小児の高血圧に対する薬剤

執筆者:Bruce A. Kaiser, MD, Nemours/Alfred I. DuPont Hospital for Children
レビュー/改訂 2021年 9月 | 修正済み 2022年 9月
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以下に該当する小児には,典型的には(生活習慣の改善とともに)直ちに薬物治療を開始する:

  • 病期および程度を問わず症候性の高血圧

  • 末端臓器の機能障害または損傷を示す所見を伴ったステージ1の高血圧

  • 明らかで是正可能な危険因子(例,肥満)を伴ったステージ2の高血圧(血圧をコントロールしながら対処すべきである)

  • 慢性腎臓病,糖尿病,または心疾患を有する患者での病期を問わず高血圧

正常高値,境界域高血圧,またはステージ1の高血圧で症状も末端臓器の機能障害もみられない小児では,生活習慣の改善を開始するが,約6カ月以内に十分な降圧が得られない場合には,薬物治療が必要になる(1)。

一般に,薬物治療は単剤を用量範囲の下限で開始し,血圧がコントロールされるか,用量範囲の上限に近づくまで,または薬剤の使用に影響する有害作用が発生するまで,1~4週間毎に増量するべきである。その時点で血圧の目標が達成されていない場合は,2剤目を追加し,最初の薬剤と同様に漸増してもよい。高血圧の治療に使用される経口の薬物クラスとしては以下のものがある:

小児の持続性高血圧に対する経口療法は,一般にACE阻害薬またはCCBから始めるべきである。(ARBは同等に効果的で,咳嗽を引き起こさないが,小児に対する使用のデータはACE阻害薬の方が豊富である。)どちらのクラスの薬剤も1日1回の投与が可能であり,効果は同等のようである。ACE阻害薬には腎保護効果も期待できるため,慢性腎臓病または糖尿病を有する患者にはACE阻害薬を使用すべきである。ACE阻害薬とARBは胎児に有意な影響を及ぼすため,月経がみられ妊娠のリスクがある女児にはCCBを使用すべきである。また,CCBは血液生化学検査の項目に有意な影響を及ぼさない。サイアザイド系利尿薬が初期治療として使用されてきたが,青年では通常,塩分摂取量が非常に多いため,この種の薬剤で効果が得られるのはまれである。

単剤による初期治療で目標血圧が達成されない場合は,2剤目を追加すべきである。最初の薬剤がACE阻害薬またはARBである場合は,サイアザイド系利尿薬が2剤目としてよく機能することが証明されているが,代わりにCCBを追加することもできる。最初の薬剤がCCBである場合は,通常はACE阻害薬またはARBが2剤目としてよく機能するが,妊娠のリスクがある場合はこれらは避ける必要があり,代わりにサイアザイド系利尿薬または他の薬剤を試すことができる。サイアザイド系利尿薬を使用する場合は,1日1回の投与が可能であるクロルタリドンが理想的である。特殊な状況を除き,血管拡張薬とαおよびβ遮断薬は第3選択の薬剤であり,必要な場合は専門医へのコンサルテーションを行った上で使用すべきである。

錠剤やカプセルを服用できない小児や標準外の用量が必要とする場合には,多くの降圧薬を入手するか,経口懸濁液として調製することができる。

総論の参考文献

  1. 1.Flynn JT, Kaelber DC, Baker-Smith CM, et al: Clinical practice guideline for screening and management of high blood pressure in children and adolescents.Pediatrics 140(3):e20171904, 2017. doi: 10.1542/peds.2017-1904

アドレナリン修飾薬

アドレナリン修飾薬には,中枢性α2作動薬,シナプス後α1遮断薬,および末梢作用性非選択的アドレナリン遮断薬がある(小児の高血圧に対する経口アドレナリン作用薬の表を参照)。

α2作動薬(例,クロニジン)は,脳幹のα2アドレナリン受容体を刺激し,交感神経活性を抑制することによって,血圧を低下させる。中枢作用を有するため,その他の降圧薬と比べて眠気,嗜眠,抑うつを引き起こす可能性が高く,もはや広くは使用されていない。クロニジンはパッチ剤として週1回の適用で使用できるため,アドヒアランスが不良の患者に有用となりうる。

シナプス後α1遮断薬(例,プラゾシン,テラゾシン,ドキサゾシン)は,死亡率を低下させないことがエビデンスから示唆されているため,もはや高血圧の初期治療には使用されていない。

表&コラム
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アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬

ACE阻害薬(小児の高血圧に対する経口ACE阻害薬の表を参照)は,アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIを妨害するとともにブラジキニンの分解を阻害することで,反射性頻脈を惹起することなく末梢血管抵抗の低下をもたらし,これにより血圧を低下させる。この種の薬剤は,血漿レニン活性とは無関係に,多くの高血圧患者で血圧を低下させる。ACE阻害薬には腎保護作用があるため,糖尿病患者および様々な腎疾患と高血圧を合併した小児患者に対する第1選択薬となっている。

