そのような検査では,その数値範囲全体にわたって有用な臨床情報が得られる可能性があるが,臨床医は多くの場合,設定した基準ないしカットオフ値に基づいて結果を陽性と陰性(すなわち,疾患の有無)に分類することによって疾患の診断を行う。こうしたカットオフ値は通常,偽陽性(不要で高額な危険を伴う可能性のある検査や治療を促すことになる)と偽陰性(治療可能な疾患を見逃すことになる)の割合を均衡させることを目的とした統計解析や概念解析に基づいて設定される。また,カットオフ値の特定は,問題の疾患を同定するためのゴールドスタンダードがあるかどうかにも依存する。

典型的には,こうした定量的な検査結果(例,細菌性肺炎の疑い症例における白血球数)は,何らかの分布曲線(正規曲線として描かれることが多いが必ずしもそうとは限らない)を示す。疾患のある患者における検査結果の分布の中央は,疾患のない患者のそれとは異なる。疾患のある患者の一部では,結果が非常に高いまたは非常に低いこともあるが,大半の患者では平均に集中した結果が得られる。逆に,疾患のない患者の一部でも,結果が非常に高いまたは非常に低いことがあるが,大半の患者の結果は,疾患のある患者とは異なる平均に集中している。大半の検査では分布が重なるため,可能性のある検査結果の多くは疾患のある患者にも疾患のない患者にも認められる;こうした結果は,曲線を同じグラフ上に描くことによってより明確に示すことができる(検査結果の分布の図を参照)。設定されたカットオフ値以上である患者の一部とカットオフ値未満である患者の一部では,誤った結果が出る。疾患のある患者をより多く同定する(検査の感度を高くする)ためにカットオフ値を調整するならば,偽陽性の数も増加し(特異度が低くなり),患者を疾患ありと誤って診断することを回避するために逆方向にカットオフ値を移動するならば,偽陰性の数が増加する。各カットオフ値は,真陽性および真陰性の特異的な確率と連動している。

検査結果の分布

疾患のある患者は分布図の上部に,疾患のない患者は分布図の下部に示す。疾患のある患者では,検査結果の分布曲線下で,カットオフ基準の右(基準以上)にある領域がその検査の真陽性率(すなわち,感度)に相当し,その基準の左(基準未満)にある領域が偽陰性率に相当する。疾患のない患者では,カットオフ基準の右にある領域が偽陽性率に相当し,左にある領域が真陰性率(すなわち,特異度)に相当する。重なりのある2つの分布(例,疾患のある患者と疾患のない患者)では,カットオフ基準を移動させることで感度と特異度が変化するが,それぞれ反対の方向に変化する;カットオフ基準を1から2に変更すれば,偽陰性の数が減少する(感度が高くなる)が,同時に偽陽性の数が増加する(特異度が低くなる)。

ROC曲線

一連のカットオフ値毎に,偽陽性の割合(偽陽性の数/疾患をもたない人の数)に対する真陽性の割合(真陽性の数/疾患をもつ人の数)をグラフにプロットすることにより,ROC(receiver operating characteristic)曲線と呼ばれる曲線が得られる。ROC曲線により,カットオフ値を調整するときの感度と特異度のトレードオフをグラフで表すことができる(典型的なROC曲線の図を参照)。慣例により,真陽性の割合をy軸に,偽陽性の割合をx軸にとる。ROC曲線下面積が大きいほど,その検査は疾患のある患者と疾患のない患者をより良好に識別することができる。

ROC曲線によって,様々なカットオフ値において検査を比較できる。例では,全ての範囲で,検査Aは検査Bより性能が良いことを示している。また,ROC曲線は,検査の効用を最大化するためのカットオフ値の選択においても助けとなる。ある疾患を確定することを目的とする検査の場合,特異度が高く,感度が低くなるカットオフ値を設定する。潜在的な疾患のスクリーニングを目的とする検査の場合,感度が高く,特異度が低くなるカットオフ値を設定する。

