乳房腫瘤(乳房のしこり)

執筆者:Lydia Choi, MD, Karmanos Cancer Center
レビュー/改訂 2022年 3月
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乳房腫瘤(しこり)は,偶発的または乳房自己検診で患者が発見する場合もあれば,ルーチンの身体診察で医師が発見する場合もある。

腫瘤は痛みを伴わないことも伴うこともあり,ときに乳頭分泌物や皮膚変化を伴う。

乳房腫瘤の病因

原因としては乳癌が最も恐れられているが,大半(約90%)の乳房腫瘤は良性である。最も頻度の高い原因としては以下のものがある:

  • 線維嚢胞性変化

  • 線維腺腫

線維嚢胞性変化(fibrocystic change)(以前の線維嚢胞性疾患)は,乳房嚢胞や特徴のない腫瘤(通常乳房の外側上部に生じる)を含めた非増殖性病変を指す包括的な用語であり,これらの所見は単独で起こることも,複数が併存することもある。乳房は小結節状の緻密な組織をもち,触診時に圧痛が生じることが多い。乳房が重く,不快に感じられることがある。乳房に灼熱痛を感じることがある。線維嚢胞性変化は,最も報告頻度の高い乳房症状の原因である。閉経後には症状は消失する傾向がある。

エストロゲンプロゲステロンによる反復刺激が線維嚢胞性変化の発生に寄与することがあり,初経が早かった女性,初産が30歳以上であった女性,および未経産の女性でより多くみられる。線維嚢胞性変化はがんのリスク上昇と関連しない。

線維腺腫は典型的には滑らかで丸く,可動性のある痛みを伴わない腫瘤である;がんと間違われることがある。通常は妊娠可能年齢の女性で発生し,時間の経過とともにサイズが小さくなることがある。若年性線維腺腫は異型で,青年期に起こり,年長女性の線維腺腫と異なり時間とともに増大を続ける。単純性線維腺腫(simple fibroadenoma)は,乳癌のリスクを上昇させないとみられるが,複雑性線維腺腫(complex fibroadenoma)はリスクをわずかに上昇させる可能性がある。

乳房感染症乳腺炎)が起こると,疼痛,紅斑,および腫脹が生じ,膿瘍により孤立性腫瘤が形成されることがある。産褥性乳腺炎は,通常は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が原因であり,広範囲の炎症と重度の乳房痛を引き起こす可能性があり,ときに膿瘍を伴う。感染は産褥期(分娩後)または穿通性外傷後を除き極めてまれである。感染は乳房手術後に起こることがある。それ以外の状況で感染が起こる場合は,潜在するがんを早急に探索すべきである。授乳期以外の良性の乳腺炎としては,乳管周囲乳腺炎(periductal mastitis),特発性肉芽腫性乳腺炎(idiopathic granulomatous mastitis),および結核性乳腺炎(肺外結核を参照)があり,これらは主に若年女性に発生する。

乳瘤(galactocele)は,乳汁で充満した容易に可動する円形の嚢胞であり,通常は授乳の中止から6~10カ月後までに形成される。こうした嚢胞が感染を起こすことはまれである。

様々な種類のがんが腫瘤として現れうる。

乳房腫瘤の評価

病歴

現病歴には,腫瘤出現からの期間,大きさが一定か変動するか,および痛みを伴うかどうかを含めるべきである。過去に腫瘤ができたことがあるかや,その評価結果についても尋ねるべきである。

システムレビュー(review of systems)では,乳頭分泌物の有無を判定し,認める場合はそれが片側性かどうか,自然に起きるものか,乳房の触診に反応してのみ起きるのかを,また,その性状が透明,乳白色,血性のいずれであるかを判断する。進行がんの症状(例,体重減少,倦怠感,骨痛)がないか調べるべきである。

既往歴には,過去に診断された乳癌,30歳以前の胸部への放射線療法の既往(例,ホジキンリンパ腫によるもの)などの,乳癌の危険因子を含めるべきである。家族歴の聴取では第1度近親者(母,姉妹,娘)の乳癌および,家族歴が陽性であれば,その近親者が乳癌の素因となる先天性の遺伝子変異(例,BRCA1BRCA2)の1つを保有しているかに注意すべきである。