最も頻度の高い有害作用(小児での頻度は高齢者と比べてはるかに低い)は煩わしい乾性咳嗽であるが,最も重篤な有害作用は血管性浮腫であり,中咽頭に発生した場合は致死的となりうる。血管性浮腫は黒人と喫煙者で最もよくみられる。ACE阻害薬は,血清カリウム値と血清クレアチニン値を上昇させることがあり,特に慢性腎臓病患者とカリウム保持性利尿薬,カリウム製剤,または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を服用している患者でよくみられる。ACE阻害薬は妊娠中は禁忌であり,妊娠のリスクがある青年期の女性には注意して使用すべきである。腎機能障害を引き起こしている腎疾患がある患者では,治療開始後2~4習慣以内に血清クレアチニン値と血清カリウム値をチェックすべきである。これらの値が上昇する場合は,少なくとも3~6カ月毎に(有意な上昇幅であればより頻回に)モニタリングすべきである。ACE阻害薬は,循環血液量減少,重度の心不全,重度の両側性腎動脈狭窄,または単腎で高度の腎動脈狭窄を有する患者では急性腎障害を引き起こす可能性がある。

サイアザイド系利尿薬は,他のクラスの降圧薬と比較してACE阻害薬の降圧作用をより大幅に増強する。スピロノラクトンとエプレレノンもACE阻害薬の作用を増強するようである。

表&コラム
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アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)

ARB(小児の高血圧に対する経口アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の表を参照)は,アンジオテンシンII受容体を遮断することにより,ACE阻害薬と同様にレニン-アンジオテンシン系を阻害する。ARBとACE阻害薬は降圧薬として同等の有効性を示す。ARBは組織ACEの受容体遮断を介して,さらなる効果をもたらす可能性がある。これら2つの薬物クラスは,左室不全がある患者や糖尿病性腎症およびその他の腎疾患を有する患者において,それぞれ同じ有益な効果を示す。ARBはACE阻害薬と併用すべきではない。ARBは腎機能が低下した小児および青年でも安全に開始できる場合があるが,1~4週間以内にクレアチニンおよびカリウムの測定値をチェックする必要がある。値が上昇する場合は,少なくとも3~6カ月毎に(有意な上昇であればより頻回に)モニタリングすべきである。

有害事象の発生率は低く,血管性浮腫が生じるものの,その発生率はACE阻害薬と比較してはるかに低い。腎血管性高血圧,循環血液量減少,および重度の心不全を有する患者に対するARBの使用上の注意は,ACE阻害薬のそれと同じである(小児の高血圧に対する経口ACE阻害薬の表を参照)。ARBは妊娠中および妊娠の可能性がある青年では禁忌である。

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カルシウム拮抗薬(CCB)

CCB(小児の高血圧に対する経口カルシウム拮抗薬(CCB)の表を参照)は末梢血管拡張薬であり,全末梢血管抵抗(TPR)を低下させることにより血圧を低下させる;ときに反射性頻脈を引き起こすが,この種の薬剤が心臓に直接及ぼす影響は最小限である。

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サイアザイド系利尿薬

他の降圧作用に加えて,サイアザイド系利尿薬(小児の高血圧に対する経口サイアザイド系利尿薬の表を参照)は血管内容量が正常である限り,わずかながら血管拡張も引き起こす。サイアザイド系薬剤は全て等価用量で同等の効果を示す。

サイアザイド系利尿薬はカリウム喪失を引き起こすため,測定値が安定するまで血清カリウム値を追跡すべきである。血清カリウム濃度が正常化しない限り,動脈壁のカリウムチャネルが閉じ,結果として生じる血管収縮により目標血圧の達成は困難となる。カリウム値が3.5mEq/L(3.5mmol/L)未満の患者には,カリウム製剤を投与するか,カリウム摂取量の増加につながる食習慣の改善について指導すべきである。高血圧の小児では低カリウム血症はそれほど問題とならず,サイアザイド系利尿薬は通常,カリウム濃度を上昇させる傾向があるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)と併用される。

大半の糖尿病患者において,サイアザイド系利尿薬は糖尿病のコントロールに影響しない。まれに,利尿薬はメタボリックシンドロームの患者において2型糖尿病を誘発ないし増悪させる。

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血管拡張薬

ミノキシジルやヒドララジンなどの直接的血管拡張薬(小児の高血圧に対する経口血管拡張薬の表を参照)は,自律神経系とは独立して血管に直接作用する。ミノキシジルはヒドララジンより強力であるが,ナトリウム・水貯留や多毛症など多くの有害作用がある。ミノキシジルは難治性の重症高血圧にのみ使用すべきである。

ヒドララジンは妊娠中(例,妊娠高血圧腎症に対して)および補助的降圧薬として使用される。ヒドララジンの長期高用量(1日300mgを上回る)投与と薬剤性ループス症候群の間に関連が認められており,投与中止により消失する。

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