爆発物および爆傷

執筆者:James M. Madsen, MD, MPH, University of Florida
レビュー/改訂 2023年 1月
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固体または液体が急速に気体に転換される高エネルギーの事象は3つの速度で起こりうる:

  • 爆燃:急速に燃焼するが爆風はごくわずか

  • 爆発:亜音速の燃焼と爆風(低グレードの爆発物)

  • 爆轟:超音速の燃焼と爆風波(高グレードの爆発物)

爆燃の1例としては,山状にした黒色火薬に点火したときに起こる急速な閃光(爆発音なし)である。同じ黒色火薬が容器にきつく詰め込まれた場合は低グレードの爆発を引き起こす。高グレードの爆発物では,燃焼波が物質を超音速で伝わり,超音速の爆発(爆轟)波を引き起こす;一般的な例としては,ニトログリセリンおよびトリニトロトルエン(TNT―低グレードおよび高グレードの爆発物の例)がある。

表&コラム
表&コラム

爆発が関係する集団災害では,3つの同心円状の地帯が設定される:

  • 爆心地(blast epicenter)

  • 二次周囲(secondary perimeter)

  • 爆発周辺(blast periphery)

爆心地(殺傷圏)では,生存者は全員がおそらく致命傷を受けており,専門的な救助能力および救出が必要である可能性が高く,全ての生存者に対して二次救命処置および高い被害者対医療提供者比を要する。二次周囲(重症被害者圏)では,生存者は複数の損傷を負い,標準的な救助能力および中程度の被害者対医療提供者比を要する。爆発周辺(被害者歩行圏)では,命を脅かさない外傷や心的外傷にとどまる被害者が大半であり,救助は不要で,基本的な支援と自助が必要である。

集団殺傷兵器が関係するインシデントの概要も参照のこと。)

爆傷の病態生理

爆傷には物理的外傷と心的外傷の両方が含まれる。物理的外傷としては,骨折,呼吸障害,軟部組織および内臓の損傷,ショックを伴う内部および外部の失血,熱傷,感覚障害(特に聴覚および視覚)などがある。爆傷の5つの機序が記載されている(爆傷の機序の表を参照)。

表&コラム
表&コラム

一次爆傷における超音速の爆風がガスの充満した腔を圧迫し,腔がその後急速に膨張して剪断力および引裂力を発生させ,それにより組織が損傷して臓器が穿孔することがある。血液が血管構造から気腔および周囲の組織に押し出される。肺病変(爆傷肺)が,肺挫傷,全身性の空気塞栓(特に脳および脊髄),フリーラジカルに関連する損傷(血栓症,lipo-oxygenation,および播種性血管内凝固症候群)を引き起こす;これは遅発性の死亡の一般的な原因である。一次爆傷には,腸管の圧外傷(特に水中爆発の場合),聴覚の圧外傷(鼓膜破裂,破裂を伴わない鼓室内出血,中耳の耳小骨の骨折または脱臼),および外傷性脳損傷も含まれる。

爆傷の症状と徴候

大半の損傷(例,骨折,裂傷,脳損傷)は,他の種類の外傷と同じように現れる。爆傷肺が,呼吸困難,喀血,咳嗽,胸痛,頻呼吸,喘鳴,呼吸音減弱,無呼吸,低酸素症,チアノーゼ,および血行動態不安定を引き起こす可能性がある。空気塞栓が,脳卒中,心筋梗塞,急性腹症,失明,難聴,脊髄損傷,または跛行として現れることがある。鼓膜および内耳の損傷が聴力を障害する可能性があり,常にこれを評価すべきである。腹部の爆傷のある患者では,腹痛,悪心,嘔吐,吐血,直腸痛,しぶり腹,精巣痛,および原因不明の循環血液量減少がみられることがある。外傷性脳損傷を呈することがあり,消失する場合もあれば様々な程度の神経認知障害が残る場合もある。レベルの低い爆発への複数回の曝露は,神経認知に対する累積的な有害作用をもたらし,慢性外傷性脳症につながるという懸念もある。

