RSウイルス(RSV)感染症およびヒトメタニューモウイルス感染症

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2023年 5月
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RSウイルス感染症とヒトメタニューモウイルス感染症は,特に乳幼児において,季節性の下気道疾患を引き起こす。無症候性ないし軽症で済むこともあれば,細気管支炎や肺炎を伴った重症となることもある。診断は臨床的に行うのが通常であるが,臨床検査による診断も可能である。治療は支持療法による。

RSウイルス(RSV)

RSVは,ニューモウイルスに分類されるRNAウイルスである。サブグループAおよびBが同定されている。

RSVは乳児期早期に生じる下気道疾患の最も一般的な原因であり,米国では5歳未満の小児において毎年50,000件以上の入院の原因となっている。

RSVは普遍的に存在し,ほぼ全ての小児が4歳までに感染する。典型的には温帯地方で毎年,冬季または早春にアウトブレイクが発生している。しかしながら,COVID-19パンデミックの発生中に,RSVやその他の呼吸器系ウイルスの循環パターンに乱れが生じた(1)。

RSVに対する免疫応答は再感染の予防につながらないため,全曝露者における発病率は約40%となっている。それでも,RSVに対する抗体は疾患の重症度を低下させる。

ヒトメタニューモウイルス(hMPV)

hMPVは類似するが別のウイルスである。

hMPVの季節的な疫学的性質はRSVのそれと同様のようであるが,感染および疾患の発生率はかなり低いとみられている。

参考文献

  1. 1.Olsen SJ, Winn AK, Budd AP, et al: Changes in influenza and other respiratory virus activity during the COVID-19 pandemic–United States, 2020-2021. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 70(29):1013–1019, 2021.doi: 10.15585/mmwr.mm7029a1

RSVおよびhMPV感染症の症状と徴候

RSVとhMPVは類似した疾患を引き起こす。最も認識しやすい臨床症候群は細気管支炎肺炎である。

これらの疾患は典型的には上気道症状と発熱で始まった後,数日かけて呼吸困難,咳嗽,喘鳴,胸部聴診上の断続性ラ音へと進行する。生後6カ月未満の乳児では無呼吸がRSVの初期症状となりうる。

健康な成人および児童では,通常は軽症に経過し,不顕性のこともあれば,発熱を欠く感冒症状のみを呈することもある。しかしながら,以下の患者では重度の疾患が発生することがある:

  • 生後6カ月未満の患者,高齢患者,または易感染状態の患者

  • 基礎疾患として心肺疾患または神経筋疾患を有する患者

RSVおよびhMPV感染症の診断

  • 特徴的な症状および徴候,特に通常の流行時期または既知のアウトブレイク発生時

  • ときに,迅速抗原検査,逆転写PCR(RT-PCR)法,またはウイルス培養(いずれも鼻腔洗浄液または鼻腔拭い液)

RSV流行期に細気管支炎または肺炎を起こした乳幼児では,RSV(およびおそらくhMPV)感染が疑われる。抗ウイルス治療は典型例では推奨されないため,患者管理を目的とした特異的な臨床検査診断は不要である。しかしながら,臨床検査による診断を行えば,同じウイルスに感染した小児を隔離することが可能になるため,院内感染の制御が用意に可能性がある。

小児ではRSVおよび他の呼吸器系ウイルスを高感度に検出する迅速抗原検査が利用でき,検体には鼻腔洗浄液または拭い液が使用される。これらの検査は成人では感度が低くなる。ウイルス培養を行ってもよい。RT-PCRなどの分子生物学的な診断法は,感度が高く,一般に単一または複数ウイルスを対象とした測定法が利用できる。

RSVおよびhMPV感染症の治療

  • 支持療法

RSVおよびhMPV感染症の治療は支持療法であり,必要に応じて酸素および水分補給を行う(細気管支炎の治療を参照)。

コルチコステロイドおよび気管支拡張薬は一般にあまり助けにならず,現在では推奨されていない。

抗菌薬については,発熱があり,胸部X線上で肺炎所見が認められ,かつ臨床的に細菌の同時感染が疑われる患者のみに使用される。

パリビズマブ(抗RSVモノクローナル抗体)は治療には効果的でない。

吸入薬のリバビリンは,抗RSV活性を有する抗ウイルス薬であるが,その効力は不十分であり,医療従事者に毒性を示す可能性があるため,重度の易感染状態にある患者の感染例を除き,もはや推奨されていない。

