蟯虫症は,ヒト蟯虫(Enterobius vermicularis)による腸管感染症であり,通常は小児に発生するが,家族および介護者の成人,施設入所者,ならびに感染したパートナーと性交時に肛門口腔接触をする人でもリスクが高い。主な症状は肛門周囲のそう痒である。診断は,肛門周囲の視診による糸状の虫体の検出または虫卵のセロファンテープ検査による。治療はメベンダゾール,パモ酸ピランテル,またはアルベンダゾールによる。
(寄生虫感染症へのアプローチも参照のこと。)
世界中のあらゆる社会経済階級に属する10億人もの人々が感染している。蟯虫症は米国で最もよくみられる蠕虫感染症であり,2000万~4200万人に発生していると推定される。大半の症例は学齢期の小児,幼児,その家族,または介護者に発生する。
蟯虫症の病態生理
蟯虫の虫卵は会陰部に到達してから数時間以内に感染力を獲得する。通常,虫卵が肛門周囲から媒介物(衣類,寝具,家具,敷物,玩具,便座)に移動し,そこから新たな宿主に捕捉されて口に入り,嚥下されることにより寄生が成立する。親指しゃぶりは危険因子である。肛門周囲から口へ指を介して虫卵が運ばれることにより,再寄生(自家感染)が容易に起こる。蟯虫感染症は,成人の肛門接吻にも起因すると考えられている。
蟯虫は下部消化管において2~6週間で成熟する。雌虫は卵を産みつけるために(通常は夜間に)肛門から出て肛門周囲に移動する。内部に虫卵が産みつけられた粘着性のゼラチン状物質,および雌虫の動きが,肛門周囲のそう痒を引き起こす。通常の室温では,虫卵は媒介物上で3週間も生き延びることができる。
Image from the Centers for Disease Control and Prevention, Global Health, Division of Parasitic Diseases and Malaria.
蟯虫症の症状と徴候
感染者の大半は症状も徴候も示さないが,一部の患者は肛門周囲にそう痒を覚え,引っ掻くことにより肛門周囲の表皮剥離を来す。皮膚で細菌の二次感染が起こる可能性がある。まれに移動中の雌虫がヒトの女性性器を上行し,腟炎およびさらにまれに腹膜病変を引き起こす。
そのほかにも多数の病態(例,腹痛,不眠症,痙攣)が蟯虫症に関連付けられてきたが,因果関係がある可能性は低い。虫垂炎の症例において蟯虫による虫垂管腔の閉塞が発見されているが,寄生虫の存在は偶然の可能性がある。
蟯虫症の診断
肛門周囲の診察により虫体,虫卵,またはその両方がないか確認する
蟯虫症の診断は,体長約8~13mmの雌虫(雄虫は平均2~5mm)を,小児が夜就寝してから1~2時間後もしくは朝に肛門周囲で発見すること,またはセロファンテープ上の虫卵を低倍率の顕微鏡で同定することによる。早朝の小児が起床する前に1片のセロファンテープで肛門周囲の皮膚のひだを軽く叩いて検体を採取し,テープの粘着面をスライドガラスに張りつけてから顕微鏡で観察する。50 × 30μmの虫卵は薄い殻に包まれた卵円形で,2つ折りになった幼虫が入っている。テープとスライドガラスの間にトルエンを1滴入れると粘着剤が溶け,虫卵の同定の妨げとなるテープ下の気泡を除去できる。必要であればこの手技を連続3日間,毎朝繰り返すべきである。
ときに,患者の爪の下から採取した検体を調べることで診断を下せることがある。
便,尿,または腟の塗抹標本でも虫卵がみられることがあるが,頻度は低い。
蟯虫症の治療
メベンダゾール,パモ酸ピランテル,またはアルベンダゾール
蟯虫症は,ほとんど無害であること,有病率が高いこと,および再寄生がよくみられることから,症候性の感染症のみが治療の適応となる。しかしながら,自分の子供に蟯虫が寄生すると,大半の親が積極的に治療を求める。
以下のいずれかを単回投与し,2週間以内に同量を再投与することで,90%以上の症例で蟯虫を完全に駆除できる(虫卵は完全には駆除できない):
メベンダゾール100mg,経口(年齢は問わない)
パモ酸ピランテル11mg/kg(最大1g),経口(店頭で購入可能)
アルベンダゾール400mg,経口
石炭酸入りのワセリン(carbolated petrolatum)または他の止痒薬クリームもしくは軟膏を肛門周囲に塗布すると,そう痒が緩和することがある。
蟯虫症の予防
生存能力のある虫卵が治療後1週間排出されること,および治療前に環境中に排出された虫卵は3週間生存可能であることから,蟯虫の再寄生がよくみられる。家庭内の複数のメンバーに寄生があることは一般的であり,家族全員の治療が必要になる場合がある。
以下の対策により蟯虫の拡散を予防できる:
トイレの使用後,おむつの交換後,および食品の取扱い前に石鹸および温水で手を洗う(最も成功率が高い)
衣服,寝具,および玩具を頻繁に洗濯する
感染者は,皮膚に付いた虫卵を除去するために毎朝シャワーを浴びる
虫卵を除去するため,居住環境に掃除機をかける
性交中の口腔と肛門の接触を避ける
要点
蟯虫症は米国で最もよくみられる蠕虫感染症であり,大半の症例は学齢期の小児または幼児,小児を世話する成人,または患児の家族に発生する。感染は施設入所者や,性交中に口腔と肛門の接触をする人にも起こる。
蟯虫症が有害となることはまれであるが,再寄生は一般的である。
環境中に排出された虫卵は3週間生き延びる。
肛門周囲を引っ掻いた後,または汚染された衣類やその他の物(例,寝具)に触れた後に口を触ると,虫卵が摂取される可能性がある。
感染者の大半は症状も徴候も示さないが,一部の患者は肛門周囲にそう痒を覚える。
蟯虫症の診断は,朝にセロファンテープで採取した虫卵を低倍率顕微鏡で観察して同定することによる;子供が就寝して1~2時間後に,肛門周囲に雌の成虫が現れるのを目撃することによって診断されることもある。
症状を伴う感染がある場合は,メベンダゾール,パモ酸ピランテル,またはアルベンダゾールにより治療する。