ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症

(性器疣贅;性病疣贅;肛門尖圭コンジローマ)

執筆者:Sheldon R. Morris, MD, MPH, University of California San Diego
レビュー/改訂 2023年 1月
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ヒトパピローマウイルス(HPV)は上皮細胞に感染する。100を超える型の大半が皮膚上皮に感染して皮膚疣贅の原因となる;一部の型は粘膜上皮に感染して肛門性器疣贅の原因となる。皮膚または肛門性器の疣贅は臨床的な外観に基づいて診断し,通常は外用薬または細胞破壊療法で治療する。性器疣贅は尖圭コンジローマとも呼ばれ,細胞性免疫が(例えば妊娠やHIV感染により)抑制されている患者では,長期間持続して広く拡大する可能性がある。粘膜上皮に感染する一部の型は,肛門性器癌または中咽頭癌を引き起こす可能性がある。高リスク患者における子宮頸癌および肛門癌のスクリーニングには,Pap検査および/またはHPV検査が推奨される。尖圭コンジローマやがんを引き起こすHPV株の多くに対して予防効果のあるワクチンが使用可能になっている。

性感染症の概要も参照のこと。)

HPVは最も一般的な性感染症(STI)である。HPVは非常に頻度が高いため,ワクチン未接種の性的に活動的な人の80%が生涯のいずれかの時点でこのウイルスに感染する(1)。米国では毎年約1400万人が新たにHPVに感染しているが,HPVワクチンが利用可能になる前は,毎年およそ340,000~360,000人の患者がHPVを原因とする尖圭コンジローマのために医療機関を受診していた。

大半のHPV感染症は1~2年で自然に消失するが,一部は持続する。

総論の参考文献

  1. 1.Centers for Disease Control and Prevention: Human papillomavirus (HPV).Accessed July 6, 2022.

HPV感染症の病因

HPVには100を超える型が知られている。一部は皮膚上皮に感染し,よくみられる皮膚疣贅の原因となる。一部は主に肛門性器部の粘膜のほか,中咽頭や喉頭領域にも感染する。

肛門性器HPV感染の重要な症候としては以下のものがある:

  • 尖圭コンジローマ(性器疣贅)

  • 子宮頸部,外陰,腟,肛門,または陰茎の上皮内腫瘍および上皮内癌

  • 喉頭癌および中咽頭癌

  • ボーエン様丘疹症

一部の膀胱癌の発生機序にHPVが関与していることを示唆するデータもある。

尖圭コンジローマは,喉頭および中咽頭の疣贅と同様,主にHPV 6型および11型によって引き起こされる良性の肛門性器疣贅である。低悪性度および高悪性度の上皮内腫瘍および上皮内癌がHPVによって引き起こされる可能性がある。

実質的に全ての子宮頸癌がHPVによるものであり,約70%は16型および18型により,残りの多くは31型,33型,45型,52型,および58型によって引き起こされる(1)。主に肛門性器部を侵すHPVの型は,口腔性器接触により中咽頭へ伝播する;中咽頭癌の多くの症例は,16型に起因していると考えられる。HPV 16および18型は,外陰,腟,肛門,陰茎などの他の部位にもがんを引き起こす可能性がある。

パール&ピットフォール

  • ほぼ全ての子宮頸癌がヒトパピローマウイルス(HPV)によって引き起こされている。

HPVは皮膚または粘膜との接触の際に病変から伝播する。肛門性器部を侵す型は,通常は腟または肛門性交によって伝播するが,手指または口腔と性器の接触や挿入を伴わない性器接触が関係する場合もある。

尖圭コンジローマは易感染性患者でより多くみられる。増殖の速さは様々であるが,妊娠,免疫抑制,または皮膚の浸軟は,疣贅の増殖および拡大を加速する可能性がある。

参考文献

  1. 1.Serrano B, Alemany L, Tous S, et al: Potential impact of a nine-valent vaccine in human papillomavirus related cervical disease. Infect Agent Cancer 7(1):38, 2012.doi:10.1186/1750-9378-7-38

HPV感染症の症状と徴候

HPVによる疣贅は1~6カ月の潜伏期の後に出現する。

目に見える肛門性器疣贅は通常,軟らかく湿性で微小な,ピンク色または灰色のポリープ(隆起性病変)であり,以下の特徴をもつ:

  • 拡大する

  • 有茎性のことがある

  • 表面が粗い

  • 群発することがある

これらの疣贅は通常,症状を伴わないが,一部の患者では,そう痒,灼熱感,または不快感を伴う。

男性では,疣贅は包皮下,環状溝,外尿道口,および陰茎幹に最もよくみられる。病変が肛門周囲および直腸内に発生することもあり,特に男性と性行為をする男性でその傾向が強い。