成人および乳児患者を対象に,ウイルスの融合,侵入,複製を標的とする多数の薬剤が現在開発中であり,臨床試験が実施されている(1)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Domachowske JB, Anderson EJ, Goldstein M: The future of respiratory syncytial virus disease prevention and treatment.Infect Dis Ther 10(Suppl 1):47–60, 2021. doi: 10.1007/s40121-020-00383-6

RSVおよびhMPV感染症の予防

接触感染予防策(例,手洗い,手袋,隔離)が重要である(特に病院内)。

パリビズマブによる受動免疫は,高リスク乳児におけるRSV感染症による入院頻度を低下させる。その費用対効果は,以下の特徴がみられる患者を含めた,入院リスクの高い乳児でのみ高くなる:

  • 血行動態に有意な影響を及ぼす先天性心疾患を有する1歳未満の乳児

  • 未熟性による慢性肺疾患(在胎32週0日未満相当の時点で出生後28日間以上にわたり酸素療法を必要としている場合)を有する1歳未満の乳児

  • 在胎29週未満で出生し,RSV流行期の開始時点で1歳未満の乳児

  • 1歳で未熟性による慢性肺疾患を有し,かつRSV流行期の6カ月間にコルチコステロイドまたは利尿薬の長期投与による治療を受けたか,継続的な酸素療法が必要な状態にある乳児

以下の場合には予防を考慮してもよい:

  • 上気道からの効果的な排出能を障害する肺の解剖学的異常を有する生後1年までの乳児

  • 神経筋疾患を有する乳児

  • 著明な易感染状態にある生後24カ月未満の小児

パリビズマブの用量は15mg/kg,筋注である。初回投与は通常のRSV流行期前(北米では11月初旬)に行う。その後はRSV流行期の間,1カ月間隔で投与する(通常は合計5回となる)。RSVの流行期が長引いている場合や流行期間にRSVが顕著に流行している場合は,追加投与が推奨されることがある。(American Academy of PediatricsのRSVによる入院リスクが高い乳児および幼児に対するパリビズマブ予防投与に関する2014年更新版ガイダンス2022-2023年RSVシーズン中の重症RSV感染症による入院を予防するためのパリビズマブ予防投与に関する2022年改訂版ガイダンスも参照のこと。)

2023年5月に米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)は,60歳以上の個人におけるRSVによる下気道疾患の予防を適応として,RSウイルスワクチンを承認した。

融合タンパク質モノクローナル抗体であるニルセビマブと母親,小児,および成人を対象とするいくつかのRSVワクチンが臨床開発の段階にある(1, 2)。

予防に関する参考文献

  1. 1.Hammitt LL, Dagan R, Yuan Y, et al: Nirsevimab for prevention of RSV in healthy late-preterm and term infants. N Engl J Med 386(9):837–846, 2022.doi: 10.1056/NEJMoa2110275

  2. 2.Domachowske JB, Anderson EJ, Goldstein M: The future of respiratory syncytial virus disease prevention and treatment.Infect Dis Ther 10(Suppl 1):47–60, 2021. doi: 10.1007/s40121-020-00383-6

要点

  • RSウイルス(RSV)とヒトメタニューモウイルスは,通常は細気管支炎の症候群を引き起こすが,肺炎が起きる場合もある。

  • 診断は臨床的に行うのが通常であるが,迅速抗原検査や分子生物学的測定法(例,逆転写PCR法)などの検査が利用できる。

  • 支持療法を行う;コルチコステロイド,気管支拡張薬,およびパリビズマブは推奨されない。

  • 吸入薬のリバビリンがRSV感染症に対して有用となる場合があるが,医療従事者に毒性を示す可能性があり,現在では重度の易感染状態にある患者にのみ使用されている。

  • RSV流行期直前および流行期中のパリビズマブによる受動免疫は,特定の高リスク乳児における入院頻度を減少させる。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Academy of Pediatrics (AAP): Updated guidance for palivizumab prophylaxis among infants and young children at increased risk of hospitalization for respiratory syncytial virus infection (2014)

  2. AAP: Updated guidance on the use of palivizumab prophylaxis to prevent hospitalization from severe RSV infection during the 2022–2023 RSV season (2022)

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