何百・何千の分子を大規模に生物活性でスクリーニングすることにより,有望な化合物を同定することができる。ほかのケースでは,様々な疾患に関する具体的な分子病態生理学の知識を活用することで,コンピュータモデリングや既存の薬物の修飾を通じた合理的なドラッグデザインが可能になる。
早期開発の段階では,有用となる可能性のある化合物を動物に投与することで,期待される効果と毒を評価する。有効かつ安全とみられた化合物がヒトを対象とする研究の候補となる。米国では臨床研究(治験)の内容を記載した実施計画書(プロトコル)について適切な研究審査委員会(institutional review board:IRB)および米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)の承認を受ける必要があり,その承認後にFDAから治験申請(investigational new drug:IND)の適用が免除される。この時点で,その化合物の特許期間が始まり,通常は向こう20年間にわたる独占的権利が特許権者に与えられるが,FDAの承認を得るまでは,その化合物を販売することはできない。
第1相では,ヒトにおける安全性および毒性を評価する。その化合物を複数の用量で少人数(20~80人のことが多い)の健康かつ若年のボランティアに投与して,最初に毒性が出現する用量を特定する。
第2相では,その化合物に対象疾患に対する活性があるかどうかを判断する。ここでは化合物は対象疾患の治療または予防を目的として投与される。至適な用量反応域を特定することも目標となる。
第3相では,その薬剤に関して提案された臨床使用の経験を集積するために,より大きく(しばしば数百人から数千人規模),より多様な集団において,薬剤の効果と影響を評価する。この相ではさらに,その薬剤を既存の治療薬,プラセボ,またはそれら両方と比較する。多数の医療従事者と複数の研究機関が研究に関与する場合もある。その目的は,効力(efficacy)を検証するとともに,第1相と第2相で観察されなかった可能性があるよい作用と悪い影響を検出することである。
その薬剤の正当性を示して承認申請を行うの十分なデータが収集されたら,FDAに新薬承認申請(new drug application:NDA)が提出される。医薬品の早期開発から承認までのプロセスには,ときに10年を要することもある。
第4相(市販後調査,医薬品安全性監視)は,医薬品の承認および発売の後に始まり,継続的な有害作用報告とともに正式な調査研究が実施されることもある。第4相では通常,第1相から第3相までよりも大規模な集団と,より長い期間を要し,短期間の小規模研究では認識される可能性が低い,まれな有害作用や緩徐に発現する有害作用を検出するのに役立つ。また,実際の医療現場での薬剤使用は,臨床試験で適用される厳格な適格基準を満たした患者だけに限定されるわけでなく,むしろ薬剤は有害作用の起きるリスクがより高い患者に使用される傾向がある。しばしば,特別な集団(例,妊婦,小児,高齢者)でも研究が実施される。第3相の終了後にFDAの承認を受ける薬剤の中には,第4相で新たに重篤な有害作用が認められたことを理由に市場から撤退するものもある。