医療放射線のリスク

執筆者:Mehmet Kocak, MD, Rush University Medical Center
レビュー/改訂 2021年 4月
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    電離放射線(放射線曝露および汚染も参照)には以下のものがある:

    • 高エネルギー電磁波(X線,γ線)

    • 粒子線(α粒子,β粒子,中性子)

    電離放射線は,放射性元素から放出される場合と,X線撮影や放射線療法などの装置から放出する場合がある。

    電離放射線を用いる診断検査(例,X線,CT,核医学検査)の大半では,患者は一般に安全とみなされている比較的低線量の放射線に曝露する。しかしながら,電離放射線はいずれも害を生じさせる可能性があり,それを下回れば有害作用が起こらないことが保証される閾値は存在しないことから,放射線曝露を最小化するべく最大限の努力が払われている。

    放射線曝露の測定指標には様々なものがある:

    • 吸収線量とは,単位質量当たりの吸収された放射線の量である。これは専用の単位であるグレイ(Gy)およびミリグレイ(mGy)で表される。かつてはradiation-absorbed dose(rad:ラド)が用いられ,1mGy = 0.1radであった。

    • 等価線量は,放射線の種類(例,X線,γ線,電子線)に基づく組織への影響で補正する放射線荷重係数を吸収線量に乗じたものである。これはシーベルト(Sv)またはミリシーベルト(mSv)で表される。かつてはroentgen equivalents in man(rem:レム)で表されていた(1mSv = 0.1rem)。CTを含めたX線撮影の場合,放射線荷重係数は1である。

    • 実効線量とは,がんリスクの尺度で,放射線に曝露した組織の感受性(例,性腺が最も感受性が高い)に基づき等価線量を補正したものである。SvまたはmSvで表される。若年者では実効線量がより高くなる。

    医用画像検査は,電離放射線への曝露源の1つに過ぎない(典型的な線量の表を参照)。別の曝露源として環境からのバックグラウンド放射線(宇宙線と天然の放射性同位元素から)があるが,これが有意となる場合があり,以下のように,高地でその可能性が高いほか,飛行機に搭乗しても環境放射線への曝露量が増加する:

    • 米国東西海岸間の1回の飛行:0.01~0.03mSv

    • 米国におけるバックグラウンド放射線の年間平均被曝量:約3mSv

    • 高地(例,コロラド州デンバー)での年間平均被曝量:10mSvを超える場合あり

    表&コラム
    表&コラム

    複数回のCTを行った場合のように(CTは他の画像検査に比べて高い線量が必要となるため),個人に蓄積した総線量が高いと放射線は有害となることがある。

    以下のような特定の高リスクの状況でも,放射線曝露が懸念される:

    • 妊娠期

    • 乳児期

    • 小児期早期

    • マンモグラフィーが必要な女性の若年成人期

    米国では,CTは全画像検査の約15%を占めるが,画像診断において照射される総放射線量の最大70%を占める。米国で最もよく使用される型であるマルチスライスCTスキャナは,旧式のシングルスライスCTスキャナに比べて約40~70%多く放射線を照射する。しかしながら,最近の進歩(例,自動曝露制御,反復画像再構成アルゴリズム,第3世代のCTの検出器)により,CTに用いられる放射線量が有意に減少する可能性が高い。医用画像検査で用いられる電離放射線への曝露の急増に関する懸念に対応して,American College of RadiologyがImage Gently(小児用)およびImage Wisely(成人用)というプログラムを開始した。これらのプログラムは,放射線科医,医学物理学者,その他の画像検査技師,および患者の放射線曝露の最小化に関する手段および情報を提供している。

    放射線およびがん

    画像診断における放射線曝露によるがんのリスクが,非常に高線量の放射線に曝露した人々(例,広島および長崎に投下された原子爆弾の生存者)の研究から外挿によって推定されている。この分析によると,線量が数十mGy(CTなどで用いられる)であれば,低いながら実際にがんのリスクがあることが示唆される。肺塞栓症を検出するためにルーチンに施行されるCT肺血管造影では,2方向のマンモグラフィー10~25回と同等の放射線を乳房に照射する。

    以下の理由により,リスクは若年患者でより高くなる:

    • 若年者は余命が長いため,がんが発生する時間が長く残されている。

    • 若年者では細胞増殖(ひいてはDNA損傷の機会)がより多く起こっている。

    腹部CTを受けた1歳児では,がん発生の推定生涯リスクが0.18%上昇する。高齢患者がこの検査を受ける場合のリスクはより低い。

    リスクは照射される組織にも依存する。リンパ組織,骨髄,血液,ならびに精巣,卵巣,および腸管は非常に放射線感受性が高いと考えられている;成人では,中枢神経系および筋骨格系は比較的放射線抵抗性である。

    妊娠中の放射線

    放射線のリスクは以下に依存する:

    • 線量

    • 検査の種類

    • 検査する部位

    胎児の被曝量は母親と比べてはるかに低くなる場合があり,以下の部位のX線撮影では胎児の被曝量は無視できるほど少ない:

    • 頭部

    • 頸椎

    • 四肢

    • 乳房(マンモグラフィー),子宮が遮蔽されている場合

    子宮の被曝の程度は,妊娠期間およびそれによる子宮のサイズによって変わる。放射線の影響は受胎産物の胎齢(受胎からの時間)によって変わる。

    推奨

    電離放射線を用いる診断検査,特にCTは,明らかに必要な状況でのみ行われるべきである。代替法を検討するべきである。例えば幼児では,軽微な頭部損傷は多くの場合,臨床所見に基づく診断と治療が可能であり,虫垂炎はしばしば超音波検査で診断できる。しかしながら,たとえ線量が高くなるとしても(例,CTの場合),便益が潜在的リスクを上回る限り,必要な検査を控えるべきではない。

    妊娠可能年齢の女性に診断検査を行う前には,妊娠の可能性を考慮すべきであるが,これは特に,放射線曝露のリスクが妊娠初期(第1トリメスター)のしばしば妊娠が判明してない時期に最大となることが大きな理由である。そのような女性では,可能であれば子宮を遮蔽すべきである。この標準的な推奨をめぐっては,最近の研究結果から,遮蔽によって子宮および胎児に対する照射線量が増加する可能性があるという議論が提起されている。

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