典型的なROC曲線

検査の特性

臨床変数には,結果が2種類のみのものがあり(例,生存/死亡,妊娠している/妊娠していない),こうした変数は,カテゴリー変数や二値変数と呼ばれる。その他のカテゴリー変数には,多くの分散的な値をとるものがあり(例,血液型,グラスゴーコーマスケール[Glasgow Coma Scale]),名義変数または順序変数と呼ばれる。血液型のような名義変数には,特定の順序はない。グラスゴーコーマスケールのような順序変数は,特定の順序に並べられた分散値をとる。典型的な診断検査の多くを含む,その他の臨床変数は連続変数であり,可能性のある結果の数は無数である(例,白血球数,血糖値)。多くの臨床医はカットオフ値を設定し,連続変数を二値変数として扱えるようにする(例,空腹時血糖値が126mg/dL[7.0mmol/L]以上の患者は糖尿病とみなされる)。連続変数を用いた診断検査の中には,複数のカットオフ値を設定したり,結果の範囲に応じて異なる診断的価値を与えることで,診断に役立つものもある。

検査結果を陽性または陰性と定義できる場合,可能性のある全ての結果を単純な2x2分割表に記録でき(仮定の検査結果の分布の表を参照),そこから感度,特異度,陽性適中率,陰性適中率,および尤度比などの重要な識別特性を計算できる(ある女性1000人のコホートにおけるUTIの有病率を30%とおいた場合の,仮定の白血球エステラーゼ試験結果の分布の表を参照)。

表&コラム
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感度,特異度,適中率

感度および特異度は一般に,検査自体の特性であり,患者集団とは無関係であるとみなされている。

  • 感度(sensitivity)とは,疾患のある患者において検査結果が陽性となる可能性である(真陽性率)

つまり,疾患のある患者10人中8人で陽性となる検査の感度は0.8である(80%とも表される)。感度は,ある検査が対象疾患をどの程度検出できるかを示す指標であり,感度の低い検査では疾患があっても同定されない患者が多くなり,感度の高い検査は結果が陰性の場合に診断を除外するのに有用である。感度は偽陰性率の補数である(すなわち,偽陰性率と感度の和は100%となる)。

  • 特異度(specificity)とは,疾患のない患者において検査結果が陰性となる可能性である(真陰性率)

つまり,疾患のない患者10人中9人で陰性となる検査の特異度は0.9(または90%)である。特異度の高い検査は偽陽性率が低いため,特異度は,ある検査が疾患のある患者をどれだけ正確に同定できるかを示す指標となる。特異度の低い検査では,疾患のない患者の多くが疾患ありと診断される。特異度は偽陽性率の補数である。

適中率(predictive value)とは,疾患の有無が判明していない特定の患者集団における検査の挙動を説明する指標である。ある検査の適中率は,検査を受けた患者集団における疾患の有病率に応じて変化する。

  • 陽性適中率(positive predictive value:PPV)とは,検査で陽性と判定された患者のうち実際に疾患を有している患者の割合である

つまり,10例中9例の陽性判定が正しい場合(真陽性),PPVは90%である。全ての陽性判定には,真陽性と偽陽性が含まれているため,PPVはある患者集団における陽性判定が真陽性を表している可能性がどの程度あるかを示している。

  • 陰性適中率(negative predictive value:NPV)とは,検査で陰性と判定された患者のうち実際に疾患を有していない患者の割合である

つまり,10例中8例の陰性判定が正しい場合(真陰性),NPVは80%である。全ての陰性判定が真陰性というわけではないため,検査で陰性と判定された患者の中には,実際には疾患を有している患者もいる。NPVは,ある患者集団における陰性判定が真陰性を表している可能性がどの程度あるかを示している。

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尤度比

特定の患者における確率に適用されない感度や特異度とは異なり,尤度比(LR)を用いれば,疾患の検査前確率が(しばしば推定ではあるが)わかっている場合に特定の患者の検査結果を解釈することが可能になる。

尤度比は,検査結果が判明した時点での疾患の検査前確率の変化を説明し,以下の質問に答えるものである:

  • 検査結果が判明したことで,検査後確率が検査前確率からどれほど変化したか?