爆傷の診断

  • 臨床的評価

  • 所見による適応に応じた画像検査

患者の評価は,爆傷(特に爆傷肺とその結果としての空気塞栓),耳の外傷,潜在性の穿通性損傷,および挫滅損傷の同定に特に留意するという点を除き,大半の多発外傷の受傷者の場合と同様に行う(外傷患者へのアプローチ:評価と治療を参照)。無呼吸,徐脈,および低血圧が,古典的に爆傷肺に伴う臨床的な三徴である。鼓膜破裂は爆傷肺を予測すると考えられてきたが,咽頭の点状出血の方がより優れた予測因子である可能性がある。胸部X線撮影を施行し,これによって特徴的な蝶形陰影が示されることがある。全患者に対して心臓モニタリングを行う。挫滅損傷の可能性のある患者は,ミオグロビン尿,高カリウム血症,および心電図変化を調べる。

トリアージ

爆傷では,損傷が重篤でない患者がしばしば病院搬送前のトリアージを受けずに直接病院を受診し,後に到着するより重篤な損傷の患者に先立って医療資源を圧倒する可能性がある。現場でのトリアージは主に,爆傷を最初に認識するのがより困難な可能性があるため,最初のトリアージをより明らかな損傷に加えて爆傷肺,腹部爆傷,および急性の挫滅症候群の確認に向けて行うべきであるという点で標準的な外傷のトリアージとは異なる。

爆傷の治療

  • 外傷性損傷に対するプライマリーサーベイおよびセカンダリーサーベイ

  • 空気塞栓に対する回復体位,ときに高気圧酸素治療

  • 輸液蘇生(fluid resuscitation)ならびに挫滅損傷による横紋筋融解症およびコンパートメント症候群のモニタリング

患者の気道,呼吸,循環,身体障害(神経学的状態),および曝露(脱衣)に注意を払うべきである(外傷患者へのアプローチ:評価と治療を参照)。高流量酸素(high-flow oxygen)および輸液を優先し,早期に胸腔ドレーンの留置を考慮すべきである。大半の損傷(例,裂傷骨折熱傷,身体内部の損傷,頭部損傷)は,本マニュアルの別の箇所で論じているように管理する。

陽圧換気の開始後に空気塞栓が悪化することがあるため,絶対必要でない限り陽圧換気は避けるべきである。使用する場合は,低速,低吸気圧の設定を選択すべきである。空気またはガス塞栓の疑いがある患者は,左側臥位と腹臥位の中間の昏睡(または回復)体位にし,頭部を心臓の高さまたはそれより低くする。高圧酸素(HBO)療法が有用な場合がある(再圧治療を参照)。

急性の挫滅症候群と診断されたまたは疑われた場合,尿道カテーテルを留置して,尿量を継続的にモニタリングできるようにする。尿量を8L/日,尿pHを5以上に維持するための,アルカリ性マンニトール溶液を用いる強制利尿が役立つことがある。動脈血ガス,電解質,および筋酵素をモニタリングすべきである。高カリウム血症はカルシウム,インスリン,およびブドウ糖で治療する(高カリウム血症:治療を参照)。深部組織の感染のある患者では,高気圧酸素治療が特に有用となることがある。臨床的に,およびコンパートメント内圧の測定によって,コンパートメント症候群がないかモニタリングを行う。拡張期血圧とコンパートメント内圧の差が30mmHg未満の場合,筋膜切開が必要になる可能性がある。最初に循環血液量減少および低血圧が明らかでない場合があるが,組織の開放および再灌流後に突然生じることがあるため,再灌流の前後に大量輸液(例,乳酸リンゲル液または生理食塩水1~2L)を行う。尿量を300~500mL/時に保つのに十分な速度で輸液を持続する。

本稿で述べられている見解は著者の見解であり,米国陸軍省(Department of Army),米国国防総省(Department of Defense),米国政府の公式の方針を反映したものではない。

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