コクシジオイデス症

(サンホアキン熱;渓谷熱)

執筆者:Sanjay G. Revankar, MD, Wayne State University School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 4月
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コクシジオイデス症は,真菌のCoccidioides immitisおよびC. posadasiiが引き起こす肺または血行播種性感染症であり,通常は無症候性または自然に消退する良性の急性呼吸器感染症として生じる。これらの微生物は,ときに播種して他の組織に局所病変を形成する。症状がみられる場合は,下気道感染症か軽度の非特異的な播種性感染症を呈する。診断は臨床的および疫学的特徴から疑い,胸部X線,培養,および血清学的検査により確定する。治療が必要な場合は,通常はフルコナゾール,イトラコナゾール,新規のアゾール系薬剤,またはアムホテリシンBを使用する。

真菌感染症の概要も参照のこと。)

北米におけるコクシジオイデス症の流行地域を以下に示す:

  • 米国南西部

  • メキシコ北部

米国南西部の感染区域は,アリゾナ州,カリフォルニア州中部渓谷,ニューメキシコ州の一部,およびテキサス州西部のエルパソなどである。感染区域はメキシコ北部に広がり,中米およびアルゼンチンの一部において感染が発生している。Coccidioides属真菌はユタ州およびネバダ州とワシントン州の中部から南部にもみられる。流行地域に住む人々の約30~60%は,生涯のいずれかの時点で真菌に曝露する。2017年の米国では,14,364例のコクシジオイデス症が報告された。

コクシジオイデス症の病態生理

コクシジオイデス症は,胞子を吸入することで感染する。胞子は土壌中に存在し,風下に移動する塵埃の中を浮遊することができる。したがって,特定の職業(例,農業,建築業)と野外のレジャー活動でリスクが高くなる。大雨(菌糸の成長を促進する)に続いて干ばつと風が起こると,流行する可能性がある。感染者の旅行と臨床症状の出現の遅延が重なることにより,ときに流行地域外で感染症が明らかとなる。

一旦吸入されると,C. immitisの胞子は組織侵襲性を示す大型の球状体となる。球状体が増大して破裂すると,1個につき数千個の小さな内生胞子が放出され,それらが新たな球状体を形成する。

肺感染症は,様々な程度の線維化を伴う急性,亜急性,または慢性の肉芽腫性反応を特徴とする。病変は空洞を形成するか,結節様の貨幣状病変を形成する。

ときに広範な肺病変,全身性播種,またはその両方を伴って進行し,ほぼあらゆる組織に局所病変を形成する可能性があるが,好発部位は皮膚,皮下組織,骨(骨髄炎),関節,および髄膜(髄膜炎)である。

コクシジオイデス症の危険因子

進行性コクシジオイデス症は,他の点で健常な人々ではまれであり,以下の状況では可能性が高くなる:

  • HIV感染症

  • 免疫抑制薬の使用

  • 高齢

  • 妊娠後半期または分娩後

  • 特定の人種的背景(相対リスクの高い順にフィリピン人,アフリカ系アメリカ人,アメリカ先住民,ヒスパニック系,アジア人)

コクシジオイデス症の症状と徴候

原発性コクシジオイデス症

原発性コクシジオイデス症は大半の患者が無症状であるが,ときにインフルエンザに類似する非特異的な呼吸器症状,急性気管支炎,あるいは頻度は低いものの急性肺炎または胸水が生じることもある。

原発性コクシジオイデス症の症状としては,頻度の高い順に発熱,咳嗽,胸痛,悪寒,喀痰,咽頭痛,喀血などがみられる。

身体徴候は認められないか,あるいは肺野の打診に対する濁音領域を伴うまたは伴わない散発的なラ音に限られる。一部の患者は限局性呼吸器感染に対して過敏症を発症し,関節炎,結膜炎,結節性紅斑,または多形紅斑を発現する。

コクシジオイデス症
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Coccidioides immitis抗原に対する過敏症は,結節性紅斑,関節炎,結膜炎,または多形紅斑として発現する。この画像はコクシジオイデス症による多形紅斑の例である。
Image courtesy of www.doctorfungus.org © 2005.