多くの臨床検査の結果は二値的に,すなわち,カットオフ値を上回る(陽性)か,カットオフ値を下回る(陰性)かの2種類のみの結果として解釈されている。それ以外の検査結果は連続値として解釈されるか,複数のカットオフ値が設定された範囲上で解釈される。実際の検査後確率は,尤度比の大きさ(検査の動作特性に依存する)と疾患の検査前確率の推定値に依存する。施行されている検査が二値的で,結果が陽性または陰性で解釈される場合には,感度と特異度を用いることで陽性尤度比(LR+)または陰性尤度比(LR-)を計算することができる。

  • LR+疾患のない患者で検査結果が陽性(偽陽性)になる可能性に対する,疾患のある患者で検査結果が陽性(真陽性)になる可能性の比

  • LR-疾患のない患者で検査結果が陰性(真陰性)になる可能性に対する,疾患のある患者で検査結果が陰性(偽陰性)になる可能性の比

結果が連続値である場合と複数のカットオフ値が設定されている場合には,感度と特異度ではなく,ROC曲線を用いて尤度比を計算するが,この場合の尤度比はLR+やLR-とは表されない。

尤度比は,合計に占める割合ではなく,相互排他的な事象の比であるため,確率ではなく,オッズを表している。ある検査において,尤度比は結果が陽性の場合と陰性の場合で異なる。

例えば,検査結果が陽性であった場合,KR+ 2.0は,陽性判定が疾患のある患者を表しているオッズが2:1(真陽性数:偽陽性数)であることを示している。陽性者が3人いると,そのうち2人は疾患のある患者(真陽性)で,1人は疾患のない患者(偽陽性)である。真陽性と偽陽性は,感度および特異度の計算式の構成要素であるため,LR+は感度/(1 特異度)として計算することもできる。LR+が大きくなるほど,陽性判定から得られる情報が多くなり,LR+が10を超える検査で結果が陽性であった場合には,診断を支持する強力な証拠とみなされる。つまり,結果が陽性であった検査のLR+が高い場合,検査前確率の推定値から100%の方向に大きく動くことになる。

検査結果が陰性であった場合,LR- 0.25は,陰性判定が疾患のある患者を表しているオッズが1:4(偽陰性数:真陰性数)であることを示している。陰性者が5人いると,そのうち1人は疾患のある患者(偽陰性)で,4人は疾患のない患者(真陰性)である。LR-もまた(1 感度)/特異度として計算することができる。LR-が小さくなるほど,陰性判定から得られる情報が多くなり,尤度比が0.1未満の検査で結果が陰性であった場合には,診断を否定する強力な証拠とみなされる。つまり,陰性であった検査のLR-が低い場合,検査前確率の推定値から確率0%の方向に大きく動くことになる。

尤度比が1.0の検査結果は何の情報ももたらさず,疾患の検査後確率に影響を及ぼすことはない。

尤度比は検査法同士を比較する上で便利であるが,検査結果を解釈するためのベイズ解析にも用いられる。カットオフ値の変化とともに感度と特異度が変化するのと同様に,尤度比も変化する。仮想の例として,急性虫垂炎の疑いがある症例において,白血球数のカットオフ値を高く(例,20,000/μL)設定すると,特異度が高く,LR+が高くなるが,同時にLR-も高くなる(したがって,得られる情報は少なくなる)一方,これよりはるかに低く,感度の高いカットオフ値(例,10,000/μL)を設定した場合には,LR-は低くなるが,LR+も低くなる。

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二値変数の検査

理想的な二値変数の検査は偽陽性と偽陰性が発生しない検査であるが,この場合,検査結果が陽性の患者は全員が疾患を有し(PPV 100%),陰性の患者は全員が疾患を有していない(NPV 100%)ことになる。

