薬物代謝

執筆者:Jennifer Le, PharmD, MAS, BCPS-ID, FIDSA, FCCP, FCSHP, Skaggs School of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences, University of California San Diego
レビュー/改訂 2022年 6月
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    肝臓は薬物代謝の主要部位である(レビューについては,[1]を参照)。代謝は一般的に薬物を不活化するが,一部の薬物代謝物は薬理学的に活性があり,ときに活性は元の化合物より強いことさえある。活性代謝物を有する不活性なまたは活性の弱い化合物が,特に活性成分をより効率的に送達するために設計された場合,それをプロドラッグと呼ぶ。

    薬物は,酸化,還元,加水分解,水和,抱合,縮合,または異性化によって代謝されるが,過程が何であっても,そのゴールは薬物を排泄しやすくすることである。代謝に関与する酵素は多くの組織に存在するが,一般に肝臓により多く集中している。薬物代謝速度は患者により異なる。一部の患者では薬物が非常に速く代謝され,治療に効果的な血中濃度および組織中濃度に達しないことがあり,他の患者では,代謝が非常に遅いため,常用量で毒性作用がみられることがある。個々の薬物代謝速度は,遺伝因子,併存疾患(特に慢性肝疾患および進行した心不全),ならびに薬物相互作用(特に代謝の誘導または阻害が関与するもの)に影響を受ける。

    多くの薬物において,代謝は2相で起こる。第I相反応には,新たなあるいは修飾された官能基の形成または開裂(酸化,還元,加水分解)があり,これらの反応は非合成的である。第II相反応には,内因性物質(例,グルクロン酸,硫酸塩,グリシン)との抱合があり,これらの反応は合成的である。合成的反応によって形成される代謝物は,非合成的反応で形成される代謝物より極性が大きいため,腎臓(尿中)や肝臓(胆汁中)によってより速やかに排泄される。第I相反応のみまたは第II相反応のみを受ける薬物があり,そのため相の番号は時系列分類ではなく,機能的な分類を反映する。

    肝臓の薬物輸送体は肝実質細胞全体に存在し,薬物の肝臓での分布,代謝,および排泄に影響を及ぼす(レビューについては,[1,2]を参照)。薬物輸送体には2つの主要な種類があり,1つは分子を肝臓に輸送する「取り込み」,もう1つは薬物の血中または胆汁中への排泄を媒介する「排出」である。遺伝子多型は,肝臓の薬物輸送体の発現および機能に様々な影響を及ぼし,薬物有害作用および薬剤性肝障害に対する患者の感受性を変化させる可能性がある。例えば,ある種の輸送体遺伝子型のキャリアは,高コレステロール血症の治療にスタチン系薬剤を使用した場合,スタチン系薬剤の血中濃度が上昇し,スタチン誘発性ミオパチーに罹患しやすくなる(1,2)。

    薬物動態の概要も参照のこと。)

    速度

    ほぼ全ての薬物について,いかなる経路においても代謝速度には上限(容量限界)がある。しかしながら,大半の薬物の治療濃度では,通常は代謝酵素の結合部位のうち占有されているのはごく一部であり,代謝速度は薬物濃度とともに上昇していく。このような一次消失(または一次速度過程)と呼ばれる状況における薬物の代謝速度は,体内に残存するその薬物の量と比例する(すなわち,その薬物には特定の半減期がある)。

    例えば,投与時点で500mgが体内に存在するとした場合,代謝を経ることで,1時間後には250mg,2時間後には125mgが存在することになる(半減期が1時間の場合の例)。しかしながら,酵素結合部位の大半が占有されている場合には,代謝は最大速度で進行し,薬物濃度に比例した変化ではなく,単位時間当たりに一定量の薬物が代謝される(ゼロ次速度過程)。このケースでは,ゼロ時点でもし500mgが体内に存在すると,代謝後1時間で450mg,2時間で400mgが存在することになる(最大クリアランスが50mg/時で,特定の半減期がない場合の例)。薬物濃度が高くなるにつれ,代謝は一次速度過程からゼロ次速度過程へとシフトする。

    チトクロムP450

    第I相代謝の最も重要な酵素系は,ミクロソーム内のアイソザイムスーパーファミリーであるチトクロムP450(CYP)であり,多くの薬物の酸化を触媒する。電子は,NADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸の還元型)から電子をCYPに伝達するフラボタンパク質であるNADPH–CYP還元酵素により供給される。

    CYP酵素系は多くの薬物および物質により誘導または阻害されるが,その結果としてある薬物により別の薬物の毒性が強まる,もしくはその他の薬物の治療効果が低下するなどの薬物相互作用をもたらす。特定の酵素と相互作用を起こす薬物の例は,チトクロムP450酵素系と相互作用を起こす一般的な物質および薬物相互作用の表を参照のこと。

    表&コラム
    表&コラム

    加齢とともに,肝臓の容積および血流量が減少するため,肝臓のCYP酵素系を介した代謝能力は30%以上低下する。したがって,この系を介して代謝される薬物は高齢者においてはより高濃度まで達し,半減期は延長する(若年男性(A)および高齢男性(B)におけるジアゼパムの薬物動態結果の比較の図を参照)。新生児においても,肝ミクロソーム酵素系が部分的にしか発達していないため,多くの薬物の代謝が困難である。

    抱合

    グルクロン酸抱合は最も多くみられる第II相反応であり,肝ミクロソーム酵素系で行われる唯一の第II相反応である。グルクロニドは,胆汁中に分泌され,尿中に排泄される。このように,抱合は大半の薬物を溶解しやすくし,腎臓によって容易に排泄されるようにする。グルタミンまたはグリシンによるアミノ酸抱合は,尿中には排泄されやすいが,胆汁中にはあまり分泌されない抱合体を生成する。加齢はグルクロン酸抱合に影響しない。しかし,新生児ではグルクロニドへの変換が遅く,深刻な影響(例,クロラムフェニコールの場合のように)が生じる可能性がある。

    抱合は,アセチル化または硫酸抱合を介して起こることもある。硫酸エステルはイオン化しており,尿中に速やかに排泄される。加齢はこれらの過程に影響しない。

    総論の参考文献

    1. 1.Patel M, Taskar KS, Zamek-Gliszczynski MJ: Importance of hepatic transporters in clinical disposition of drugs and their metabolites.J Clin Pharmacol 56(Suppl 7):S23–S39, 2016. doi: 10.1002/jcph.671

    2. 2.Pan G: Roles of hepatic drug transporters in drug disposition and liver toxicity.Adv Exp Med Biol1141:293-340, 2019.doi:10.1007/978-981-13-7647-4_6

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