外眼角切開術

執筆者:Christopher J. Brady, MD, Wilmer Eye Institute, Retina Division, Johns Hopkins University School of Medicine
レビュー/改訂 2023年 2月
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眼窩コンパートメント症候群の緊急治療である外眼角切開術は,外眼角靱帯を外科的に露出することである。外眼角縫線切開(cantholysis)は眼角切開術とこの靱帯の下枝の切除を併用することである。

外眼角切開術の適応

  • 眼窩コンパートメント症候群(OCS)は眼科的緊急症(ophthalmic emergency)であり,最近の眼/眼窩の外傷または手術を受けた患者において,急速に進行する視力障害,眼圧の亢進,外眼筋運動の低下,および痛みが現れる病態である。

顔面の鈍的外傷(眼の挫傷および裂傷を参照)は,球後血腫または眼球周囲の重度の浮腫を引き起こす可能性があり,いずれも眼窩内圧を亢進させることがある。眼は眼瞼と眼窩の内側に収まっているため,眼窩内圧が上昇すると眼圧が急激に亢進し,視神経と視神経への血液供給が圧迫される。この眼圧の亢進は,無治療では永久的な視力障害を引き起こす。徴候からOCSが示唆される場合は,眼窩内圧を緩和し,視力を温存するために,直ちに外眼角切開術および外眼角縫線切開(cantholysis)が行われる。

外眼角切開術の禁忌

絶対的禁忌

  • 眼球破裂の疑い(例,瞳孔不整,前房出血,虹彩ヘルニア,浅い角膜,房水の漏出)

外眼角切開術の合併症

合併症としては以下のものがある:

  • 眼(例,外直筋,涙腺,または涙腺動脈[lacrimal artery])または眼瞼の機械的損傷

  • 出血

  • 感染症

処置の緊急性が高いことに加え,外傷により解剖学的構造が歪んでおり,眼科以外の医師は処置に不慣れな可能性があることから,眼球の医原性損傷のリスクが高まることがある。

外眼角切開術で使用する器具

  • 滅菌ガーゼ,手袋,およびドレープ

  • 消毒液(例,クロルヘキシジン,ポビドンヨード)

  • 眼科用表面麻酔薬(例,0.5%プロパラカインまたはテトラカインの点眼薬)

  • 局所麻酔薬(例,1%または2%リドカインとアドレナリンの併用),細い注射針,および小さな(約3mLの)シリンジ

  • 眼科用抗菌薬軟膏(例,エリスロマイシン0.5%,バシトラシン)

  • ときに,生理食塩水または洗浄用の水

  • 持針器または止血鉗子,有鉤鉗子,眼科剪刀

外眼角切開術に関するその他の留意事項

  • 網膜の虚血時間を最小限に抑えるには,眼窩コンパートメント症候群(OCS)の診断および眼眼角切開術または外眼角縫線切開(cantholysis)を迅速に行うことが重要である。眼科へのコンサルテーションを行うべきであるが,処置を遅らせるべきではない。OCSの診断は純粋に臨床的に行い,画像検査を待って処置を遅らせるべきではない。

  • 滅菌的手技が必要である。

  • この処置は痛みを伴う。意識がある,錯乱状態にある,または非協力的な患者では,術中に眼球に損傷を与えうる動きを防ぐため,局所神経ブロック,鎮静,または拘束が必要になることがある。小児には手術室での全身麻酔が必要になることがある。

外眼角切開術における重要な解剖

  • 内および外眼角靱帯は眼を眼窩および眼瞼の内側に収めている。

  • 外眼角靱帯には上下の2つの枝がある。その片方または両方を切断すると,眼瞼が弛緩し,眼球が眼窩から飛び出すため,眼への圧力が軽減する。

外眼角切開術での体位

  • 患者を仰向けにストレッチャーに寝かせ,患者の頭および眼瞼を固定する。

外眼角切開術のステップ-バイ-ステップの手順

  • おおよその視力の推定,眼球の視診,場合によっては外眼角領域の簡単な清掃および洗浄など,全ての準備をできる限り迅速に行うべきである。

  • 器具はいずれもベッドの頭側付近のトレイに置き,全ての器具に容易に手が届き,介助を頼む必要がないようにしておく。

  • ポビドンヨードまたはクロルヘキシジンなどの消毒液で皮膚を消毒する;消毒液が眼に入らないようにする。周囲にドレープをかける。

  • アドレナリンを含む局所麻酔薬1または2mLを外眼角の切開を入れる部位に注射する。

  • 持針器または止血鉗子を使用し,約20秒から2分間かけて外眼角から眼窩縁にかけての組織を押しつぶす。この部位の組織を押しつぶすことで,出血が最小限に抑えられ,外傷性の浮腫が広範囲に及ぶ場合に切開を入れる部位がわかりやすくなる。

  • 眼科剪刀を使用して,外眼角から眼窩縁にかけて約1~2cmの切開を入れる(眼角切開術)。

  • 外眼角靱帯の下枝,ときに両枝を切断する(外眼角縫線切開[cantholysis])。大半の専門家はまず下枝を切開するよう推奨している。下眼瞼の外側部を挙上する。剪刀の先端を眼球に向けないようにして下枝を特定し,切断する。剪刀で「軽く叩く」と下枝を特定しやすいことがある。靱帯がまだ切れていなければ,弦をビーンと弾いたような感覚がする。

  • 一部の専門家は,続いて上枝をルーチンに切断することを推奨している。他方で,眼窩コンパートメント症候群(OCS)の緩和を再評価し(例,眼圧を測定する),OCSが持続している場合に限り上枝の切断を推奨する専門家もいる。

  • 上枝を切断するには,上眼瞼外側を持ち上げて裏側を露出させる。剪刀で靱帯の上枝を弾き,切れているかどうかを確認する。

  • 靱帯がまだ切れていなければ,切断する。靱帯を切断すると,眼瞼が弛緩し,眼にかかる圧力がさらに軽減する。

外眼角切開術のアフターケア

  • 患者は瞬目により角膜を潤すことができないため,抗菌薬軟膏を眼に塗布し,滅菌包帯で覆う。

  • 外眼角切開術は,切開時に縫合せず,大抵の場合大きな瘢痕を残さずに治癒する。

  • 重度の損傷がある患者は入院させるべきである。

  • 進行性の視力障害のある入院患者には,メチルプレドニゾロン(すなわち,250mg,筋注または静注,6時間毎)の3日間の投与を検討すべきである。

  • 依然として眼圧が高い場合は,局所療法(例,チモロール0.5%,ブリモニジン0.2%,またはドルゾラミド2%の点眼薬)または全身療法(例,アセタゾラミド即放性製剤500mgの経口投与またはマンニトール1~2mg/kgを45分かけて静注)を検討すべきである。

  • 眼眼角切開術後の数日間は安静とし,アイスパックを使用するべきである。

外眼角切開術の注意点とよくあるエラー

  • 眼球破裂が疑われる場合は,眼圧を確認したり眼球に触ったりしない。

外眼角切開術のアドバイスとこつ

  • 下枝を切断する際は,上方にある眼瞼挙筋,涙腺,および涙腺動脈を傷つけないよう,外側縁に向かって後下方に剪刀を入れる。

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