実際には,あらゆる検査で偽陽性と偽陰性が発生し,その数が比較的多い検査もある。感度と特異度が不完全であることが検査結果にどのような影響を与えるかを説明するため,ここで女性1000人の集団(そのうち300人[30%]が尿路感染症[UTI]を有する[尿培養などゴールドスタンダードの検査を用いて判定した])に行われた尿試験紙法による白血球エステラーゼ試験の仮想の結果を例に挙げる(ある女性1000人のコホートにおけるUTIの有病率を30%とおいた場合の,仮定の白血球エステラーゼ試験結果の分布の表を参照)。このシナリオでは,例として尿試験紙検査の感度が71%,特異度が85%であると仮定する。

感度が71%であるとは,UTIを有する女性のうち213人(300人の71%)のみが,検査結果で陽性となることを意味する。残りの87人の検査結果は陰性となる。特異度が85%であるとは,UTIを有していない女性のうち595人(700人の85%)で検査結果が陰性となることを意味する。残りの105人の検査結果は陽性となる。したがって,213 + 115 = 318人の陽性判定のうち,213人の結果のみが正しいことになる(213/318 = 67% PPV);検査結果が陽性であれば,UTIを有する可能性の方が有していない可能性より高くなるものの,確かではない。また,87 + 595 = 682人の陰性判定のうち,595人の結果が正しく(595/682 = 87% NPV),結果が陰性であればUTIを有する可能性が低くなるものの,その可能性は残されたままである;検査結果が陰性の患者のうち13%は,実際にはUTIを有している。

表&コラム
表&コラム

しかしながら,基礎にある疾患の発生率(検査前または事前確率)が異なる場合には,この患者コホートにおいて導き出したPPVとNPVを,同じ検査結果の解釈に用いることができない。疾患の発生率を5%に変更した場合の影響に注目する(ある女性1000人のコホートにおけるUTIの有病率を5%とおいた場合の,仮定の白血球エステラーゼ試験結果の分布の表を参照)。その場合,大半の陽性判定が偽陽性となり,PPVはたった20%となるため,検査結果が陽性の患者は,実際にはUTIを有していない可能性の方が高い。しかし,今度はNPVが非常に高くなる(98%)ため,結果が陰性であればUTIは実質的に除外される。

表&コラム
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注目すべきは,両患者コホートにおいて,PPVおよびNPVは大きく異なるにもかかわらず尤度比は変化しない点であり,これは尤度比が検査の感度および特異度のみに規定されるためである。

明らかに,検査結果は診断を確定するものではなく,ただ疾患の有無の確率を推定するものであり,この検査後確率(ある特定の検査結果が与えられた場合の疾患の可能性)は,検査の感度と特異度(したがって尤度比)だけでなく,疾患の検査前確率によって大きく異なる。

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検査前確率

検査前確率は正確な測定値ではない;疾患の存在を示唆する症状や徴候がどの程度強いか,患者の病歴のうち診断を裏付ける因子は何か,その疾患が代表母集団においてどの程度一般的なのか,という臨床判断に基づいている。検査前確率を推定するためにデザインされた多くの臨床スコアリングシステムがあり,様々な臨床的特徴について点数を加算することで,容易にスコアを計算できる。検討された集団における疾患の有病率が検査の有用性に大きく影響するため,正確な検査前有病率の推定が重要なことを,これらの例は示している。利用可能な場合は,検証され公表された有病率推定ツールを用いるべきである。例えば,肺塞栓の検査前確率を予測する基準がある。算出したスコアが高いほど,確率の推定値は高くなる。