原発性の肺病変はときに,腫瘍,結核,その他の肉芽腫性感染症との鑑別を要する結節性の貨幣状病変を残す。ときに空洞性病変が残存し,それらは時間とともに大きさが変動することがあり,しばしば薄い隔壁があるように見える。これらの空洞のごく一部は自然閉鎖しない。胸腔内への破裂の脅威や喀血から,ときに手術が必要と判断される。

進行性コクシジオイデス症

初感染から数週間または数カ月,ときに数年後に,微熱,食欲不振,体重減少,および脱力などの非特異的症状が出現する。

皮膚症状は,免疫学的機序で生じた反応性の発疹,肺からの病原体の播種,または直接接種(一次皮膚感染)によるものである。結節性紅斑はコクシジオイデス症に伴って最もよくみられる反応性の発疹である。結節性紅斑は,自然治癒する複数の紅斑性有痛性皮下結節を特徴とし,通常は下肢に,最初の呼吸器症状が現れてから1~3週間後に現れる。全身性の中毒疹および多形紅斑も報告されている。

広範囲の肺病変は,健常者での発生はまれであり,主に易感染性患者で生じる。広範囲の肺病変が,進行性のチアノーゼ,呼吸困難,粘液膿性痰または血痰を引き起こすことがある。

コクシジオイデス症—播種性(単一病変)
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肺の原発感染巣から播種するコクシジオイデス症は,単一の皮膚病変として現れることもある。
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肺外病変の症状は部位による。ときに,排膿を伴う瘻孔によって深在性病変と皮膚が連絡する。限局性の肺外病変は,多くの場合,慢性化して高頻度に再発し,ときに一見成功したかにみえる抗真菌療法終了から長期間経過後に再発する。

無治療の播種性コクシジオイデス症は,通常,致死性であり,髄膜炎が存在する場合,長期のおそらく生涯にわたる治療を行わないと一様に致死性である。進行したHIV感染患者における致死率は,診断1カ月以内で70%を超え,治療により死亡率が変化するかどうかは不明である。

コクシジオイデス症—播種性(多発性病変)
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肺の原発感染巣から播種するコクシジオイデス症は,この重症皮膚感染症例にみられるように,多発性の皮膚病変として現れることもある。
Image courtesy of www.doctorfungus.org © 2005.

コクシジオイデス症の診断

  • 培養(ルーチン検査または真菌培養)

  • C. immitisの球状体を検索する鏡検

  • 血清学的検査

コクシジオイデス症の同定において,好酸球増多が重要な手がかりとなることがある。

コクシジオイデス症の診断は病歴と(明らかな場合は)典型的な身体所見から疑われ,胸部X線所見が確定診断に役立つ可能性があるほか,真菌培養で陽性となるか,喀痰,胸水,髄液,排膿性病変の滲出液,もしくは生検検体でC. immitis球状体を観察することで確定診断が可能である。未破裂の球状体は通常,直径20~80μmで厚壁を有し,小型の内生胞子(2~4μm)で満たされている。破裂した球状体から組織中へ放出された内生胞子は,出芽のない酵母と間違えられることがある。Coccidioides属真菌の培養は検査室のスタッフを重度のバイオハザードに曝す可能性があるため,疑われる診断を検査室に連絡しておくべきである。検査室で真菌が一旦増殖すれば,DNAプローブによって迅速に同定できる。

抗コクシジオイデス抗体の血清学的検査としては以下のものがある:

  • 酵素免疫測定法(非常に感度が高く,コクシジオイデス症の診断に一般的に用いられる)

  • 免疫拡散法キット(IgMまたはIgG抗体を検出する)

  • 補体結合法(IgG抗体を検出する)

現在または最近の感染に伴う血清抗体価は一貫して1:4以上を維持し,高い抗体価(1:32以上)は肺外播種の可能性が高いことを示す。補体結合価は重症度の推定に使用でき,値が高いほど,重症であることを示唆する。しかしながら,易感染性患者では,抗体価が低いことがある。抗体価は治療が奏効中は,低下するはずである。