身体診察

診察は乳房および隣接組織を中心に行う。乳房を視診して,腫瘍の部位全体の皮膚変化,陥没乳頭または乳頭陥凹,および乳頭分泌物がないか確認する。皮膚変化としては紅斑,湿疹様変化,浮腫,陥凹などがみられることがある(ときに橙皮状[オレンジ皮様]と表現される)。

腫瘤を触診して,大きさ,圧痛,硬さ(すなわち,硬または軟,整または不整),境界(明瞭または連続),および可動性(自由に動くかまたは皮膚や胸壁に固定されているように感じるか)を確認する。

腋窩,鎖骨上,および鎖骨下を触診して,腫瘤やリンパ節腫脹がないかを確認する。

警戒すべき事項(Red Flag)

特定の所見には特に注意が必要である:

  • 皮膚または胸壁に固定した腫瘤

  • 石状に硬い,不整な腫瘤

  • 皮膚の陥凹

  • 紅斑を伴う肥厚した皮膚

  • 血性または自然に起こる乳頭分泌物

  • 癒合または固定した腋窩リンパ節

所見の解釈

痛み,圧痛,弾性のある腫瘤を,類似した所見の既往がある妊娠可能年齢の女性に認める場合,線維嚢胞性変化が示唆される。

レッドフラグサインはがんを示唆する。しかしながら,良性病変と悪性病変の特徴には,危険因子の有無を含めて,かなりの重複がみられる。このため,また,がんの見落としは重篤な結果を招くことから,乳癌をより決定的に除外するための検査が必要となる。

検査

嚢胞が悪性病変であることはまれであるため,充実性腫瘤と嚢胞性腫瘤をまず区別するようにする。典型的には,まず超音波検査を施行する。嚢胞性に見える病変は吸引してもよい(例,症状を引き起こしている場合)。

以下の場合は,嚢胞から吸引した液体で細胞診を行う:

  • 混濁している,または肉眼的に血性である。

  • 液体がほとんど採取されない。

  • 吸引後腫瘤が残存する。

これらの所見を認める場合は,マンモグラフィーを行った後,画像ガイド下でコア生検を施行する。

4~8週間以内に患者を再検査する。嚢胞がもはや触知できなければ,良性と考えられる。嚢胞が再発している場合には再吸引し,外観に関係なく液体を細胞診にまわす。3回目の再発であったり,最初の吸引以降も腫瘤が残存したりする場合は(細胞診が陰性であっても)生検を要する。

充実性腫瘤はマンモグラフィーで評価した後,画像ガイド下でコア生検を施行する。病変が皮膚または胸壁に近すぎるために画像ガイド下生検が不可能な場合,針生検に必要な体位を患者が維持できない場合,または患者が外科的生検を希望する場合は,外科的生検を施行する。

乳房腫瘤の治療

乳房腫瘤の治療は原因に対して行う。

線維腺腫は通常,増大しているか症状を引き起こしていれば切除される。線維腺腫は通常,外科的切除が可能であり,3cm未満の場合は局所麻酔後に凍結療法を施行するが,しばしば線維腺腫が再び出現する。切除していない線維腺腫を有する患者では,定期的に変化がないか確認すべきである。何度か線維腺腫が良性と判明すると,患者がそれ以降の線維腺腫を切除しないと決めてしまう場合がある。若年性線維腺腫は増大する傾向にあるため,切除すべきである。

線維嚢胞性変化の症状を緩和するために,アセトアミノフェン,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID),および運動用ブラジャー(外傷を軽減するため)を使用できる。イブニングプリムローズ(月見草)オイルがいくらか効果的なことがある。

乳瘤(galactocele)は典型的には吸引後に消失する。

乳癌は状況に応じた方法で治療する。

要点

  • 大部分の乳房腫瘤はがんではない。

  • 乳房腫瘤は通常,まず超音波検査で評価する。

  • 嚢胞性腫瘤は吸引をした上で,吸引液が混濁しているか血性である場合,少量しか吸引できなかった場合,または腫瘤が消失しない場合には,さらなる評価が必要である。

  • 充実性腫瘤はマンモグラフィーと生検で評価する。

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