連続変数の検査

検査結果の多くは連続的であり,広範囲にわたって有用な臨床情報が得られる。臨床医はしばしば,検査を最大限に活用するために,特定のカットオフ値を設定する。例えば,白血球数15,000以上を陽性,15,000未満を陰性とみなすことができる。検査の結果が連続変数であっても,特定のカットオフ値を設定することで,その検査は二値変数の検査のように機能する。複数のカットオフ値を設定することもできる。単一の,または複数のカットオフ値において,感度,特異度,PPV,NPV,LR+,およびLR-を計算できる。虫垂炎の疑いがある患者において白血球数のカットオフ値の変化がもたらす影響の表は,虫垂炎の疑いがある患者において,白血球数のカットオフ値を変更したときの影響を示している。

表&コラム
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また,連続的な検査結果をいくつかのレベルに分類することも有用なことがある。この場合,生じうる結果が複数あり,結果を陽性または陰性で示すことができないため,各レベルの結果について尤度比を求めることはできるが,はっきりと区別できるLR+やLR-はもはやない。例えば,発熱のある小児における白血球数グループを用いた菌血症の尤度比の求め方の表では,発熱のある小児における白血球数と菌血症の関係が説明されている。尤度比は疾患のある患者におけるある結果の確率を,その疾患のない患者におけるその結果の確率で割った値であるため,それぞれの白血球数グループの尤度比は,そのグループにおいて菌血症がある確率を菌血症がない確率で割った値ということになる。

表&コラム
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連続変数をグループ化することによって,単一のカットオフ値を設定する場合よりも,検査結果を一層活用できる。ベイズ解析を用いる場合,発熱のある小児における白血球数グループを用いた菌血症の尤度比の求め方の表における尤度比を用いて検査後確率を計算できる。

連続的な検査結果で,ROC曲線がわかっている場合には,こので示した計算を行う必要はない;求めたい点におけるROC曲線の勾配を用いて,結果の範囲内の様々な点について尤度比を求めることができる。

ベイズの定理

疾患の検査前確率および検査特性を用いて検査後確率を計算する過程は,ベイズの定理またはベイズの更新と呼ばれる。臨床的にルーチンに使用する場合,通常ベイズの方法にはいくつかの形式がある:

  • オッズと尤度比を用いた公式(計算またはノモグラム)

  • 表によるアプローチ

オッズ-尤度比を用いた計算

疾患の検査前確率がオッズとして表される場合,検査の尤度比はオッズを表しているため,これら2つの積は疾患の検査後オッズを表す(2つの事象が同時発生する確率を計算するために2つの確率を掛け合わせることに類似している):

検査前オッズ × LR = 検査後オッズ

臨床医は通常,オッズより確率で考えることが多いため,以下の公式を用いて確率をオッズに(またその逆に)変換できる:

オッズ = 確率/1 確率

確率 = オッズ/オッズ + 1

ある女性1000人のコホートにおけるUTIの有病率を30%とおいた場合の,仮定の白血球エステラーゼ試験結果の分布の表で与えられているUTIの例を考慮するが,ここでは,UTIの検査前確率が0.3であり,使用されている検査のLR+は4.73,LR-は0.34である。検査前確率0.3は,0.3/(1 0.3)= 0.43のオッズに相当する。したがって,検査結果が陽性であった患者がUTIを有するという検査後オッズは,検査前オッズとLR+の積に等しい;4.73 × 0.43 = 2.03であり,これは2.03/(1 + 2.03)= 0.67の検査後確率を表している。したがって,ベイズの計算によって,検査結果が陽性であれば,疾患を有する確率が検査前確率の30%から67%に高まることが示されるが,これはにおけるPPVの計算から得られたものと同じ結果である。

陰性の結果に対しても同様の計算が行われる;検査後オッズ = 0.34 × 0.43 = 0.15であり,0.15/(1 + 0.15)= 0.13の確率に相当する。したがって,検査結果が陰性であることによって,疾患を有する確率が検査前確率の30%から13%に減少し,これもまた,におけるNPVの計算から得られたものと同じ結果である。

