空回腸閉鎖は,小腸の一部の形成が不完全となる病態である。診断は腹部X線による。治療は外科的修復である。
(消化器系の先天異常の概要も参照のこと。)
空回腸閉鎖がある新生児では,通常,出生当日の後半から生後2日目までに,増強する腹部膨隆,便通不全,嘔吐,および哺乳困難で発症する。羊水過多の既往がよくみられる。
空回腸閉鎖の病因
空回腸閉鎖は,在胎中の虚血性損傷の結果として発生する。虚血性損傷は,腸重積,穿孔,腸捻転,ヘルニアに伴う腸管の絞扼,または血栓塞栓症によって生じうる。母体の喫煙とコカイン使用が腸閉鎖と関連することが報告されている。推定発生率は出生10,000人当たり約1例である。本症は男女に等しく発生する。空回腸閉鎖は,空腸と回腸で同等に発生する(1)。
先天異常の合併がみられる頻度は,空回腸閉鎖の方が十二指腸閉鎖より少ない。最も高頻度に合併する病態は,嚢胞性線維症,腸回転異常症,および腹壁破裂であり,それぞれ約10%の症例でみられる。腹膜石灰化は,胎便性腹膜炎の存在を示唆するもので,これは子宮内での腸穿孔の徴候であり,約10%の症例でみられる。胎便性腹膜炎を認めた場合,胎便性イレウスと嚢胞性線維症を疑うべきである(1)。
病因論に関する参考文献
1.Morris G, Kennedy A Jr, Cochran W: Small bowel congenital anomalies: A review and update.Curr Gastroenterol Rep 18(4):16, 2016.doi: 10.1007/s11894-016-0490-4
空回腸閉鎖の分類
空回腸閉鎖は5つの病型に大別される:
I型は,膜によって回腸が完全閉塞されるが,腸管自体に異常はないものである。
II型は,腸管の間隙に口側と肛門側をつなぐ線維索を伴うものである。
IIIA型は,腸間膜が間隙となり,間隙部分に一切連絡が存在しないものである。
IIIB型は,空腸閉鎖に加えて肛門側の上腸間膜動脈の欠損を伴うもので,肛門側の小腸は剥かれたリンゴの皮に似たコイル状の形態を呈し,腸管が短縮する。
IV型は,複数の分節から構成されるものである(ソーセージ様に見える)。
空回腸閉鎖の診断
腹部X線
腹部単純X線を施行すると,鏡面像を伴う小腸係蹄の拡張と結腸内および直腸内の空気の欠乏を認める。下部消化管造影により(廃用に起因する)microcolonが明らかになる。
約10%の患者には嚢胞性線維症(胎便性イレウスも呈する場合はほぼ100%)も認められるため,嚢胞性線維症の検査を行うべきである(1)。
診断に関する参考文献
1.Roberts HE, Cragan JD, Cono J, et al: Increased frequency of cystic fibrosis among infants with jejunoileal atresia. Am J Med Genet 78(5):446-449, 1998.doi:10.1002/(sici)1096-8628(19980806)78:5<446::aid-ajmg9>3.0.co;2-j
空回腸閉鎖の治療
外科的修復
空回腸閉鎖の術前管理は,経鼻胃管の挿入,経口栄養の禁止,および輸液で構成される。
外科的修復が根治的治療である。手術中に腸管全体を観察して,閉鎖部が複数ないか確認すべきである。閉鎖部を切除し,通常は一次吻合を行う。回腸の口側部が極度に拡張し,使われていない肛門側腸管との吻合が困難な場合は,二連銃式回腸瘻造設術を施行し,拡張した口側腸管の直径が小さくなるまで吻合手術を延期する方がより安全となる場合もある。拡張した口側の腸管を次第に細くしていく手技も考慮すべき事項である(1)。
空回腸閉鎖の乳児の予後は非常に良好であり,生存率は90%を超えている。予後は残存小腸の長さと回盲弁の有無に基づく。後に短腸症候群を発症した乳児には,長期にわたる完全静脈栄養(TPN)が必要になる。このような患児には,腸管適応の促進,吸収能の強化,およびTPN施行の最少化のために,腸管栄養を継続的に行うべきである。また,吸啜および嚥下能力を維持するため,経口栄養も少量で行うべきである。腸管延長術(例,serial transverse enteroplasty procedure[STEP])などの新しい術式が考案され,内科的治療が改良され,小腸移植が可能になったことにより,短腸症候群の乳児の予後は大幅に改善している(2,3,4)。
治療に関する参考文献
1.Dewberry LC, Hilton SA, Vuille-Dit-Bille RN, Liechty KW: Is tapering enteroplasty an alternative to resection of dilated bowel in small intestinal atresia?J Surg Res 246:1–5, 2020.doi: 10.1016/j.jss.2019.08.014
2.Pandey A, Singh G, Shandilya G, et al: Role of Bishop–Koop procedure for jejunal and proximal ileal atresia.J Neonatal Surg 8(4):31, 2020.doi: 10.47338/jns.v8.356
3.Batra A, Keys SC, Johnson MJ, et al: Epidemiology, management and outcome of ultrashort bowel syndrome in infancy.Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed 102(6):F551–F556, 2017.doi: 10.1136/archdischild-2016-311765
4.Squires RH, Duggan C, Teitelbaum DH, et al: Natural history of pediatric intestinal failure: Initial report from the Pediatric Intestinal Failure Consortium.J Pediatr 161:723–728, 2012.doi: 10.1016/j.jpeds.2012.03.062
要点
通常,空回腸閉鎖は腸閉塞の徴候を伴って生後1~2日時点で明らかになる。
嚢胞性線維症,腸回転異常症,および腹壁破裂がそれぞれ約10%の症例でみられる。
経口栄養を禁止し,外科的修復まで経鼻胃管吸引と輸液を行う。