ステープラーは,審美的閉鎖の必要がない場合に,縁の鋭いまっすぐな裂創を迅速に閉鎖するために使用される。
適応
体幹または四肢の比較的まっすぐで縁の鋭い裂創,および頭皮の浅い裂創
禁忌
絶対的禁忌
MRIの使用が予想される(磁場によりステープルが皮膚から剥がれる可能性があるため)
相対的禁忌
顔面または頸部の裂創(審美的転帰がしばしば縫合より劣るため)
手または足の裂創(痛みが強いことが多いため)
頭部CTの使用が予想される(組織用ステープルがアーチファクトを引き起こすため)
汚染されている創傷,比較的古い創傷,または閉鎖すると感染のリスクが高まると考えられる創傷(手足の小さな咬傷,刺創,高速弾丸損傷など)には,いかなる種類の閉創も禁忌となりうる。
深部構造(例,神経,血管,腺管,関節,腱,骨)に及ぶ創傷には,特殊な技法や外科専門医への紹介が必要になる場合があり,広範囲にわたる創傷や顔面または手に及ぶ創傷も同様である。
合併症
創縁の密着が不十分であると,閉創不良および審美上の問題をもたらす
瘢痕化しやすい患者では,大きな瘢痕
審美面での悪影響(特にステープルを長時間残した場合)
感染症
器具
創傷衛生および閉創は無菌操作である必要はない。創傷に接触する器具(例,鑷子,針,縫合糸)は滅菌されたものでなければならないが,免疫能が正常な患者には,手袋と水は清潔なら滅菌されていないものを使用してよい。滅菌手袋の方が手によくフィットし,バリア効果が高いという理由から,滅菌手袋の使用を好む医師もいる。
清潔操作,バリアによる防護
マスクおよび安全眼鏡(またはフェイスシールド),キャップ,ガウン,手袋
滅菌ドレープ,タオル(創部のデブリドマンと縫合に使用)
クロルヘキシジンなどの消毒剤
シリンジ,針,および局所麻酔薬
組織鑷子
ステープラー(抜去器具を含む)
抗菌薬軟膏
非閉鎖性のドレッシング材
その他の留意事項
縫合とステープラーは,治癒成績,閉創後の引張強度,合併症発生率,患者の耐容性,閉鎖効率,瘢痕の幅,色調,全体的な外観,縫合またはステープルの痕,感染率,費用,および患者にとっての受入れやすさの面で同等である。動物試験では,ステープルの方が創部の炎症が少なく,汚染創における感染への抵抗性が高かった。
ステープルを使用する主な利点は,短時間で閉創できることである。(縫合の3~4倍速い。)
創傷に有意な張力がかかっている場合は,ステープルで固定する前に吸収性縫合糸を深部に置いて張力を減弱させる。
体位
患者を座位(背もたれを倒した楽な状態)または仰臥位にする。
術者がベッドサイドに楽に立てるまたは座れるよう,ストレッチャーの高さを調節する。
裂創には十分な照明を当てるべきであり,頭上の処置用ライトを使用するのが望ましい。
ステップ-バイ-ステップの手順
(創傷の修復に必要な準備,麻酔,およびドレッシングのステップ-バイ-ステップの手順については,創傷の清浄化,洗浄,デブリドマン,およびドレッシングを参照のこと。)
必要に応じて,創傷の清浄化,麻酔,洗浄,およびデブリドマンを行う。
創傷部に滅菌穴あきドレープを当てる。十分に大きな清潔野を確保するため,必要に応じて周辺に追加のドレープを敷く。
裂創の一端から開始する。
鑷子を用いて創縁を外反させるが,これはもう一人の術者が行うのが望ましい。ときに,皮膚を母指と示指でつまむだけで皮膚を外反できることもある。
創縁が外反したら,創傷を挟むようにしてステープルを愛護的に当てる。
確実に閉鎖するため,ステープルの中心部を創傷の中心部の上に,垂直に当てる。
ステープラーのハンドルを握ると,ステープルは自動的に創傷内に入り,適切な形に曲がる。適切に配置されると,ステープルの水平部分が皮膚表面から数ミリの高さになる。
裂創の一端から他端まで,全長にわたり創縁をしっかり密着させるため,必要に応じて約0.5~1cmの間隔を開けてステープルを置く。
アフターケア
望ましい場合は抗菌薬軟膏を塗布し,その後は被覆せずにおくか,滅菌包帯で被覆する。
患者に24~48時間以内にドレッシングを除去して創傷を愛護的に洗浄させる。頭皮の裂創は,数時間以内にシャワーで洗浄することができる。
縫合と同じ時間間隔でステープルを除去する。(単純結節縫合による裂創の修復:アフターケアを参照のこと。)ステープルを除去するには,そのステープラーの製造業者によって製造された専用器具を使用する。ステープルリムーバーの顎の部分をステープルの水平部分の下に置き,ハンドルを握る。
注意点とよくあるエラー
創縁が適切に密着していない(その結果,創縁が重なることがある),また創縁が外反していないことが最もよくあるエラーである。ステープルの中央部を創傷の中央部に合わせるようにする。
ステープラーを強く握りすぎると,ステープルがきつく締まりすぎて創傷の虚血を引き起こす可能性がある。
ステープルの除去は,抜糸よりも不快感が強い可能性がある。
ステープルを長時間留置すると,有意な瘢痕をもたらす可能性がある。
アドバイスとこつ
多くの医療従事者は,裂創の一端から始めるのではなく,中央から開始して,それ以降のステープルはそれぞれ空いているスペースの中点に置き,これを間隙がなくなるまで続ける方が容易であると考える。
鑷子がない場合は,皮膚を(例,母指および示指で)つまんで皮膚を外反させることができる。