検査前確率と尤度比から検査後確率を計算するために,携帯端末上で動作する医療用計算機プログラムが多数利用可能である。

医学計算ツール(学習用)
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オッズ-尤度比のノモグラム

ノモグラムの使用は,オッズと確率の変換や2×2分割表の作成の必要がないため,特に便利である。

Faganノモグラムを使用するには,検査前確率から,尤度比を通過する直線を引く。この直線と検査後確率の直線が交わる点が,検査後確率である。この図の直線は,ある女性1000人のコホートにおけるUTIの有病率を30%とおいた場合の,仮定の白血球エステラーゼ試験結果の分布の表におけるUTI検査のデータを用いて描かれている。直線Aは陽性判定を表している;この直線は,検査前確率0.3からLR+ 4.73を通り,0.7をわずかに下回る検査後確率と交わるが,これは計算によって求めた確率0.67と同様の値である。直線Bは陰性判定を表している;この直線は,検査前確率0.3からLR- 0.34を通り,0.1を少し上回る検査後確率と交わるが,これは計算によって求めた確率13%と同様の値である。

ノモグラムは計算ほど正確でないように思えるが,検査前確率の値はしばしば推定値であることが多いため,計算が正確であるように見えるのは通常,誤解である。

Faganノモグラム

ある女性1000人のコホートにおけるUTIの有病率を30%とおいた場合の,仮定の白血球エステラーゼ試験結果の分布の表におけるUTI検査のデータを用いて,直線が描かれている。直線Aは陽性判定を表しており,検査前確率0.3からLR+ 4.73を通り,0.7をわずかに下回る検査後確率と交わるが,これは計算によって求めた確率0.67と同様の値である。直線Bは陰性判定を表しており,検査前確率0.3からLR- 0.34を通り,0.1を少し上回る検査後確率と交わるが,これは計算によって求めた確率13%と同様の値である。

LR+= 陽性判定の尤度比;LR- = 陰性判定の尤度比。

Adapted from Fagan TJ.Letter: Nomogram for Bayes theorem.New England Journal of Medicine 293:257, 1975.

表によるアプローチ

検査の尤度比はわからないことが多いが,感度と特異度はわかっており,検査前確率も推定できる。この場合,ある女性1000人のコホートにおけるUTIの有病率を30%とおいた場合の,仮定の白血球エステラーゼ試験結果の分布の表の例を使用して,仮定の白血球エステラーゼ(LE)検査結果の解釈の表で説明した2x2分割表を用いることによって,ベイズの方法を施行できる。この方法によって,検査結果が陽性であればUTIを有する確率が67%に高まり,検査結果が陰性であればその確率が13%に減少することが示されるが,これらは尤度比を用いた計算によって得られた結果と同様である,という点に注目できる。

表&コラム
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連続検査

臨床医はしばしば,多くの診断評価の過程において複数の検査を連続で施行する。連続検査の前に検査前オッズがわかっており,各検査の尤度比がわかっている場合,以下の公式を用いて検査後オッズを計算できる:

検査前オッズ × LR1 × LR2 × LR3 = 検査後オッズ

この方法は,各検査が条件的に互いに独立していなければならないという重要な前提によって制約を受ける。

スクリーニング検査

患者は,しばしば隠れた疾患に対するスクリーニングを受けるか否かを考えなければならない。スクリーニングプログラムが成功するための前提は,隠れた疾患の早期発見が患者の臨床的に有意なアウトカムを改善すること,およびスクリーニングで生じる可能性のある偽陽性結果によって,こうした便益を上回る負担(例,確証検査の費用および有害作用,検査によって引き起こされる不安,不必要な治療)が生じないということである。生じうる負担を最小限に抑えるために,臨床医は適切なスクリーニング検査を選択しなければならない。治療または予防策が効果的でない場合や,疾患が非常にまれである場合には(有病率の高い部分集団を同定できる場合を除き),スクリーニングは適切でない。

理論的には,スクリーニングおよび診断の両方において最良の検査とは,感度および特異度が最も高い検査である。しかしながら,このような非常に精度の高い検査はしばしば複雑で高額であり,侵襲性が高いものが多いため(例,冠動脈造影),無症状の多くの人のスクリーニングには非現実的である。スクリーニング検査を選択する際は,通常,感度,特異度,またはその両方においていくらか妥協しなければならない。

