眼洗浄および眼瞼反転の手順

執筆者:Christopher J. Brady, MD, Wilmer Eye Institute, Retina Division, Johns Hopkins University School of Medicine
レビュー/改訂 2023年 2月
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眼洗浄は,結膜および角膜から粒子や有害な化学物質を洗い流すために行われる。眼瞼反転は,上眼瞼結膜および上結膜円蓋を露出させ,これらの領域で異物を同定するために行われる。

眼瞼反転および洗浄は,粒子状の物質および化学刺激物の両方を眼の表面全体から確実に除去するために,しばしば同時に行われる。

眼洗浄および眼瞼反転の適応

  • 眼の化学損傷(腐食性化学物質による熱傷は医学的緊急事態である;医療従事者の到着前であっても,直ちに現場で洗浄を開始し,可能な限り大量の水で洗い流すべきである。)

  • 眼の中の小さな粒子状物質の除去

  • 異物感があるが粒子状物質が視認できない場合の治療(ときにうまくいく)

眼洗浄および眼瞼反転の禁忌

絶対的禁忌

  • なし

相対的禁忌

  • 目の穿孔が疑われる場合は,正式な眼科診察ができるようになるまで洗浄を控えるべきである。角膜に深い損傷または異物がある場合,強膜レンズを使用した洗浄はさらなる損傷を引き起こす可能性があるため,控えるべきである。眼洗浄は用手的に,愛護的かつ極めて慎重に行う。

眼洗浄および眼瞼反転の合併症

  • 角膜または結膜が,点滴チューブの先端,強膜レンズ,または角膜に直接向けられた水流によって機械的に削られることがある。

眼洗浄および眼瞼反転で使用する器具

  • 生理(0.9%)食塩水,乳酸リンゲル液などの洗浄液をできれば加温して使用する;長時間の洗浄には数リットルの液が必要になる可能性がある

  • 点滴チューブおよび点滴ポール

  • 流出した洗浄液を回収するための洗面器とタオル

  • 術者用の顔/眼の保護具,手袋,ガウン

  • 局所麻酔薬(例,0.5%プロパラカイン点眼薬);長時間の洗浄には,洗浄液1L当たり10mLの1%リドカインを追加することがある

  • pH試験紙(大判または短冊状)

  • ガーゼパッド,開瞼器

  • 綿棒(スワブ)

  • (洗浄用)強膜レンズ

眼洗浄および眼瞼反転に関するその他の留意事項

  • 化学物質に曝露した患者は,眼の熱傷に加えて,その他の深刻な化学熱傷を負う可能性がある。眼の熱傷は,これらの他の深刻な損傷と同時に治療すべきである。

  • 重篤な眼の熱傷,特に角膜深部に及ぶ損傷を伴うものには,緊急の眼科コンサルテーションを依頼すべきであるが,眼科医の到着を待って洗浄を遅らせるべきではない。

  • 眼の化学損傷の重症度が不明な場合は,眼洗浄に進む。

眼洗浄および眼瞼反転に関連する解剖

  • 眼瞼の自由な動きを可能としているのは,上下の結膜円蓋である。上下の結膜円蓋はそれぞれ上眼瞼,下眼瞼の軟部組織部位であり,球結膜と瞼結膜をつないでいる。

  • 円蓋を露出するには,上下眼瞼の反転が必要である。

眼洗浄および眼瞼反転での体位

  • 患者にベッドまたはストレッチャーの上で仰臥位をとらせる。

  • 生理食塩水のバッグを患者の頭上75~100cmのところに吊り下げる(溶液が適切に流れるかどうかはこの高さに依存する)。

  • 患者の眼の下に洗浄液を回収するプラスチック製の洗面器を置き,ストレッチャーにタオルを置く。

  • 洗浄中は助手に眼瞼を牽引する場合は,ストレッチャーの反対側に立たせるべきである。

眼洗浄および眼瞼反転のステップ-バイ-ステップの手順

  • 眼の化学熱傷を治療する際の最重要目標は洗浄の即時開始である。その他の評価および治療は,外部からの眼の診察および基礎的な視力評価を含め,通常であれば準備に必要な作業であっても,洗浄後まで延期する。

  • 可能な限り,洗浄前にpH試験紙または尿試験紙で下結膜円蓋に触れてpHを確認する。pH試験紙がすぐに利用できない場合は,洗浄を開始してからできるだけ早くpHを確認する。pH試験紙で測定した眼の正常なpHは約7.0である。

  • 患者に上を見てもらい,患眼の下結膜円蓋に表面麻酔薬を1滴垂らす。薬剤がこぼれないよう,洗浄が始まるまで眼を閉じておくよう患者に伝える。洗浄中に5~10分毎に再度点眼しなければならない可能性がある。

  • 粒子状物質が眼に入っている可能性があり,重大な化学曝露の可能性が低い場合は,洗浄前に湿らせた綿棒で粒子状物質をぬぐい取るようにする。下結膜円蓋と上結膜円蓋の両方をぬぐう。