女性では,疣贅は外陰,腟壁,子宮頸部,および会陰に最もよくみられ,尿道および肛門部が侵されることもある。

HPV16および18型は,通常は頸管内または肛門に上皮内病変を引き起こし,これらは肉眼で見ることが難しく,臨床的に診断することは困難である。

尖圭コンジローマの画像
尖圭コンジローマ(性器疣贅)
尖圭コンジローマ(性器疣贅)

この写真には,陰茎幹に生じた軟らかい淡紅色の小さな尖圭コンジローマが写っている。

© Springer Science+Business Media

尖圭コンジローマ(性器疣贅)(環状溝)
尖圭コンジローマ(性器疣贅)(環状溝)

この写真には,陰茎の環状溝に生じた淡紅色かつ隆起性の尖圭コンジローマ(矢印)が写っている。

© Springer Science+Business Media

尖圭コンジローマ(性器疣贅)(亀頭)
尖圭コンジローマ(性器疣贅)(亀頭)

この写真には,亀頭に生じた尖圭コンジローマの表面粗造かつ有茎性の典型的な外観が写っている。

© Springer Science+Business Media

尖圭コンジローマ(男性)
尖圭コンジローマ(男性)

Image courtesy of Dr. M.F.Rein via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

尖圭コンジローマ(性器疣贅)(外陰)
尖圭コンジローマ(性器疣贅)(外陰)

外陰の尖圭コンジローマは,表面が不整かつ粗造で明るい色をした隆起性病変を呈することがある。

Image courtesy of Joe Millar via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

HPV感染症の診断

  • 身体診察

  • HPV検査

  • 子宮頸部細胞診およびときに肛門細胞診(Pap検査)

  • ときにコルポスコピー,肛門鏡検査,またはその両方

尖圭コンジローマは通常,肉眼的視診により診断する。通常は,その外観から第2期梅毒の扁平コンジローマ(平坦に隆起した病変)および癌腫と鑑別される。しかしながら,梅毒血清学的検査を初期および3カ月後に行うべきである。癌腫を除外するため,非定型,出血性,潰瘍性,または持続性の疣贅には生検が必要になる場合がある。

頸管および肛門の上皮内病変は,コルポスコピーおよび肛門鏡検査によってのみ観察できる。コルポスコピーの前に,3~5%の酢酸溶液を垂らして2~3分間置いておくと,病変が白っぽくなり小さな病変も見やすくなるため検出しやすくなる。子宮頸癌のスクリーニングについては,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

医療資源が乏しく,ルーチンのPap検査またはコルポスコピーを利用できない状況では,子宮頸癌のスクリーニングおよび評価として,HPV検査および/または酢酸もしくはルゴール液を用いた視診を行う(1, 2)。

発癌性のあるHPVの型に対する核酸増幅検査(NAAT)は,女性におけるルーチンの子宮頸癌スクリーニングで用いられている。最初の検査では,典型的には,13種類ある一般的な高リスクの型のいずれかが検出される。最もリスクの高い型(典型的には16型,18型,または45型)を検出するため,HPV遺伝子型検査によるフォローアップを行うことがある。臨床使用できる男性に対するHPV検査はない。

臨床医はルーチンの口および口腔内の診察を行う際に,HPVによって引き起こされる悪性の口腔内病変がないか確認すべきである。

診断に関する参考文献

  1. 1.World Health Organization (WHO): Human papillomavirus (‎HPV)‎ nucleic acid amplification tests (‎NAATs)‎ to screen for cervical pre-cancer lesions and prevent cervical cancer; policy brief; 16 March 2022

  2. 2.International Agency for Research on Cancer: A practical manual on visual screening for cervical neoplasia; Anatomical and pathological basis of visual inspection with acetic acid (VIA) and with Lugol’s iodine (VILI).IARC Technical Publication No. 41, 2003.ISBN 92 832 2423 X 

HPV感染症の治療

  • 細胞破壊療法または切除(例,腐食薬,凍結療法,電気焼灼,レーザー,または外科的切除)

  • 外用薬(例,有糸分裂阻害薬またはインターフェロン誘導物質)

肛門性器疣贅の治療は,どれも完全に満足できるものではなく,再発の頻度が高く,再発時には再治療を要する。免疫能が正常な患者では,尖圭コンジローマは無治療でも消失することがある。易感染性患者では,疣贅は治療に反応しにくい可能性がある。

他より明らかに優れた治療があるわけではないため,肛門性器疣贅の治療は他の要因を考慮して決めるべきであり,主に疣贅の大きさ,数,部位;患者の嗜好;治療費用;簡便性;有害作用;ならびに医師の経験を参考にする(米国疾病予防管理センター[Centers for Disease Control and Prevention:CDC]の2021 Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines: Anogenital Wartsを参照)。