感度を最適化する検査を選択するか,それとも特異度を最適化する検査を選択するかは,疾患の検査前確率はもとより偽陽性または偽陰性がもたらす影響によっても左右される。理想的なスクリーニング検査とは,疾患を有するほぼ全ての患者で必ず陽性となる検査であり,そのため結果が陰性であれば健康な人で疾患を確実に除外できるものである。例えば,効果的な治療法のある重篤な疾患(例,冠動脈疾患)の検査においては,臨床医は一般的に偽陰性よりも偽陽性を容認するであろう(低特異度,高感度)。スクリーニング検査において感度が高いことは非常に重要な特性であるが,特定のスクリーニング戦略では特異度も重要である。疾患の有病率が高い集団では,スクリーニング検査のPPVが高くなる;有病率が低くなるに従い,結果が陽性であった場合の検査後(または事後)確率は低くなる。したがって,高リスクの集団において疾患のスクリーニングを行うときには,疾患をよりよく除外するために(偽陰性をより少なくするために),感度が高い検査の方が特異度が高い検査よりも望ましい。これに反して,低リスクの集団,または治療による便益が低いもしくはリスクが高いまれな疾患に対しては,特異度の高い検査が選ばれる。

多項目スクリーニング検査

利用できるスクリーニング検査の項目が増えるに伴い,臨床医はこのような検査パネルの意味を考慮していかなければならない。例えば,患者が入院する場合,または新しい医師の診察を受ける場合,8項目,12項目,またときには20項目の血液検査を含む検査パネルを施行することが多い。この種類の検査は,患者に対して特定の疾患のスクリーニングを行う上で役立つことがあるが,大きな検査パネルを用いることで不都合が生じることもある。定義上,特異度95%の検査では,健康で正常な患者の5%に偽陽性の判定が出る。そのような特性をもつ,2つの異なる検査(それぞれ別の隠れた疾患に対する検査)を,いずれの疾患も実際に有しない患者において行ったとすると,双方の検査で陰性になる確率は95%×95%,すなわち約90%である;したがって,偽陽性の判定が少なくとも1つ出る確率が10%ということである。そのような検査を3つ行ったとすると,3つの検査全てが陰性になる確率は95%× 95%× 95%,すなわち86%であり,これは偽陽性の判定が少なくとも1つ出る確率が14%であることに相当する。もし12の異なる疾患に対して12の異なるスクリーニング検査を行ったとすると,偽陽性の判定が少なくとも1つ出る確率は46%である。このように確率が高いことからもわかるように,スクリーニング検査のパネルを決めるときや,結果を解釈するときは特に注意が必要である。

検査閾値

臨床検査は,その結果が管理に影響を及ぼす場合にのみ行われるべきである;さもなければ,患者にかかる費用や患者に対するリスクは無意味なものとなる。臨床医がどんな場合に検査するかの判断を下す際に,検査前および検査後確率の推定値を特定の閾値と比較することがある。確率が一定の閾値を上回る場合,治療の便益はリスク(疾患のない患者を誤って治療するリスクを含む)を上回り,治療が適応となる。この点は治療閾値と呼ばれており,臨床的意思決定の手順:確率推定と治療閾値に記載されているように求められる。定義上,検査前確率がすでに治療閾値を上回る場合には検査は不要である。しかし,検査前確率が治療閾値を下回り,検査結果が陽性であれば検査後確率が治療閾値を上回る可能性がある場合検査が適応となる。検査適応がありうる最も低い検査前確率は,検査特性(例,LR+)によって決まり,検査閾値と呼ばれる。

概念的に,もしある重篤な疾患に対する最良の検査のLR+が低く,治療閾値が高いならば,検査前確率が低いが懸念のある(例,おそらく10%か20%の)患者においては,検査結果が陽性であっても検査後確率が治療閾値未満にとどまる可能性があることは理解できる。

