中国伝統医学に含まれる治療法である鍼治療は，統合医療の構成要素のうち欧米で最も広く受け入れられているものの1つである。通常は皮膚および皮下組織に細い針を刺すことで特定の部位を刺激する。これら特定の部位を刺激することで，エネルギーの経路に沿って気（普遍的な生命力）の流れに影響を与え，バランスが回復すると考えられている。
一般的に施術による痛みはないが，ピリピリとした感覚が生じることがある。ときには，針をねじったり針を暖めたり，その他の方法で操作したりして，刺激を高めることもある。
経穴が以下のもので刺激されることもある：
圧力（指圧と呼ばれる）
レーザー（低出力レーザー療法とも呼ばれる）
針から流す微弱な電流（電気鍼治療）
（統合・補完・代替医療の概要も参照のこと。）
エビデンスと用法
鍼治療の研究を行うことは本質的に難しい。盲検化は困難であり，いわゆる「シャム」鍼治療としてはツボに圧力をかけることが多いが，それにより真に不活性とは限らない別の治療体験が生じる。鍼治療が文化の一部になっている地域，特に中国においては，鍼治療に関して発表されている研究がより豊富で，対象範囲も広くなっている。効力を示した結果を解釈する際は，介入には中国伝統医学の一連のスキームが含まれており，鍼治療は一要素に過ぎないという事実を踏まえるべきである。
世界保健機関（World Health Organization：WHO）は，この臨床的課題の解決に役立てるべく，効力に関するエビデンスが強固または入手可能と考えられるが，さらなる研究の実施が推奨される病態の一覧を発表しており，以下のものが含まれている：
がん治療の症状
うつ病
月経困難症
疼痛
頭痛
高血圧
術後の症状
一部の妊娠合併症
脳卒中の合併症
生じうる有害作用と禁忌
鍼治療の有害作用は定量化が困難であり，また，施術は一般に安全であるが，技術およびケアは施術者間で異なる。鍼治療後にみられたまれな有害作用（施術1000件当たり1.3件）に関する2013年のシステマティックレビューでは，以下が指摘された(1)：
感染症
硬膜外血腫およびその他の血腫
末梢神経麻痺
心タンポナーデ
仮性動脈瘤
これらの有害作用の一部は重篤であるが，報告された有害作用全体の95％は害をほとんどまたは全く引き起こさなかった。
参考文献
1.Xu S, Wang L, Cooper E, et al: Adverse events of acupuncture: a systematic review of case reports. Evid Based Complement Alternat Med 581203, 2013.doi:10.1155/2013/581203
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし，本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
Acupuncture: Review and Analysis of Reports on Controlled Clinical Trials, 2002—WHO's list of symptoms, diseases, and conditions that have been shown through controlled trials to be treated effectively by acupuncture, made available by the British Acupuncture Council
WHO benchmarks for the practice of acupuncture, 2021—WHO's guidance for the administration of acupuncture treatment
WHO traditional medicine strategy: 2014-2023, 2013—WHO's guidance for developing proactive policies and implementing action plans that will strengthen the role traditional medicine plays in keeping populations healthy
