川崎病

執筆者:Christopher P. Raab, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2023年 2月
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川崎病は血管炎の1つであり,乳児および1~8歳の小児に発生しやすく,ときに冠動脈を侵す。遷延する発熱,発疹,結膜炎,粘膜炎症,リンパ節腫脹を特徴とする。冠動脈瘤が発生し,破裂する,あるいは血栓症による心筋梗塞を引き起こす可能性がある。診断は臨床基準により行われ,本疾患と診断されれば,心エコー検査が行われる。治療はアスピリンと免疫グロブリン静注療法である。冠動脈血栓には,線溶療法または経皮的インターベンションが必要になることがある。

川崎病は中型の動脈の血管炎で,冠動脈が最も著明であり,未治療の患児の約20%において冠動脈が侵される。

川崎病は,小児における後天性心疾患の主要な原因である。初期症状に急性心筋炎があるが,これに心不全,不整脈,心内膜炎,および心膜炎が随伴する。その後に冠動脈瘤が形成されることがある。巨大冠動脈瘤(心エコー検査で内径8mm以上)は,まれであるが,心タンポナーデ,血栓症,または梗塞を引き起こすリスクが最も高い。

上気道,膵臓,胆道,腎臓,粘膜,およびリンパ節など血管外組織にも炎症を来すことがある。

川崎病の病因

川崎病の病因は不明であるが,疫学および臨床像からは感染のほか,より可能性が高いものとして遺伝的素因をもつ小児における感染に対する異常な免疫反応が示唆されている。自己免疫疾患の可能性もある。

日本人を祖先にもつ小児で特に発生率が高いが,川崎病は世界中で発生している。米国では,年間3000~5000例が発生している(1)。男女比はおよそ1.5:1である。患児の80%は5歳未満である(ピークは生後18~24カ月)。青年,成人,生後4カ月未満の乳児の症例はまれである。

年間を通じて発症がみられるが,春季または冬季が最も多い。地域社会内での集団発症が報告されているが,ヒトからヒトへの伝播の明確な証拠は得られていない。患児の約2%に再発があり,典型的には数カ月から数年後に起こる。判明している予防法はない。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Committee on Infectious Diseases, American Academy of Pediatrics, Kimberlin DW, Barnett ED, Lynfield R, Sawyer MH: Red Book: 2021–2024 Report of the Committee on Infectious Diseases, ed.32, 2021. doi: 10.1542/9781610025782

川崎病の症状と徴候

この疾患は急性期,亜急性期,回復期の3段階の病期で進行する傾向がある。

急性期は,少なくとも5日間続く,通常39℃(約102.2°F)以上の,解熱剤を使用しないときは非弛張性の高熱で始まる。発熱は,易刺激性,ときに嗜眠,または間欠性の腹部仙痛を伴う。通常,発熱から1~2日以内に滲出液を伴わない両側眼球結膜の充血が起こる。

5日以内に,多形性で紅斑性の斑状発疹が主として体幹一面に発現し,しばしば会陰部で症状の増強がみられる。発疹は,蕁麻疹様,麻疹様,多形紅斑様,または猩紅熱様である。発疹には,咽頭の充血;口唇の発赤,乾燥,亀裂;および赤い苺舌が随伴する。

川崎病(発疹)
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この写真には,会陰部で症状の増強がみられる,体幹下部の多形性で紅斑性の斑状発疹が写っている。
© Springer Science+Business Media
苺舌(小児)
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舌が発赤し,舌乳頭が目立つようになる。
SCIENCE PHOTO LIBRARY

1週目に,指趾の爪の近位部が蒼白(leukonychia partialis)になることがある。通常3~5日目頃に,手掌や足底に,紅斑または赤紫の変色,および様々な浮腫が現れる。浮腫は軽度であるが,しばしば緊張して硬く,押してもへこまない。急性期は発熱の消失とともに終了する。

亜急性期は発熱の終わりから25日目頃まで続く。10日目頃には爪周囲,手掌,足底,会陰の落屑が始まる。ときに皮膚の表層が大きな鋳型状にはがれ落ち,新しい正常な皮膚が下層に見えてくることがある。関節炎,関節痛,および血小板増多もみられる。関節炎あるいは関節痛(主に大関節)が,患児の約33%に起こる。

心臓症状は通常,発症から約1~4週間後の本症候群の亜急性期に,発疹,発熱,その他の初期急性臨床症状が沈静化し始めるとともに現れ始める。

圧痛のある非化膿性頸部リンパ節腫脹(1つまたは複数のリンパ節,直径1.5cm以上)が,患児の約50%において経過全体にわたって発現する。この症状は2~12週間もしくはさらに長期にわたって続く。不完全または非典型的な症例も発生しうるが,特に幼若乳児に多く,幼若な乳児では冠動脈疾患が発現するリスクが高くなる。そのような所見は約90%の患児に発現する。

