大動脈肺動脈窓は,大動脈と主肺動脈の間にできる異常な交通路であり,大きな左右短絡を引き起こす。症状と徴候は心不全によるもので,具体的には頻呼吸,哺乳不良,発汗などがある。診断は身体診察,心電図,および画像検査による。治療は外科的修復による。
(心血管系の先天異常の概要も参照のこと。)
大動脈肺動脈窓は非常にまれであり,全ての先天性心形成異常に占める割合は0.6%未満である。異常な交通路は,孤立性のこともあれば,心房中隔欠損症や心室中隔欠損症,大動脈縮窄症,大動脈弓離断,ファロー四徴症など他の心血管異常に合併することもある。この異常は,胎生期の心臓の発生における総動脈幹の中隔形成不全に起因する。大動脈から肺動脈への直接の交通路の太さは様々であり,その位置も冠静脈洞直上から右肺動脈近位部まで様々である。
大動脈肺動脈窓の病態生理
大量の左右短絡があると,肺血流過剰と左室容量負荷につながり,さらには肺のコンプライアンス低下と気道抵抗増大につながる。肺血流過剰をもたらす左右短絡の量は,交通孔の大きさと肺血管抵抗の両方に依存する。
ある程度の肺高血圧がほぼ常に生じている。その程度は,大動脈と肺動脈の交通孔の大きさによって決まる。大動脈と肺動脈の交通路が大きければ,全身血圧に等しい肺高血圧が生じているはずである。
呼吸器感染症を繰り返すこともある。
交通孔が修復されない場合,高血圧と大量の左右短絡により肺血管疾患が生じ,最終的にアイゼンメンジャー症候群に至る。
大動脈肺動脈窓の症状と徴候
左右短絡は心不全につながることがあり,頻呼吸,哺乳不良,発汗などの症候がみられる。肺コンプライアンスの低下と気道抵抗の増大により,呼吸困難と労作性呼吸の徴候(例,鼻翼呼吸,呻吟,胸壁陥凹)がみられることがある。乳児では発育不良と反復性肺炎がみられることがある。
孤立性の大動脈肺動脈窓患者では,診察所見は,交通孔の大きさと肺血管抵抗(PVR)に依存する。一般に心臓の診察では,右室負荷による傍胸骨部の挙上,肺高血圧による大きな単一II音,および末梢の脈拍増加が認められる。
交通孔が大きい場合は,PVRが出生後数週間または数カ月間にわたり高値にとどまることがあり,肺血流量の増加も軽度である。この軽度の血流増加により,拡張期成分を伴わない心基部の比較的弱い収縮期駆出性雑音と大きな単一II音が聴取される。生後数カ月間でPVRが低下するにつれて,肺への左右短絡が次第に増加し,収縮期雑音は次第に大きく長くなり,場合によっては拡張期にも及んで連続性雑音になる。
小さな大動脈肺動脈交通孔では,収縮期と拡張期を通じて大動脈から肺動脈への圧較差が存在するため,動脈管開存症に典型的な雑音が聴取されることがある。
交通孔が大きく修復されない場合は,年月を経て最終的にアイゼンメンジャー症候群を来し,短絡が逆転する。その場合の臨床所見は,右室肥大による傍胸骨部の挙上,肺高血圧による大きな単一II音,チアノーゼのみとなり,雑音は聴取されない可能性がある。
大動脈肺動脈窓の診断
胸部X線および心電図検査
心エコー検査のほか,ときにCT血管造影またはMRアンギオグラフィー
診断は身体診察,心電図,および画像検査による。心電図は右室肥大または両室肥大を示す。胸部X線では,心拡大,主肺動脈の拡大,および肺血管陰影の増強が認められる。
心エコー検査では通常,交通孔を確認できるが,大動脈と主肺動脈の間および大動脈と右肺動脈近位部の間を隔てる壁の欠損は比較的軽微である場合があり,肺高血圧の病因が初期には明らかでないことがある。心臓内部に明らかな異常がない状況で肺高血圧症の所見が認められた場合は,大血管近位部の画像検査を行って,大動脈と肺動脈分岐部付近の主肺動脈の間または大動脈と右肺動脈近位部の間に欠損がないか調べるべきである。
MRまたはCT画像では,交通孔の存在および範囲が明瞭に描出される。心臓血管造影が必要になることはまれであるが,短絡および肺高血圧の程度を明らかにする上で役立つ場合がある。
大動脈肺動脈窓の治療
外科的修復
診断したら,できるだけ早く大動脈肺動脈窓の外科的修復を行うべきである。交通孔が小さく,大動脈弁に近接していないまれな症例では,経カテーテル閉鎖術を考慮してもよい。
要点
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American Heart Association: Common Heart Defects: Provides overview of common congenital heart defects for parents and caregivers