  • 片手で眼から約3~5cmのところに点滴チューブの端を保持する。チューブを最大に開き,洗浄液の流れを最適にする。

  • 下結膜円蓋と上結膜円蓋,角膜を含む眼の表面全体に水流を向ける。洗浄液は表面を流れるようにし,決して角膜に直接当てるべきではない。

  • 眼瞼を牽引し,結膜円蓋を十分に洗浄する。眼瞼は,点滴チューブを持っていない方の手で,または両手にガーゼパッドを持った助手が牽引する。開瞼器を使用することもあり,特に眼瞼痙攣がみられる場合によく使用される。開瞼器によって,治療が必要な痛みが引き起こされる可能性がある(通常はプロパラカインの点眼で治療できる)。

  • 化学熱傷を治療する際は,眼瞼の皮膚表面および眼窩周囲も迅速に洗浄し,残留する化学物質を除去する。

  • 洗浄時間は臨床状況によって異なるが,pHが正常化するまで継続しなければならない。多くの場合,15~20分の洗浄が必要で,しばしば数リットルの洗浄液が使用される。酸熱傷および,特にアルカリ熱傷では,1~2時間の洗浄を推奨する専門家もいる。アルカリ熱傷の場合,何時間にもわたり洗浄を続けなければならないことがある。

  • 洗浄が長時間(例,15分以上)に及ぶ場合は,強膜レンズの使用を考慮する。洗浄液1L当たり10mLの1%リドカインを加えて麻酔し,生理食塩水または乳酸リンゲル液の代わりに市販の洗浄液に切り替えることを考慮する。

  • 洗浄が終わったら眼のpHを確認する。pHが正常でなければ,洗浄を継続する。pHが正常であっても,化学物質が組織から流出し続け,正常化したように見えたpHが変化する可能性があるため,洗浄を再開すべきかどうかを20分後に確認する。

眼瞼反転

  • 洗浄が完了したら,上眼瞼を裏返し,上眼瞼結膜に沈着物が残っていないことを確認する。

  • まず,上眼瞼の上部を綿棒で愛護的に押す。次に,上眼瞼縁を手で持ち上げ,綿棒の上に(つまり,患者の額に向かって上後方に)裏返す。

  • 反転させた結膜の上に綿棒を置き,反転させた眼瞼をその位置に保持する。

  • 特に異物が疑われる場合は,眼瞼を二重反転させる(すなわち,まず眼瞼を反転させた後,反転させた眼瞼の内側にスワブを挿入し,さらに円蓋が見えるまで眼瞼を反転させる)ことにより上結膜円蓋を露出させる。

  • 上下の結膜円蓋を擦り,目に見える粒子を取り除くとともに,見えない残留粒子も取り除く。

強膜レンズ

  • 著しいアルカリ熱傷の患者など,長時間の洗浄が必要な場合は強膜レンズを使用する。強膜レンズでは勢いよく洗浄できず,結膜円蓋を完全に洗浄できない可能性があるため,必ず1L以上の生理食塩水で用手的に洗浄してから使用する。眼の穿孔または角膜深部の損傷もしくは異物の可能性がある場合,強膜レンズを用いて洗浄するとさらなる損傷を引き起こす可能性があるため,使用すべきでない。

  • レンズを挿入する前に表面麻酔薬を点眼する。

  • レンズを生理食塩水のチューブに接続し,液体がゆっくり流れるように点滴チューブを開く。

  • 患者に下を見てもらい,レンズを上結膜円蓋の下に挿入する。続いて患者に上を見てもらい,レンズの下半分を下結膜円蓋の下に挿入する。

  • レンズを配置したら,チューブ内の生理食塩水の流量を増やす。

  • 強膜レンズは両眼の同時洗浄に使用できる。

眼洗浄および眼瞼反転のアフターケア

  • 角膜上皮剥離の評価を行うため,視力検査眼圧測定,ならびにフルオレセイン染色を用いた角膜および結膜の細隙灯顕微鏡検査をはじめとする眼科診察を行う。

  • 必要に応じて(例,重度の化学熱傷),継続的ケアまたは24時間後のフォローアップケアのため,眼科コンサルテーションを行う。

  • 少量の化学物質への曝露による軽度の角膜損傷の患者には,潤滑剤(防腐剤を含まない人工涙液および軟膏)および外用抗菌薬(例,モキシフロキサシン0.5%,1日3回,3日間の点眼)を処方する。

  • 疼痛緩和のための眼帯または全身性鎮痛薬,および調節麻薬の使用を検討する(ホマトロピン5%またはシクロペントラート1%,1日2回;フェニレフリンは血管収縮を引き起こし,虚血を助長する可能性があるため避ける)。

  • 24時間以内に症状が改善しないか悪化する場合は,救急外来に戻るよう患者に伝えておく。

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