その他の特異性の低い所見は多くの器官が障害されていることを示唆する。

他の臨床的特徴として,尿道炎,無菌性髄膜炎,肝炎,耳炎,嘔吐,下痢,胆嚢水腫,上気道症状,前部ぶどう膜炎などが挙げられる。

回復期は臨床徴候が消失したときに始まり,急性期の開始から約6~8週間後まで続く。

川崎病の診断

  • 臨床基準(5日以上続く発熱および特徴的な身体所見)

  • 経時的心電図検査と心エコー検査

  • 他の疾患を除外するための検査:血算,赤血球沈降速度,C反応性タンパク(CRP),抗核抗体,リウマトイド因子,アルブミン,肝酵素,咽頭培養および血液培養,尿検査,胸部X線

川崎病の診断は臨床基準による(川崎病の診断基準の表を参照)。

類似の症状が猩紅熱,ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal exfoliative syndrome),麻疹,薬物反応,若年性特発性関節炎でも現れることがある。比較的まれではあるが,レプトスピラ症ロッキー山紅斑熱でも類似の症状がみられる。

SARS-CoV-2感染症のまれな合併症として,感染後に生じる炎症症候群が報告されており,小児多系統炎症性症候群(multisystem inflammatory syndrome in children:MIS-C)と呼ばれている。MIS-Cの症状は川崎病の症状と類似する。類似点としては,ショック,紅斑性発疹,結膜炎,粘膜病変,リンパ節腫脹,心臓の変化などがある。しかしながら,MIS-Cの小児にはCOVID-19の血清学的所見が認められるはずであり,川崎病の小児と比べて消化管症状(下痢および嘔吐)や神経症状(頭痛)が多くみられる傾向がある。さらに,川崎病の小児では輪部に影響を及ぼさない結膜炎がみられる傾向があり,年齢がより低い(典型的には5歳未満)(1, 2)。

表&コラム

発熱がある患児で,5つの診断基準のうち4つ未満しか満たしていない場合でも,冠動脈瘤などの血管炎合併症が発生することがある。そのような患児は,非定型(または不完全型)川崎病であると考えられる。39℃を超える発熱が5日間以上続き,川崎病の5つの基準のうち2つ以上を認める場合は,非定型川崎病を考慮し,検査を開始すべきである。

臨床検査は診断に有用ではないが,他の疾患の除外のために実施することがある。一般に,血算,抗核抗体,リウマトイド因子,赤血球沈降速度(赤沈),咽頭培養および血液培養が行われる。

白血球増多(しばしば幼若細胞の著明な増加を伴う)は,急性的によくみられる。その他の血液所見としては,軽度の正球性貧血,発症後2週目または3週目の血小板増多(450,000/μL[450 × 109/L]以上),赤沈亢進またはC反応性タンパク(CRP)の高値などがある。抗核抗体,リウマトイド因子,および培養は陰性である。

その他の異常として,侵された器官系に依存するが,無菌性膿尿,肝酵素の高値,タンパク尿,血清アルブミン低下,髄液細胞増多がある。

小児心臓専門医へのコンサルテーションが重要である。診断時には,心電図および心エコー検査を行う。異常は後になって現れることがあるため,これらの検査は発症後第2~3週目,第6~8週目,またおそらくは発症から6~12カ月後にも繰り返し行われる。心電図では不整脈,低電位,または左室肥大を認めることがある。心エコー検査では,冠動脈瘤,弁逆流,心膜炎,または心筋炎が検出される。動脈瘤があり負荷試験結果が異常である患児においては,ときに冠動脈造影が有用である。

診断に関する参考文献

  1. 1.Burney JA, Roberts SC, DeHaan LL, et al: Epidemiological and clinical features of Kawasaki disease during the COVID-19 pandemic in the United States.JAMA Netw Open 5(6):e2217436, 2022.doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.17436

  2. 2.Darby JB, Jackson JM: Kawasaki disease and multisystem inflammatory syndrome in children: An overview and comparison. Am Fam Physician 104(3):244-252, 2021.