数値例として,上述の急性心筋梗塞が疑われる症例を考慮しているが,この例ではリスクと便益のバランスから,治療閾値は25%と算出された。心筋梗塞の確率が25%を上回る場合に,血栓溶解療法を施行する。血栓溶解療法の施行前に緊急心エコー検査を行うべきは,どのような場合であろうか。心筋梗塞の診断における心エコー検査の感度を60%,特異度を70%と仮定すると,これらの値からLR+は60/(100 70)= 2,LR-は(100 60)/70 = 0.57に対応する。

この問題は,数学的に(検査前オッズ× LR = 検査後オッズ),またより直感的にはFaganノモグラムを用いて解くことができる。ノモグラム上で,検査後確率の直線上の治療閾値(25%)と,中央のLR直線上のLR+(2.0)を通過する直線は,検査前確率約0.14の点と交差する。検査前確率が14%未満の患者では,陽性の結果が出たとしても,検査後確率は治療閾値より低い値となることは明らかである。この場合,陽性の結果が出たとしても治療の決定には至らないため,心エコー検査は役に立たないことになる;したがって検査前確率14%がこの特定の検査の検査閾値である(検査閾値と治療閾値の図示の図を参照)。LR+が異なる別の検査では,検査閾値も異なる。

検査の必要性を判断するためにFaganノモグラムを使用する

この例では,ある患者の急性心筋梗塞に対する治療閾値(TT)が25%であると仮定する。心筋梗塞の確率が25%を上回る場合,血栓溶解療法を施行する。臨床医はFaganノモグラムを用いて,どんな場合であれば,血栓溶解療法を施行する前に,緊急心エコー検査を行うべきかを判断できる。新規の心筋梗塞に対する心エコー検査の感度を60%,特異度を70%と仮定した場合,これらの値からLR+(陽性判定の尤度比)は60/(100 70)= 2に対応する。検査後確率の直線上の治療閾値25%と,中央の尤度比直線上のLR+(2.0)を通過する直線は,検査前確率約0.14の点と交差する。検査前確率が14%未満の患者では,陽性の結果が出たとしても,検査後確率は治療閾値より低い値となる。

Adapted from Fagan TJ.Letter: Nomogram for Bayes theorem.New England Journal of Medicine 293:257, 1975.

検査閾値と治療閾値の図示

横線は検査後確率を表す。

14%は依然として心筋梗塞の重大なリスクを示すため,疾患を有する確率が検査閾値を下回っていても(例,検査前確率が10%)必ずしも疾患が除外されるとはいえず,単に問題となっている特定の検査で結果が陽性であっても管理方法は変わらず,したがってその検査は適応とならないという意味であることは明らかである。このような状況では,患者を観察し,検査前確率が検査閾値を上回るような所見がないか確認する。臨床では,1つの疾患に対して複数の検査が実施可能であるため,連続検査を行うことができる。

この例では,患者にリスクを与えない検査を考慮している。検査に重大なリスクが伴う場合(例,心臓カテーテル法),検査閾値はより高くなければならない;定量的な計算を行うことはできるが,複雑になる。このため,検査の感度と特異度が低くなれば,または検査のリスクが高くなれば,検査を行うことが最良であるような確率の範囲が狭くなる。検査の識別能力が向上すれば,または検査のリスクが減少すれば,検査を行うことが最良であるような確率の範囲は広くなる。

検査前確率が検査閾値より低い(が,それでもまだ懸念がある)場合に検査を行わないという基準の例外となる可能性として,検査結果が陰性であれば,疾患が除外されるとみなせる確率よりも検査後確率が低くなる場合が該当するであろう。これを決定する際には,疾患を除外できると言うためにどの程度の確実性が必要か主観的に判断する必要があり,また疾患の確率が低いため,検査のいかなるリスクに対しても特に注意を払うことが求められる。

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