残存肢の疼痛

執筆者:Jan J. Stokosa, CP, American Prosthetics Institute, Ltd
レビュー/改訂 2021年 1月
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70%以上の切断者で切断後に残存肢の疼痛がみられ,それによって機能が重度に制限され,生活の質が損なわれ,リハビリテーションが大きく遅れる可能性がある。一部の原因は危険であるため,残存肢の疼痛は積極的に評価および治療すべきである。幻肢感覚は痛みを伴わない望ましい感覚異常で,固有感覚を改善しうるものであり,幻肢痛とは異なる。

残存肢の疼痛の原因

残存肢の疼痛の原因としては以下のものがある:

一般的に,手術創の術後疼痛は,典型的には3~6週間かけて,組織が治癒するにつれて消失する。疼痛がそれ以上の期間持続する場合には,感染症,創の離開,動脈不全,血腫,切断した骨の端部を覆う筋組織の不足,準備的義肢の適合不良など多くの原因がある。治療は原因に対して行い,義肢の修正,治癒するまでの義肢の使用中断,鎮痛薬も含まれることがある。

神経障害性疼痛は四肢切断者でよくみられ,通常は電撃痛または灼熱痛として報告され,典型的には切断後7日以内に生じる。自然に消退することもあるが,しばしば慢性化する。重度の疼痛が持続することもあれば,間欠的に生じることもある。創傷または切断時の神経切断に起因する神経損傷の結果として生じる場合が多い。神経障害性疼痛の治療は集学的に行う(例,心理学的治療,理学療法,抗うつ薬,抗てんかん薬)。

皮膚感染症および皮膚の破綻の臨床像は目に見える明らかなものであり,対処すべきである。

深部組織感染症は,疼痛がある程度持続してみられるまで局所の腫脹および紅斑が明らかにならないことがあるため,診断がより困難なことがある;発熱または頻脈などの全身症状が最初に現れることがあり,これらを無視してはならない。

疼痛を伴う神経腫は,切断されたあらゆる神経(手術または外傷による)に生じることがあり,局所またはより広い部位の疼痛を引き起こすことがあるが,この疼痛は局所麻酔注射で一時的にブロック(診断的手技として)できる。神経腫の診断は,病歴聴取と身体診察の結果から示唆される。神経腫による疼痛には,電気的,電撃的,ピリピリする,鋭く刺すような感覚や,ヒリヒリする感覚といった,神経原性の特徴がある。典型的には幻肢痛を伴わないが,伴う場合もある。神経腫を示唆するその他の症状としては,刺激なしで生じるか残存肢の筋収縮時に生じる異常な不快感や,皮膚を軽く触れることで生じる非常に不快な感覚(異常感覚)などがある。義肢の使用中に生じ,義肢を外すと速やかにまたは緩徐に消失する神経原性疼痛は,神経腫を示唆する。原因が義肢による機械的なものでも筋収縮であっても,神経腫への刺激が長いほど消失までにかかる時間も長い。神経腫の診断確定にはMRIおよび/または超音波検査を用いることができる。重度の例では,外科的な神経切断術を勧める場合もある。

虚血性の末梢血管疾患のために切断が必要となった患者は,さらなる虚血のリスクが高く,この虚血は診断が困難な場合があるが,肢遠位部の皮膚における非常に低い経皮酸素分圧(20mmHg未満)により示唆される可能性がある。

疼痛を引き起こす疾患が認められなければ,マッサージおよび軽い叩打と残存肢の挙上を併用することが疼痛の緩和に役立つことがある。これが無効であれば,弱い鎮痛薬(例,非ステロイド系抗炎症薬[NSAID],アセトアミノフェン)を用いてもよい。疼痛が持続する場合は,疼痛管理の専門医への紹介が役立つことがある。

切断者は,切断された部位の喪失した機能を埋め合わせる代償的な体の動きにより他の肢,関節,背部,頸部にも疼痛を経験することがある。義肢装具士は,義肢の静的および運動学的効率を定期的に評価し,必要に応じて調整すべきである。さらに,定期的なストレッチや筋力強化運動が,体のバランス調整や疼痛緩和の助けになる。理学療法士が,適切な運動プログラム作成を支援できる。

幻肢痛

どこかの時点で大半の人が幻肢痛を経験する。幻肢痛は現実の疼痛ではなく,切断された四肢の位置に疼痛を感じるものである。機序には末梢と中枢の因子が関与すると考えられている。発症および持続期間は典型的には切断後数日以内であるが,数カ月から数年遅れることもある。幻肢痛の報告に用いられる語としては,ピリピリする,電撃的な,刺すような,ズキズキする,灼けつくような,疼く,締め付ける,万力で締められるといったものがある。

幻肢痛はしばしば切断直後に強く現れ,時間とともに減弱する。手術後の脱感作療法が利用可能であり,義肢での初期の荷重負荷時における疼痛を軽減するために推奨される。多くの場合,義肢を装着していない時,例えば夜間などに幻肢痛を経験する頻度が高い。手術時に脊髄くも膜下麻酔および全身麻酔が行われた場合,この疼痛が生じるリスクが低減する。

薬物を用いない他の治療法を疼痛緩和のために試してもよく,その例として経皮的電気神経刺激(TENS),鍼治療,脊髄刺激療法などがある。

幻肢感覚

大半の患者は,切断された部位がまだ存在するように感じる幻肢感覚を経験する。幻肢感覚は幻肢痛と誤解してはならない。幻肢感覚は,下肢切断者が夜間にトイレに行く時に顕著な問題となりうる。肢がまだあると思い込み,歩こうとして転倒したり残存肢に受傷したりする。就寝中は受傷を予防するために保護具を装着できる。

残存肢の疼痛の評価

残存肢の疼痛の評価には,病歴聴取と身体診察だけで十分である場合も多いが,検査が必要になることもある。

皮膚の変化(例,紅斑,潰瘍形成)を伴う疼痛は,皮膚の刺激または感染症を示唆する。疼痛と圧痛があり広がってゆく紅斑は,蜂窩織炎を示唆する。血管疾患が判明している患者では,潰瘍形成が虚血の再発に起因する場合もある。

皮膚の変化を伴わない持続痛は,神経障害,複合性局所疼痛症候群,深部組織感染症および,血管疾患が判明している患者では虚血の再発を示唆する。圧迫により疼痛が増強する場合および/または全身症状(例,倦怠感,発熱,頻脈)がみられる場合は,深部感染症の可能性がある。

皮膚の変化を伴わない間欠痛が義肢の使用により発生し取り外すと消失する場合は,適合の問題,神経腫,または骨棘が示唆される。異常感覚および/または神経障害性の疼痛は,神経腫を示唆する。義肢の使用と関連せず皮膚の変化も伴わない間欠痛は,様々な基礎疾患の可能性を示唆し,具体的には神経腫,血管の萎縮性変化を伴う廃用性筋萎縮,血液供給の低下,開放した骨髄に起因する深部の骨痛などが挙げられる。

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