川崎病の治療

  • 免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)

  • 高用量アスピリン

治療は,経験豊富な小児心臓専門医,小児感染症専門医,もしくは小児リウマチ疾患専門医が行うか,またはこれらの専門医へのコンサルテーション下で行われるべきである。

非定型川崎病の乳児は冠動脈瘤のリスクが高いため,治療を遅らせるべきではない。治療はできる限り早期(発症から10日以内が理想的)に開始し,大量免疫グロブリン静注療法(IVIG)(1回用量2g/kg,10~12時間かけての投与)と,高用量アスピリン20~25mg/kg,経口,1日4回の組合せにより行う。発症後10日を超えてから開始した場合のIVIG/アスピリン療法の効果は不明であるが,それでも本療法の実施を考慮すべきである。

発熱のない状態が4~5日間が続いたら,アスピリンの用量を3~5mg/kg,1日1回まで減量する;発症から14日目まではアスピリンの高用量投与を継続するのが望ましいとする専門家もいる。川崎病の急性期ではアスピリン代謝が不規則であり,このことにより高用量投与の必要性が一部説明される。高用量療法時,特に14日間投与の場合および/またはIVIG療法にもかかわらず発熱が持続する場合に血清アスピリン濃度をモニタリングする専門家もいる。

大半の患児では,治療開始後24時間以内に速やかな反応がみられる。少数例では発熱を伴う病態が数日間続き,IVIGの反復投与が必要となる。難治例の治療は,心臓専門医およびリウマチ専門医からの情報に基づいて行うべきである。

代替レジメンが心機能障害のため2g/kgのIGIVに耐えられない患児に有益となりうるが,症状の消失にはやや時間を要することがある。代替レジメンはIVIG 400mg/kg,1日1回の4日間投与である(この場合も高用量アスピリンと併用する)。

症状の緩和が4~5日間継続してみられた後も,心エコーの再検査が完了するまで,発症後少なくとも8週間は3~5mg/kg,1日1回,アスピリン投与を継続する。冠動脈瘤がなく炎症の徴候もみられなければ(赤沈および血小板の正常化により示される),アスピリンを中止してよい。アスピリンには抗トロンビン作用があるため,冠動脈異常のある患児では,投与は無期限で継続される。巨大冠動脈瘤のある患児では,抗凝固療法の追加も必要である(例,ワルファリン,抗血小板薬)。

治療合併症の予防

IVIG療法を受けている小児では,生ウイルスワクチンの奏効率が低下する。したがって一般に,麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹ワクチンの接種はIVIG療法から11カ月先とし,水痘ワクチン接種は11カ月以上先に延期すべきである。麻疹曝露のリスクが高い場合はワクチン接種を行うべきであるが,再ワクチン接種(または血清学的検査)を11カ月後に行うべきである。

長期間のアスピリン投与を受けている小児ではインフルエンザまたは水痘のアウトブレイク時に,ライ症候群のリスクがわずかながら存在するため,アスピリンの長期投与を受けている生後6カ月以上の小児では,年1回のインフルエンザワクチン接種が特に重要となる。さらに,アスピリンの投与を受けている患児の親には,児がインフルエンザまたは水痘に曝露するか,児にそれらの症状がみられた場合には,担当医に速やかに連絡を取るように指導しておくべきである。アスピリンの一時的中断が考慮されることもある(動脈瘤が報告されている小児にはジピリダモールで代用)。

川崎病の予後

十分な治療を行った場合の米国での死亡率は0.17%である。遷延する発熱は心疾患のリスクを高める。

死亡原因として最も頻度が高いのは心合併症であり,死は突然で予測不能のことがある:死亡例のうちで発症から1カ月以内のものは50%を超え,2カ月以内では75%,6カ月以内では95%であるが,10年もの年月を経てから死亡することもある。効果的な治療により急性症状を軽減できるほか,さらに重大なことに,冠動脈瘤の発生率を20%から5%未満まで低減することが可能である。

冠動脈疾患がない場合は,完全回復に向けての予後は良好である。冠動脈瘤の約3分の2は1年以内に退縮するが,冠動脈狭窄の残存があるかどうかは不明である。巨大冠動脈瘤は退縮の可能性が低く,より集中的なフォローアップと治療を必要とする。

要点

  • 川崎病は,小児期に発生する病因不明の全身性血管炎であり,小児における後天性心疾患の主要な原因である。

  • 最も重篤な合併症は心臓に起こるもので,心不全,不整脈,および冠動脈瘤を伴う急性心筋炎などである。

  • 発熱,皮疹(後に落屑),口腔および結膜の炎症,およびリンパ節腫脹がみられる;このような典型的基準を満たさない非定型例も発生しうる。

  • 診断は臨床基準(5日以上続く発熱および特徴的な身体所見)による;基準を満たす小児には経時的に心電図検査と心エコー検査を行い専門医へのコンサルテーションを行うべきである。

  • 高用量アスピリンおよび免疫グロブリン大量静注療法の早期使用は,症状を緩和し,心合併症の予防に有用である。

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