尖圭コンジローマは以下によって治療することがある:

  • 腐食薬

  • 外用薬

  • 凍結療法

  • 電気焼灼

  • レーザー

  • 外科的切除

病変の大きさと除去する数に応じて,局所麻酔または全身麻酔のいずれかを用いる。外陰腟の広範な疣贅には,レーザー焼灼術が必要になることがある。肛門疣贅には,レゼクトスコープを用いた除去が最も効果的な治療となる場合があり,これは全身麻酔下で施行される。

外用療法としては,有糸分裂阻害薬(例,ポドフィロトキシン[podophyllotoxin],ポドフィリン[podophyllin],フルオロウラシル),腐食薬(例,トリクロロ酢酸),インターフェロン誘導物質(例,イミキモド),シネカテキンス(sinecatechins)(機序不明の植物薬)などがある。これらは広く使用されているが,通常は数週間から数カ月にわたって何度も使用する必要があり,無効であることも多い。外用療法の前に,ワセリンにより周辺組織を保護すべきである。治療後,病変部に疼痛が生じる可能性について患者に警告すべきである。

インターフェロンα(例,インターフェロンα-2b,インターフェロンα-n3)の病変内または筋肉内注射により,皮膚および性器の難治性病変が消失した例が報告されているが,至適な用量や長期的な影響はまだ不明である。また,性器のボーエン様丘疹症(16型HPVが原因)患者の一部では,インターフェロンαによる治療後,初め病変は消失したがその後浸潤がんとなって再び現れている。

包皮切除を受けていない男性では,包皮下面の湿潤部位を除去することで,再発を予防できる可能性がある。

尖圭コンジローマ患者の現在のセックスパートナーは,診察を受け,感染している場合は治療を受けるべきである。

尿道内病変には,チオテパ(アルキル化薬)を尿道に注入するのが効果的である。男性では,尿道病変に対するフルオロウラシルの1日2回~1日3回の適用が非常に効果的であるが,まれに腫脹を引き起こして,尿道閉塞に至ることがある。尿道内病変は一般に泌尿器科医が管理する。

子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)は切除生検でモニタリングする。

外陰および腟の上皮内腫瘍は外科的切除により治療する。

子宮頸部上皮内腫瘍またはボーエン様丘疹症のある患者のセックスパートナーは,HPV関連病変について定期的にカウンセリングおよびスクリーニングを受けるべきである。直腸内のHPVについても,同様のアプローチが行える。

HPVを原因とするがんの管理については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

HPV感染症の予防

(詳細については,小児期の予防接種スケジュールおよびHuman Papillomavirus Vaccination for Adults: Updated Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practicesを参照のこと。)

9価ワクチンおよび4価ワクチンは,目視可能な尖圭コンジローマの90%以上の原因である2つのHPV型(6型および11型)を予防する。これらのワクチンは,大半の子宮頸癌の原因となっている2つの型(16型および18型)のHPVにも予防効果がある。9価ワクチンは,子宮頸癌の約15%を占めるその他の型のHPV(31型,33型,45型,52型,58型)に対しても予防効果がある。2価ワクチンは,16型および18型の感染を予防する。

米国では9価ワクチンのみが使用可能である。

米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)のAdvisory Committee on Immunization Practices(ACIP)からの最新の推奨は次の通りである:

26歳までの男女:HPVワクチンは11歳または12歳(9歳から開始可能)で接種し,予防接種を受けたことがないか所定の回数を完了していない26歳までの患者に推奨される。

27~45歳の成人:接種すべきかどうかについて医師と患者が話し合い,共同で意思決定を行うべきである。

HPVは皮膚と皮膚の接触によっても伝播するため,コンドームでは完全に感染を防御できない可能性がある。

要点

  • 肛門性器疣贅はヒトパピローマウイルス(HPV)によって引き起こされ,特に6型および11型が原因となることが多い。

  • HPV 16型および18型は,子宮頸癌の約70%を引き起こしており,さらに外陰,腟,陰茎,肛門,中咽頭など他の部位にがんを引き起こすことがある。

  • 疣贅は視診によって診断する;子宮頸癌のスクリーニングにはHPV検査が利用できる。

  • 疣贅は細胞破壊的治療,外用薬,または外科的切除により治療する。

  • 子宮頸部,腟,外陰,または肛門上皮内腫瘍はアブレーションもしくは切除により治療するか,または綿密なサーベイランスにより管理する。

  • HPVワクチンの接種は,小児および若年成人に推奨される。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Centers for Disease Control and Prevention: 2021 Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines: Anogenital Warts: A source of clinical guidance emphasizing treatment of STIs and discussing prevention strategies and diagnostic recommendations

  2. Human Papillomavirus Vaccination for Adults: Updated Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices, August 2019

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