脾損傷

執筆者:Philbert Yuan Van, MD, US Army Reserve
レビュー/改訂 2023年 6月
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脾損傷は通常,鈍的腹部外傷の結果として生じる。患者はしばしば腹痛(ときに肩に放散する)および腹部圧痛を有する。診断はCTまたは超音波検査により行う。治療は経過観察およびときに外科的修復による;まれに,脾臓摘出が必要である。

腹部外傷の概要も参照のこと。)

脾損傷の病因

大きな衝撃(例,自動車事故)によって脾臓が損傷することがあり,また穿通性外傷(例,ナイフによる創傷,銃創)でも同様である。エプスタイン-バーウイルスによる劇症型の疾患(伝染性単核球症または移植後のエプスタイン-バーウイルスを介した偽リンパ腫)の結果として腫脹した脾臓は,軽微な外傷により破裂する傾向,または自然に破裂する傾向さえある。脾損傷は,被膜下血腫および小さな被膜の裂傷から深部の実質の裂傷,挫滅,および茎からの剥離まで様々である。

分類

脾損傷は重症度に応じて以下の5段階に分類される:

表&コラム

脾損傷の病態生理

脾損傷から直接生じる主な事象は腹腔内への出血である。出血量は,損傷の性質および程度によって少量から大量まで様々である。多くの小さな裂傷は,特に小児では,自然に止血する。より大きな損傷では大量に出血し,しばしば出血性ショックを引き起こす。脾血腫がときに破裂し,これは通常は最初の数日でみられるが,受傷後数時間から数カ月後でさえ破裂が起こる可能性がある。

脾損傷の症状と徴候

出血性ショック,腹痛,および腹部膨隆など,大量出血の臨床像は通常は臨床的に明白である。少量の出血は,ときに左肩に放散する左上腹部痛を引き起こす。原因不明の左上腹部痛がある患者では,特に循環血液量減少またはショックの所見がある場合,最近の外傷歴を聴取すべきである。肋骨骨折のある患者では,脾損傷を強く疑ってかかること。

パール&ピットフォール

  • 原因不明の左上腹部痛がある患者では最近の外傷歴(コンタクトスポーツなど)を聴取する(特に循環血液量減少またはショックがある場合)。

脾損傷の診断

  • 画像検査(CTまたは超音波検査)

脾損傷の診断は,状態が安定している患者ではCTで,不安定な患者ではベッドサイドでの(ポイントオブケア)超音波検査または試験開腹で確定する。

脾損傷の治療

  • 経過観察

  • 血管塞栓術(angioembolization)

  • ときに外科的修復または脾臓摘出

かつては,全ての脾損傷が脾臓摘出で治療されていた。しかしながら,細菌感染に対する永続的な感受性を生じさせ,重篤な脾臓摘出後敗血症のリスクを高める事態を回避するため,脾臓摘出は可能であれば回避すべきであり,高齢者,小児,および造血器腫瘍患者では特に避けるべきである。最も頻度の高い病原体は肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)であるが,莢膜を有するその他の細菌としてNeisseria属やHaemophilus属などが関与していることもある。

現在では,重症度の低い脾損傷の大半と重症度の高い脾損傷の多くが手術によらず管理可能となっており,これは55歳以上の患者でも同様である。ほかに開腹手術の適応(例,管腔臓器の穿孔)がなく,血行動態が安定している患者は,バイタルサインのモニタリングと継続的な腹部診察およびヘマトクリット(Hct)の測定で経過観察とすることができる。輸血の必要性は手術以外による管理に矛盾しない(特に他の合併損傷[例,長管骨骨折]がある場合)。しかしながら,あらかじめ輸血を行う基準(典型的には孤立性の脾損傷に対して2単位)を定めておくべきであり,それを超えれば罹患および死亡を防止するために手術を行うべきである。ある大規模な外傷センターにおいては,非手術療法の管理が失敗した患者のうち,75%は受傷後2日以内に,88%は5日以内に,93%は7日以内に失敗している(1)

肝損傷の場合と同様に,手術以外で管理される脾損傷については,活動制限,至適な集中治療室(ICU)滞在期間ないし入院期間,食事再開のタイミング,および画像検査を繰り返す必要性に関して文献上コンセンサスは得られていない。ただし,損傷の重症度が高いほど,重量物の持ち上げ,コンタクトスポーツ,または体幹の負傷を伴う可能性がある活動の再開許可には,より慎重になるべきである。

大量の進行中の出血(すなわち,有意な量の輸血継続の必要性および/またはヘマトクリット[Hct]の減少)がある患者では開腹手術が必要である。ときに,血行動態が安定している患者では,出血している血管の選択的塞栓術を併用する血管造影を行う。

手術が必要な場合,出血はときに縫合,局所止血剤(例,酸化セルロース,トロンビンの混合物,フィブリン糊),または脾部分切除によってコントロールできるが,ときに依然として脾臓摘出が必要になることがある。脾臓摘出を受けた患者には,肺炎球菌ワクチンの接種を行うべきである;多くの医師はNeisseria属およびHaemophilus属細菌に対するワクチン接種も行う。

治療に関する参考文献

  1. Stassen NA, Bhullar I, Cheng JD: Nonoperative management of blunt hepatic injury: An Eastern Association for the Surgery of Trauma practice management guideline.J Trauma Acute Care Surg 73:S288-S293, 2012.doi: 10.1097/TA.0b013e318270160d

要点

  • 脾損傷は一般的であり,脾臓が腫大している場合には軽微な損傷で起こる可能性がある。

  • 主な合併症は,直ちにみられる出血および遅発性の血腫破裂である。

  • 状態が安定している患者ではCT,不安定な患者では試験開腹により診断を確定する。

  • 細菌感染に対する患者の感受性を永久的に増大させること(脾臓摘出によって生じる)を避けるため,脾損傷は可能ならば手術以外で管理する。

  • 有意な量の輸血継続が必要であるか,ヘマトクリットの低下がみられる患者では,開腹手術を行うか,塞栓術を伴う血管造影を施行する。

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