非侵襲的陽圧換気(NPPV)は,侵襲的な人工エアウェイを用いない換気補助である。これは,自発呼吸のある患者に対し,鼻または鼻と口の両方をぴったり覆うマスクを介して行われる。気道は保護されておらず,誤嚥の可能性があることから,患者に十分な意識レベルと気道防御反射がなければならない。
(機械的人工換気の概要も参照のこと。)
NPPVには以下の種類がある:
持続陽圧呼吸療法(CPAP)
二相性陽圧換気(BPAP)(患者の呼吸により誘発される)
CPAPにおいては,追加の吸気サポートを行わず,呼吸サイクルを通して一定の圧力が維持される。
BPAPを用いる場合,呼気気道陽圧(EPAP;生理的なCPAPおよび呼気終末陽圧[PEEP]に相当する)に加えて,吸気気道陽圧(IPAP)が設定される。
非侵襲的陽圧換気の適応
NPPVは主に,気管挿管の必要性を遅らせる(できればその必要性をなくす)ために,また自発呼吸のある患者では抜管を促すために用いられる。適応としては以下のものがある:
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪(例,PaCO2 > 45mmHgまたはpH < 7.30)
心原性肺水腫があり,呼吸不全が切迫している
挿管により感染リスクが高まる易感染性患者で,呼吸不全が切迫している
挿管を希望しない旨の事前指示書があるが,その点を除けば挿管を必要とする患者
至適な患者は意識清明で協力的で,気道分泌物が最小限の患者である。
外来では以下のことが行われる:
CPAPはしばしば閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者に用いられる。
BPAPは肥満低換気症候群の患者に用いられるか,神経筋疾患または胸壁疾患の患者における長期的な換気に用いられる。
非侵襲的陽圧換気の禁忌
絶対的禁忌
心停止または呼吸停止がみられるか,これらが切迫している
血行動態不安定または不安定な不整脈
重度の上部消化管出血
顔面変形または外傷
上気道閉塞
大量の分泌物がある,または分泌物を除去する能力がない
嘔吐(生命を脅かす誤嚥につながる可能性がある)または胃内容排出障害(イレウス,腸閉塞,または妊娠などに伴って発生し,嘔吐のリスクを高める)
直ちに手術すべき適応がある,または長時間の処置に対して綿密なモニタリングができない環境にいなければならない
意識障害がある,または指示に協力できない
非侵襲的陽圧換気の合併症
非侵襲的陽圧換気で使用する器具
BPAP装置(またはフル機能を備えた人工呼吸器)
フェイスマスクまたは鼻マスク
ヘッドストラップ(マスクを患者の顔面に固定するため)
fitting wheel(患者に最適なマスクのサイズを決定するために用いる器具)
非侵襲的陽圧換気に関するその他の留意事項
胃への空気流入を避けるために,IPAPは食道入口部の圧(20cmH2O)よりも低く設定しなければならない。
気管挿管による従来の機械的人工換気への切替えは,意識レベルの低下,ならびに気道制御および完全な換気サポートが望まれる手術室への移動などが適応する。
非侵襲的陽圧換気での体位
患者は座位または半横臥位にする。
非侵襲的陽圧換気のステップ-バイ-ステップの手順
fitting wheelを患者の鼻梁に合わせ,円盤を回転させて口全体を覆うサイズを選択することにより,適切なフェイスマスクのサイズを決定する。
額部分のヘッドストラップを患者の頭の周りに固定する。ストラップをきつく締めすぎないように注意し,ストラップの下に指1~2本分の幅をもたせて締める。
下側のストラップをマスクの両側に固定する。
マスクの上部を額部分のストラップに取り付ける。このマスクは,患者の不快感を最小限にするために上部を上下左右に微調整できる。
二酸化炭素のリリースバルブを患者とは反対方向に向けてBPAPのチューブを患者に接続する。
BPAP圧の初期設定は,通常はIPAPを10~12cmH2O,EPAPを5~7cmH2Oとする。
マスクが顔にしっかりと密着するように,必要に応じてマスクの位置を調整する。5L/分程度の少量のエアリークは無視できる。
BPAP開始30分後から逐次患者を観察して換気および患者の快適さを評価し,必要であればIPAPを15~20cmH2Oまで上げる。
非侵襲的陽圧換気のアフターケア
NPPVの開始後は患者を注意深くモニタリングし,状態が(通常1~2時間以内に)改善せず気管挿管が必要になりうる患者を同定することが重要である。逐次血液ガス測定を行うことが管理の指針を決めるのに役立つ。
非侵襲的陽圧換気のアドバイスとこつ
患者の不快感およびマスクへの抵抗を軽減するため,ストラップを固定する前に患者自身でマスクを自分の顔に当ててもらう。