髄液培養が陽性になることはまれであり,髄液中に補体結合抗体が認められれば,コクシジオイデス髄膜炎と診断できる。

尿中抗原検査は,易感染性患者における肺炎や播種性感染症などのコクシジオイデス症の重症病型の診断に役立つ可能性がある。

免疫能正常の患者では,通常はコクシジオイジンまたはスフェルリンに対する遅延型皮膚過敏反応が急性感染後10~21日以内に発生するが,進行性の感染例では認められないのが特徴的である。この検査は流行地域の人々の大半で陽性となるため,主な有用性は診断よりも疫学研究にある。

PCR法により下気道検体のDNAを検査すれば,より迅速に診断を下すことができる。しかしながら,この検査は広く利用できるわけではない。

コクシジオイデス症の治療

  • 軽症から中等症の患者には,フルコナゾールまたはイトラコナゾール

  • 重症の患者には,アムホテリシンB

抗真菌薬およびInfectious Diseases Society of AmericaのClinical Practice Guideline for the Treatment of Coccidioidomycosisも参照のこと。)

原発性コクシジオイデス症の患者と重症または進行性感染の危険因子がある患者には,治療が必要である。

リスクの低い患者における原発性コクシジオイデス症の治療については,議論がある。フルコナゾールの毒性が低いことから,また(たとえ低リスク患者でも)血行性播種のリスク(特に骨または脳)がわずかにあることから,フルコナゾールを投与する専門家もいる。さらに,抗真菌薬での治療患者では,無治療の患者に比べ早期に症状が消失する。フルコナゾールは免疫反応を鈍化させると考える専門家や,原発性感染で血行性播種が生じるリスクは非常に低く,フルコナゾールの使用は適応とならないとする専門家もいる。補体結合価の高値は,感染が拡大しており,治療が必要であることを意味する。

軽度から中等度の髄膜以外の肺外病変は,フルコナゾール400mg以上,経口,1日1回またはイトラコナゾール200mg,経口,1日2回で治療すべきである。ボリコナゾール200mg,経口もしくは静注,1日2回またはポサコナゾール400mg,経口,1日2回が代替療法であるが,まだ十分に検討されていない。

重症の患者には,アムホテリシンB 0.5~1.0mg/kgを1日1回2~6時間かけて静注する治療を,感染の程度に応じて投与量が合計1~3gになるまで4~12週にわたり継続する。アムホテリシンB脂質製剤の方が従来のアムホテリシンBよりも望ましい。患者の状態が安定すれば(通常は数週間),経口のアゾール系薬剤に変更可能である。

HIVまたはAIDS関連のコクシジオイデス症患者には,再発予防のための維持療法が必要となり,通常はフルコナゾール200mg,経口,1日1回またはイトラコナゾール200mg,経口,1日2回で十分で,CD4陽性細胞数が250/μLを超えるまで投与する。

髄膜のコクシジオイデス症には,フルコナゾールを使用する。至適用量は明らかでないが,800~1200mg,1日1回経口投与の方が400mg,1日1回より効果的である可能性がある。髄膜のコクシジオイデス症に対する治療は,生涯継続すべきである。

骨髄炎の治癒を得るには,侵された骨の外科的除去が必要である。

残存する空洞性肺病変が喀血を引き起こしているか,破裂する可能性が高い場合には,手術が必要になることがある。

要点

  • コクシジオイデス症は,胞子を含んだ塵埃の吸入により感染する頻度の高い真菌感染症である。

  • 米国南西部およびメキシコ北部の風土病であり,中米および南米の一部でも感染が起きている。

  • 大半の患者は無症状または軽度の肺感染症であるが,易感染状態または他の危険因子を有する患者では,重度の進行性肺感染症や播種性感染症(典型的には皮膚,骨,または髄膜)が発生する。

  • 培養,染色,および/または血清学的検査により診断する。

  • 軽症から中等症の患者には,フルコナゾールまたはイトラコナゾールを使用する。

  • 重症の患者には,アムホテリシンBの脂質製剤を使用する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Infectious Diseases Society of America: Clinical Practice Guideline for the Treatment of Coccidioidomycosis

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